18 神様ですか?
およそ数分前のこと。
『……おい、おーい。……聞こえてねえのかな? もしもーし!』
祠の前で立ち上がったカノンの耳に、そんな声が届いた。
「……え?」
人の声、助け!?
慌てて振り向くが誰もいない。周囲にも人影はない。けれど確かに聞こえた。
―――幻聴?
『聞こえねえのかオラアッ!!』
―――怒鳴られた。
「うひっ!?」
驚きに年相応な少女の声を上げてしまう。
恐る恐ると声のした方へと顔を向けていく。
気のせいでなければ、確か『祠の方』から聞こえたような……?
『ああ、ようやく気づいてくれた!』
祠からだった。
けれど声の発生源がわからない。
祠は石造りであり、木の札が祀られている。
そこに生物らしき陰はなく、ましてや人の姿など―――木の札? 少しだけ、光っている? というかこれ。
「……これ」
手に取って、確かめてみる。
森に来た際にはいつも通っていた、何が祀られているのかも知らない祠。
危ないときにはここへ、と祖父から常々言われていた場所。
その祠に祀らている木の札は『∀』という記号らしきものが描かれた―――。
「―――木符……?」
『おお、大正解』
「おわっっ!?」
木符から声がした。慌てて落としそうになる。
『うわ、アブねえな! 揺らしたら視界グラグラするからマジやめて! 話をしてる時間が無駄だからな、とりあえず木の札をライブラにインストールしな!』
「……いんすと?」
聞きなれない言葉に首をかしげる。
というか、こんな問答をしている暇は―――。
『あー専門用語は通じないのか。とりあえずライブラに嵌め込みな。そうすりゃ、あの子を助けられる力を貸してやる』
力を貸してくれると言った。
祠に祀られているモノが。
「―――か」
『ん?』
「神様、なの?」
『神様、じゃあないな』
「じゃあ悪魔?」
『いや悪魔じゃねえよ。まあ理解できなくても兎に角、やることは一緒だろ? 早く腕輪のライブラに嵌めな』
『なにか』はわからない。
それでも、『なにか』にすがらなければ、なにもできない。
言われるがまま、木符をライブラに嵌め込んだ。
腕輪から光が発せられ、
『いよっと。これでとりあえず視覚の保護は完璧だな』
「…………」
腕輪に嵌めた木符から、小さい、黒い人影がにょっきり生えた。
顔もない。謎の黒人形。
あまりの謎の現象に言葉を失う。
『おいおいおい。時間ないっつってんだろ! さっきのあの子を助けたいんならはよ状況理解しろ! とりあえず俺は神様ってことでいいから! 力を貸してやるっつってんでしょう!?』
黒人形がまくし立てる。
「あ…、え、はい! セシリアを、追われてて! 助けたくて!」
言葉の整理がつかない。
『あーわかってる。見てたから。最初に拘束したあたりからだけどな。ほんの少し待ってろ。えー、使えそうなコードは……、あー、時間ねえな。兎に角あるものを利用できる形で、……コイツだな!』
『クリエイション、開始』 と、黒人形から別の声が聞こえた気がした。
そして、黒人形の両手が高々とあげられる。
そこから青白い光の粒子、アルマが集まり、物質となり、形を作る。
黒人形の両手から、カノンの背丈ほどの長さで、円柱形で黒い棒が生まれた。
『伸びないけどな、如意棒だ。そいつをカルマの胴体に二回ぶち当てろ。それで必ず勝たせてやる。とにかくそいつを持って追いかけろ! 身体が痛いのは根性でなんとかしろ! 助けたいんだろっ!!』
「……うん!」
神の根性論に言われるがまま、『如意棒』を受け取り走り出す。
幸いにも、頭は打っていない。
誰かの声がするだけで、少しだけ、体の痛みは和らいでいた。




