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第15話 幼なじみの看病へ行こう(後編)


二階に上がり、『なつめの部屋』とかいてあるプレートを見つけ、ドアをノックする。

「起きてるかー、なつめ」

返事は返ってこない。

女の子の部屋に許可なしで入るのは気がひけるが、ドアノブに手を掛ける。

そっとドアを開けると甘い香りが部屋からもれる。


部屋に入ると持ってきたものを折りたたみのテーブルに置き、なつめの様子を伺う。

熱も下がったのか、とても穏やかな顔をしている。

「んっ…………なっ」

なつめの顔が急に真っ赤に染まった。

「なっ、なんで裕太がいるのっ!」

起きたかと思えば、これだ……。

「いや、お見舞いに来ただけだよ。 そこに擦ったリンゴが置いてあるからあとで食べてくれ」

「………」

なぜ黙る。

「リンゴ、嫌いだったか?」

首を横にふられる。

「食べさせてほしい……」

目を見つめられ、モジモジしながら言われると、調子が狂ってしまう。

「んじゃ、口を開けてくれ」

なつめは口を開けるとともに目も閉じた。

んーー、正直恥ずかしいな。

「ほれ、美味しいか?」

口をモグモグさせると、なつめは「美味しい」と言ってくれた。

隠し味に蜂蜜をいれた甲斐があったな。

「このリンゴ甘くて美味しいっ。 はい、あーん」

純粋に甘えているのか、熱があるから理性がないのか、どのみち可愛いに越したことはない。


リンゴを食べ終え、一息つくとなつめは笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。

「おうよ」

純粋に嬉しかった。

そんなことを思っているとドアがノックされ、おばさんが入って来た。

「裕太くん、なつめも汗をかいてると思うから、これを使って体を拭いてあげてっ」

「おかあさんっ!」

なつめが即座にツッコミを入れる。

俺は黙っておこう。

「それじゃあ裕太くん、よろしくね」


行っちゃった……。


気まずい……。

高校生の男女が部屋で2人きりということも問題なのに。

「私、ひとりでできるからいいよ」

「風邪引いてるんだから、遠慮するな。 昔なんて風呂も一緒に入っていた仲だろ」

「じゃあ、手が届かないところはお願い」

「分かった。 着替えてる間はタオル絞ってるから、準備ができたら声をかけてくれ」

タオルから絞られた水が桶に落ちる音が部屋に響く。

微かに聞こえるボタンを外す音と、布が擦れる音。

こんなにも緊張をするとは思わなかった。

「いいよ」

振り返るとなつめはベッドの上に座り、背中を向けていた。

横にはパジャマの上着と、下着がキレイに畳まれ置かれている。

下着が見えているのは、気づいてないふりをしよう。

「んじゃ、背中を拭くからな」

湿ったタオルを背中に当てようとすると、なつめが「ひゃっ」と声を上げる。

「何かあったか?」

「ううん、大丈夫だからそのまま続けて」

「そうか………じゃあ、続けるぞ」

タオル越しに背中の感触が伝わってくる。

男の背中と比べると、丸みがあり質感も全然違う。

直で触りたいという願望を抑え、背中を拭き終える。

「どうだ、このくらいで大丈夫か?」

「うん、ありがとう」

「あとは、自分でやれるよな?」

すぐに返事はこなく、ほんの数秒後に返ってきた。

「もう少し手伝って欲しい……」

恥ずかしくて爆発しそうだ。

「どこを拭けばいいんだ?」

「足とかも拭いて欲しい……でも、嫌なら大丈夫だよ」

「いや、なつめのおねがいなんだから、やってやるよ」

「拭きやすいようにズボンを脱ぐから待ってて」

「上着は来てくれよ」

「うん」

再びタオルを絞りながら待つ。


「いいよ」

返事とともに振り返ると、素足を晒したなつめの姿が……。

「拭くからな」

太ももにそってふくらはぎまでをなぞるように拭く。

その工程を何度か繰り返した。


「ありがとう、気持ちよかったよ」

なつめは笑顔で俺に感謝をしてくれた。

「気持ちよかったか、そりゃよかった」

次こそ部屋を出ようとすると、俺の袖をなつめが掴む。

「まだ、何かあるのか?」

頭を横にふり、俺の目をみながら答えた。

「着替えるから、後ろを見ながら待ってて」

何をするんだ……。

俺の心臓がバクバクと鼓動を打つ。

「着替え終わったよ」

振り向くとパジャマ姿に戻っていた。

心臓を落ち着かせ、冷静になる。

「まだ、何か要件があるんだろ?」

「うん…………お話ししよ?」

「風が治ればいくらでも話はしてやるから、今日はもう寝たらどうだ?」

なつめは寂しそうな顔をしたが、俺は気づいてないふりをした。

「明日は、元気な顔を見せろよ。

んじゃ、お休み」

「ゆうたっ!」

「ん?」

返事とともに俺は振り返った。

「ありがとう……」

「おうよ」


なつめの部屋を出て、1階に下りる。

リビングにいるおばさんに挨拶をして帰ろうとすると、呼び止められる。

「今日はありがとうね」

「俺もなつめにはお世話になっていたんで……」

「そんなことないわよ。 なつめだって裕太くんがいてくれたから、今も元気でいられるんだしね」

「そんなこと、ないですよ」

半笑いで答えると、おばさんはなにも言わずに笑顔を返してきた。

「それでは、失礼します」

「次は遊びに来てね」

「はい」

玄関に向かい、靴を履き外に出る。

空はもう紺色に染まり、夜が訪れていた。



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