第26話 幼なじみとカラオケ(後編)
俺は硬直したまま、今起きていることを必死に理解しようとした。
天使の正体がなつめで、中嶋さんが天使というのは俺が勘違いしていただけだったのか?
なつめが歌い終わりマイクを置くと、「飲み物を取りに行ってくるね」といい、部屋を出て行った。
「にしても参ったな……。 俺が恋をしていた歌声の持ち主がなつめ…………ダメだ、やっぱ認めることはできない。 俺が勘違いをしているだけなんだ」
この疑問を解決するには、なつめに聞いてみるしかないな。
ドアが開き、なつめが飲み物を片手に入ってくる。
「待ってたの? 裕太も何か歌えばいいのに。 私と何かデュエットでもする?」
「いや、歌いたい曲もないし、次もなつめが歌っていいぞ」
なつめは何も言わずに、こっちをただじっと見つめてくる。
「むーっ、裕太なにか隠し事でもしてる? さっきから怪しいんだけど」
「おまえに隠すことなんて、何もないだろ」
「んー、彩音ちゃんが帰っちゃったから、寂しいんでしょ?」
「そんなことはない。 本当に何もないからなっ!」
「裕太さ、彩音ちゃんのことが好きなんでしょ? 私応援するからさ、詳しく話なよ。 幼なじみの仲でしょ?」
なーに、恋愛相談はお任せって顔をしてるんだ。
「確かに可愛いと思うけどさ、中嶋さんには好きな人がいるんだ。少し前になるんどけどな、こんなことがあったんだ」
あれはいつだったけな? とりあえず放課後のことだ。
中嶋さんを見かけたから、一緒に帰ろうと思って話しかけたんだ。
最初は世間話から始まったんだが、いつのまにか話の流れで好きな人がいるのかって話になったんだ。
これはチャンスじゃないのかと思って、アピールをしようとしたんだが、中嶋さんしんみりとした感じで話を始めたんだよ。
「実は私、中学の時に付き合っていた人がいて、結果的に別れてしまったのですが、今でも彼のことを待っているんです」
「えっ? あ……あぁ、そうだったのか」
「必ず迎えに来るって言われて、長い月日が流れました」
「今でも好きって気持ちはかわらないのか?」
「今でも好きなのかは、正直わからないんです。 ただ、好きな人との約束ですから、迎えに来てくれるまで、ずっと待っていようと思っているんです」
「迎えに来てくれる可能性は、今でもあるのか?」
「一生迎えに来ないかもしれませんけどね」
涙をぐっとこらえながら話す中嶋さんを見ていたら、俺の好きって気持ちは違うって感じがしたんだ。 それに待ち人がいるような人を奪い取るような真似はしたくない。
「松崎さんの恋はこれからも応援しますよ! 私のことは気にしないで下さい」
「まぁ、了解した。 だが、俺のことを応援しようとする友人が同じような問題で進めないなら、俺はその友人も応援する」
「えっ?」
「だからあんまりひとりで溜め込むな。 中嶋さんにはなつめや俺がいるからさ。 吐き出したい時には、とことん俺たちに吐き出してくれ」
「うぅ……まっざぎざーんっ」
「ってことがあってな、俺と友人として中嶋さんと仲良くしていきたいと思ってる」
「ふーん。 それで、裕太の好きな人っているのは、結局だれなの?」
「そこを突いて来るかっ。 まぁ、話がややこしくならないようにいることにしてるだけだ。 今は、そんな人はいないからな」
「はぁ、よかった……」
「ん? 何がよかったんだよ」
「なんでもない。 さーさぁ、残り時間も少ないけど、ちゃんと最後まで歌おう?」
「そうだな。 」
喉が枯れるほど歌った俺たちは、お互いにだみ声になりながら、仲良く話していた。
気まずい関係だったはずが、いつのまにか仲直り。
今回に関しては、中嶋さんにほんと感謝だ。
まぁ、一件落着で一安心といきたいところだが、天使の歌声に関しての謎は深まる一方だ。




