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SF少し不思議な異世界ファンタジー  作者: 有栖
ボイッシュ村の天災
20/28

17 血



 よく逃げた方だと思う。


 足は血に染まり、背中は服ごと切り裂かれ、かろうじて致命傷は避けてはいても、痛みから足が止まった。


 名家ラインズベルトを背負う者として、一般の村人に犠牲者を出してはならない。ましてや、自らの判断の過ちでなど以ての外だ。それならば自らが犠牲となり、栄誉をもって死の淵へ。


 白い杖を握る手に力が入らなくなった。

 全身全霊、最後の力を振り絞って発動させた二度目の五芒星も消えていく。


 初期変動による副作用が消えたことで木符を再び発動し、割れかけた木符が壊れないことを願いながら能力を使用した。


 賭けには勝った。

 木符が壊れることはなかった。けれど肉体の限界が先だった。


 杖を持つことすらできなくなり、カランと音をたてて大事な杖は転がった。


 拘束を解かれたケイロン・カルマが近寄ってくる。遅いのか、早いのかすらもうわからない。

逃げる最中に負った傷は思いのほか深かったのか、血が足りていないのかも。


 だってこんなにも体が熱いのだから。




 そういえば、あのときもひとりで森の中にいたのだ。




 走馬灯。

 大切な思い出を振り返る。

 7年前、療養のために訪れたこの地で、森で迷い、足を痛めた。

 そこで出会った黒髪の少年。

 ぶっきらぼうだが優しく、森の奥地で見つけた自分を背負ってくれた人。

 覚えているのは朧げな記憶。確か首筋にアザのある人。

 



 結局、出会うことはなかった。カノンの話では村の住人かも怪しい、記憶の人。

 そうだ。まだ再会していない。

 会いたい。もしあの記憶が夢でなければ、夢幻でないのなら、会って話をしてみたい。ありがとう、と。言えなかった言葉を伝えたい。

 まだ、死ぬわけには。


 

 死にたくない。

 生きていたいと心に火が灯る。

 栄誉の死より、生きていたい。

 が、目の前には自らを殺す化物のみ。

 

 槍の先端が深い森のなかで怪しく輝いている。

 

 それが届けば、絶命。






 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌イヤイヤイヤイヤ!







 痛みと出血、体は燃えるように熱い。

 

 せめて視覚だけでも恐怖から逃れようと、赤い霧を纏うケイロン・カルマから目を離し、殻にこもるように蹲った。


 耳を塞ぐ。音が消えた。

 

 歯はカチカチと震える。震えは止まらない。

 

 手も震える。止められない。


 いつのまにか、寒気で全身の毛が逆立つよう。


 暗闇の中で、既に死んでいるのではとすら思える時のなか、
































「邪魔だあああああああああああああ!!」


 確かに、その声が届いた。














 声がして、音がした。


 そして風が吹き抜けたように感じた。


 眼を開けると、黒い髪の人が。

 思い出の人――――――――――――――――ではなく、カノンがそこにいた。


















「これでいいわけ!?」

『ああ! 兎に角、時間切れしたら終わりだからな! 5分の猶予なんて考えずに次の一撃で確実に仕留めろよ!』


 カノンの声に、誰かの声が響く。知らない、男の声だ。


 人影は、他にいないのに。






「ほんとに当てるだけで、胴体に当てるだけで倒せるのんっですか!?」

 

 慣れていない敬語で、男の声に質問をしている。


『ああ、安心しな! その如意棒なら間違いなく倒せる! [神様]が言うんだから信じなさいって!』

「わかりましたよ! ………セシリアはそこで休んでて。あとは、ボクが片付ける」


 一度セシリアの方へと視線を送り、再びケイロン・カルマへと焦点を向ける。

 その顔はどこか怒りに満ちているように思えた。


 こちらから声をかけることすらできずに、セシリアは佇んでいた。









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