第27.5話 幼なじみとおはよう
「おはよう」で始まり、「おやすみ」で終わる私と彼の1日の関係。 それが毎日繰り返されて、今に至る。 それは、今日も明日も繰り返していくんだろう。
でも、何回言っても変わらないこの気持ち。 私は彼……幼なじみに伝え続ける「おはよう」と「おやすみ」を………………。
「さぁ、朝から始まりました。 なつめちゃんの朝からおはよーの時間でございます」
ベランダを伝って幼なじみの部屋に潜入する選手権があるなら、私はもちろんぶっちぎりで優勝できると思う。 なんせ、私も幼なじみも自分の部屋とベランダが繋がっているから、ちょっとジャンプをすれば、お互いの部屋を行き来するのも簡単なのです。
いつもなら鍵も閉まっているけど、最近は開いていることが多い。 何度部屋に行っていたから、気を利かせて開けておいたんだと思う。
「おはようございまーすっ。 本日も不用心だねぇ。 それでは、しんにゅう、しんにゅうっ。 忍び足で………」
ベッドの前に立ち、膨らんだ布団をめくり……。
「裕太、おはっよぉー」
って、ありゃ? ベットがに幼なじみの姿はない。 いつもなら、まだ寝ている時間のはずだけど……。
おや、背後に感じるこの感覚はっ!
「隙ありっ!」
「いたっ……ちょっとー、人の隙を突くのはよくないよー。 にしても、今日はずいぶんと早起きだねぇ」
朝刊を丸めて私を叩いてきたのが、幼なじみの松崎裕太。 そう、「天使の歌声」がなんだかんだな幼なじみである。
「裕太、なんでこんなに早起きなのさっ」
「それはもちろん、俺の寝起きを襲う、害獣がいるからだ」
「害獣なんてひどいっ!」
「自覚はあるのかよ……」
「もっち、ちゃんと自覚はしてるよ」
「自覚してるなら、侵入をするのもやめていただきたいものなんですけどね? あーゆーおーけぃ?」
「いぇーす、あい、あんだーすたんど。 でも、私はやめるつもりはごじゃりませーん」
「もし落ちたらどうするんだよ」
「大丈夫、大丈夫。 ちゃんとハシゴを置いて、その上を渡ってるから。 万が一のことを考えて、手すりと私をロープで結んでもいるからさ」
「そんな面倒なことをするなら、下から来いよ。 加奈だったら起きてるから、チャイムを鳴らせば入ることもできるしよ……。 まぁいい、この話はまた後で。 着替えるから、下で先に食ってろ」
「着替え? あぁ、私なら大丈夫だから、気にしないで」
「俺が気にするんだ!!」
部屋を出ると下の方から美味しい匂いが漂ってくる。 リビングに入ると加奈ちゃんがテーブルに朝食を並べていた。
「あっ、なつめちゃんっ。 おはよー」
「おはよー、加奈ちゃん。 今日も可愛いねー」
「やめてくださいよー。 おにぃはまだ寝てました?」
「いいや。 害獣の駆除をするために、早起きしてたよ」
「また、くだらないことをしてたんですね……」
まぁ、害獣というのは私なんだけどね。
「それよりもさっ。 加奈ちゃん料理が上手くなったねぇ」
「つくれるのは、朝食だけなんですよ。 晩ご飯はおにぃにお願いしたままなんで……。 いつかは全部こなせるようになりたいです」
「加奈ちゃんなら、すぐに上達するよ。 よかったら、私が教えてもいいしね」
「ほんとですかっ! 嬉しいです」
「それじゃあ、今週の土曜日にでもお邪魔するね」
「はい、よろしくお願いします。 先生っ!」
先生と呼ばれるのも、悪くないね。
加奈ちゃんと先に朝食を食べていると、裕太も投稿の準備を済ませ、リビングにやってきた。
「俺の分はちゃんとあるのか?」
「ちゃんとおにぃの分もあるよ。 半分は、なつめちゃんのお腹の中だけど……」
「なんだって?」
そう言いながら、裕太は私のほっぺたをつねってくる。
「ごふぇんなふぁいー」
「ごめんで済むなら、警察もいらねーだろ」
「ふぁ、ほうへふへー」
「まぁ、いい。 早く食べるぞ。 こんなことが原因で、遅刻するのはごめんだ」
「風紀委員長から、喝を貰うことになるしね」
「タダでもいらねぇよ、あんなの」
朝食を食べ終え、加奈ちゃんより一足先に家を出る。
珍しく裕太は自転車に乗らず、徒歩で行くようだ。
「なんで今日は、自転車に乗らないの?」
「おもーい、おもぉーい荷物を後ろに抱えることになるからだ。 それに歩いた方が健康にいいだろう?」
「確かに歩いた方が……って、重い荷物とはなにかな?」
「あっ、そりゃ、もちろん、その……あぁ、そうそう、このリュックだよ」
「毎日背負ってるじゃん」
「ごもっともです」
「まぁ、許すけど」
「拳がとんでくるのは辛いから、助かるよ」
「はいはい、そりゃどうも」
まったく、私を暴力女だなんて、思わないでほしいな。
「あ、それよりなつめ、言い忘れてたことがある」
急に話題を切り替えようとしてるなぁコイツ。
「えっ? 急になによ」
「おはよう」
「急に何を言いだすかと思ったら……おはよう」
「朝、なつめが挨拶してたのに、返し忘れてたからさ。 ほら、なつめはちゃんと返さないと、こわーいオーラを出し続けるだろ?」
えっ、私ってそんなにオーラを出してたわけ?
「そんなことないよ。 でも、挨拶は大切でしょ?」
「まぁな。 だが、よーく思い出せば、朝のは挨拶には含まれないか。 ってことは、俺が今日は先に言ったわけだな」
「まぁ、珍しく裕太からになるよね」
思い返しても、裕太からおはようと言われたことは中々なかった。
というか、まともな返事をしてくれないことが普通だと思う。
いつも、「あぁ」とか、「もう朝なのか……」とか、そんな感じで。
「いつも、ちゃんと挨拶を返してくれればいいのにさ。 裕太は返事も適当じゃん」
「なんつーか、いじけてるなつめを見るのも楽しいからさ。 顔が膨れてるところなんて、待ち受け画面にしたいくらいだ」
裕太はニヤつきながら私の反応を待ってる。
「別にどーぞ。 勝手に撮って待ち受けにすればいいじゃん」
「おぉー、ツンデレですかい。 といっても、なつめはデレないからなぁ」
「し・ね」
「きゃー、朝から怖いですわよ」
急に走りだす裕太を私は追いかける。
こんな感じで、いつも通りの朝が過ぎていく。
裕太に「おはよう」って言われて、初めて気づいた。
「おはよう」も、「おやすみ」も伝えるだけじゃ……一方的にじゃダメなんだ……。
私にとって大切なのは、伝えたらちゃんと返してもらうことなんだ。
そして、向こうから言ってきたら、笑顔で返してあげるんだ。
『のにのが。』をここまで読んでいただき、ありがとうございます。
早いもので気付けばもう2月も終わりに近づいています。
作者は毎年この時期になりますと、インフルなどに必ず感染をするのですが、今年は未だに発症しておりません。
早くなった方がいいと思いつつ、予防もしていたので、その効果があったのかもしれませんね(笑)
ですが、安心はできません。
これからも、体調を崩しやすい気温が続くと思われますが、体調管理には気をつけて下さいね。




