探偵、悩む
―プロローグ―
人間は超能力が使える。
定義として、一日に一回のみ。
使用状態は毎日午後1時にリセットされる。
一人に一系統のみ。
誰しもが扱えるものではなく、現在魔法を扱えるものは日本だけで10%にも満たない。
コーヒーの匂いがする。
「超能力ねぇ……」
中学時代に総合学習の時間に配られた【超能力について私たちが知らなければならないこと】と書かれた教科書を片手に、青年は自分の椅子をクルクルと回した。本の中身は確か、差別とか、劣等感とか、付き合い方とか、そんなものだったのではないかと引っ張り出してきた本であったが、青年にとって今は価値のないものであるかもしれなかった。理由を挙げるなら、役に立つ本であっても読み手がその意図をくみ取る努力、そこまでに必要ないにしても読もうという意思がなければただの紙屑と同義だからだ。青年は椅子を回すことの方にお熱のようだった。
何故家の押入れの奥に閉まってあった本をわざわざ取り出してきたかというと、本日晴れてこの青年が運営する探偵事務所に新入社員が入ってくることになっていた。諸事情から新入社員の顔を知らない社長が、顔写真のない不備の履歴書のみの情報でどうにかこうにかしようとした結果が、思い出を引っ張りだした原因である。
【小泉 椿 (国立大学卒業) 9月9日生22歳 特技スノーボードなど冬スポーツ 住所――】
「大学。エリート様。卒論のテーマは……あぁ、俺にはかけ離れた分野であることはわかるな。なんか寂しくなるな。こう独り言が多くなってきたこととか、もうちょっと勉強していい大学に進学していい会社に入社してきれいなお嫁さんをゲット的な感じ?」
椅子クルクルは厭きた。
4/1/()AM8:00。
温くなったコーヒーを手に取る。
一口飲んでからカーテンを開けると2日ぶりに日差しが事務所の中に入り込んできた。ほんのり暖かい春の日差しがもうすぐ暖房器具を片付けろと言っているようで、でも冬の風がそんなことをさせるかと頑張っているようで、なんだか温かい気持ちに探偵はなった。もちろんコーヒーのおかげでもある。
そんなこんなしている合間に、新人が来るまでのタイムリミットまであと二時間となっていることに気付く。思い出は紙屑、記憶も塵屑、つまり青年にできることは何もないのだ!
--どうすればいい??
★ ★ ★
小泉椿は歩いていた。
4/1/()AM9:30。
春にふさわしく今日はコートをあえて置いてきた。そのため若干肌寒い。
足取りは軽く気持ちは重い。今日から新社会人として新たな一歩を踏み出すことに胸が高鳴るばかりなら良かったのに。そうすればこんなに気持ちは重くなく、ステップを踏み名がら意気揚々とこのまだつぼみの桜並木を歩いていただろうに。そんなことを思いながら歩みを進める。