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Scene 11 咲月の後悔、罪

 煌めく真鍮の神殿に禍々しくも艶かしい黒のチャイナドレス、一方は多彩な色彩の魔法少女の衣装。

 この宇宙を模した空間に映る二人の姿は、まるで正義の味方と悪の首領。


「『影の使役者シャドウ・サーヴァント』!」


 美樹は黒の魔法陣から、魔法を発現する。

 そして、美樹の影は三次元に浮き上がり、美樹の分身となる。


「くらいなさいっ! 超広範囲の『轟く黒炎(ダーク・プロミネンス)』!」


 美樹とその分身は全く同じ挙動をし、黒炎を咲月へと放つ。


「トリニティ・バースト!」


 咲月は黒炎に向かって、三属性の光線を射出する。

 黒炎と光線は相殺し、前方が開ける。


「く、左右からも攻撃が来る!」


 が、広範囲に放たれた黒炎は、回り込むように咲月を襲う。


「リフレクション・ミラー!」


 咲月は周囲を取り囲むように鏡を発現させる。


 ガガガガガガガッ!


 黒炎と鏡が拮抗して互いが相殺する。


「物理攻撃でもなくリフレクション・ミラーでも跳ね返せないなんて、その黒炎は随分特殊な仕様みたいだね」


「それはそっくりそちらにお返しするよ! 本当に何でもござれのオンパレードだね……志藤の言葉のまんまだったなんて」


 嘆息して美樹は言う。


「ねえ。本当に何で私達、争わなければならないの? 美樹ちゃんの『目的』と私達の目的は相容れないの?」


 苦悶の表情を浮かべ、咲月は言う。


「ええ、そうだよ。アダムの目的を放棄して、私に協力してくれれば話は別だけど」


 再び、黒炎を発現し、美樹は告げる。


「それはできない。桐人さんも、剛毅さんも、サイモンさんも……みんなの願いを無下にすることなんてできないよ!」


「桐人、ね。よくあんな胡散臭い奴と一緒にいられるね」


「桐人さんは、私を救ってくれた命の恩人なんだ! 胡散臭くなんてない!」


 咲月は美樹の言葉に反論する。


「へえ、それがもし仕組まれていたものだとしても?」


「え……?」


 しかし、美樹の一言で咲月は言葉が途切れる。

 ふぅ、と美樹がため息をつき、続ける。


「冗談だよ。私もそんな過去のことはわかんないよ。でも、私から見たら『それもあり得る』んじゃないかと思ってね」


「美樹ちゃんから見たら、桐人さんはそんなに怪しい人なの?」


 美樹の桐人への印象が自分とは全く異なることに咲月は疑問を持つ。


「ええ、まるで全てを自分の手の平で動かしているような、神様にでもなったつもりのような傲慢を携えた……人であって人でないような、とにかくそんな底知れない不気味さを持った奴に見えてね」


「確かに、桐人さんはミステリアスに見えるけど……仲間思いで、エレンさんに一途で、冗談も言って、とっても人間らしいと思うよ。だから、私は桐人さんを慕うし、信じる」


 そう、と美樹は咲月の言葉を受け流し、告げる。


「どのみち、あなたに死んでもらうのだから関係ないのだけどね……!」


 そう言って、美樹とその影は黒炎を咲月に向けて放つ。


「その黒炎、本当に厄介だね! エレメント・ビット『シャイン』!」


 咲月が叫ぶと同時、目が付いた光り輝く球体が幾重も発現される。


「咲月様、如何致しましょう?」


 球体の一匹が咲月に話しかける。


「光の精霊達! あの黒炎を消す作業、手伝って!」


「「「「「御意」」」」」


 球体達は一斉に返事をし、光魔法『レイ』を放つ。


「シャイニング・スパーク!」


 同時に、咲月も輝かしい閃光の雷撃を放つ。

 その光魔法による一波は黒炎をあっという間に霧散させる。

 さらに美樹の影も光に突き刺され、消滅する。


「ふふ、本当に何でもありだね。私が闇の属性だから、相反する光の属性で対抗、か」


 美樹は微笑する。


「さあ、頼みの黒炎もこれで無効化できちゃうよ!」


 咲月が美樹にはもう打つ手がないことを宣言する。


「そうね。『私一人なら』、ね」


 途端、滑るように美樹の隣りの空間が揺らぐ。

 そして、空間が開けるとともに、屈強な肉体の男が姿を現す。


「随分、俺を呼ぶのが早いじゃないか。予想以上の強敵だったのか?」


「ええ、支部長。この子、志藤が言ったように本当に何でもありなんだ。私とは、相性が悪い」


 そうか、男は頷く。


「あなたは……?」


「俺は、このアウトサイダー横浜支部の支部長、佐久間だ。悪いが、お前を殺させてもらう」


 佐久間は青の魔法陣を展開させる。


「『不可視の蜃気楼インビジブル・ミラージュ』!」


 魔法名を告げると同時、空間は急速に濃密な霧に包まれる。


「これはっ! 私達を分断した蜃気楼!?」


「『永久雪花の大剣(クロセル・ブレイド)』!」


 さらに佐久間は巨大な氷柱のような大剣を発現させる。

 咲月が眼前で観察できた敵の行動はそこまでだった。


「ガメちゃんっ!」


 咲月が叫ぶと同時、空間全体がせり上がる。

 地面には夥しい数の植物の触手が地面を割り、顔を出す。


「反応なし! 上だねっ!」


 咲月は触手で地面に面した部分に敵を感知しないことを確認する。


「青の魔法陣ってことは、『水の属性』! 反する『炎の属性』をぶつけるよ!」


 杖を回し、咲月は叫ぶ。


「シャイニング・ブレイズ!」


 神々しい白色の炎を咲月は周囲の上空に円を描くように放つ。


「我らも咲月様の後に続くぞ!」


「「「「「御意!」」」」」


 さらに光の精霊達も追い打ちをかけるように光の光線を撃ち続ける。


「ぐっ!」


「やっぱり、この子、強いね……!」


 霧で姿を隠した佐久間と美樹は、咲月の怒涛の攻撃に怯む。


「捕まえたっ!」


「な、何!」


 途端、二人を触手が巻き付き、縛り上げる。


「さあ、集中砲火で一気に畳み掛けるよ!」


 ガシャガシャ!


 途端、機械の組み立てられる音とともに、咲月の杖は複数の銃口を持つガトリングガンに変化する。


 そして、炎、氷、雷、砂塵、光、闇を各々の銃口に収束させる。

 ゆっくりと銃身は回転し、徐々にその速度を速める。


「くらえっ! ヘキサグラム・ガトリング・シュート!」


 ダダダダダダダダダダッ!


 六属性が交わり、虹色となった銃弾を、霧で見えなくなった情景全体へ叩きこむ。

 銃弾の大雨が平行に降り注ぐ。

 そして、夥しい数の銃弾の雨によって、霧が晴れてゆく。


「ふぅ、どう? 私の全力の攻撃は!?」


 最後の銃弾を放ち、薬莢が地面に落ちる。

 咲月は得意げに声を上げる。


「……! なっ!」


 が、咲月は眼前の光景を見て、驚く。


「ぬぅ……なかなかやるな。多種多様な能力もそうだが、それ以上に自分の能力の特性を考慮し、利用した戦いをしている。『戦い慣れている』な」


 佐久間は、『永久雪花の大剣(クロセル・ブレイド)』を構え、息を上げていた。

 足元には破砕されてできたクレーター。

 そして、佐久間の後方に位置した場所で赤い蕾が咲く。


「でしょう? 私だけじゃ、この子の相手は分が悪すぎるよ」


 それは美樹が生やした触手で形成した触手の『盾』だった。

 触手に食い込んだ銃弾が抜け落ち、地面に着く前に霧散する。


「……結構、期待してたんだけどね。こうもダメージがないと、かなりへこむなぁ」


 引き攣った笑いを浮かべ、咲月は呟く。


「まぁ、どのみち俺の敵ではないな。一撃で葬ってやる」


 言った手前、佐久間の周囲の大気は急速に冷え込む。


「美樹、後方へ下がっていろ。『巻き込まれたくなければ』な」


「承知しました、と」


 美樹は触手を地面に突き刺し、バネのように伸縮して後方へ跳ねる。


「そう簡単に、やられるもんですかっ!」


 しかし、意気込んで発した声とは裏腹に咲月の頬には冷や汗。

 咲月はガトリングガンとなった杖をさらに変形させ、巨大なレーザー銃にさせる。


「『絶対零度の剣閃アブソリュート・ゼロ・グラウンド』!」


「ヘキサグラム・オーヴァードライヴ・シュート!」


 佐久間が大剣を一振りすると、前方の大気と地面が一瞬で凍りつき、冷気の波動が咲月へと向かう。

 そして、咲月はその波動を六属性を込めた肥大な光線で迎え撃つ。


 ドギャギャギャガガガガガガガッ!


 氷の破砕音とともに金属の摩擦音を合わせたような拮抗が生じる。

 が、徐々に氷が光線を呑みこんでゆく。


「つ、強いっ! 私と、精神力がまるで違うんだ! このままじゃ、やられる!」


 咲月の表情に戦慄が走る。

 氷の波動は咲月を喰らい尽くさんとばかり迫ってゆく。


「だ、駄目だ!この威力、直撃したら……死ぬ」


 咲月は自身の発した言葉を反芻する。


「死ぬ……か。私、死んじゃうんだ。まあ、遅かれ早かれ、だよね」


 咲月は、微笑する。


「そうだね。私は、『罪』がある。みんなが死んで、私が死なないなんて、不公平だよね」


 ふふ、咲月は微笑む。


「ごめんね。みんな、ごめんね。桐人さん、剛毅さん、京馬くん……!」


 頬を涙が伝う。


「早いなぁ。出来れば、もっと楽しんで死にたかったなぁ……」


 最低だね、私。

 自虐を込めて、咲月は呟く。

 氷の怪物は、咲月の眼前へと迫っていた。


「手前が死んだら、折角お前を助けた桐人が、三年前に死んだ仲間が、浮かばれねえだろうがよっ!」


 突如、後方から、炎の波動が噴き出される。

 それは咲月の虹色の光線と交わり、氷の波動を圧倒する。


「何だとっ!?」


 突然の力の乱入、それも強大な力の乱入に佐久間は驚く。

 そして、双方とも霧散。

 残ったのは深く抉れた地面のみ。


「ふぅ、何とか間に合ったぜ! ったく。老人の話は長くて困る!」


 咲月の背中に聞き慣れた声──

 咲月はゆっくりと振り返る。


「ご、剛毅さん……?」


 おう、と剛毅は手を前にして答える。

 咲月の目には大量の涙が溢れる。

 その勢いは止まらず、顔を歪ませる。


「剛毅さんっ! 怖かった、怖かったよおおおっ!」


 咲月は泣きじゃくる顔を見られないように剛毅の胸に飛び込み、抱きつく。


「おお、よしよし。こんな力の差がある奴に、良く頑張って耐えたな」


 咲月の頭を撫でて、剛毅は宥める。


「お前は──アダムの『炎帝の魔術師ソーサラー・オブ・ペイモン』か」


 苦虫を噛み潰したように佐久間は言う。


「おお! お前、俺のこと知っているのか!? そうさ、アダム日本支部の五本指に入る、『炎帝の魔術師ソーサラー・オブ・ペイモン』とは俺のことだっ! サインなら後で手前の墓標に書き込んでおくぜ!」


 剛毅は意気揚々と答える。

 が、目は据わっている。


「『炎帝の魔術師ソーサラー・オブ・ペイモン』? 支部長、この男は一体──」


 美樹は佐久間に剛毅について尋ねる。


「こいつはアダム日本支部、屈指の強さを誇る四界王『ペイモン』のインカネーター、間島剛毅」


 唇を噛み。佐久間は語る。


「はっきり言おう。こいつが出てきた時点で俺らに『勝ち目はない』!」


「何だって……?」


 美樹は佐久間の言葉に唖然とする。

 が、一寸の間を置いた後、微笑。


「そう……なら、そろそろ頃合いかもね。」


 美樹は口元を深く吊り上げ、ひっそりと呟く。


「剛毅さん……! 良かった、無事で! ケルビエルは……倒せたの?」


 涙を拭い、咲月は剛毅に尋ねる。

 いいや、と剛毅は首を振る。


「サイモンさんが援護して良いとこまで追い詰めたが、逃しちまったよ。まあ、他にも上位の天使どもがいたから、力の温存のためならむしろ都合が良かったと思うが」


 そう言って、剛毅は嘆息する。


「美樹、この状況はまずい。逃げる準備をした方が良さそうだ」


 焦燥とした表情の佐久間は、美樹に囁く。


「ええ、そうね……でも、あなたには戦ってもらうよ。支部長」


「何を……! ぐあっ!」


 あああああ、と断末魔の様な絶叫を挙げた佐久間を、痙攣が襲う。


「っ! なんだっ!」


 異様な佐久間の変化に気付いた剛毅は、戦慄の表情と共に身構える。


「……っが! はぁはぁ……るああああああぁぁぁぁぁっ!」


 狂獣のような叫び声をあげて佐久間は幾重もの魔法陣を展開する。


「『氷雪の羽衣(スノウ・フェザー)』! 『白狼の雄叫びホワイトウルフ・ウォークライ』! 『氷の魔女の微笑アイスウィッチ・スマイル』!」


 青い閃光を放ち、佐久間は強化魔法を次々に発動する。


「これは……一体!?」


 突然の敵の変化に動揺する剛毅。


「殺ス……敵ハ、殺スッ! 美樹ノタメ、殺シテヤルッ!」


 佐久間は白眼を剥き、理性を失っていた。


「私の、アスモデウスの能力、『誘惑の奴隷テンプテーション・スレイヴ』で操ったんだ」


 美樹は妖艶な笑みで微笑む。

 下唇を舐め、御馳走を平らげる様な仕草で、その口を吊り上げていた。


「さあ、支部長! 自分の限界の限界まで振り絞って、この男と戦いなさいっ!」


「ウォオオオオオオオォォォォォォッ!」


 佐久間が吠えると同時、周囲に雪原に挟まれた川の情景の『捕縛結界』が展開される。


「こいつ、『二重結界』を使えるのかっ!?」


 剛毅が言った途端、佐久間の展開した二重結界に巻き込まれる。

 そして剛毅は咲月の捕縛結界から佐久間と同時に消え失せた。

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