15 副作用その2
漲っている。カノンは思った。
漲っている。セシリアも感じた。
ケイロン・カルマの体に亀裂が走る。
亀裂は頭上から首、胴、人の体から馬の体へと走り抜け、あと一息の力を込めれば全て叩き割れるという感触さえ覚えた。
自らの体に、溢れんばかりの力が漲る。
セシリアは考える。
熟練のレコーダーが数人がかりでなければならないとされるカルマの討伐。それを可能にする、この『力』はなんなのだろうか?
友情? 努力? 天賦の才?
セシリアが初陣でなければ、思い出せたかも知れない。
カノンが落ち着いていれば、気づけたかも知れない。
これが、副作用の『力』だと。
―――――パキンッ!
亀裂の走る音がカノンの耳に届く。
だが、カルマ・コアが割れた音ではない。
自身の木符。『波』の木符が割れる音であった。
木符は割れ、腕輪から落ちる。
「え?」
声を出した瞬間、力が抜けたような気がした。
確かに当てていた右手の手刀、その接触がずるりと落ちていく。
全身は脱力し、そのまま地面へ落下する。
セシリアの木符もまた、亀裂が走る。
その瞬間、この『力』の正体を思い出した。
『初期変動』
初期変動と呼ばれる副作用。
不安定な巫女の木を正常化させた際に起こる現象。巫女の木は正常化された際、周囲の無造作に漂うアルマを一定、均一に保つため、膨大なアルマをまとめて拡散させる。
その現象を初期変動と呼んでいる。
その副作用は、アルマによる効力の過剰な増大と、その弊害による木符の自壊であった。
木符に集まるアルマが上限を超えて暴走状態となり、一時的に爆発的な効力を発揮したのち、すぐさま自壊するという仕組みである。
どこかにある巫女の木を、レコーダーたちが正常化させたのだ。その効力が運が悪くも作用したのだ。
――――通りで、災害とまで言われるこの化物相手に善戦できたわけですか。『わたくし』がもっと優秀であれば。あるいは気づけたのでしょうか。
亀裂が入った木符からアルマの力が抜けていく。
輝いていたアルマの光が消えていく。
五芒星の拘束力が失われていくのを、握り締めた命綱がするりと抜けるようだとセシリアは感じた。
だが、ケジメはつけなければならない。
―――失敗のケジメは、わたくしが払わなければ。
セシリアが唇を噛み拳を握り締めたとき、カノンは地面に直撃していた。




