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プロローグ 無音、書斎にて
―――――お客様は“神様”です。
日本人めいた格言、いや甘言が張り出された木造りの書斎に、ひとりの男が気だるそうな顔で欠伸をしていた。
書斎という括りではあるが、その空間は広く大きく、たくさんの本が詰め込まれた本棚は人の背丈の二倍ほど。中央の机が置かれた空間を取り囲むようにして、静かな図書館の様相を呈している。
いえーい。ひとり。ひとりだけの空間。
同僚もいなければ、仕事もない。天国かここは―――なんてことはなく、知識を蓄えるために缶詰にされたわけだが? こんな図書館レベルの蔵書量を誇る文献を読み切れるかっつーの。
なかばキレ気味に自問自答で読書に毒づき、席を立つ。
とりあえず頭に栄養を入れよう。甘いもの食べよう。でないと血糖値不足で頭痛が始まる。痛いの嫌だ。
机を離れて扉を出ようとする。
ふと、誰かの声が聞こえた気がした。
おかしい。『あいつ』が戻ってくるまでまだ時間はある。用事が早く済んだのか? いやいやこの声どこから―――?
ふらふらとした足取りで声鳴る方へと歩いていく。
そして―――。