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SF少し不思議な異世界ファンタジー  作者: 有栖
ボイッシュ村の天災
24/28

21 神様です

  ―――――お客様は“神様”です。


 日本人めいた格言、いや甘言が張り出された木造りの書斎に、ひとりの男がヨロヨロと戻ってきた。


 疲れた。もう動きたくない。いや動いたわけじゃあないんだが。


 言ってしまえばデスクワークに分類されるが、実際に他人の命を預かり動く仕事をこなして意気揚々、余裕綽々と戻って来れるわけがない。

 それにしたって実地訓練も受けていない身で傍に上司やアドバイザーがいるわけでもない状況にて初陣を飾ることになろうとは想像だにしなかった。

 

 うん。この会社、絶対的に人手不足だわ。


「ヤメヨカナ」


 書斎のヒンヤリとした床に突っ伏しながら、思ってもいない言葉を口にしてみる。うん、口には出したが辞める気はあんまり起きてない。俺、正常。多分。ていうか辞めたら『  』されてしまう。


 一応福利厚生も良いしなあ、なんて入社一ヶ月目の身分で轢かれたカエルのような姿で固まっていると、書斎の扉がドバーン! と開かれた。

実は書斎の床に響く振動で来るのはわかっていた、ので驚きはない。

 カエルのままで出むカエル。ふひっ。


「たっだいまー! コンビニでコーヒー買ってきたよ!」


 書斎の扉を足で蹴り、その女は入ってきた。長い黒髪に縦縞のセーター。そして主張のでかい胸には社長のネームプレート。


「とりあえずこれで一息いれま―――サボり?」


 女社長は書斎の床に寝転ぶ轢きガエルもどきを視認してそう言った。

 来るのはわかっていても、起きる気力が起きなかった。


「しゃちょー……」


 恨みがましい声でゾンビのように届くはずのない手を伸ばす。


「なになに、資料見て疲れたとかそんな感じ―――なわけないか。これは不真面目ななかで真面目な話を振ろうとしてる空気ね。疲れてるから少しでも場を和ませたい、ってところかしら?」

「…………」


 ……この女、こっちの思考を完全にトレースしやがった。なんて恐ろしい子!

そう、真面目な話であり、イレギュラーかつ、緊急事態かつ、この女にとっても耳の痛い話題なのだ。


「で、何があったの?」

「……はー。まあ、いい話じゃないですよ」


 よっこいせと椅子を杖がわりに身体を起こす。そして、机の上に置かれたヘッドマウントディスプレイを指さした。それにはコードが付いており、機械ではなく、大層な装飾を施された木の板に繋がっていた。


「ついさっき、コイツが繋がりました」

「……!」


 目が大きく開かれ、手にもつコンビニ袋がクシャりと音を立てた。



 事の顛末を説明する。

 書斎の資料を読破するために読みふけっていた頃に何処からか『声』が聞こえ、それを探して木の板に接続されたヘッドマウントディスプレイに行き着いたこと。

 そして、そのディスプレイを通して、異世界と繋がったこと。

 その異世界で危機的状況にあった少年少女に力を貸したこと。



 一通りの説明を終えた。

 しかし、異世界に関与する仕事は、この会社にとっては特殊なケースにあたるものではない。

 この会社では、それこそが『職務』に該当するのだ。


 ただひとつ問題があるのは、木の板に繋げられたディスプレイが作動したこと。


「やっぱりこれが繋がってるのは不味いんですか?」

「不味い、というわけではないわ。あくまでそれもひとつのインターフェイス。ただ、言ってしまえばワケアリなのよ、それは。守秘義務だから詳しく言えないけどね。それが作動するのは、良くないことが起こる証拠。……けど、うん。死者ゼロかー。よくやってくれたわ! ほんとよかった!」


 と、女社長は盛大にぶはーっと息を吐いて、こちらをチラリとみた。いたずら少年のように眼が光り、歩いてくる。


 うーん、嫌な予感。


「ほんとよくやってくれたわ! さっすがあたしが選んだ男よね!」と、ヘッドロックをかけてきた。胸が当たる。


 うん。嬉しい。けど疲れのせいで首締められるのはちょっと本格的にお花畑見えそうで、


「しゃちょ。やめて」

「いやいや遠慮しないでー。ほらほらー」


 ぐりぐりと押し付けてくる。胸を。いや嬉しいけど。このままその胸を枕に寝させてくれるならありがたいけど。力加減がおかしいせいで首が意外と締まっている。極まっている。


「しゃちょ……」

「なーに?」

「こういうのはムードがあるときに、あとベッドがあるところでなら」


 純粋に寝たいだけだった言葉に、


「セクハラで訴えるよ?」

「んな理不尽な」


 蔑みの眼を向けられた。ゴミを見る目だ

自分から押し当てておいてこれである。当然、脈もなにもあったもんじゃない。

 恋愛脳に犯されていた先月までの自分ならば有頂天になっているところだが、段々慣れてきた『コイツ』の性格を鑑みればのぼせることはない。


 


うん。ただ胸は気持ちよかった。




「セクハラ」

「いや心の声読むのやめてもらえます?」

「顔に出てるのよ」


 そう言って、さきほどまでの流れを全てぶったぎるようにコーヒーを渡してきた。うん。ようやく少し落ち着けた。翌朝になればまたディスプレイの接続も戻るだろう。そうしたら、また俺は異世界を見ることができる。


 楽しみに少しだけ心が躍った。







「あ、そういえば」

「なに?」

「あー、向こうの少年にですね。神様ですかって聞かれて、急いでたので最初は否定したけど、そういうことになっちゃってますね」

「あー、神様、ねえ。神様はクライアントなんだけどなあ」

「あの張り紙ですか。『お客様は“神様”です』って」

「そうそう」

「あれってやっぱり」

「うん。冗談じゃないわよ」

「……ですかー」

「この会社の取引相手、クライアントは、向こうの神様。……人間じゃないけどね」
































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