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壊れた世界の反逆者 第一部 -断罪の天使編-  作者: こっちみんなLv30(最大Lv100)
第三章:世界を嫌悪する断罪の天使長の黙示録
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(Other Side) 賢司の正体 Case:咲月

「トリニティ・バースト!」


 咲月は炎、氷、そして雷の三属性を凝縮した一撃を天使の一団に向かい、放つ。


「ぐああああ!」


 その強烈な一撃を浴び、一団は四散する。


「お、おお、おおおおお!? さ、咲月! こりゃ、一体どうなってるんだ!?」


 咲月の背後に隠れていた賢司が、うろたえながら叫ぶ。


(そりゃ、こっちのセリフだよ……何で賢司君がこの結界内にいるわけ?)


 ジト目で賢司を見て、咲月はため息を吐く。


「何か、誤作動でも起こしたのかなぁ」


 呟いた咲月。しかし、表情は異様な氣の察知に途端、険に移り変わる。


「誰っ!?」


 咲月の目の前、炎の揺らめきの中にその異様を放つものが見える。


「あっ、あれは……!」


 咲月は、その姿に言葉を無くす。

 その姿は黒いローブに身を包んだ蒼白の仮面の人間。


「ふへへへへ。君が、『千匹の仔を生みし森の黒山羊』の宿主かぁ。一見、普通の女の子だけど」


 下卑た笑い声を上げ、男は咲月へと歩んでゆく。


「な、何だ!? 天使の次には、変態か!?」


 何が何だか分からず、賢司は咲月の腕を掴み、再度背後へと隠れる。


「『千匹の仔を生みし森の黒山羊』……? 何なの、あなた達は何が目的なの!?」


 咲月の問いに、男は再び下卑た笑い声を上げ、そして告げる。


「目的ですかぁ? 私達の目的は、君自身です」


「私自身が目的……? どういう事なの?」


「そのままの意味ですよぉ。私達の真の目的は、あなたの中に眠る化け物を呼び起こし、世界を破滅させることです。──尤も、下っ端には内密にして世界征服とだけ伝えていましたけどねぇ」


 ふへへへへ、と再度、下卑た笑いをした男の周りに天使達が現れる。


「おやおや、愚かな天使様達のご登場ですか」


 男は振り返ると、その天使の一団の中から別段の威厳を持った一人の天使が前に出る。


「ふふ、私の名は『にがよもぎ』。あなた方、悪魔の子達の忌み嫌うあらゆる『毒』を司る天使ですわ」


 告げ、にがよもぎはその手から毒々しい鮮やかな蔦を多数発現させる。


「にがよもぎですかぁ。これはまた大層高位な天使様のご登場ですね。ふひひひ……」


 男は不気味ににやける。その直後、辺りを紫の、触れるとぬめりが出そうなほどの大気が包む。


「あら、あなたも『毒』を能力とする化身をお持ち? ……すると、『ボティス』や、『ベルゼブフ』辺りかしら?」


 首を傾げ、にがよもぎは問う。

 その問いに、男は首を横に振るい、答える。


「いいえ、私はこの世界から手を引いた悪魔の一団の一人を宿しています。しかし、ベルゼブフですかぁ。それはまた素晴らしい化身を宿していると勘違いされたようですね」


「いいえ、ベルゼブフでの『毒』の固有能力と言うのは、その力の下位。化身として宿していても、『その程度』しか力を発揮できていないという皮肉ですわ」


 ふふ、とにがよもぎは口を吊り上げ、笑う。


「あらあら……つまりは、馬鹿にされたということですかぁ」


 苦笑し、男は両の手を頭上に水平に持ち上げる。


「ベルゼブフと言えば、アダムの総統が宿す化身。逆にそんなものを同等に扱える悪魔の子は、この世界には居てはならないですわ。あなた達は、『玩具』らしく、私達に従えるだけの僅かな力を持っていれば良いのです」


 苦虫を噛み潰したような表情でにがよもぎは言う。


「全く、あなた達は変わらないですねぇ。その驕りが、今の現状を生んでいるのに」


 にひひひ、という不気味な笑いを男は再度する。


「……減らず口は、命を縮めることになりますよ?」


 その笑いに、にがよもぎは眉をぴくりと微動させ、その表情は先ほどの緩みがなくなっていた。

 その表情の変化に呼応するように、その他天使達が戦闘態勢へと構えを取る。


「盲目とは、愚かなものですねぇ」


 男は嘆息し、右手を上空へと掲げる。


「殺せ」


 にがよもぎは憤怒の表情で、天使達に命を下す。

 様々な形状の武器を手に、また後方では白い魔法陣を発現させた天使達はその力の行き先を男の方へと向ける。

 が、男は余裕の笑みを浮かべ、歓喜にも似た表情で、喜々として叫んだ。


「『不浄』なれ! 愚かな管理者どもぉっ!」


 頭上に掲げた右手をパチンと男は鳴らす。


「ふ、ぐ、あ、あああああっ!」


 多数の天使達は途端、喘ぎ、狂ったように苦しみだす。

 そして、その体は腕がもがれ、足が千切れ、やがて朽ち果ててゆく。


「くっ!」


 にがよもぎは、その変化に反応し、自身の周囲にプリズムの球形──シャボン玉のような結界を展開する。


「ふひ、ふひひひひひっ! 呆気ないねぇ、愚かだねえぇぇぇぇ! これが、こんなものに卑下されるなんて!」


 天使の断末魔、そしてその崩壊が、周囲を異様な光景に彩る。




「ひいいいいっ! 何だよ、これ! 全く、何が何だか訳がわかれねえよおぉぉぉぉぉっ!」


 賢司が、咲月の背面から叫ぶ。

 その賢司の声にも意を介さず、咲月は黙り込む。

 ……そんなの、こっちも知りたいよ。

 咲月は、賢司の言葉を自身も叫びたいと心から思う。

 炎が猛る、紫の瘴気が上空から垂れるように充満する。

 朽ち果ててゆく天使。

 崩れてゆく建物。

 ……凄惨な光景だ。

 『破滅』という題目で飾られてもいいような絵画が描けそう。

 そう、どうでもいい事をふと現実逃避で考えてしまう。

 咲月は首を横に振る。

 駄目だ、冷静にならないと!

 咲月は、平静を戻し、思慮する。

 『奴ら』は何者なのか。

 前に、自身があの黒いローブを着た男に誘拐された時、その男は言った。目的は、京馬君だと。

 しかし、先ほどの男は私が目的だと言った。そして、こうも言った。下っ端には内密、と。

 つまり、本命は私だ。男の言うとおり、『奴ら』は、私の中の化け物を狙っている。

 咲月は、結論づける。

 その結論に達した時には、咲月は既に行動を起こしていた。

 発狂する賢司の胴周りを腕で掴み、全速力で男と天使の戦場とは反対の方向へと駆ける。


「ホークウィング!」


 咲月は、あらゆるものを創造する力を使い、純白の羽を自身の背に発現する。


「お、おい! 咲月、こりゃ一体何だよ!?」


 錯乱する賢司の言葉を無視し、咲月は自身に言い聞かせるように叫ぶ。


「逃げなきゃ! 私は捕まっちゃいけないっ!」


 咲月は足を地から離す。

 背中の羽がふわりと、上下する。すると、周囲を強烈な風が舞う。

 咲月は羽をさらに上下させ、自身の体を宙を浮かせる。

 飛翔。

 漆黒の闇を駆けあがる。


「私のせいで、世界が無くなるなんてのはまっぴらごめんだよ! ……もう、あんな思いはしたくないっ!」


 咲月は唇を強く噛み、目を閉じる。

 自身が弱かったが故に、仲間を殺してしまった過去を回想する。

 その過去を拭い去るように、咲月は全出力の力を行使して、加速する。


「近くに、エレンさんのいる『発信源』がある! 間に合って!」


 咲月が、さらに加速をつけようとした瞬間だった。

 途端、世界は様相を変える。




「ここは……!?」


 咲月は、変化した空間に戸惑いを隠せなかった。


「美樹ちゃんの……捕縛結界!?」


 咲月は、その変容した紫と赤で構築された肉壁が囲む世界を知っていた。それは、自身の学校の同級生であり、敵であり、そして──

 京馬君の、愛した人。

 咲月は、首を横に振り、その思考を頭から消す。


「良かった。間に合ったみたいね」


 地面一帯から声が響くと同時、這い出る人影。


「間に合った? どういうこと!?」


 黒いチャイナドレスに身を包む美樹に、咲月は問い掛ける。

 このメイザース・プロテクトは通常の捕縛結界内と同様だ。

 つまり今、美樹が展開している捕縛結界は、さらに捕縛結界を捻じ込む、精神力を多く消費する『二重結界』だ。

 多少なりの恩恵があろうとも、現状で無駄に多くの精神力を消費をするこの能力を使用するのはリスクが大きい。

 それを使用してまで、自身を取り込もうとする美樹の意図を咲月は知りたかった。


「そのままの意味だよ。『あいつら』に、咲月ちゃんが捕まるのは良くないことだからね」


「美樹ちゃんは何を知ってるの……? 『奴ら』は何者っ!?」


「それは、そいつが知っているよ」


 咲月の問いに、美樹は答えず、指先で咲月の腹部を指す。


「え……?」


 咲月はその指で指す対象と、その言葉に動揺する。

 途端、咲月の体全体の重さが軽減される。

 が、咲月の肩が代わりに重くなる。


「ここまで、ありがとうよ。咲月。いやぁ、あの飛行、気持ち良かったぜ。爽快!」


 その重さは、賢司が咲月の肩に手を当てたため、感じたものだった。


「け、賢司君……?」


「賢司、お前の行動はよく分からない。『そんなに近く』にいて、何も手を出さないのは何で?」


 睨みつけ、問う美樹から発せられる鈍重な圧力を意に介せず、賢司はいつもと同様の呆気らかんとした表情で告げる。


「俺の目的? さあ?」


「ふざけないで! 私は、粗方お前の正体は知ってるんだよ! お前が、『英雄』を宿したインカネーターで、そして──」


 美樹は眉間にしわを寄せ、そして威嚇するような、怯えるような、そんな表情で言葉を続ける。


「『這い寄る混沌』の化身の一端であるのもっ!」


 その美樹の言葉に辺りは静寂に包まれる。

 ぱち、ぱち。

 一寸の静寂の後、手を叩く音が空間に響き渡る。

 それは、徐々に大きくなり、賢司は笑いだす。


「はっはっは! すげえや! 常に化身と共に情報を共有すると、そんなことも分かっちまうのか!? 正直、舐めてたよ、お前の事」


 賢司は、可笑しそうに笑う。


「だが、それを知ってたなら、尚更だな。……お前、俺に勝てると思ってんのか?」


「さあねえ……」


 空間を圧倒的な、踏み潰されそうな重さが襲う。

 それは、賢司から発せられる恐ろしいまでの闘氣。

 美樹は冷や汗を垂らし、その威圧にも屈しないように、地を踏む足に強く力を入れていた。


「気に入らねえな。『人間風情』が、俺に逆らえると思うなよ」


「なら、何故そんな人間にご執心なわけ?」


 美樹の一言に、賢司は眉をひくつかせ、険の表情になる。


「滅ぼされたいのか? 言葉を選ばないと、自身の破滅を招くぜ?」


「だったら、何故咲月ちゃんを使って、すぐに世界を滅ぼそうとしないの?」


 立てるのがやっとの美樹の問いに、賢司は一寸、口を閉ざす。


「……俺には、やり方がある」


「アスモデウスから聞いたよ。『あなた達』って、様々な意志の塊らしいね?」


「何が……言いたい?」


 賢司は、顔をしかめ、問う。


「私にもその考えは少しあった。けど、今の現状を見て、確信に変わったよ」


 美樹は安堵のため息を吐き、続ける。


「お前は、『味方』でしょう?」

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