第30話 幼なじみのいとこがやって来た!(前編)
「そんで、いとこってのは何時頃来る予定なんだ?」
なつめは時計を確認はしたが、明らかに適当なのが分かるように答えた。
「もう少しで来ると思うよ 」
「それなら、なつめの家で待っていた方がよくないか?」
「確かに。 それじゃあ、私の部屋で待ってましょ」
なつめはソファから立ち上がり、俺もそれに合わせて外出の支度に入る。
「私は廊下で待ってるから」
「あぁ、俺は自分の部屋で支度をするから、冷蔵庫に入ってるプリンでも食べながら待っててくれ」
「うん、ありがと」
プリンを食べながら、今後の予定を整理する。
いとこの花咲 胡桃ちゃんは、今日から明日までこっちにいるわけだけど、どこに行こうかも決めていないし……。
というか、今日お願いしたわけだから、明日まで裕太にお願いするのも申し訳ないしなぁ。
明日はどこかに遊びに連れて行きたいし……。
「うーん……どうしようかな」
まぁ、胡桃ちゃんに行きたい所を聞いてから、決めれば良いかな。
「お待たせ。 準備もバッチリだ」
「もー、遅いっ! 」
顔を膨らますなつめは、冬眠にかけて備えているリスのようだ。
「なんだそのかおっ。 プリンでも蓄えているのか」
「蓄えてないよっ! ほら」
口の中まで開いて見せてくるのだが、なぜかエロく見えてしまう。
「なつめ、ちんこが見えてるぞ」
「えっ? あ……もう、のどちんこでしょ!」
やべぇ、のどちんこってなんかエロいな。
なつめの部屋に着いたのはいいんだが、女の子の部屋というものは、とても落ち着かない。
仄かに香る甘い香りと、部屋に飾られている雑貨や写真が気になって仕方がない。
っていうかあの写真……。
そこには、小学生……低学年辺りに撮られたであろう俺となつめと加奈の写真が飾られていた。
「なつめ、あの写真はーー」
「あー、それね。 懐かしいでしょ?」
あの頃のことを思い出すと、とても懐かしく感じるが、この写真を撮った時のことは、正直覚えていない。
「あぁ、懐かしいし、よく撮れてるな」
「でしょ、でしょ。 一番気に入ってる写真なんだっ」
いつ何処で撮ったものなのだろうか。 小さい頃からなつめとは遊んでいたし……でも、この時は加奈も一緒に遊んでいたのか……。
「また、3人で一緒に撮りたいね」
「あぁ、夏休み辺りにでも、何処かに遠出でもするか」
「いいねぇ、それ。 温泉でも行っちゃう?」
「あぁ、混浴の所でも探しておくよ」
頬を赤らめ、なつめは俺を罵声する。
「変態、スケベっ! ほんとそういう所だからね」
「あいあい」
「このっ、このこのっ!」
なつめは俺にまたがると、優しめにポカポカと殴ってくる。
「おっ、この、反撃だ、コイツめっ!」
「ちょ……ぷっ、はっ、はは、やめっ」
なつめは、呼吸すらもまともに出来ないほどに笑い転げ、笑いながらも苦しそうにしている。
お互いにくすぐり合って、両者共にノックアウト! 今回は、引き分けのようだ。
「ゆうたぁ、疲れたよぉ〜」
そう言ってなつめは俺に倒れこんできた。
両者共に息切れしており、こんな姿勢を見られたら、絶対に誤解を招いてしまうだろう。
そんなことも構わず、お互いにこうしていられるのは、俺もなつめも気が許せる……こうしていても安心できる相手と感じているからだろう。
「そろそろどいてくれないか」
「えっ? あぁ、ごめんね。 いまどくよ」
軽くはだけた服を直し、トイレ休憩でも………………。
キィィ……。
ドアが開いたような音が…………と、音がした先を確認する。
ドアが開いた音で間違いなかったようで、数センチほど開いていた。
おばさんに覗かれてたのか……いや、そいつはどうやら違うようだ。
ドアの隙間から、視線を感じるというか、明らかに小さな子どもの霊?がこちらを覗いているようにみえる。
「なぁ、なつめ? この家ってさ、座敷童とか子どもの霊って出たりする?」
「何言ってるの? 急に怖いこと言わないでよ。 ママがこの家じゃ一番怖いし、霊も寄り付くわけないじゃん」
「確かに、そうだよなぁ…………じゃあ、アレは?」
ドアの隙間を指差すと、覗き込んでいた少女の霊?はビクッと反応し、固まっている。
「あっ、くーちゃん!」
なつめは霊とも仲良くしてるのかっ!
「ほら、くーちゃん。 こっちおいで」
なつめは、優しく少女の霊?に話しかけると、ドアをゆっくりと開け、こっちに近づいてくる。
「ヒィッ、なつめ、ヤバイ! ヤバイ、ヤヴァイ! 死ぬ、殺される、逃げないトォッ!」
はだけたままのズボンが足に引っかかり、ド派手に転倒してしまう。
「ぷっ、くーちゃんを何と勘違いしているの?」
笑いをこらえて……いや、堪える気など全然ないのが分かるくらい吹き出しているなつめ。
その様子を見て、この状況が理解できてきた。
「なつめのいとこって、この子のこと?」
「ぷっ……そうだよ。 この子がいとこの子だよ。 くーちゃん、挨拶してみて?」
キョトンとしている、いとこの少女は、お辞儀をしながら挨拶をしてくれた。
「はじめまちて! はなさき くうみです! 3歳だよ」
なつめは拍手をしながら、いとこの少女を褒めている。
「上手にできたねっ! 改めて、花咲 胡桃ちゃんです」
初対面にして、俺にまんべんの笑顔を見せてくれたこの少女は、例えるならば太陽の妖精と言えるくらい明るいだろう。
よく手入れがいきとどいている長く滝のような黒髪はサラサラしており、目もぱっちりとしている。
「100点満点だっ!」
「何が100点満点なのか知らないけど、良かったねくーちゃん」
「うんっ、うれしいっ」
「あっ、はじめまして、くるみちゃん。 おれはゆうたっていうんだ。 よろしくね」
「ゆーたおにーたん?」
「そうそう! ゆーたおにーちゃんだよー」
なんだこの笑顔は! 可愛くてキュン死してしまう!
「短い間だけど、よろしくね」
「はいっ」
あぁ〜、これこそ天使っすね!




