アイドルloveな女の恋 (2)
視点…真弓。
入学式が終わり、わたし、石沢真弓は友達と帰りを急いでいた。永成高校の制服は深緑のブレザーに同系色のチェックスカート、深緑のリボンという渋い色合いだ。…公立の本命校に落ちてしまったことがわかったのは今日から約三週間前。あれから20日以上経ったというのに、心はまだ中学のままだ。高校に入ったら、髪を染めてメイクして、青春するはずだった。でも、この永成高校は茶髪はおろかカラーコンタクトも許されていない。私立校ってどこもこんなに厳しいの?それともわたしの考えが甘いだけ?
…まあ、いいや。わたし、石沢真弓の高校生活はこんなことで終わりません。幸運にも気が合うクラスメートがいてくれたから。
「真弓!これだってライトニングのニューシングル」
「どれ…?ああ、やっぱりヤスがメインだよね、この曲。いやでも、みんな普通にかっこいい!」
ライトニングっていうのは、わたしが大好きなアイドルグループ。特にリーダーで最年長の鶴崎黎矢、通称レイヤがお気に入り。…で、この子がさっき言ってたクラスメートの岡島結衣ちゃん。自己紹介のときにライトニングが好きだって言ったら、自分も好きだって言ってくれたんだ。ちなみに結衣ちゃんが好きなメンバーは赤木康成、通称ヤス。今シーズンの人気ドラマの主役に抜擢されて、演技の上手さに注目が集まってるんだ。ライトニングの中でも何か地味なメンバーで、影が薄いって陰口叩かれてたヤスにとっては今回の主役は大きなプラスになったと思う。…みたいに、結衣ちゃんとは本当に少しずつしか話せてないけども、ライトニングっていう共通の話題だけでこんなにも打ち解けることが出来る。本当にライトニングって偉大。
「あっ真弓!あの人見て、超イケメン!」
わたしは結衣ちゃんが指差した方向をみる。しかし、それらしい人は見当たらない。
「ええ~?どこ…!?」
「向こう側にいるじゃん、ほら、あのケーキ屋の前!」
…え?ケーキ屋の前ってあの人?わたしにはイケメンには見えない。むしろうっとうしいアイツにしか…
「おっ、ひさしぶりだなぁ、カユミ!」
ああ、やっぱり。…こいつの名前は玉木晴彦。腐れ縁で中学は三年間同じクラスだったんだけど、何かと「カユミ」ってわたしをからかってきたうざい奴で、わたしの天敵だった。そいつとこんなところで会うなんて…
「結衣ちゃん、わたし、先に帰るね」
わたしはそういって駆け出した。すると後を追って走ってくる音がこっちに向かってくる。わたしが振り返ると、そこには晴彦が立っていた。
「カユミ、これ落としたぞ」見てみると、晴彦の手の中にはレイヤのイニシャルが入ったストラップがあった。
「お前、まだライトニングとかいうアイドル好きなの!?お子ちゃまだなぁ」
「うるさい、黙って!!」
そういって晴彦の顔を睨み、ストラップを引ったくろうとした。その瞬間、晴彦がわたしの手をつかんで急に顔を近づけてきた。
「…ありがとうは?」
わたしは一瞬息をすることも忘れてしまった。晴彦の顔がきれい過ぎて。切れ長の目に高い鼻って、こいつはこんなにイケメンだった?
ほっといてよ!!と強引に手を振りほどいて、もう帰り道もよくわからずに走った。わたしの中に芽生えた、ありえない感情を消し去るために。