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ダニロ・ブラドーネ

 簡単に言おう。地獄絵図だ。感想終了。

 傾向と対策としては、手元にはH&K Mk23。俗に言うSOCOMピストルという奴で、弾倉には残すところ八発。予備は無い。俺ことダニロ・ブラドーネにとって、目の前の光景を打開するには、長年の勘からして、全会一致でこいつだけでは全くもって不可能。完全に不可能という奴だ。

 なに、状況も聞いてないのに俺が不可能と決め付けるのは不服だと? オーケイ、俺が悪かった。キンダーガートゥン出立ての、下の毛が生え揃ってないガキんちょでも、きっちり状況を把握出来て、その場で小便を漏らすくらい判りやすく事態を説明しよう。

 まず俺が何処に居るか。船ン上だ。船って言っても十九世紀までの、海の上をすいすい泳ぐタイプを想像されちゃちょっと困る。

 そうだな、其処のドアを興味本位でちょっと捻ってみると良い。おっと、凄まじく固く閉じられてるから、ちょっとじゃない、かなり気合いを入れて、地面に足踏み締めて、歯食いしばって開けてみるんだ。

 すると、其処に広がってるのは絶対零度で、俺やアンタが美味そうに、いや胃を壊した息の臭いオッサンの横じゃ不味そうにだろうが、吸っているあの空気、が無いところ、まあ簡単に言えば宇宙が広がってる。

 宇宙だ。宇宙ってのをアンタその目で見たことあるか? 俺はある。日常茶飯事だ。まあ、直接じゃなく、ガラス越しって条件は付くがよ。

 話が逸れたな。まあ俺が言いたいのは簡単に言えばこうだ。条件1、俺にこの身のまま逃げ場ってのは無い。そう、俺は此処からダイビングすれば死んじまうんだ。あっという間だ。

 で、此処が宇宙に浮かぶ船の上って事が判って貰った所で、どういう船かってのを判りやすく教えてやろう。アンタが何処に住んでるか、そんな事は俺は知らない。でも恐らく、国家ってのがある場所に住んでるんだろ。国家ってのには付き物なのが、武力だ。そして大体、それは軍てのが担ってる。もう判っただろ、これはその軍てのが持ってる船なのさ。って事はお判りだろうが、その中でうじゃうじゃ居るのは、軍人て訳だ。

 条件2。相手は軍人。しかも凄まじく大勢だ。

 さて、じゃあ何で俺がこんな拳銃握りしめて地獄絵図だって叫んでるのか。核心て奴だな。軍って事はさっき言ったよな。じゃあ、軍ってのは、どう回る? いや、別に回転運動するかどうかって話じゃない。第一する訳が無いだろう? どういう風に人員が動くかって話だ。

 簡単な話だ、ハンバーガーショップに行ってみるんだな。店長が居て、レジで姉ちゃんがメニューを聞く。アンタはそれに答える。で、姉ちゃんは大抵アルバイトだから、店長の言う事を聞いてる訳だ。ヘマやらかしちまったら、怒鳴られる。だから、アンタがチーズバーガー頼んでるのに、フィッシュバーガーを出したら怒られるんだ。その位、判るだろう。

 ええい、回りくどいな。つまり、上が下に文句言って動かしてる。たったそれだけだ。で、軍てのもそうやって動いている。で、下ってのは上を苦苦しく思っている。アンタ、親と同居してるのか? もししてるなら、アンタは忍耐力がある。素晴らしいヤツだ。今度会ったら、一杯奢ろう。

 大体親ってのは煙たいモンだぜ。だってそうだろう? 文句言って自分のルールってのを押しつけて来るんだ。そんなの、自分勝手に楽しくやりたいのには邪魔だろう? だから煙たいんだ。

 で、軍のトップもそんな感じに、凄く煙たがられていた。凄くなんてモンじゃないな。そうだな、ガキと親との関係に例えりゃ、ガキが怒り狂って「今度アイツが俺の数学のテストが40点以下だって怒鳴ったら、オヤジの猟銃で撃ち殺してやるぜ」ってな事を言い出し始めた時期だ。もう遅かれ早かれ、親離れ子離れし始めた方が良いだろうな。もし親子なら、だが。

 しかし軍ってのは職業だ。おまんまを喰う為に働いてる場所なんだ。親子じゃあない。じゃ、どうなるかっていうと、クーデターっていうオトナのやり方が起こるんだ。

 俺は間抜けな事に、そのクーデターを起こす機に、そんな計画は微塵も知らずに乗り込んじまった。多分、俺以外は全員知っていたんだろうな。でも、肝心なのはそういう事じゃない。こいつら、馬鹿な息子のアホウ共が殺そうって算段しやがってたのは、俺のダチなんだ。糞くだらねえマカロニ調の西部劇の映画を一緒に見てよ、同じポップコーンを手ぇ突っ込んで食ったり、数学の苦手な俺と、社会科の苦手なアイツとで取り替えっこして、宿題を写し合ったりした、そんな仲なんだよ。

 俺の妹はアイツの嫁だしよ。

 まあ、俺の方が兄貴だって訳だ。おまけに昔っからの、ガキの時分からのずーっと腐れ縁のダチなんだ。アイツは真面目でよ、軍の腐敗を止めるとか言ってよ、すげえ一生懸命勉強もして、上にすいすい上がっていった。俺はうだつの上がらないヒラをずーっとやってるのによ。えらい違いだぜ。

 俺はアイツがダチだってのが自慢なんだ。マジで良い奴でよ、アイツお袋が大病患って、目がぶっ飛ぶような金額を吹っ掛けられて、もうどうしようもなくなった俺によ、いつまででも構わないぜって言いながら、キャッシュをドンと置いていった。

 お袋は助かった。アイツのお陰だ。でも、大病だからその三年後に逝っちまったがよ。でも、その三年で俺はガキをこさえた。孫を抱かせてやれたんだ。その点では、ちょっと幸せだったかもしれねえな。

 俺の嫁もすげえ別嬪なんだぜ。ミランダ、って言うんだけどよ、気が利くし、頭も良いし器量も良い。おまけにアッチも良い。俺には過ぎた女房だ。本当に感謝してる。感謝してるって言葉じゃ言い切れないくらい、マジでだ。心からだ。

 そして愛している。マジでだ。今会えるなら窒息してもまだキスし続ける。ああ、会いたいぜ。ホント良い女房なんだ。

 話が逸れたな。俺は、何があってもダチのアイツを死なせる訳にはいかねえ。兄貴だし、何よりアイツは掛け替えの無い野郎なんだ。本当にな。

 アンタだって、昔から兄弟みたいにして育ったダチが居たらよ、絶対助けるだろ。助けないだぁ? お前は男じゃねえ。男ならな、何があってもダチは助けるんだよ。絶対だ。命賭けてもだ。

 だからよ、俺はアイツを助けるんだ。命、賭けてな。長くなっちまってすまないな。誰かこれを見つけてくれた人、俺は多分ハリウッド映画みたく、こんな銃八発で数百人は居るあの馬鹿共を撃ち殺してヒーローにはなれねえ。なれねえけどよ、俺はこの機を墜とす事は出来るんだ。この機にはよ、爆発物が積んである。それも凄まじい爆発物よ。この機体一機を墜とすくらい余裕だ。

 俺はあのアホウ共にぶん殴られ、倉庫にふん縛られていた。気が付いてどうにか縄を解いて、今、その爆発物を目の前に、誰だか知らないアンタに、俺のささやかな遺言を語ってるって訳だ。幸い俺が録音してるコレは、爆発に巻き込まれても大丈夫だ。だから、大丈夫、万事オーケイだ。

 オーケイじゃないけどな。

 ミランダ、愛してるぜ。

 じゃあな、誰だか知らないアンタ。アンタに全部、託したぜ。あばよ。

 以上、ダニロ・ブラドーネ。


「通信はここで切れていました。その後は爆発が起き、クーデター軍全員を乗せた機体は、宇宙空間で霧散しました」

「一言、言いたいわ……」

「どうぞ、ミランダさん」

「ダニロは馬鹿よ、キンダーガートゥンにも判るくらいって言ったのに、私には何にも判りやしない! 友達を救うなら、私はどうなっても良いの!?」

「奥さん」

「なに?」

「ダニロさんの言葉を借りるなら、こう言うでしょう。『男ならな、何があってもダチは助けるんだよ。絶対だ。命賭けてもだ』」

「だから、男って嫌い、大嫌いよ!」

 ミランダは、その場で泣き崩れた。

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