(Other Side) 破壊神を宿す者 vs 元世界の管理者 Case:サイモン
乾いた砂塵が舞う。
地に付ける靴は、ずぶりと砂の海に呑み込まれる様に埋もれる。
「『俺』の『世界』は頑丈だぞ。何せ、別世界の『管理者』よりも強大であったアビスの住民にして絶対的な破壊神であったシヴァが、自身の破壊に耐えられる様に構築した世界なのだから」
砂漠の世界、その中で自身の正面にある神殿。
その頂上に浮かぶ黒き多量の翼をはためかせる天使にサイモンは告げる。
「ふははははっ! どうでも良い! 全ての万物を『屈服』させ、我が下にひれ伏せさせる!」
サイモンが造り出した捕縛結界の疑似太陽に重なり、影を作るルシファー──桐人の姿は、その伝承通りの神々しさを世界に誇示するようであった。
「リチャードさん……桐人。今、目を覚まさせてやる」
だが、その強大な威嚇は、光の見えないサイモンには全く意味を成さなかった。
眉をきつく締めあげ、サイモンは錫杖を振るう。
「『破滅の噛み付き』!」
サイモンが告げると、桐人の持つ剣へと『破壊』の空間が蛇の様に巻きつく。
剣の表面がひび割れてゆく。
「『屈服』しろっ!」
だが、桐人の叫びでその『破壊』の空間はサイモンを取り囲む。
「『空間破壊』!」
が、砂や大気を粉々に破壊した空間にはサイモンはいなかった。
「さあ、我に従え、出来ないならば、破滅で我を称えよ!」
だが、桐人は空間を『破壊』して消え失せたサイモンの位置を見失っていなかった。
振り向き、自身のさらに上空、飛来してきたサイモンを迎え撃つ様に異形の神々しさを放つ剣を振るう。
「『時間破壊』!」
「さあ、我に──」
「『連続破壊』!」
「『屈服』せよっ!」
「遅いっ!」
サイモンは過ぎ去った時間を『破壊』し、『空間破壊』で破壊する空間を変える。
その座標は、桐人の正面。
僅か数十センチの間で姿を現す。
さらにサイモンの放った『破壊』は連続的に、食い散らかす様に桐人をバラバラに破壊する。
否、その破壊は桐人の腕の表皮を剥がし、そこで止まる。
「その程度、『屈服』させ、貴様に自身の力を味あわせてやる!」
サイモンの放った『破壊』は、桐人だけでなく『服従』された力によってサイモンにも及ぶ。
「ぐ、くぅ……!」
桐人同様、サイモンの腕の表皮も自身の『破壊』によって剥がされてゆく。
「精神力の競い合いか……!」
「さあ、ひれ伏せ、崇めよ、称えよ!」
『破壊』の無を象徴した漆黒の氣。
対して、『服従』の神々しい光の白の氣。
両者の強烈な氣が、辺りの空間にひびを生じさせる。
「ふはははははははっ!」
理性を感じ得ない桐人の高笑いと共に、サイモンの腕、脚の皮膚が剥がれ、そして筋肉は繊維が引き千切られる様に一本、一本と切れてゆく。
「うおおおおおおぉぉぉぉっ!」
筋肉の繊維が切れ、血が噴き出す。
だが、サイモンの顔に苦悶の表情は無い。
「あと、もう少しだ……!」
圧倒的な窮地。
だが、それにも係わらず、サイモンは『何か』に希望を持つ様に、口を少し吊り上げる。
「私の、勝ちだっ!」
そう叫び、サイモンは左手を伸ばす。
「『破滅の噛み付き』!」
途端、ガラス細工が砕ける様な音と共に、桐人の持つ剣が砕ける。
「ぐあっ!?」
その衝撃と共に、浮遊していた桐人は地へと急降下する。
サイモンも桐人との氣の激突で支えていた自身の上空の浮力を失い、地へと降下する。
「う、ぐあ……」
地へと足をつけたサイモンの脚から血が飛び散る。
だが、インカネーターとして超常的に強化されたサイモンの体は、未だ四肢を動かす事を可能にしている。
「その剣が、お前の固有武器であり、そして、お前の精神力を喰らって強化された代物である事は対峙した瞬間から理解していた。世界を『服従』出来る程の強力無比な剣である半面、諸刃の剣でもあったというわけだ」
告げ、振り払う動作をし、サイモンの剥き出しの四肢は元の形へと瞬時に戻る。
「ぐ、うぅ……ふは、ははははははっ! さあ、ひれ伏せ!」
尚も、倒れ伏せた状態で桐人はサイモンへと『服従』を試みる。
「無駄だっ!」
だが、サイモンは自身の氣を発し、桐人の『服従』の氣をかき消す。
「対峙していた時、俺は捨て身でお前の『服従』への『破壊』の抵抗をその剣に傾けていたのだ」
「はは、はははははっ!」
『服従』の氣を発し続ける桐人。
それを自身の精神力による氣でかき消し続けるサイモン。
「リチャードさん……いや、桐人であってもそんな愚策は感付いたであろう。暴走による莫大な精神力があっても、所詮は『意志』が無ければ統合的な強さにはならん。ミカエルめ、本当に醜い『呪い』をかけたものだ」
「ふは、はははは……! さあ、崇めよ! 称えよ!」
地に倒れ伏せ、叫び続ける桐人を見、サイモンは哀れみの表情となる。
「……こんな状態のお前を見たくなかった。今、楽にしてやる」
告げ、サイモンはその手を桐人の背中へと当てる。
「私の最大限の『破壊』ならば、お前のアストラルにあるルシファーの力の根源を破壊出来る。お前は、ルシファーでなくなり、そしてソロモン……リチャードさんでも無くなる」
呟くサイモンの両腕は震えていた。
本当にその決断をしてしまっても良いのだろうか?
それは、本当に『リチャードさん』の意志に沿う事なのだろうか?
「私に……出来るのか?」
そして、悪寒が走る。
今、自身がやろうとしている事は取り返しが付かない事だ。
どんな方法を用いても、アストラル『そのもの』を破壊すれば、それは永劫の消滅を意味する。
だが、ルシファーを化身としている訳でなく、ルシファーそのものが寄り添う様に同化している状態の桐人からミカエルの『堕天』による『呪い』と形容すべきものを取り除くのは、現状、自身が行おうとしている行為以外に考えられない。
「だが、この状態になった桐人の精神力が回復すれば、またルシファーとして暴走する。どうする? 『俺』は、どうすればいいっ!?」
苦悶の表情で悩むサイモン。
だが、そのサイモンの心の奥、『何か』が囁く。
(お……破……従……いい……)
暗い、暗い、漆黒。
浅羽との一戦で、しばらく聴こえなかったサイモンにとって畏怖の権化が、這い寄る。
「止……止めろおおおおぉぉぉっ! 私に、入って、来るなああぁぁぁぁぁぁッ!」
絶叫し、サイモンの意識は深淵へと呑まれ込まれてゆく。




