19 居合の勝負
『これが最後、そのくらいの気でいけよ』
「……りょーかい」
黒人形の言葉を受けて、自らケイロン・カルマの下へと近づいていく。
一度目の如意棒での攻撃により吹き飛ばされた化物は、体表がボロボロと崩れ落ちてはいるものの、いまだ原型を留めていた。
大槍も健在、いつのまにか弓はなくなっているようだが、確かに二度目の攻撃が当たれば、倒せるかもしれない。
ただし、この武器にも制限があるらしい。
曰く、5分以内。
そして、倒せるのはカルマによって形作られたものに限る。
仕組みはわからないが、そのような感じ。
加えて言うなら、こちらの体力的にいってあと5分も戦ってなどいられない。
だからこそ、次が勝負の最終局面。
声がするわけではない。目線が合うわけでもない。
けれどなんとなく、ケイロン・カルマがこちらと相対しているように感じた。視線が合っているように思えた。
馬の両足が戦いに備えてのためか、足踏みをしている。
人の両腕が状態を確かめるように、動いている。
体の向きがお互いを捉える。
場所は拓けた森の空間。お互いの獲物は充分に、存分に扱える。
そして、勝機が見えた。
ドンッ!! と。
ケイロン・カルマが大地を蹴り、前へ。同時にカノンの足も大地を蹴った。
足の速度は馬の足を持つカルマに軍配があがる。その突進そのものが、命を奪う武器である。
突進速度を下げぬまま、大槍が横に構えられ、振り抜く体勢を取ろうとした。
その隙、ケイロン・カルマの上体が腕を構えた一瞬、足の速度が一瞬のみ落ちた。
―――ここだ。ここに、全力を賭ける。元より、そのつもり。
大槍は横に振られる、直線に、まっすぐ来ることはない。
その死角へと踏み込めば。
身体のアルマを出し切るつもりで、右足で飛んだ。
その刹那のみ、カノンの速度が上回る。
大槍が届くよりも先に、一歩先に、懐へと潜り込む。
そして、
「はあッ!!!」
胴体へ、横一線に叩き込んだ。
武士による、居合の仕合。
まるでそのようなものかと、黒人形はひとり思った。
胴体に打ち込まれた如意棒による傷跡から、青白い光が赤黒いケイロン・カルマの中へと浸透していく。
亀裂からは白く輝く光が溢れ、光の靄がケイロン・カルマの全身を包む。
しゅううううう、と。湯気がでるような音を奏でて、その全身が森の空気へと薄れて消えた。
ころん、と。ケイロン・カルマのコアが大地に落ちる。
その瞬間、安堵からくる急激な疲れに、カノンは膝から崩れ落ちた。




