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第五話 再び

 高校に入って初めての土日、新入生のうち、多くの人は部活の見学やら、授業が始まったので予習をさっそくやっているやっているのだと思う。そんな中、僕は喜多良大阪の下まで来て突っ立っていた。

 …遅いなぁ。



「僕と出会いをやり直してください‼」

「え?」

 まぁ、言葉をミスったなと思う。でもさ、一応本心では荒木ヤズルと正しい出会い方をしたいなと思ってたしさ、別に後悔はしてないんだよ?

 この言葉に荒木ヤズルは少し顔を赤らめて、

「なんで?」

 と言ってきたんだ。まぁ、『どういう意味?』って聞かれなかったなぁ、あの時の出会いを覚えてるからなのかなぁ、ということはやっぱりヤズルがあの時の子なのかなぁ。ってどうでもいいことを考えていたよ。

 話がそれた。僕が喜多良大阪の下に突っ立っていた理由だね。

 結局それは、荒木ヤズルとの出会いのやり直しなんだ。

 今、荒木ヤズルが坂の上に行ってるから、合図の後、僕が坂を上り始める。坂の途中でぶつかって二人は劇的な出会いをするのだった…。的な?

 まぁ、嫌がる荒木ヤズルを首肯させるのにひと悶着があったことは認めるけど、最後には快く了承してくれたね。ゲーセンでの恩義や、勧誘の時の恩義をこんこんと語った後に『もう、分かったから、授業始まるから‼お昼ごはんまだ食べてないから‼』『絶対だよ?』という会話で決定したね。懐かしい。

 僕がつい先日のことを懐かしがっていると、ヤズルから電話が来た。準備OKだ。

 

 僕は坂道を歩き始めた。

 この坂は小学校へ行くのにも、中学校へ行くのにも、高校へ行くのにも利用している。いつも行ったり来たり、代わり映えのない毎日。春、夏、秋、冬。毎年季節の違いを楽しみながらも、結局去年も今年も来年もまた見ることになる風景であり、対して珍しいものではなくなっていく。それはまるで深い森に迷い込んだみたいで、右へ行こうとも、左へ行こうとも、前に見た気がして代わり映えがしない毎日だった。今日、明日と二つを比べても大した違いは見つからない。違いを見つけようとそこに立ち止り続ければ、日が暮れる。結局立ち止ることには意味がないのだ。

 そう、思ったのは去年の夏。

 高校へ行けば何かが変わる。進み続ければ、物語はいつか始まる。いや、始まらない物語はないのだ。ある時から、物語は始まり、今まで見てきた景色はとたんに灰色からカラフルな色へと変わる。


「あ、あぶなーーーーい。どいてーーーーーー」


 ヤズルのやつ、少し棒読みだなぁ……。

 はっ、そんなことはどうでもいい。語りだ、語り。


 おほん、声が聞こえた方を向くと、自転車に乗った女の子が坂から降りて来た。

 深い森から抜けたところには、妖精がいて…。木漏れ日の光が照らす顔に僕は絶句する。男の目を引き付けるために生まれたではないだろうか。その顔が目の前に…ってあれ?


 ドガッ‼←(自転車にぶつかった音)ガツン‼←(頭が地面にぶつかった音)

「いてぇ‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼‼」


「えっと…、大丈夫?」

「死ぬわ‼」

 ヤズルのやつマジでぶつかってっ来やがった。しかもなぜかヤズルは無傷で、僕は頭を打つ重症‼…頭を打ったって軽傷かな?…あれ?おかしいな、運命の出会いってこんなにも危ないものだったっけ?

「せ、せめてよけるとか…」

「ぶ、ぶつかれって言ったのはあんたでしょ!」

 そうだったっけ?最近物忘れがひどくて…。

「ひどすぎるよ‼」

「心を読まれた?そんな…。人心把握術の持ち主だったなんて…」

「いや、そんなもん持ってないし…。っていうか何なのこの台本」

 台本…。多分僕がさっき語っていたものだろう。むっ、結構凝ったつもりなのにな…。

「『男の目を引き付けるために生まれた』とか、言い過ぎでしょ。それと、『木漏れ日』って…、ガンガンに太陽が照り付けてるんですけど」

 今はまだ春だが、入学式に桜の坂道となっていたこの道の桜は、満開ではなくなっていた。

 しかし、まぁ、前半の半分を言うときの少し照れた表情のかわいかったこと、かわいかったこと。二度言った。大事なことだから二度言った。心の中で。

 まぁ、とりあえず。まだ、抗議してるヤズルは置いといて、

「やり直しね」

「え~、まだやるの?」

「当然だよ。まだ台本の半分しか言ってないんだから」

「あたし、何で協力してんだろ…」

 あきらめなさい。

 ヤズルはしぶしぶ、といった感じで坂の上に上って行ったので、僕はまた坂の下へ下って行った。



 五分後。ヤズルから準備OKとの電話が来た。TAKE2。

 僕は坂道を歩き始めた。

 この坂は小学校へ行くのにも、中学校へ行くのにも、高校へ行くのにも利用している。いつも行ったり来たり、代わり映えのない毎日。春、夏、秋、冬。毎年季節の違いを楽しみながらも、結局去年も今年も来年もまた見ることになる風景であり、対して珍しいものではなくなっていく。それはまるで深い森に迷い込んだみたいで、右へ行こうとも、左へ行こうとも、前に見た気がして代わり映えがしない毎日だった。今日、明日と二つを比べても大した違いは見つからない。違いを見つけようとそこに立ち止り続ければ、日が暮れる。結局立ち止ることには意味がないのだ。

 そう、思ったのは去年の夏。

 高校へ行けば何かが変わる。進み続ければ、物語はいつか始まる。いや、始まらない物語はないのだ。ある時から、物語は始まり、今まで見てきた景色はとたんに灰色からカラフルな色へと変わる。


 変わる…。変わる…。変わる…。

 遅いな、ヤズル。そろそろ『危なーい、どいてー』が来てもいいと思うんだけど。


 気になって坂を上ってみると荒木ヤズルが倒れていた。

「荒木ヤズル‼」

「痛たたた、…あはは。転んじゃった」

 膝から血が出ていた。ほかには目立った外傷はなさそうだった。

 自転車は隣に転がっていて、その近くに猫がいた。多分、猫がいきなり道に割って出てきたんだろう。ヤズルがそれをよけて転んだと…。はっ、取りあえず。

「ケガしてるじゃん。学校の保健室…は遠いから、病院で手当てを」

「びょっ、病院?大げさずぎだって…って、うわ!」

 僕は荒木ヤズルを担いで坂をダッシュした。『痛い、離して』と荒木ヤズルの声がするがこの際無視だ。



 荒木ヤズルはどうしても病院が嫌いなようで、坂を上ったところにある薬局の前で僕からずり落ちた。

 薬局で消毒液や、ばんそうこうを買い、荒木ヤズルの治療を済ませた後、やっぱり病院にと勧めると、嫌がったため、やはり荒木ヤズルを担いでダッシュした。

「ていうか、下して‼ここだと学校の人が見ちゃうって」

 荒木ヤズルはやっぱり僕からずり落ちた。結構しっかり担いでたつもりなんだけどな…。

「…って、どこ行くの?」

 荒木ヤズルはスタスタと、歩いている。ケガは?ケガはもういいの?

 どこに行くのかな?と思ったけど方向的にはゲーセンだけど…。


「ねぇ、木葉君がリーフなんでしょ?」

「え?」

 リーフ、それは僕がゲームをプレイする時は主人公の名前をそう書いている名前だ。木葉だからリーフなんて安直だとは思うけど…。たしか、ヤズルと格ゲーで勝負した時にもその名前にしてたから…、あれ?

「どうやってわかったの?僕対してヤズルに自己紹介もしてないし、あの時もヤズルの前に現れてもないんだけど…」

 そもそも、ここまでさせておいて自己紹介がまだってなんか変だとは思うけど…。

「え?クラスで木葉楊堅って名前を知らない人はいないと思うよ」

「…どういう意味かな?」

「普通に木葉イコールヤバいやつくらいの認識は全員持ってると思うし…」

 グサッ。ヤ、ヤバいやつ?

「木葉君があのゲーセンにいたことはわかったから…。…っていうかあたしの代わりにあの男の人たちに向かって行ってくれたでしょ?しかもその時のゲームの腕で、なんとなくわかったよ」

「そんなこともあったね…」

 その後あったことは、忘れたい思い出です。

「でさ、あたしに本気にさせるプレイヤーってなかなかいないからもう一回やりたくてさ」

 荒木ヤズル、あの時自分で再戦を断ってたから、僕じゃ相手にならないって思ったのかなって思ったよ。まぁ、再戦なら望むところだよ。実は、あの後毎日ゲーセンに通って戦闘バサラの特訓をしていたんだ。これでもう、必殺技から逃げられることはないはず。

「ふっ、僕も戦いたいと思っていたんだよ」

 やってやる。僕はもう負けない。



 三十分後。

「だーめだー、だめ」

 僕は端から全力状態のヤズルに、三戦三敗を喫していた。

 そもそも、大剣使いって動きが遅いとかあるんじゃないの?どうしてそんなにも動くのが早いの?

「動きが単調すぎるんだよ。もうリーフの動きは見切ったから、一撃も当てることはできないかもね」

 荒木ヤズルは笑顔で言った。うわ、この笑顔守りたいのに殴りたい。

「くそもう一回だ」

 そしてこの後あと二回完敗を喫するのだった。



「やー、楽しかった」

 僕たちはその後、近くの喫茶店に来ていた。もちろん、僕のおごりだ。…いや、僕が立候補したとかじゃなくて、ゲームでの景品におごりを賭けていたからだ。だめだよ、高校生なのに賭け事やったら。

「ヤズル強すぎるよ~、どうしてそんなに強いのさ」

「ふふふ、昔ちょっと特訓してたんだよね。あとは、才能?」

 ヤズルはとてもご機嫌だ。…まぁ、楽しんでくれたらなによりなんだけど。ん?そうだっけ?

 僕としては、坂の下の出会いがちゃんとできなかったから不満なんだけど…。

「あ~、この残念な台本ねぇ」

 そう言って荒木ヤズルは僕が一晩かけて考えた台本を鞄から出した。そろそろ、僕の心を読むのをやめてくれないかな。

「『進み続ければ、物語はいつか始まる』、ねぇ…」

「う、いいじゃないか。どうせ、恥ずかしいことを…とか思ってんだろ…」

「ねぇ」

 荒木ヤズルに言葉の端を折られた。

「これに書いてあるのって、木葉君の本心?」

 むっ、そうだけど。そういわれると少し恥ずかしい。

「あたしも、こんなこと思ってたなぁ。毎日同じ生活だってわかってるのに、自分じゃ何かを変えようと行動しないくせに、環境が変わっていくことをただ望んでた」

 ヤズルが語りだした。ただ、言葉の端々に僕が聞いて胸が痛くなった言葉が入ってるんですけど。

「いや、木葉君を攻撃しようとかじゃなくて、どっちかっていうと過去の自分を攻撃してるのかな」

「過去に何かあったの?」

 少し無神経な質問だったかもしれない。これだからKYとか言われるんだろうな。

「…うん、…あれ?」

「どうしたの?」

 荒木ヤズルは急に戸惑ったように頭を押さえた。

「えっと…、ううん何でもない。………なんでだろう」

「…?」





 木葉君と別れた後、あたしはさっきのことについて考えていた。

 木葉君に過去のことを聞かれて、あたしはすぐに答えようとした。でも…。

「あたしの記憶のはずなんだけどなぁ…」

 その時答えようとした記憶がまるで自分のものでない気がしたのだ。



荒木ヤズルとの出会い編は後、二話か一話です。

ここまで読んでくれた方に謝辞を。

双子の片割れ、ノズルを早く出したいっす。


感想・批評くれたら杏戸喜びます。

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