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守隠し  作者: スタンドライト
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4・3

『私が物心突いた時から両親のけんかはいつも堪えなかった。毎日毎日小言をお互いに言いあってどなり合うんだけど、それもしばらく経つと無くなって家の中で漂うのはもうどうしようもないんだろうなっていう、お互いがお互いに感じている呆れを空気に乗せて主張するだけの関係になってた。

小学生低学年の頃の私はお母さんとお父さんのケンカを見ながら泣いて仲裁に入ろうとしていたんだけど高学年にもなるとそんな出来もしない事に神経を使った所で疲れるだけなんだからって、もう自分じゃどうにもできない問題なんだって割り切ってた。

中学に入ってからはそもそもケンカはおろか口さえ聞かない状態が続いてたから私はもっぱら夫婦間通訳の任を任されていたんだけど、それも一年とちょっと経たずに終了した。

お父さんが家を出ていく事が決まって私はお母さんと暮らす事になった。特にどっちについていきたいとか、そういう希望は聞かれなかったな。もう予めきめられていたのかのように私はお父さんの去っていく背中を遠くから見つめてた。

離婚してからお父さんとは一度も会ってないな。養育費と慰謝料がそれなりに支払われているみたいだけどそれがどれほどの額なのかは知らない。お母さんがそのお金を何に使っているのかも知らない。意外と倹約しているのかもしれないし、或いは無意味に高級な家具やインテリアなんかを買ったりして浪費しているのかもしれないけど、そんな事は私には分からなかった。

なにしろ私は自分の家の中の事が一切分からない環境で育てられてきたような物だから、知っているのはお母さんの外面の良さと男を見る目がないっていう事だけだった。

離婚してしまったお父さんについて何か思う事はないのか?

いや、別に何もない事もないんだけど、もうしょうがないんだなって、そういう風にしか思えなかったかな。毎日続いていたケンカがピタリと止んだかと思った先に待っていたのが、沈黙による言葉を交わす事すら無意味だと判断した関係だったんだもん。そんな状態で互いが歩み寄れる事なんて出来る訳がないもんね。

確かに長年一緒に暮らしてきたお父さんがいなくなっちゃうのは寂しかったけど、お父さんは家で私達と一緒にいるより外に出て別の暮らしをした方が幸せなんだろうなって、中学二年の子供心ながらにそう思ったら悲しいとか寂しいなんていう感情は湧かなかったな。

まあ仕事一筋ッて感じの人だったからね。どこかに一緒に遊びに行ったりとか、旅行に行ったりっていう思い出がないからその分感情が希薄になっているのかもしれないけど、普段のお茶の間で交わした会話の事を掻い摘んで思い出すとやっぱりそこにあるのは外面の良さっていう、いっつも周囲の視線を気にして話しをしているような、そんな印象しか思いうかばないかな。

多分同族嫌悪だったんだと思う。お父さんもお母さんも世間っていう言葉の存在が心の中の中心線に添えられて立脚しているような人達だったから、お互いがお互いに自分を見ているみたいで嫌だったのかもね。まあその分周囲から離婚直前まで中睦マジいオシドリ夫婦なんてレッテルを貼られていたみたいだけど、それも一気に崩壊した。

仮面夫婦の実情が暴かれ、二人は世間に晒された。そしてお父さんは晒されるのを避けるかのように家からいなくなって、お母さんは私と家とお金を手に入れて世間からの視線でその場に釘づけにされた。

当然の如く私は心配した。だってたった一人になっちゃった唯一の肉親が仕事も探す事無く家でお酒を呑み続けながら毎日泣いてるんだよ? 普通になんとかしなきゃって思ったけど、私じゃなんとも出来ない事くらい知っていた。お母さんに私の言葉が殆ど届いていない事は小学生の時、泣きながらケンカの仲裁に入っていた私の事をひたすら無視していたんだから、それ位は分かってた。

子供なんかそっちのけでこめかみに血管浮かばせながら言いあってるんだから、そりゃ私がお母さんの心に入り込む余地なんかなかった。

しばらくすると冷静さを取り戻したのかお母さんは酒におぼれる事もなく家に閉じこもる事もなくなった。ただ今まで病的なまでに気にしていた世間一般の目と言う物を殆どないがしろにするみたいに家を空けて一日中遊び回るようになった。

実際何の仕事もしてないのにそれだけのお金があったっていうのは別れたお父さんの稼ぎがそれだけに良かったって話し何だろうけど、お母さんはそのお金をまるで自分が働いて得た対価だと言わんばかりに使って、そして一人の男を釣り上げて家に帰ってきた。

秦雄一。私が中学二年の三学期を迎えた辺りの時に、その男が家に始めて来た。

初めましてって、秦雄一は私に挨拶をしてきた。三十代前半を思わせるその容姿はどこか当時の私にしてみたらまるで世界中に存在する典型的な中年オヤジ像と重なってなんだか余り好感が持てなかった。だけど自分の母親とその年齢を比較してみたら案外妥当な線なのかもしれないだなんて、なんとなく勝手な分析をしていた事を覚えてる。

だけどその分析も回を重ねるごとに、彼が家に遊びに来るたびに無残でどうしようもない結果をはじき出してた。

平日や祝日、時間帯もてんで関係なく遊びに来る秦雄一が何の職にもついていないであろう事は直ぐに分かったし、夜な夜な家に来てはお母さんの部屋から喘ぎ声を響かせるその夜の営みも私にしてみたら不快でしかなかった。

ねえ物部君。普通中学生が自分の親のそういう行為を黙認するのって、中々きつい事だと思わない? 私はそれを毎回毎回、ヒイヒイ言わされているお母さんの声に耳を塞ぎながらベッドにもぐっていた。

そうそう。一度お母さんに聞いた事があるの。

あの人のどこがいいのって?

するとお母さんは真顔でこう言ったの。

私の事を世間っていう牢獄の中から解き放ってくれるから。

なに言ってんだって、私は実際思った。いい年した女がなにミュージカル役者みたいな事をって、私はバカにするより呆れかえってた。

だけどお母さんの言葉は実際本当だったんだろうね。離婚後あれだけ精神的に落ち込んでいたお母さんに笑顔が見られるようになっていた。その分夜遊びもひどくなってたけど。そしてそれに比例して秦雄一が家に顔を見せる回数も増えていた。

まあ私的に彼の事は嫌いだったから、素直にその事は喜べなかったけど、あの最悪の時を迎えていたお母さんの事を思えば幾らかましになったししばらくこのままでもいいのかななんてそう思っていた。だけど中学三年の夏を迎えた辺りから少しずつお母さんの様子がおかしくなっていった。

どことなく元気がなくなって、虚ろな目をするようになった。特に病気とか、そういった周辺症状は無いんだけど一人になると、いや、秦雄一が一緒にいないとそうやってボーっとしている事が多かった。それに背中とかお腹、腕やふとももなんかにあざがよく出来るようになっていた。どこでぶつけたのって、聞いてもお母さんは答えない。ただなんとなく笑って愛毎に答えるだけだった。

その頃になるともう既に秦雄一は私達の家に住むようになっていた。お母さんから自分専用の部屋をあてがわれ、毎日そこで寝起きしてごはんを一緒に食べた。ハッキリ言って気持ち悪かったし最高に嫌だったけど、秦雄一がどこかに遊びに言っちゃうとお母さんの様子がおかしくなるから強引に出て言ってほしいだなんて言えなかった。

正直情けないなあ、って私自身思った。

普段学校じゃ何もかもパーフェクトに行える筈なのに実際大人を相手にしてみたら何にも出来る事が無いんだもん。現実の厳しさと言うか、社会という物の歪みみたいな物にぶち当たったような気がして私も相当落ち込んでたと思う。もっとも物部君の前ではそんな姿見せたくなかったから、柄にもなく健気に振る舞ってた訳だったけど、まあそれは置いといて、そんなお母さんの様子がおかしくなって、秦雄一が家で暮らすようになってからしばらく経って、ある現象が起きるようになったの。

毎夜のように続いていた母の喘ぎ声に混じってそこに加わったのは微かなうめき声だった。

最初はただの勘違いだと思ってたんだけど、それが日に日に大きくなって行って最終的には喘ぎ声っていよりもうめき声、いや、もうそれは叫び声としか認識する事の出来ない大声が部屋を跨いで私の耳にまで届いたの。

そりゃビックリしたよ。一体何があったんだってベッドから飛び起きてお母さんの部屋に言ったけどいない。んで次に向かったのが秦雄一の所だったんだけど、あの男お母さんに何してたと思う? 多分こういうのは私よりも男の物部君の方が詳しいと思うんだけど、まあ俗にいうSMプレイみたいなヤツ? そんなのをやってたみたいんなんだよね。ベッドだけしか置かれていない不気味な部屋でお母さんと秦雄一が裸で絡み合ってたの。だけど、私にSMプレイの知識がないからなのかは分からないけど、その行っている事が一目見て普通じゃない事は分かった。

SMっていうと普通色々な道具を使うイメージない? 例えば鞭みたいなのだったり蝋燭みたいなのだったり、そういうのを連想するでしょ? だけどお母さんと秦雄一のは違ったの。

ベッド上で横になっているお母さんを見下ろす秦雄一はただ単純に、シンプルにお母さんを殴っていたの。おなかや腕、背中、太もも、時には足でそれらを踏みつけたり蹴りあげたり、微妙な力加減をしているのは分かった。もしそうじゃなかったら成人男性の暴力にお母さんの体が耐えられる訳ないもん。だけどその暴力は明らかに傍から見れば暴力でしか無かったし、プレイと呼ばれる物の一環を大きく逸脱しているようにも見えた。

何してるの?

私は言ったよ。やめて下さいって。見たくもないお母さんの傷ついた身体と汚らしい中年男の身体を真っ直ぐ見つめながら。

でもその言葉にお母さんが反論した。

やめいないでって。

狂ってるとしか思えなかったけど、お母さんにはそれが気持ちよかったみたい。でも私はその見るに堪えない光景をそのまんま放置する事なんか出来なかった。

まるで癇癪玉が破裂したみたいに喚き散らした私に驚いた二人が少し冷静になったのか、私が落ち着くの待ってそれぞれの部屋に帰って行った。

ごめんねこずえ

体中に青タンを作ったお母さんが申し訳なさそうに言う姿が本当に情けなかった。何よりも自分自身が信じられない位惨めだと思った。母が心のよりどころにしているのが私じゃ無くてあんな男だと思うと気持ちが悪くなって腸が煮えくりかえりそうになった。

でも私の癇癪玉も案外大した物だったみたいで、それから数日うめき声はおろか喘ぎ声すら聞こえない夜が何日か続いたの。だけどそんなとある夜の事だった。

ここ最近覚える事の出来なかった安眠感に体中を浸しながらベッドの中でウトウトしている時の事だった。私の部屋のドアが開いたの。多分お母さんだろうなって、特に気にしないでそのまま横になっていると私のベッドの中にお母さんが入ってきた。そして私のすぐ傍で添い寝を始めたの。

なんなの? って私は思って目をハッとさせた。するとそこにいたのはお母さんじゃなくって秦雄一だった。

まるで熱湯に手を突っ込んだみたいに身体を反射的に起こした私はベッドの上で立ち上がっていた。

思わず息が荒くなって出てくる言葉の全てがどもりがちだったけど微かに言えた言葉に間違いは無かった思う。

一体なんなの?

すると秦は気持ちの悪い顔をゆがませながら言ったの。

ヌいてほしいって。

母とのセックスを禁止された訳ではないけど、もう既に母が暴力なしのプレイでは満足できない事から、そしてそれを私が強引に止めた事から、少なからず母親としての意識が刺激されて最近していないんだって、そう言ってた。

だから抜いてほしいって、手でいいからしてほしいって、私にそう言ってきたの。

もちろん断ったよ。ふざけんなって、そんなの自分でやれって言ってやった。だけど秦はこう返した。そうなるとお前のお母さんとセックスをする事になるって。実際欲望と倫理の狭間で葛藤している母が目の前にぶら下げられた人参に根負けしてしまう事は目に見えていたし、それは秦も同じ見解だったんだと思う。

自分が求めたらアイツも応じるだろうし、それに享楽するだろうって、アイツはそう言った。

私は嫌だった。いくら母がそれを望んでいたって、何をされているのか知っているその状態で見て見ぬふりなんか出来る訳がなかった。だったら家を出ればいいだろなんて言われちゃえば元も子もないんだけど、私にはそんなの関係なかった。私がいない所でもそういう事が行われているって、その事実を知ってるだけでも悪寒が走ったの。

そう、私の手を使ってあいつの性欲を捌けさせる以上にね。それ位肉親の、お母さんの性とそれに直結する暴力は生理的嫌悪感を私に植えつけていたの。だから結局ヌいてあげた。

お前が素直にしてればこれ以上母親とはもうやらないって、最期にそう言われた。

それから日々は地獄のような毎日だった。

毎夜ベッドの中に潜り込んでくる秦の要求は次第にエスカレートして最初は手だけだった欲求が次は口へ、次は性器へと移るのもあっという間だった。最終的には肛門に入れさせろなんて言われたりもしたし、あとベッドの柵に両手を縛られたソフトSMみたいな事もやらされた。

そう、ごめんね物部君。私ウソをついてた。

一年前のあの日。処女をキミに上げるなんて言ってたけど、もうあの時私は処女じゃなかったの。処女は二年前の冬、中学三年生の時に消失しちゃったの。

雪が降っていた寒い日で暖房を入れてもどこか体の芯が冷え切っていたあの夜、次第に母の身体から私の身体へと興味を逸らし始めたあの男が私の処女に興味を覚えない訳がなかった。

一方母は母で、私が秦の性処理をしている事を知って露骨に嫌な顔をし出した。そして嫉妬を覚えた女子中学生みたいに秦へと欲求をぶつけるんだったけどさっきも書いたように秦の興味は私の身体に移行していた。

私の処女を奪う日、秦はこう言ったわ。

今日お前の母親から求められたって。一応断ってやったがもしお前が俺を拒むんだったらもう一回お前の母親をあの時のように、いや、あの時以上にいたぶってやるって。

だから毎日帰ってこい。そして毎夜オレの部屋を訪れろって。そうすれば母親には手を出さないって。

そう言われたの。もう私にはどうする事も出来なかった。

そもそも母と秦の関係はお互いの合意の上に成り立っているから私がそれに横やりを入れている事は十分承知していた。だから警察に言った所で何の解決にもならない事は分かっていたし、結果お母さんが私の事を目の敵にしているのも知っていた。

だけどもう二度とあんな光景は見たくなかった。それだけは絶対に嫌だった。だから受け入れた。最初は私の部屋のベッドで、痛いとか気持ち悪いとかそう言った感情を全て捨てて、ベッドのシーツを強く握りしめる事だけを考えて一回突かれる度に記憶を摩耗させて何かも無かった事にしてやろうって、そう思いながら頭をからっぽにしようと努力した。

今思えば一年前の私の発言はウソって言うよりも願望だったのかもしれないね。秦に穢された私の身体を、物部君が浄化してくれればどれだけいいだろうって、本気でそう思ってたんだと思う。だからそれだけ本気だって事なんだからね。ほんと朴念仁なんだから物部君は。

まあそんなこんなで私はそれからという物、夜になると自らアイツの部屋に赴き性欲の捌け口にされていたの。前にも言ったと思うけど私が一人暮らし出来ない理由はこれが原因。随分と惨めな理由でしょ? シンデレラも真っ青なシナリオだよね。

秦とのけがらわしい関係は今でも続いてる。夜になれば毎日のように行われる行為が半ば普通になりかけているくらいにね。っていうか最近じゃあ秦のヤツ物部君に対して嫉妬してるんだよ? 一体どこからその情報を得たんだって位に細かな事を話して物部君の嫌な所をあげつらって行くの。

まあ当然無視してるけどね。でももう限界。高校に入ってからも関係は続いていたし、それに自分の家にも逃げ込めない状況の中でクラス中の生徒からいじめの標的にされたのは痛かったよね。

確かに私生意気な所あるし空気も読めないから、それでいて何でも出来るから鼻につくんだろうね。まあ他人から見たらイライラする存在だとは思うよ。ちょっとしょうがないかなって思ってるし。

普通の人より高い能力や資質を持った人はそれだけで他人から疎まれるって事は昔から知ってたから。普通だったらそれを隠す手立てをしてワザとバカを振る舞うのが賢い方法なんだろうけど、私残念ながら頭は良かったけど、賢くはなかったんだよね。だからダイレクトにクラス中の皆を敵に回しちゃった。

まあそれ自体は特にそこまできついとは思えなかったんだ。中学の時からクラスの中で自分だけが浮いた存在だっていうのはなんとなくわかってたし、元々誰かとつるんで行動するタイプでも無かったから耐えられる範疇の出来ごとだった。

だけどやっぱり堪えられなかったんだ。

物部君の見て見ぬふりにはね。

ホント、何度も泣きそうになったんだよ? 私が嫌がらせされている時に何も知らないような顔をしながら教室を去っていく物部君の顔を見るだけで心が折れそうになった。もう死にたいって、本気で思ったのはその時だったかな。

秦に犯されている時も、クラスでいじめられている時も、死にたいだなんて一度も思わなかったのに、物部君の私に対する無関心を思わせる表情を見た時、本気で死にたくなったんだ。

もう生きてたって意味なんかないって。死んじゃった方がこんな感情味会わずに済むんだって。

それくらい物部君の事が好きだった。そして怒りを覚えた。これだけ想ってるのに助けることさえしてくれない幼馴染がこの世に存在してもいいのかって、身勝手にも程がある事は知ってるけど物部君を憎みもした。

そしてそれが歪んだ復讐へと発展したのは当たり前の出来ごとだった。

物部君。真実を話すね。私の本当の目的。

私は秦の暴力に屈して、母親の嫉妬に苦しめられて、クラス中から妬まれて、物部君から居場所を奪われた。

だけど物部君を思うだけで今まで生きて来れた。そこにあるのは自分を裏切ったって言う勝手な復讐心とそれでも未だにキミの事が好きでいられている誇りみたいな虚栄心が私を突き動かして目的を作りあげていた。

死にたい。そして死んで物部君と一つになりたい。

あなたの身体の一部になって永遠に、物部君が死ぬまでの間を一緒に生き続けたい。そしてそれをあなたに知らせる事によって深い後悔と罪悪の念に駆らせて一生私の事を思い続けながら生きさせてやりたいって、そう思った。だから、

ねえ物部君。

バーベキューどうだった?

お肉美味しかった?

博士が持ってきた高級ラム肉美味しかった?

ちょっと臭くなかったかな? 結構クセが強くて固いって、どこかで聞いた事あるから少し気になってるんだけど、まあその時既に私はいないしそんなの関係ないか。

ただその肉が物部君に食べられてあなたの血肉になる事が出来ればそれでいいんだから。

ねえ物部君。もうそろそろ終わりにしたいと思うから、正直に言うね。私の本当の目的。私の死体が神隠された理由。

博士が私の死体を隠してどうしたのか、彼が何故バーベキューをしようなんて言ったのか、どうして彼が肉を調達し高級ラム肉だといって物部君にその肉を進めて来たのか。

なんで知ってるのかって?

そんなの簡単だよ。

だってそれら全てが計画の一つだったんだから。

それは私が博士に命令した最後の言葉で、果たされなければいけない最後の使命だったの。

そう。物部君。

あなたが食べた高級ラム肉は羊の肉なんかじゃなかったの。

あれは人間の肉。死んだ私の身体から切り取られた、千駄木こずえの肉だったの。

私の最後の望み、死んで物部君と一つになりたい。

秦から穢された身体を浄化して私を見捨てた物部君を後悔させて、深く愛しているあなたと永遠に一緒にいる為に、私はあなたの血肉になりたかった。

だから博士に依頼して、いや、もはや脅しだよね。さっきも書いたと思うけど私は博士のヤヨイちゃんに対する暴力で弱みをにぎってそれを命令したんだから、ある意味一番きつい役回りをさせちゃったのかもしれない。だけど私の守隠し計画はこれ抜きでは完遂なんてあり得なかった。

物部君。私言ったよね。守隠しって言うのは、守って隠されるって。だから私は隠されたの。

物部君の血肉になってその苦しみから解放されて守られ、そして永遠にその体内に隠される事に成功した。これが私の守隠しの本質。本当の目的。博士には悪い事をしたと思う。たった一人で死体の解体作業なんかやらせてきっと何らかの精神障害に陥ったっておかしくないんだろうけど、でも、それは物部君も同じだよね?

物部君。

私はあなたの事を愛してました。大好きでした。でも、だからこそ許せませんでした。私が助けを求めているのに気付きもせず何も知らないかのような顔をしているあなたが許せませんでした。

それは私とあなたが今まで築き上げて来た関係性を土台から破壊するかのような、そんな行為であった事を知ってください。

だから苦しんでください。

私を殺し、食べて、自分の一部となった、自分を想い続けた人があなたを怨み、好いて、いつまでも一緒にいるって事を胸に刻みながら、苦しんで生き続けて下さい。随分勝手な言い分だと思うけど、報いを受けて下さい。

そしてあわよくばお願いがあります。

神隠し。その言葉の意味を知ってますよね?

誰も知らない。いなくなったその事実さえ関係者から全て忘れられるその神が行った奇跡の所業を物部君の手によって遂行してください。

私と同化したあなたが私の悔しい思いを行動に移して遂行してくれれば私は幸せです。

私は誰からも忘れられたい。そもそもいなかった存在でありたい。ただ物部君の中で血肉となって存在していたい。そんな私の最後のわがままを聞き入れてくれたら私は幸せです。

最後になりますが物部君。私からのメッセージです。

本当に楽しかったです。物部君がいたから私は今までこうして生きて来れました。

だけど物部君がいたからこそ、私は自分の命を絶つ事を決断できました。

ありがとうございます。本当に、本当に楽しかったです。でも、不幸になってください。苦しんでください。私はあなたをゆるしません。さようなら。



追伸 

もし苦しみに耐えられないような事があって自殺しちゃったらあの世で一緒に遊ぼうね』


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