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第01話 天使の囁きは五分前まで


 春の昼下がり、心地よい風とともに少女の歌声がかすかに聞こえる。

 天使の子守唄とでも例えればよいだろうか。

 いや、この歌声は悪魔の囁きと例えた方がいいのかもしれない。

 授業をサボり、いつまでも聴いていたい。

 だが、授業開始五分前のチャイムが鳴ると、いつも消えてしまう。

 少女の歌声の残響に残るのは、風の囁きだけだ。


「五限が始まるよっ!」


 教室の扉を開け、俺に近づいてくるのは、幼なじみの篠宮 なつめ。

 風が吹くと長い髪の毛が川のようになびき、仄かな甘い香りがする。

 五限の五分前のチャイムが鳴ると、いつもここにすっ飛んでくる。

「なんだなつめかよ、ほっといてくれって言ったろ?」

「アンタがちゃんとしないと、幼なじみである私の名前が汚れるじゃない」

「んだよ! 俺を汚れみたいな言い方しやがって」

「汚れみたいじゃなくて、汚れそのものだから。いつまでも汚いままだったら、洗剤ぶっかけるわよ」

 なつめは、俺に何かをかけるようなジェスチャーをしてくる。

「かけれるものならかけてみーー」

「はいはい、かけてあげるから五限もサボらずに参加。じゃあね」

「おい、話は終わってないぞ」

人の話を聴かない奴は嫌いだ…。

「天使の囁きがコイツのせいで台無しじゃないか……」


 四月の中旬というのは入学したての一年生たちも生活に少し慣れてくる時期だ。

俺もこうして黄昏ているわけだが、高校生活もそうはいかないようだ。

 この柳代(やなぎしろ)高校に入学した数日で、俺は幼なじみから逃れることができないのだと悟ったのであった。

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