2 木符について知る
人と話を始めることは不安でしかない。何故って、何を話せばいいのやら、わからないからだ。
そして、何事も始めてしまえば不安も消える。いつだって始まりばかりが怖いのだから。
「そうですわ。そのまま、アルマを渦巻くように水面に近づけて」
「なるほど。これで川の水を少し動かせるわけね」
青白い光が川の水に触れると、流れに逆らうように、渦を巻いた。光が霧散すると渦は水の流れに飲み込まれ、あとには何も残らなくなる。アルマの効力が消えたのだ。
山あいにある川辺にきていた。
そこで浅瀬に入り、『木符』と呼ばれる道具の操作をセシリアから学んでいるところである。案内を頼まれたはずが、何故か都会の道具を教えられている状況には小骨が歯に挟まったようなかゆい気持ちを覚える。
「にしても。便利だね、これ」
腕にはめられた木製の腕輪に埋め込まれた一枚の木の札を取り出して、カノンは言った。
「それはそうですわ。村暮らしの方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、都では『木符』が生活の大半に関わっていますのよ」
「大半っていうと?」
「それはもう、家事に炊事に洗濯に。あとはそうですわね、防衛用に戦うための木符もありますわ」
「へー。なんでこっちでは使わないのかね」
「それは学者、レコーダーの方々がこの村に来たことに関係していますわね。そもそも『木符』は『巫女の木』が近くになければ常用はできませんし。…………貴方、『巫女の木』というものはご存知ですの?」
「ミコノキ?」
聞いたことのない言葉に、首をかしげる。
「やはり、ですわね。まずアルマについてざっくりと説明しますけど、アルマは大気中にあるエネルギー、身体のなかにもあることはご存知ですわよね?」
「まあそりゃね。武術やってるから、アルマは『気』として教わったし、使ってるよ」
「おおむね、その認識で正解ですわ。基本的に人体のアルマだけでは限界のある効力を、上限を超えて引き出すことができるのが『木符』ですわ。『木符』は自然界のアルマを利用するものですが、それぞれの『木符』には個別のコードと呼ばれる方程式が埋め込まれていますの。そのコードを作るのが―――――くしゅん!」
「うん。なんだか小難しい話になるのね。とりあえず川から上がっていいですかね」