十一話
蓮は佐維と正式に婚約が決まったと兄の翠蘭から告げられた。
執務室にて佐維と会うようになってからまだ、十日と経っていない。
五十鈴と銀苓も佐維との婚約を聞いて驚いていた。あまりにも急な話に二人は寂しがっていてもいたが。
蓮は佐唯を友人くらいには思っていたが。婚約者としてはまだ見れそうにない。
そんなこんなで時間は流れて白萊国に蓮と佐唯、睦月が和平交渉の使者として赴く事になった。
が、娑浬は姫が行くことは危険だと反対した。翠蘭は信頼の置ける部下に護衛をさせるのと影武者として銀岺の娘を同行させる事を条件として娑浬に提案し、承諾させた。
銀岺の娘は名を月歌と言って蓮と同い年の少女だった。部下も六名ほどが随行する事になり蓮は白萊国を訪問ずるために準備で忙しい日々を送る事になる。
「姫様。白萊国までは片道でも五日はかかるそうです」
月歌が言った。蓮は馬に乗っていたがその言葉に答えた。
「そうらしいわね。けど、月歌もごめんなさいね。危険な役目だというのに巻き込んでしまって」
「いいえ。むしろ、姫様の側仕えになれて嬉しいくらいです。母からしっかりとお仕えするように言われていますし」
蓮は銀岺が月歌にそう言っていたことに驚いて目を見開いた。ちなみに蓮は佐唯の後ろに乗せてもらっている。月歌は翠蘭の部下でいとこに当たる翡翠の後ろに乗っていた。
蓮は月歌と話を切り上げると前を向いた。佐唯は前を向いていたが蓮に話しかける。
「蓮様。ここからはスオウ国と白萊国の国境に近づきます。姫と呼んだらすぐに盗賊たちの標的になってしまいますから。皆も姫の事は名前で呼んでください」
「そうなのですか。では、白萊国の王宮に着くまでは蓮さんとお呼びした方がいいでしょうか?」
月歌が蓮にも聞いてきたので頷いた。
「そうね。私の事は呼び捨てでもいいから」
「…蓮さん。さすがに呼び捨てはできません。せめて、さんづけくらいです。できたとしても」
月歌が抗議をしたので蓮はそれ以上は言わなかった。佐唯や翡翠達は苦笑いしながら二人のやりとりを聞いていた。
空は既に夏から秋のものに変わっている。九名のスオウ国の使節団は白萊国の王都に少しずつ近づいていたのだった。
あれから、二日が過ぎた。佐唯の後ろに相変わらず乗せてもらっている蓮は複雑だった。
馬を休憩させたり食事をとる以外はひたすら馬を歩かせて進む。翡翠も月歌を後ろに乗せている。
これも変わらなかった。ただ、月歌は体力がない蓮を気遣って食べやすいものを出してくれたりした。
甘い焼き菓子や飴玉を手渡して水もくれたりする。感謝して礼を言うと嬉しそうにしているが。
佐唯や翡翠たちは馬の扱いに慣れているし野宿もお手の物だった。
「蓮さん。後少しで国境付近まで来ますよ。王宮までは三日かかりますが」
佐唯がわかりやすく教えてくれる。横に並んだ翡翠もそうですよと頷く。
「月歌さんも一緒ですから。王宮に着いたら白萊国の侍女が付けられます。その時は気をつけてください」
「わかったわ。翡翠さんも佐唯さんもありがとう」
礼を言うと二人はどういたしましてと笑う。ちなみに蓮は怪しまれないように月歌や佐唯から自分たちの事はさん付けで呼ぶように注意されていた。
最初は噛むこともあったが今では慣れたものだ。月歌は微妙に疲れた表情をしている。
大丈夫だろうかと思ってしまう。佐唯もそんな蓮を見て苦笑した。
「蓮さん。どうかしましたか?」
「え。何でもないわ。ただ、月歌さんが心配で」
「ああ。月歌さんの事が気になっていたんですね。少し休みましょうか」
佐唯はそう言うと翡翠に呼びかけた。
「翡翠。蓮さんと月歌さんが疲れているみたいだ。休憩をしよう」
「わかった。皆、休憩だ」
短く言うと他の面々も馬を止める。降りて適当な場所に繋ぐと倒木の辺りなどに座った。
休憩をした。佐唯に手を貸してもらいながら蓮は馬から降りた。月歌も同様だ。
蓮は汲んでおいた水で喉を潤した。佐唯も彼女の横に座り水を飲んだ。二人して良い雰囲気でいたのだった。




