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SF少し不思議な異世界ファンタジー  作者: 有栖
ボイッシュ村の天災
23/28

20 思い出の空想少年、現実少女

『おい、こんなところで寝るなよ』

「ん……」


 手元から聞こえる声に目を開ける。黒人形が腕を組んでいた。

 どうやら夢ではないらしい。



『森のなかだぞ、まだ獣だっているんだからな。さっさとあの嬢ちゃん回収して病院にでも連れてかないと二人共死ぬぞ』


 確かに、倒れている場合でもないかもしれない。

 そう思い重い腰をゆっくりとあげた。


 気づくと、さきほどまで握っていたはずの黒い棒、如意棒も消えていた。問いかけると『5分立つ前に消しといた』らしい。理由は聞かなかった。






「せしりあー」


 酔っぱらいのような声をかける。ふらふらとした足取りが尚更、酔いどれの帰宅のようだ。


「……カノン。無事でしたの。よかった」


 ホッとした様子で下を向いた。

 血がべったりと運動着についてはいるが、口も聞けないほど死にかけているわけではないらしい。

 この分なら、村まで歩くのはなんとかなるだろう。



「倒した」

 そう言って、回収した赤いコアを見せる。

「ええ。それはもう、あの化物には変わりませんわ。所有権は貴女にあります。大事にしておくといいことがありますわよ」

「それは別にどうでもいい」

「……そうですか? ……ん? 貴女、怒ってますの?」

「命を粗末にした。お互いに」

「それは、まあ、なんといいますか、言い訳の仕様がありませんわね」

「その件については、あとでたっぷり大人たちに怒られよう。一緒に」

「ええ」


 そう言って、にこりと笑った。


『あー。んんっ。あー、君たち。いい雰囲気のとこ悪いんだけどさ』


 黒人形の声に、セシリアがぎょっとする。


「な、なんですのそれ」

「ボクに言われてもわからん」

『あーすまん、その話あとにしてくれ。急いでる。もうすぐ接続切れるから、とりあえずこの木符はつけたままにしといてくれ。祠にあったってんなら誰か村人が少しは事情知ってるはずだから。多分、翌日にはまた復活するからそんときに色々な話を―――』


 ぶつり、と。黒人形が音を立てて木符に吸い込まれるように消えた。


「ん? あれ? いなくなった?」

「……なんですのいまの黒いのは」

「えっと、祠にいた、“神様”もどき」

「はい?」


 答えても納得はしてもらえなかった。なにせ答えた側もよくわからんのだ。

 とにかく、積もる話は後にしよう。と、村へ帰ろうとセシリアに手を伸ばした。


「はい」

「……足を挫いてしまいましたの」

「歩けるでしょ」


 無慈悲に声をかける。


「痛くて歩けませんの」

「……背負え、と?」

「負傷具合なら、わたくしの方が上ではありませんこと?」

「こっちはあの化物倒してんだがね、まあ、いいよ。けど、泣かないでね?」


 ちょっとした確信めいたものがあり、そんな言葉を口にした。


「な、泣きませんわよ! 貴女、わたくしが泣き虫だとでも言うつもりですか!?」

「いや、出会ってから結構な回数泣いてる気がするけど」


 今朝、こちらが疑いの視線を向けた際には涙目に。

 たったいまさっき。ケイロン・カルマに追い詰められていたとき。

 それと、もうひとつ―――。


「わたくしは泣き虫ではありませんわ! で、どうですの! やはり背負ってはくれませんの? 歩けないほど痛いのは、ほんとですわよ」

「いや、わかってるよ。そこまで疑ってないって。……まあ、いいけど。はいよ。多分泣くけど」


 言いながら、背中を向けた。


「貴女、まだいいますの。まあ、いいですわ。それでは失礼して……と」


 背中におぶり、腿を持って体勢を直した。


「はあ、これで楽チンです……わ……ね?」


 セシリアの視線が、一点に集中する。

 点、首筋にある点、黒子がある。

 ただそれだけのこと。

 ただ、既視感が押し寄せる。

 この背中、この首筋、これは、あのときの。


――――――思い出。


「じゃあ、帰りますかねー」

「ちょっとお待ちなさい」


 セシリアが進行を止めた。


「なに?」

「失礼します」


 そして、首に回していた両手を動かし、おもむろにカノンの胸を、


揉みしだいた。


「ぬあっ!? ちょ、なにすんの!! やめ、やめえええい!!!」

「……なくはない、ですわね」

「うっさいわ!!! 喧嘩売ってんのか!???」


 フーッ! と猫が威嚇をするように後ろに背負うセシリアを睨みつける。


「……まあ、いまのでなんとなく気づいたんじゃないの」

「……なん、ですって?」

「つまりさー、セシリアの思い出の人なんて、どこの世界にも存在してないってこと。だってそいつ、男じゃなくて女だったんだから」

「んなっ!?」


 思い出の君、想像上の美少年像が粉々に砕け散った。


「わた、くしの、思い出は……」

「あれさあ、ちょっと美化しすぎじゃない? あのとき確かに森のなかで迷ってたセシリアを助けたけどさ、そのときにそっちが言ってたような甘ったるい台詞いった覚えないんだけど。つーか言うわけないし。なんだよ『君に涙は似合わない』って」

「おもいでが……」

「7年前だからうろ覚えなのはわかるけどさあ。わざわざこっちまできて探しに行くって、どんだけ美化しちゃったわけ?」

「おもいで、……うぐっ。……うーっ!!!」

「ちょ、ああ! やっぱ泣いた! 服濡れるからやめてよ! 首筋気持ち悪いんだって、背中に水がっ!! もー!!! これ前にもあったでしょ!!」

「うわああああああああん!!! 初恋だったのにいいい!!!」


 子どものように泣き出すセシリアを背負いながら、足早に森を抜けていく。

 そうして10分後、村の大人とレコーダーたちと合流できた。


 泣き続けるセシリアを見て慌てふためく大人たちの姿が、妙に滑稽に思えた。


 そいつ、襲われた恐怖で泣いてるんじゃないんですよー。

 失恋したんですよ、いまさっき。想像の君に。

 心のなかで笑いながら、川辺での復讐を完了した。







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