プロローグ
物部昼夜と千駄木こずえの奇妙な関係はおよそ一年前の夏から始まり、継続していた。
それは周囲から見たら明らかに奇異なる関係でもあるし、まだ年端もいかぬ十七という年齢から鑑がみてみれば不純という括りで包括する事の出来る関係でもあった。
度々目撃される放課後の出没地域、休み時間中に毎度行われる公的な意味合いを既に持ち合わせた密会、ましてや学外を離れても尚行動を共にする二人の親密さ。
確かに二人の関係を露わにするならばそのような行動や記録を紐解き、順繰りに解説を行う必要があるのだが、しかしそれは同時にその程度の事でしかなく、実際その程度の事をあげつらえた所で彼等の関係性が奇妙と断定されるにはいささかの不可思議さが無い訳でも無かった。それこそただの交際関係にあるのかもしれないし、これからくっつくかもしれない友達以上恋人未満的な関係であるのかもしれない。しかし彼等の関係性が奇妙と認識されるにはそれなりの理由があった。その理由は指して難解な物ではない。至極当然で、簡単な物だった。一言で言えばこうだ。
物部昼夜は一般人で、千駄木こずえは悪魔だった。
或いはこうかもしれない。
物部昼夜はクラスの中の優秀で優良な生徒で、千駄木こずえはクラスの敵役だった。
いや、もっと、すっきりと、ハッキリと言えばこうなのだろう。
物部昼夜は傍観者で、千駄木こずえはいじめられっ娘だった。
いじめられっ娘。或いはいじめられっ子。
既に十六歳から十七歳へと変貌を遂げた少女に対して子をあてがう事が正しい事なのか、それも娘という文字を連ねる事が正解なのか、そんな事は誰にも分からないし、事実どうでもよかった。しかしどうでもいい事実が二人に直面している中でも、その中からすくい取るべき重要な事実にどうでもいいなどと、軽微な言葉が使われていい訳でも無かった。
二人の関係をまず紐解くには二人の歴史を簡易に辿り、その容姿から能力に至るまで、そして昔馴染みの幼馴染という関係性を踏まえつつ紹介する必要があるだろう。
だからこその奇妙な関係である訳だし、それが高校二年の七月、夏休み直前まで継続している事が理解出来るのだと思う。
詰まる所この冒頭はただの紹介文にしか過ぎず、作中の主役二人を説明するガイダンス的な意味合いしか持たない。言ってみればそれは野暮と称すべき存在なのかもしれない。
しかし、物語の冒頭、これだけは言っておかなければいけない。
この二人の関係がどのように始まり、どのような経緯を辿るのか。今もって尚現在進行形のストーリーが今後どうなっていくのか。それは案外容易に想像が付くであろう、そんな言葉だ。
そんな言葉を皮切りに、物語を始めたいと思う。
物部昼夜と千駄木こずえの奇妙な関係の物語。千駄木こずえから物部昼夜へと紡いだメッセージ。
その最初の言葉を、切り取ってみたいと思う。
「物部君」
千駄木は一年前の夏休み直前、終業式終わりの誰もいない教室で物部にこう言っていた。
「守隠しって知ってる?」
それが始まりの言葉だった。




