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壊れた世界の反逆者 第一部 -断罪の天使編-  作者: こっちみんなLv30(最大Lv100)
第三章:世界を嫌悪する断罪の天使長の黙示録
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(Other Side) 暴走 Case:桐人

 瓦解する建物。横たわる人、怪物、様々な死体。その死体からは、血が滴り落ちる。

 それは、未だその死体が『新鮮』である事を物語り、その荒廃とした場所の彼方からは叫び声や悲鳴が木霊する。

 その地獄にも似た路地に、断続的に灯る人影。

 それは、瞬間的に出現しては消え、一直線に進んでゆく。

「無限に再生する天使ども、か。成程、予想以上に我々が苦戦するわけか」

 駆けてゆくサイモンの背には二人の大男が抱えられ、その抱えの支えとなる左手とは逆に持っている錫杖を振り上げる。

 すると、一寸、世界が闇に覆われたかと認識する手前、遥か前方に見えた景色が一気に狭まる。

「ええ、浅羽に倒されたラグエルはそう言っていました。何でも、『レイシア』という四大天使の一柱のラファエルを宿す者の仕業とか」

 サイモンに抱えられる者は二人。一人は意識無く目を閉じる剛毅。もう一人は、眉間に眉を寄せるフランツ。

「ラファエル、『静観なる四大天使』……その化身を宿した者がいる事は報告されているが、只の一度も我々アダムに牙を剥かなかった。恐らく、今回の作戦で参戦するであろうと予測していたが……まさか、こんな出鱈目な固有能力を持っているとは」

 そう呟き、サイモンは思慮する。

 ラファエル。

 その存在は、かつてから語り告げられてきた。

 突如、何事もなく現れ、ある時は天使に、またある時は人に助言を施し、そしてそのまま去ってゆく謎とされてきた天使の一人。

 アダムの総統、シモーヌは言う。

 『彼女』は、『全てにおいて全ての者の平等』。

 故に、それは人が語る神の所業そのものだと。

(だが結局、現にその天使は私達、人に牙を剥けている。やはり、シモーヌも結局は人であったというわけか……まあ、あんな年端も行かない少女だ。誤りもあるだろう)

 そして、サイモンは想う。

 今の現状を、果たしてその総統は見越しているのか、と。

「全くです。俺達がやっとの思いで倒したレミエルも、その能力で今頃復活しているでしょう。ただでさえ、アウトサイダーの反逆もあるのに、これでは……」

 悔しそうに唇を噛み、しかしフランツはその後に続く言葉を呑み込む。

「我々の敗北、か」

 だが、サイモンはその後に続くであろう言葉を口にする。

 その受け入れられない事実の言葉に、フランツの表情は苦悶となる。

「……今頃、逃げ出した京馬君も天使に捕えられているでしょう。そして、ミカエルは再度行方を晦ますだけでなく、ガブリエルという最悪の手駒を手に入れてしまう。俺にもっと力があれば……」

 そう告げるフランツの声は震えていた。

 そのフランツの声色を聞き、サイモンは想う。

 自身の無力さを思い知った者の声だと。

「こちらの被害も相当……今後の戦いでは、かなりの苦戦を強いられる事になるだろうな」

 だが、その声に対する自身の感想を押し殺し、サイモンは言う。

「天使以外にも、アウトサイダーの様なアダムと敵対する輩はたくさんいますからね。下手したら、アダムは壊滅、最悪、世界は戦禍の渦に巻き込まれるでしょう」

「そうならない為にも、俺は桐人……ルシファーを止めねばならん!」

 サイモンは、意を決する様に告げる。

「こんな状況なのに……すみません。役に立てない上、こんな醜態を晒すなんて」

「良いんだ、フランツ。君は良くやったよ。あの浅羽とやり合って、あの程度の負傷で済んだんだ。僥倖だ」

「……ありがとうございます。それに、切断された腕も修復して下さって、サイモンさん、何とお礼を言っておけば良いのか」

「何、お礼なんていらない。むしろ、俺の『弱さ』が原因で招いた事でもあるのだ。憎めと言えど、感謝はいらない」

 そのサイモンの言葉に、フランツは首を傾ける。

「それは、どういう──」

「もう少しで着く! 少し眩暈がするだろうが、耐えてくれ」

「は、はい! しかし、恐ろしく早いですね!? もう捕縛結界の座標を確認し、その近くまで移動したのですかっ!?」

「まあ、年の功と言う奴と、この『空間破壊(スペース・ディストラクション)』のおかげだ。さあ、行くぞっ!」

 そうサイモンはフランツに告げ、空間に亀裂を生み出す。



 うねる蔦が流動する世界。

 その蔦に調和する様に点在する街々。

 差し込む陽の光は、その世界の活力をさらに生き生きと映えさせる。

「もう一つの、『神の実から生まれ出でるもの』」

 アスモデウスに抱えられた咲月は、体を起こし、上空を見上げる。

「咲月ちゃん、目が醒めたのね。どういう事? もう一つの『神の実から生まれ出でるもの』? ここには、咲月ちゃん以外にもあの破滅を生む化け物がいると言うの?」

 問うのは咲月を包む様に支えるアスモデウスの右手、そこから体を辿る右腕の上部に立つ美樹であった。

「違う。ここじゃない。でも、ここに近い世界……メイザース・プロテクト内のどこかだ。何だろう……共鳴? 私の中のシュブ=ニグラスが心の中で、少し動いた様な気がする」

 そう告げた咲月の声色は、戸惑っている様であった。

 よく分からない、未知。

 その未知の不気味さを感じ取り、咲月は不安そうな表情を浮かべる。

「この力は……! いや、俺は知っているぞ。その氣の種類、間違いなく『あいつ』だ」

 眼を見開き、戦慄の表情をする桐人は一寸の思慮の後、呟く。

 一瞬だが、自身を圧倒的に超越したその脅威の根源。

 それは、今に感じた程の脅威ではないが、桐人が以前に感じたものと全く合致していた。

「浅羽……! この俺との対峙でも力を隠していたというのか? くそ、あいつには喰わされっ放しだな」

 ぎしりと、奥歯を噛み、桐人は呟く。

 その桐人の眼前、多種多量の武器が飛来する。

 だが、その武器群は桐人を貫く事は無く、空中で静止する。

「がっはっは! そんなものはどうとでも良いっ! さあ、ルシファーよ! 誇り高き聖戦に集中しようではないかっ!」

「カマエル……全く、一度完膚無きまでに叩きのめしたのに、お前も懲りない奴だ」

 桐人が言う手前、眼前に制止した武器群は方向を変え、その矛先をカマエルへと向ける。

「あの時は、そもそもが目的が違かったのだ! 今の俺の目的は、貴様の命だっ! さあ、葬ってくれる!」

 桐人が『服従』させて、襲いかかった自らが放った武器群をカマエルは別の武器群を発現させて相殺する。

「悪いが、貴様と楽しむ暇はない。一瞬で終わらせてやる」

「がはは、元凶である貴様を葬れるというのは、俺も天運に恵まれている! 我が父に感謝を……『際限無い破壊の制裁(アンリミテッド・デストラクション)』!」

 カマエルが告げる手前、桐人の周囲に多角、所狭しと武器群が生える。

 その武器群の壁を目の前にしても、桐人は余裕の笑みを見せ、手を振り払おうとする。

 が、

「が、あ……! 何だ、こ、れ、は!」

 突如、頭を抑え、否、鷲掴みして頭を押さえつける様に覆った桐人は苦しみだす。

 その突然の変化に、対峙していたカマエルも訝しげな表情へと変化する。

「……まあ、良い! 行け、我が破壊よ!」

 武器群の壁が一気に桐人を押し潰す。

「あ、あ、あ、あああああぁぁぁぁぁぁっ!」

「桐人さんっ!?」

 その光景を見て、咲月は叫ぶ。

 武器群で押し潰された桐人の悲痛な叫びが世界に木霊する。

 そう、咲月は思った。

 だが、それは一寸で間違いであったと気付く。

「ぐ、くは、はは、ははははははははははっ!」

 一寸の隙間もない武器群の中、桐人は不気味に吠えるように高笑う。

「あ、が……!? なんだこれはっ!?」

 桐人に武器群を放ったカマエルが苦悶の叫びを挙げる。

 その巨大な多数の眼で覆われた腕が軋み、震える。

「あは、はは、はははははははっ!」

 桐人の狂喜の高笑いが世界に響く。

 その叫びと共に、カマエルの多数の腕が捻じれてゆく。

「ぐ、ぐあっ、あああああぁぁぁっ! に、逃げろ! ケルビエム! ルシファーが、『暴走』したっ!」

「な、何だとっ!? 幾ら何でも、急すぎるであろうっ!?」

「分からねえ! 分からねえが、これは、ミカエル様の『堕天』で堕とさなければ治まらないっ!」

 そう告げたカマエルの腕々が千切れ飛ぶ。

 悲痛な叫び声を挙げるカマエルの、桐人を押し潰さんとした武器群は霧散する。

「はは、はははははははっ!」

 武器群が消え失せ、姿を現した桐人は、とても愉快そうに狂喜していた。

 その瞳孔は常に開き、その眼光はどこへ向かっているのか分からない。

「我に従え! 我に畏怖しろ! 我に跪け!」

 呪文でも唱える様に、うわ言の様に、叫ぶ桐人の言葉には対象は無かった。

 只、只、桐人はどこへ向ける事もない言葉を叫び続ける。

 空間から這い出る様に、大きく、そして禍々しい、長柄で太い大剣が桐人の左手に掴まれる。

 その大剣からは、黒と白の液体が流れ、垂れる。

「『絶対者の審判(アブソリュート・ジャッジメント)』」

 桐人が、その大剣の名を告げると、黒と白の閃光が迸る。

 悲鳴を挙げる様に、泣き叫ぶように、周囲を呑み込む波動は、活力ある世界を一瞬で静とし、震え上がらせる。

「逃げろ、ケルビエム! 俺が時間を稼ぐっ!」

 その強烈で、圧倒的な波動を前に、カマエルの足は竦み始める。

 だが、寸での所で歯を食いしばり、耐える。

「くそ、化け物め……!」

 炎で包まれた魔神と例えてもいい姿の智天使長、ケルビエムは悔しそうに告げ、後ずさりする。

「『過負荷駆動(オーヴァー・ドライヴ)』! 『斬獄断魔(ブレーディング・エリア)』!」

 多数の腕を天使の超回復で修復したカマエルは、自身の限界を超える術を叫ぶ。

「カマエルめ! ここら一体を細切れにする気だっ! 美樹、皆を『影』に隠せ!」

「了解したよ! 『影の隠匿者(シャドウ・コンセルメント)』!」

 咄嗟に、アスモデウスは美樹の魔法によって周囲の者をこの世界の暗の世界である影に移そうと指示する。

 その命令に従い、美樹は魔法で咲月を始めとした味方全てを影の中へと移動させる。

「うああああぁぁぁぁぁぁっ!」

 カマエルの気合いの叫びと共に、咲月の造り出した捕縛結界が空間毎、一気に割かれてゆく。

「あはははははははははっ!」

 空間全域に渡る、絶対的な両断の斬撃。

 しかし、桐人が振り上げた禍々しく、神々しい大剣の波動によって、その空間全体の列撃は一気に、カマエルの所へと収束してゆく。

「ぐ、く、くそおおおおおおぉぉぉぉぉっ!」

 一つ、また一つと腕、脚、体、次々に自身が放った斬撃がカマエルを襲う。

「貴様は、無となり、我を永劫に称えよっ!」

 そこで、初めて桐人は対象へと眼を向ける。

「俺の、使命は……ここ、まで、か……」

 桐人が振り上げた大剣の一撃は、空間を淀ませ、歪ませ、世界を塗り返してゆく。

 極光と極黒の閃光の一撃は跡形もなくカマエルを消滅させてゆく。

「あは、ははは、ははははははっ!」

 カマエルが消えた後にも、狂喜の叫びを挙げ続ける桐人は、さらに一振り、その大剣を振り上げる。

「う、嘘でしょっ!? 私の、影がっ!?」

 その桐人の一振りによって、美樹の造り出した、影の世界は一瞬で晴れ、その体は継ぎ接ぎの様に空間が散在する崩壊の世界に招き入れられる。

「どうしちゃったの!? 桐人さんっ!」

 明らかに、先程の様な落ち着きがない──否、気が狂っている桐人を見つめ、咲月は叫ぶ。

「眼を醒まして! 何時もの桐人さんに戻ってよ!」

 必死に叫び、訴える咲月の肩に手が置かれる。

「咲月ちゃん、駄目だよ。あの人は、もう……」

 その手は美樹の手であった。

 首を左右に振り、告げる美樹の肩を払い、咲月はまた叫ぶ。

「アダムでの時間を思い出して! 私、剛毅さん、真田さん、銀二さん、サイモンさん、京馬君……そして、エレンさんの事をっ!」

 声を荒げ、訴える咲月の声。

 しかし、桐人の狂気は癒える事は無い。

 高笑いを繰り返し、桐人は絶対的な支配者の剣を咲月達に振るおうとする。

「はは、ははははははははっ!」

 振り上げられる支配の剣。

 だが、それが咲月達へと至る事は無かった。

「『崩落する漆黒(フォーリン・ジェット・ブラック)』!」

 咲月の眼の前の空間が裂け、飛び出した人影がその剣を前に、『無』の空間を盾にして出現する。

「ぐ、くう……! 目を、覚ませ! 桐人!」

「サイモンさんっ!」

 突如として現れたサイモンに、歓喜の声を挙げる咲月。

 その後続、咲月達の背後には見慣れない人物が剛毅を担いで立っていたがそんな事は気にする暇もない。

「くそ……何て力だ」

 全てを呑み込み、無効化する『無』の盾。

 しかし、その盾ですらも、その剣の圧倒的なまでの『服従』を前に、揺らぎを見せる。

「恐ろしい……! これが、元管理者の『服従』の最高峰かっ!? 『空間破壊(スペース・ディストラクション)』!」

 告げ、サイモンはその剣を破壊の空間に収めようとする。

 だが、剣は破壊に呑まれようと、這い出る様に桐人の手に戻る。

 その現象は、『服従』による『破壊』の力の低下によるものであった。

 桐人がサイモンの破壊のコントロールを少しだけ奪い、そしてその力を弱めた為、生じた現象。

「俺の精神力で無ければ、自分自身が破壊の渦でバラバラになっていたか……!」

 戦慄の表情でサイモンは呟く。

「疲弊したこの精神力……何時まで持つか分からん。だが、リチャードさん! 俺は、あなたを救ってみせるっ!」

 告げた後、サイモンと桐人を黒い空間が包み込む。

「フランツ! これを!」

 空間に呑まれようとしているサイモンが、桐人の剣を防いでる漆黒を放つ右手とは逆の左手をスーツのポケットに入れ、銀色で円筒状の金属を取り出す。

「開発班の精神力供給剤だ! 試作段階だが、充分効力は立証出来ている!」

「あ、ありがとうございます!」

 サイモンはその手に収まる程の金属を片手でフランツと咲月達のいる場所に投げる。

 それをフランツは掴み、サイモンへと顔を向け、首を下に振る。

「健闘を祈る! では、行こうか。リチャードさん」

 黒い空間は完全に二人を包み込み、その後、辺りは静寂となる。


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