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一話

とある国があった。その国には「翡翠の涙」と呼ばれる宝玉があった。それを多くの人々が求めた。

が、この翡翠の涙は非常に手に入りにくい代物だった。竜に気に入られた者でなければいけなかったからだ。竜の霊力が込められた幻の宝玉として次第に架空上のものと扱われるようになる。

これは翡翠の涙を所有していた王と竜に仕えた巫女の物語であるー。


レンは地下牢でため息をついた。胸元にはきらきらと輝く青緑色の美しい宝石が提げられている。レンが持っているこれこそ翡翠の涙の原石だ。

彼女には現国王こと兄の翠蘭がいる。美しい黒髪と黒い瞳のレンは翠蘭と同腹の兄妹だが。幼い頃より顔を合わせたのは片手で数えられるほどだった。

(翠蘭の兄様が私に気づくわけないな。私は秘された巫女だから)

地下牢のじっとりとした暗闇にも慣れている。レンこと蓮はスオウ国の王女にして最高位の巫女の翡翠の巫女だ。なのに、彼女は地下牢に入れられ、あまつさえ鎖で手首と足首を繋がれている。

蓮が最高神でスオウ国の守護神たる龍神を呼び翡翠の涙を作る事ができるがために先代の王により地下牢に入れられた。

だから、彼女は隠されて育てられた。兄の翠蘭や母の王妃であっても会うのは許されなかった。

それはレンが三歳の頃から変わらない。今年で彼女は十七歳になる。恵みの月が来ればの話だが。今は緑の月だから後、二月ほどの話だ。

レンは冷たいむき出しの土に体を投げ出した。また、ため息をついたのだった。




「…陛下。もう、他国からの刺客が蓮王女の存在に気づいているかもしれませんな。翡翠の涙を奪われるかもしれますぬ」

そう呟いたのは中年のほっそりとした男性だ。眉をしかめてその男性を若い男性が見やった。若い男性は緑がかった黒髪に翡翠色というにふさわしい美しい緑色の瞳をしていた。レンに似た涼しげな切れ長の瞳とすっきりとした鼻筋。眉もきりっとしておりなかなかの美青年である。

レンもかなりの美人だが男性も国でも指折りといえる美貌をしていた。

「そうだな。妹のレンを狙うとは。あやつらにはレンは渡せぬ。もし、あの子を浚うのならばそれなりに覚悟をしてもらわなければ」

男性はにやりと笑い、挑戦的な表情を作った。中年の男性はふうと呆れのため息をつく。「…翠蘭様。妹君が可愛いのはわかりますが。これは国全体の問題ですぞ。翡翠の涙を他国に奪われればスオウ国は滅亡の道を辿るのです。それにいい加減に正妃を迎えてわしらを安心させてくだされ」

「また出た。爺や、もうそれは聞きあきた。もとい、裟浬(さり)。そなたはこれからどうすれば良いと思う?」

裟浬と呼ばれた男性は翠蘭にまた呆れたような視線を送る。仕方ないと言わんばかりに裟浬は説明をした。

「そうですな。まずは情報収集でしょうな。他国に間者を送り込み、情報を探らせましょう。そして、官吏たちにそれぞれ指示を。当たり前ではありますが。戦にならぬように使者を遣わして交渉も必要でしょう」

「そうだな。じゃあ、間者として裟浬のとこの影を借りるぞ。後、私に仕える影たちも送り込む」

翠蘭は常人には聞こえない音を出す銀製の呼び鈴を手に持ち、鳴らした。音もなく黒い布で顔を隠した男たちが六名ほど現れる。

「お呼びでしょうか。陛下」

男たちの中でも一番年かさらしき者が問いかけた。翠蘭は真面目な顔で命令をした。

「…弥生(やよい)。お前たちに命じたい事がある。今からスオウ国の四方にある国々に潜入して内情を探ってこい。そうだな、王宮や貴族たちの邸、後は市井の情報も集めろ。何か事があれば、どんな細かい事でもいいから知らせるように」

「わかりました。では早速、部下たちに指示をだして向かわせます」

「ああ。後、もう一つある。こちらの裟浬の影も借りる故、そいつらと協力してくれ」

「…はあ。かしこまりました」

弥生という男は首を捻りながらも了承する。裟浬は顔をしかめた。

「…陛下」

「まあまあ。そんなに怒るな」

「今ほどあなたに怒りを覚えたのは初めてかもしれませんな。まったく、うちの娘もこんな男のどこがよいのやら」

裟浬は深いため息をまたつく。翠蘭はむすっと裟浬を睨んだ。

「裟浬。ちょっと言い過ぎではないか」

「陛下には足りないくらいかと存じますが」

軽口を言い合いながらも翠蘭と裟浬は弥生たちを四方にある国々に向かわせたのだった。

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