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壊れた世界の反逆者 第一部 -断罪の天使編-  作者: こっちみんなLv30(最大Lv100)
第三章:世界を嫌悪する断罪の天使長の黙示録
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Scene27 サンダルフォン

 サイモンと浅羽が熾烈な戦いを繰り広げる数分前、少年は戦禍の道を駆け抜ける。

「くそ、くそ、くそおおおぉぉぉぉっ!」

 悔しい、もどかしい。

 京馬に渦巻く『想い』は、自身の弱さと、仲間を助けられなかった後悔。

 京馬は、声を荒げ、駆け続ける。

「ガブリエルの繭だっ!」

「捕えろっ!」

「我らが希望!」

 その京馬を確認し、天使の集団が襲いかかる。

「邪魔だ! 雑魚!」

 だが、途端、京馬は無表情となり、そして『決意』と『怒り』の感情を爆発させる。

「ぐああああぁぁぁっ!」

 天使達の瞬時に放った槍群は、京馬の感情が宿った強烈な一撃で一瞬で消滅する。

「瀕死でもいい! 生きていれば、我が父へと願いを届けられるのだっ!」

「全力で仕留めるつもりでいくぞ!」

 再度、天使達は京馬に襲いかかる。

「お前らじゃ、俺は倒せない」

 京馬はまた一寸、無表情となる。

 そして、爆発させたのは『もどかしさ』と、『決意』と『怒り』。

 京馬の周囲一体が青白い閃光に包まれ、そしてその光量が増す。

 閃光が静まり、辺りは何もない荒廃と化す。

「すごいわね(すごいな)」

 そう、ガブリエルが心の中で呟いたつもりだった。

「京馬君(俺)、何か言った?」

 何か、不自然に感じる。

 そう、ガブリエルが想うと同時だった。

「やっと会えたね。ガブリエル」

 数々の人の死体が転がる。

 血で薄汚れたその中世の夜道を、金髪の美青年が悠然と歩く。

「到着が遅れて申し訳ないよ。君を招待する為に、少し準備が必要だったのでね」

 手を胸にしてお辞儀をする美青年を見て、京馬は戦慄する。

「ミカエル……っ!」

 瞬間的に、京馬は自身の想いを凝縮させた剣の発現する許可を、ガブリエルに願う。

「『壊れた世界の反逆者(ブロークワールド・リベリオンズ)』」

美しく輝く想いの剣をミカエルに向け、京馬は臨戦態勢となる。

 その京馬を見て、ミカエルは落胆にも似た呆れ顔でため息を吐く。

「君は黙ってもらおうか」

ミカエルは上空へ手を掲げ、白の魔法陣を発現させる。

「『熾天使の断罪(セラフ・コンヴィクション)』」

 ミカエルが魔法名を告げると、頭上から多数の黄金の剣が京馬に向かって飛来する。

「くそおおぉぉぉぉっ! やってやるっ!」

 不思議と沸いてくる爆発的な感情の増幅。

 『決意』、『怒り』、『希望』、『悲しみ』──様々な感情が京馬の剣に渦巻き、凝縮される。

 飛来する黄金の剣の群を京馬は次々と叩き落としてゆく。

「ほう、ここまでガブリエルと馴染むとはっ! だが、『堕ちる』がいい!」

 が、ミカエルが言葉を放つと同時、その膨大な精神力が込められた剣は急激に力を落としてゆく。

「ぐあっ!」

 京馬は、それでも自身に襲い来る剣の群を払い落そうとした。しかし、逆に京馬の剣は弾かれ、その体に黄金の剣が続々と突き刺さる。

「君自身を『堕天』したら、ややこしくなるからね」

 倒れ伏せる京馬。

 意識はある。

 しかし、手足、そして力の発現が全く行使出来ない。

「さあ、『サンダルフォン』へと案内するよ」

 そう言い放ち、ミカエルは京馬を抱える。

「ぐ……! くそっ、離せっ!」

「ふふ、抵抗しても無駄だよ。今の君の想いの力は、一次元下に『堕とされた』状態だ。つまり、君は今ほとんど何もアビスの力の供給のない只の『悪魔の子』だ」

 抵抗する京馬を担ぎあげ、ミカエルは笑みを作って告げる。

 その歩みの先に、楕円の裂け目が開く。

「ああ、ガブリエル! 美しい君にまた会えるなんてっ! こんなに心躍る日はとても、とても久しぶりだよっ!」

 感嘆の叫び声を挙げ、ミカエルは楕円の裂け目の空間へと入ってゆく。



 黄金色の空が地を敷きつける世界。

 その宙を浮かぶは白色のとても長い、長い回廊。

 そこから伸びる塔を締め上げるかのように巻き付く螺旋の階段を一人の美少年が、一人の日本人を抱えて登る。

「俺を……どうする気だ!」

「どうするって? 君達、そして僕達天使が崇拝する『神様』に会いに行くのさ。光栄に思う事だね。『悪魔の子』が我が父に会えるなんて事は只の一度も無かったのだから」

「『神様』……? お前は、俺の中のガブリエルをこの世界に現界させたいだけだろう?」

「そうだよ。だけど、君も知っているだろう? ガブリエルは、その想いを我が父に伝え、叶えさせられると言う事を」

「それが、どうしたって──」

 京馬は、言いかけ、はっとした表情となる。

「その反応、どうやら察したようだね。そうさ。ここは、『神の頂』に続いている。僕は、そこでガブリエルの力を使い、我が父に願いを聞き入れてもらうのさ」

「それは、どんな願いだ」

 とても、嫌な予感が京馬を過ぎる。

「君達の世界で伝わる『黙示録』。つまりは、『悪魔の子』の滅亡さ」

 ミカエルは、口を吊り上げ、笑みを零しながら告げる。

「そ、そんな事は、させないっ!」

 必死に、京馬は自身を抱え込むミカエルの腕から離れようと試みる。

 が、その体はどんなに力を入れようと、『想って』も、全く力が入らない。

「う、ぐ、くそ……ちくしょうっ!」

「ははは、どう頑張ったって無駄さ。僕の『堕天』の力は絶対だ。事前に阻止しなければ、僕が力を失うか、僕の解除の命令が無ければ、その存在は『低位』のままだから」

 ミカエルの肩にぶら下がる京馬は、叫び、睨みつける。

 だが、ミカエルはとても爽やかな笑顔で告げた。

 その瞳はとても純真な蒼。

 しかし、京馬はその瞳の純真が、対比する様な狂気で輝いている事を理解していた。

「何故、俺達、『悪魔の子』が憎い?」

 抵抗が無駄だと悟った京馬は、観念した様に皮肉な笑みを浮かべ、問う。

「何故も何も、君達は、僕の愛する『本来の人』を『兄さん』と悪魔どもと一緒に根絶やしにしたからに決まっているじゃないか。あげくに、あの箱庭を我が物顔で蹂躙している。そう例えて言うなら──」

 一寸、ミカエルは考え込み、ピンと指を弾く。

 京馬は、そのミカエルの行為に、既視感を感じる。

 それは、自身が『夢』で見た桐人の動作とほぼ同じ。

(『兄さん』、か。確かに)

 似ている。

 京馬は、そのミカエルの行為で、この天使の首領と桐人──ルシファーが『兄弟』であった事を実感する。

「そう、いきなり侵略してきた異国の人種に勝手に居座られ、蹂躙され、そして虐殺された時と同じ気分さ。憎いだろう?」

「生憎、俺はそんな凄惨な時代を体験した事ないから分からないな」

「……うむ。では、どのような例えが良いだろう?」

 首を捻るミカエルの明朗で、およそ人間らしい仕草に京馬は苛立ちを覚える。

「アダムで教わった事だが……俺達、『人間』はお前達、アビスの住民が自身を模して造ったそうじゃないか? 何故、俺達を造ろうとしたんだ?」

「質問を質問で返すかい? 全く、これだから『悪魔の子』は……まあ、良い。質問に答えてあげるよ」

 嘆息して、ミカエルは口を開く。

「君達、人間──その他を含む生物たちは、アビスの充満するエネルギーを吐き出す換気の様な役割を果たしている。アビスという世界は、耐えず、無尽蔵にエネルギーを生み出す。その肥大するエネルギーの充満は、自身のテリトリーとする世界を消滅させる危険がある。だからこそ、そのエネルギーを垂れ流せる『我が父』の『夢』である空虚な世界にそのエネルギーを消費する『物』が必要だったんだ」

 淡々と話すミカエルはとてもつまらなそうに見えた。

「よく分からないな。つまりは、お前達、アビスの住民達の安全の為に俺達は造られ、生かされているって事か?」

「そうだよ」

「だったら、何故、自分達と同じ様な形に造った? そういう役割なら、他の生き物の様に似て無くても良いだろう?」

「別に、生物を造ったのは僕達だけでは無いのだけどね……」

 ため息混じりに、すこし面倒くさそうな声色でミカエルは続ける。

「僕達が『人』を造ったのは、単純な事。『娯楽』が欲しかったからさ。そこは、君達、悪魔の子でも分かる感覚だと思うけど?」

「『玩具』、か?」

「そうだ。君達が興じる競技や遊戯……それを嗜む思考と同じと言う事さ。君もガブリエルと『夢』で対話したのだろう? だったら、僕達、アビスの住民の思考は分かると思うのだけど?」

ミカエルの言葉に、京馬は一寸、黙り込んで思慮する。

ガブリエル。自身の宿した天使の中でも最上級とされる四大天使の一人。

その風貌、表情、声色──全てが穏和で、その場に居ただけでまるで抱擁されたかの様な温かみを感じる。

 だが、時折、その穏和とは似つかわしくない発言をする時がある。

 ──あなた達の住む世界、その住民は所詮は私達、アビスの住民の玩具の様なもの。

 以前、京馬がその天使と『夢』で会った時、そんな言葉を口にされたのを思い出す。

「確かに、そうだな。アビスの住民というのは、『そういうもの』だな」

 そう告げ、京馬は物憂げな表情を浮かばせる。

 自身と共に、闘い、そして強大な力を与えてくれた天使。

 だが、その気持ちは京馬と同様では無く、あくまで共にいるのは、自身の愉悦を嗜む為だ。

 そう考えると、京馬は自身の驕りを馬鹿馬鹿しく思えてきた。

 所詮は、借り物の力。分かっている事だった。その力を我が物顔で行使し、理想を掲げ、多くの者を死なせた。それも、結局は自身の化身の愉悦の一つであり、それが満たされた自身は捨てられてゆく。

 この力を得て、多くの体験をした。多くの仲間を得られた。

 だが、その体験も無駄になり、仲間達、人類を守れず、さらにはその破滅のスイッチが自身ときた。

 こんな無駄な事になるのなら、自身も戦うとは言わず、素直に予知夢の様に大人しく幽閉されていた方が良かったのかも知れない。

 ──どうせ、結果はその予知夢と変わらないのだから。

「分かってもらったかな? それが、僕達の君達に対する見方だ。だが、僕は『本来の人』に関しては別段、愛情を注いでいたよ。そのアストラルはとても綺麗で、濁りもなく澄んでいて……君達で言う宝石の様な貴重な存在だった」

 昔を懐かしむ様に、ミカエルは告げる。

 その表情は、可愛がる子供を想う父の様に穏やかであった。

「そうか。俺達のご先祖様が、悪い事をしたね」

 そう告げる京馬は、観念した様な諦めの表情をする。

 何故、こんな力を得るまで知らなかった自身の先祖のせいで滅ぼされなければならないのか。

 そんなどうしようもない歯がゆさは、この逃れられない破滅の前にはどうでもよくなっていた。

 だが、その諦めの心情の中、京馬は一つの疑問を持つ。

 結局の所、その『真相』は何なのか。

 それは、この絶望の中で芽吹いた、一寸の好奇心。

 桐人の話によれば、その『本来の人』の消滅は、神を超える可能性があったその『本来の人』と、リリスとアダムの生んだ自身達の先祖である『悪魔の子』を、ミカエルが『堕天』しようとし、それをルシファーとその同志達が防ぐために起きた抗争が発端だと聞いた。

 だが、どうもミカエルの話を聞くと、一方的にルシファー並びに、自身達の先祖が原因で『本来の人』が絶滅したように聞こえる。

「なあ、最後に、教えてくれるか?」

「なんだい?」

「『本来の人』は、どうやって絶滅したんだ?」

「どうやって?」

「そうだ。俺の聞いた話じゃあ、お前達天使との戦いの中、『結果的』に『本来の人』は死んだと聞いた。桐人さん──ルシファーは、故意的には殺していないと」

「『兄さん』が? そうか、そんな事を言っていたのか」

 その京馬の言葉に、ミカエルは憎悪、否、歯を食いしばり、唇を噛む、その表情は悔しさなのかも知れない。そんな、先程の爽やかさからは程遠い表情に一変する。

「そう。ルシファーは殺してなんかいない。『私の子供達』はミカエルと天使の軍勢から身を挺してルシファー達を守って、そして、滅んだのよ」

 長い螺旋の段の最期をミカエルが踏みしだく。

 その一歩手前で、前方から声が響いた。

 その声色は、絶望に包まれた京馬を、優しく抱き締めるかの様な癒しがあった。

「違うっ! 違うぞ、レイシアっ! あれは、兄さんがあの子達を唆したからだっ!」

 その前方から癒しの声色で告げる銀髪の女性に、ミカエルは激しく訴えかける。

「確かに、ルシファーの演説は子供達を惹きつける──そう、カリスマがあった。そう言う意味では、唆したと言ってもいいのだけど」

「そうだろうっ!? 兄さんは『本来の人』を、レイシア、『イヴ』である君の子供達をっ! 唆し、利用し、絶滅させたんだっ!」

 まるで、自身に訴えかける様に、ミカエルはレイシアに叫ぶ。

「だけど、あの時の私の子供達は、強い意志を持っていた。あれは、そんな簡単に起こる様な意志では無かった」

「……何が言いたい? 僕が、僕達が君の子供達を殺したとでも言うのか!? その僕達を、君は憎んでいるというのかっ!?」

 激しく狼狽するミカエルの眼を、レイシアは慈悲で包む様に見つめ返す。

 その瞳は、ミカエルよりも澄んだ蒼。

「そうじゃない。私にも分からないの。だから、私はどちらの方にも付かず、どちらの方にも靡かない」

 頭を横に振り、レイシアは告げる。

「そ、そうなのかい……?」

 そのレイシアの言葉に、ミカエルはその激しく動揺した表情を落ち着かせる。

(これが、天使? その中でも頂点に君臨する奴なのか?)

 京馬は、そのミカエルの仕草に呆気に取られていた。

 天使。およそ、普通の人では決して出会えもしない、人よりも数段上の存在。

 その中でも頂点に立つ自身を掲げる者の、まるで子供の様な仕草に京馬は驚いていた。

「い、いけないなぁ。『悪魔の子』に、こんな醜態を見せるなんて」

 その京馬の表情に気付き、ミカエルは必死に取り繕ろうとする。

「君が、ガブリエルを宿した京馬君ね?」

「は、はい」

 レイシアは、京馬に視線を向け、言う。

 突如、目の前に姿を現した癒しの声を持つ銀髪の美女の声に、京馬は声色が上擦る。

「私はレイシア。遥か昔、転生を繰り返す前の名は『イヴ』。本来の人の生みの親よ」

優しく笑み、レイシアは告げた。

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