16 一寸先は闇
「くっそ!」
着地に受身、そしてすぐさま距離を取る。
ケイロン・カルマの上空から叩きつけた攻撃はあと一歩届かず、失敗に終わったということ。
だけど何がどうしてそうなったのか。
頭のなかには疑問の羅列が怒涛のように押し寄せる。狭くなった思考回路に一斉に押し寄せたその感情は思考を麻痺らせ、冷静な判断などさせてはくれない。
一瞬の判断力が失われた。気づくと既に。
「あ」
目の前に、大槍が。
「がっ!!!!」
……熱っ!!
鋭利な先端に当たらぬよう、ギリギリで位置を調整できたと思ったのも束の間、その熱量に受けた右肘と左手がジリジリと焼けていく。
「うぐっ……!!」
大槍は大きく横に旋回させられ、その勢いのままカノンは飛ばされた。
森の大地を擦り上げながら転がり、右腕を打ち左腕を打ち、膝を擦りむき、足を挫く。
剥きだしの木の根に背中をぶつけ、ようやく勢いが弱まり視界を開くと、見覚えのある空間に出ていた。森の祠の場所だった。
「カノンっ…!」
セシリアの声に這いずるように顔を上げる。
「貴女は逃げなさい! レコーダーの、増援をお願いしますっ!」
そう言って、セシリアは反対側へと消えていく。
悲しそうな、申し訳のなさそうな、そんな表情が深い森へと消えた。
その後ろを、怒りの炎のように亀裂から赤い霧を出すケイロン・カルマが追いかけていくのを見た。
「だ」
ダメだ。と思った。無理だ。と思った。一緒に逃げなくては、と。
もう既に攻撃手段はなく、セシリアの木符も同様に亀裂が入っている。亀裂の入った木符は効果が薄いことは明白だ。
逃げたところで、数分も持たないだろう。
そうなれば、最期はどうなるか。
その後のことを考えてしまう。
たった一撃で、死ぬほど痛い。その後を。
想像のなかで、セシリアが串刺しにされる姿が浮かんだ。
「……。……イヤだ」
不安から、視界がぼやける。涙が頬を伝う。
嫌だと言っても助けはこない。
せめて、言われたとおりに助けを呼びに。
そうは思って体を起こそうとしても、それがセシリアを殺すことになるとカノンは気付いていた。
それは即ち、見殺しと同じなのだ。
この森の中。『禁断の森』にまで走っていけば十分以上はかかる。
その時間まで逃げ切れるわけもなく、かといって彼らが戦闘の音からこちらに向かっている可能性も少ない。近くに人の気配は陰も形もないのだ。
助けを呼びにいけば時間切れ。
かといって、他にできることすらない。
体は傷だらけになり、土にまみれている。
少し前まではあれほど優勢に事が運んでいたのがウソのようだ。
なんて、無様。馬鹿なことをしたものだ。できるかわからないことに命を張って、挙げ句の果てが勝ち急いでの自滅なのだ。
できると思った。倒せると思った。
万能感に溢れてすらいた。
なにも、なにもかも、成し遂げてもいないのに。
自惚れていた。
―――誰か、誰でもいい。
―――誰か助けてほしい。
―――神様でも。悪魔でも。
「誰か助けて……」
嗚咽のように声が出ていた。
情けなくても、セシリアを助けて欲しい。まだちゃんと話していないことがある。仕返しもできていない。短い間だが、良い奴なこともわかった。
「誰か……」
血が滲む足で立ち、せめて離れた場所にいるであろう救いの手、レコーダーを探しにいくのだと足に力をこめた。
そのとき、声が聞こえた。




