平和で平坦な日々
梅雨が明けることを告げるように澄んだ青空が広がっている。
「今年も暑くなるのかな」
黒のパンツスーツをスラリと着こなした女性が、真っ白な外壁に堂々と枠取られた大きな窓から覗いて、口も動かさずにポツリと呟いた。
「源さん、オープンの時間になり ますよ!」
彼女が窓から後方へ視界を移すと、グレーのスーツを着た小柄な女性が小走りでこちらに向かって来ていた。
「はいよー」
「またそんな眠そうな声出して。
しっかりしてくださいよ、先輩っ」
冗談っぽく先輩のイントネーションを強め、屈託のない笑顔を向けたのは黒のスーツを着た彼女の後輩、町谷 花梨だ。
「今日は朝一から打ち合わせのお客様が来る予定なんですから、ふらふらしてないでフロントにいて下さいねっ!」
高い声でそう言って、花梨は彼女の手を引いて長く続く大理石の床を歩き始めた。
「じ、自分で歩ける〜」
「いいから、いいから!」
何も二人の関係を知らない人がこの状況を見たら、先輩と後輩の立場が逆転してみえることだろう。
「本当にすぐどっか行っちゃうんだから。この名札に書いてあるでしょう。
FORTUNE受付
源 葉って!
だからちゃんと受付にいて下さいよ」
笑いを含んだため息をつかれると、
凛とした雰囲気の葉から申し訳なさそうな笑みが出た。
「ごめんごめん、事務所に資料届けに行ったらつい」
そんなやりとりをしながらあるいていると、見慣れた重厚感のある木目調のカウンターが見えてきた。
そこにいつも通り、花梨と並んで着席をすると、葉はその日が始まることを自覚する。