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第八話 図書館

 五月中旬、喜多良高校に入って初めての定期テストがあった。

 結果は……、死んだな…。ヤバい、そろそろちゃんと勉強しないと、ヤバい。

 喜多良高校には他の高校にない、学検制度を導入している。この学検はテストや、部活、高校のイベントの成績によって与えられるもので、この高校の中で使えるお金と考えていいものだ。この喜多良西校ではそこまで必死になって集めるものはいないが、成績トップが集められた喜多良北高では、推薦を学検で獲得するために多くのものが勉学に励んでいるため、北高は基本一番頭がいい。ちなみに、噂ではこの高校で推薦を受けたものの合格率はほぼ100%だと聞いている。

 まぁ、学検がほぼもらえないというのはこの際どうでもいい。僕がヤバいというのは、高校初の定期テストですでに赤点ギリギリという事態に陥るのではないかと予想されたからだ。文系教科はまぁ、この際目をつぶろう。すーがくってなに?にちじょうせいかつで、いちいちあれは〇〇きょくせんになっているからきょうどがあるとか、かんがえるひといるの?え?これ、ぶつり?ぼくわかんない。

「というわけで、恥を忍んで頼む、数学教えてほしい!」

「はえ?」

 放課後、テストの順位を確認した後、予想道理に赤点ギリギリだった僕は、北高を合わせた総合順位ですら第三位に入り込んでいた荒木ヤズルの頭の良さにここは賭けるしかない、と思いそのままその場でに頼み込んでみた。荒木ヤズルが気の抜けた声を出したのは、おそらく僕が衆人環視の中、土下座をしていたからだろう。

 荒木ヤズルは僕を視認した後、何もなかったかのように教室へ戻って行ってしまった……。反応したんなら、何かもう一言言ってほしかったんだけど……。


「というわけで、仕切り直し。僕に数学を教えてください」

 というわけで、部活の時間にまた、頼んでいた。ここなら放課後の教室で特に誰もいないし、土下座して頼んでもいいだろうとか思ったけど、荒木ヤズルに全力で阻止されてしまった…。

「あー、無理ね……」

「早!もうちょっと悩めよ。こっちは命かかってんだよ!」

「どう考えたら数学で命を張らなければいけない事態に陥るのよ…。ただ、単純に苦手なの。数学はそんなに点数高くないの」

「そんなこと言っちゃって~、どうせ僕のトリプルスコアとかでしょ?」

「木葉…、あんた何点なのよ……」

 俺の点数低いわ~とか言う頭のいい奴ほど、どうしてそんな点数で低いとか言えるんだとかいう点数を取っているのは分かってんだよ。赤点ギリギリなめんな。

「……あ、それなら、ノズルに頼んでみたら?」

「ノズル?あ、そうか双子だし、ヤズルと一緒で点数高いんだ…」

「……うーん。高いということはないんだけど…」

 ん?高くはないならどうして紹介するんだ?

「まぁ、数学ならあの子の方が上だし…。ついでに部員になるように説得しちゃって」

「えー、いいーけどー。ノズルってヤズルの姉でしょ?どうしてヤズルが説得しようとかいう話にはならないの?」

「あー、あー、あー、あたしはいいから。木葉はあたしの下僕でしょ?あたしの言うことにイエス以外答えない!分かった?」

 いつから、下僕になったんだよ…。最近の荒木ヤズルの僕の扱いがひどい。

「あ、ところでこの研究会は何か活動はしないの?まだ何もしてないよね」

 五月中旬なのにいまだにこの研究会はだれをこの部活に入れようかについて話し合いをしていた。ゲームはどうした、ゲームは。

「そっちも今のところ計画中よ。木葉は何も気にしないでいいわ」

「だいたい何をやるつもりなんだ?」

「そうねぇ……。人数が少ないときはトランプゲームとか。人数が増えてきたら人狼ゲームとかUNOとかやるつもりだけど」

 まぁ、さすがに部員全員でゲーセンってわけにもいかないから妥当かもしれない。

 僕が少し感心していると荒木ヤズルがどうよと胸を張ってきたので、少しだけむっとした。出るべきところが出てないことがよくわかるぞー。

「分かったら、あんたも自分の仕事を遂行しなさい」

 ふーむ。まぁ一応頼んでみるか。




 次の日の昼休みに校庭の荒木ノズルと会った場所に行ってみたところ、荒木ノズルがいたので数学を教えてくれと頼んでみたところ、土曜日に図書館で勉強会をすることになった。

 これはデートになるのかな?とか思ったけど、やることは勉強だけなのでデートと言わないかもしれない。デートとデートじゃないの線引きって何なんだろう?

 でも思う分には自由だよね。

 荒木ノズルと図書館デートだ。わーい。

「ごめんなさい待ちましたか」

 と、そんなことを考えていると、荒木ノズルの声がしたので振り返ってみるとそこに女神がいた。

 いや、比喩だけど、比喩じゃないぞ。女神ってのは。

 図書館は喜多良壱丁目、つまり喜多良高校近くに住んでいる荒木ノズルにとっては喜多良大阪を下りることになるので、今日は坂を下りたところで待ち合わせをした。

 よって声をかけられたときノズルは僕より坂の上側にいたことになるのだが、その時ちょうど荒木ノズルの背中から後光が差しているように見えたのだ。

 ちなみに、女神ノズルの今日の服装は、下は膝丈にスカートに上はいつもと同じパーカーを着ていて、いつもと同じくフードもしっかりかぶっていた。

「今日もフードかぶっているんだね。フードを脱いだりしないの?暑くない?」

「いえ、大丈夫です。図書館の中なら冷房もついているかもしれませんし、早く向かいましょう?」

 少しはぐらかされた感があるんだけど…。まぁ、いいか。

 坂の下から少し歩いたところに図書館があった。この図書館には自習室があって、そこでもいいかと思ったけど、私語厳禁みたいな雰囲気があって入りずらく、僕らは二階にあったコミュニティスペースで勉強を始めることにした。まぁ、もともと図書館はしゃべるところではないんだろうけど…。

「ノズルってこの前の数学何点だった?」

 聞いてなかったが、荒木ヤズルがいいって言っていたから期待できる。

「ああ、二百点でしたよ?」

「二百点!?」

 この高校の国、数、英のテストは二百点満点となっている。何でもセンターに合わせた配点にしたいからだそうだ。

 ノズルは自慢げにといった表情ではなく、言い慣れている感じもした。きっと僕をへこませないように言ってくれたんだろう。……そこまで考えてないか。トリプルスコアだ…軽くへこむ。

「あれ?でも、成績上位者の中にノズルの名前がなかったけど……」

「あぁ、それは私数学以外の教科はダメダメなんですよね。ヤズルはまんべんなく得点取れるんですけど…、私は数学しかできないんですよね…。どうして双子なはずなのにここまで違うんでしょう?」

「……うーん、僕に言われても」

 ヤズルは全教科得点が取れるけど、ノズルは数学だけ、と。双子だからって全く同じではないのは分かるけど…。


「あ、そこは間違ってますよ?そこは初めに(x-a)(x-b)を出してしまって、(x-a)(x-b)が0の場合と0でない場合に分けて考えるんですよ」

「そ、そうして何か意味があるんでしょうか…」

 ヤバい。

「あぁ、数学では0で割るということができないんです。だから0でない場合と0である場合に分ける必要があるんです」

「そ、そうなんですか…」

 ヤバい。何がヤバいってノズルの説明が分かりやすいのと同時に僕の数学力が低すぎて、女神ノズルに敬語を使わなくてはならないことが判明した。


「あ、その問題はですねBとDを線で結んでしまって、二つの三角形に分けて考えるんですよ」

「ど、どうしてそうするんでしょうか…」

「その方が都合がいいから、分かりやすいからですよ。もっとも先生がこの問題はそうやって解くって言ってたじゃないですか」

「せ、せんせい、ちがうんじゃないでしょうか」

「ふふふっ」

 笑われた!笑顔がかわいすぎるんですけど…。

「先生は同じですよ。初めの方に確認したじゃないですか」

 そ、そうだったかしら。


「あ、もうそろそろ五時ですね。そろそろ終えましょうか」

「……う、うん。そうだね」

 結局二時に始まった勉強会はほとんどずっと数学をしていた。いや、まぁ、途中で休憩とかはさんでいるけど、さすがに疲れたな……。

「お疲れ様です。木葉君。これでたぶん次のテストはちゃんとできると思いますよ」

「うん、ありがとうノズル」

 三時間ちゃんと勉強したおかげか、僕の数学力は少しだけ上がった気がする。あとは自分で継続していこう。次のテストでいきなり数学のトップテンになってみんなが驚き、ジジは僕に昼をおごり…。まぁ、そこまでうまくいかないか…。

「うーん、これはいつかお礼をしなきゃだよね。何がいいかな?」

「……お礼、ですか?いえ、別にいいですよ。木葉君の力になれたならそれだけでうれしいですから」

 …コク…ハク?とか思ったけど、その後一瞬で否定された。

「で、でもさ僕も感謝してるし何かできないかな?」

「……そうですね…。それでは少し付き合ってくれますか?」



 ノズルの連れられて、喜多良大阪を上り、喜多良四丁目に入ってすぐのところにあった公園に来た。

「公園?ここがノズルの来たかった場所?」

「ふふ、もうちょっと先です」

 そう言うと、ノズルは公園を覆っていた鉄柵を超え始めた。鉄柵を越えた先はコンクリートの崖になっているので危ないのだが…。

 それよりも、ノズル今日はスカートでしょ!見えるよ柵なんて登ったら。さすがに見てはいけないと思ったので後ろを向いていた。

「どうかしたんですか?こっちですよ?」

 そういわれたので振り返るとすでに柵の向こう側にいた。

 うん、残念とか特に思ってないからね。

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