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壊れた世界の反逆者 第一部 -断罪の天使編-  作者: こっちみんなLv30(最大Lv100)
第三章:世界を嫌悪する断罪の天使長の黙示録
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Scene34 最終決戦

 空を舞い、飛翔する京馬に追従する様に、様々な魔法、そして固有能力による攻撃が炎獄の空へと突き刺さる。

 だが、その攻撃を物ともしないのか、世界を覆うケルビエムの巨体は微塵も動きもしなく、変化も無い。

「来るぞ!」

 その攻撃へのお返しとする様に、炎獄の空から炎を纏う極光の光線が降り注ぐ。

(いえ、大丈夫よ)

 京馬が体を翻し、光線をかわそうとする。

 しかし、光線は京馬へと至る前に消え失せてゆく。

「これは?」

(静子の、概念の『死』によってあの子の攻撃は無力化されたのよ! だけど、元別世界の管理者である静子の精神力にも限界がある! 早く、ケルビエムを倒さないと!)

「ああ! 俺へと『想い』を託してくれた皆の為に! 俺は人の『道』を切り拓く!」

 そう告げ、京馬は更に飛翔する加速を上げ、ケルビエムの『中心』へと向かう。



「ここが、『中心』か」

 巨大なケルビエムの『尾』の分かれ目。

 そこに『想い』の矢を放ち、空洞を空けて京馬はその体の中に入る。

(『中身』は『サンダルフォン』にケルビエムの捕縛結界が混ぜ合わさったものみたいね)

 京馬が頭上を見上げると、白い回廊がうねるように続き、その周りを灼熱の空が覆う世界が拡がっていた。

「あの光の先にケルビエムが?」

(ええ、そのようね)

 その回廊の先、目が眩む様な極光が放たれている。

「だが、その前に手荒い歓迎が待っているみたいだ」

 京馬が先に進もうとした手前、炎の中から小さな仮面を覆った天使達が飛び出し、襲いかかる。

 その数、数十、否、数百の大軍勢。

(ふふ、こんな脆弱な存在が私達の足止めになるかしら?)

「ならないな。『想いの断片の(フラグメント・アロー)』」

 その天使の軍勢をも上回る数の『想い』の矢は、瞬間的に京馬から発現され、射出される。

「まだ、加速出来るな」

 天使達が身構えるより早く、京馬の放った『想い』の矢がその胴体を貫く。

 霧散された天使達を見送る事も無く、京馬は極光へと向かう。



 広大な黄金色の空が包む世界。

 その宙に浮くのは数百の人が収まりそうな程の大剣。

 京馬が極光の中に入ると、水平に浮く大剣の剣先に近い部分に立っていた。

「おや、ガブリエルの繭ではないか」

 その大剣の穂先の部分に、赤髪を後ろに束ねた美女がいる。

 炎を象った様な赤髪を持つ美女は、京馬の身につける物と同様の、白の導衣を着る。

 更に、蒼い瞳も、その背に生やす羽も、京馬と全く同質のものであった。

「もう繭でも、獣の皮でもない。俺は、ガブリエルと完全な融合をしたんだ。ケルビエム」

 京馬は無表情にケルビエムに告げる。

 両者の距離では考えられない程、互いの声が明瞭に聞こえる。

 だが、京馬は自身が度々経験した不可思議によってその違和感の一粒も感じられなくなっていた。

「では、貴様は天使となったという事になるな。良いのか? そんな状態では、例え世界を救おうとも、貴様の望みそうな日常へは二度と戻れなくなるぞ?」

「構わない。俺が、『世界を創造』すれば良いだけだ」

「ガブリエルの我が父への『願い』では、世界を創造するといった望みは叶えられんぞ?」

「違う。別の方法だ」

「……別の、方法?」

「俺も、そのやり方は分からない。だが、その方法は確実にあると信じてる。俺の、最愛の人の心からの言葉だから」

「ふふ、そうか。私は知っているぞ。その方法を」

 ケルビエムは口を歪ませ、さぞ可笑しいと言わんばかりの嘲りの笑みを歪ませる。

「教えてくれるのか?」

「ああ、勿論だ。それは、『管理者』である私の力を弱め、そして『神の頂』の頂上、『セフィロト』に封印した四界王のシンボルを献上すれば、叶えられる」

「まさか、敵から教えてもらうとはな。だが、それはアダムの世界を『在るべき形』に戻すやり方と同じだぞ」

「そうだ。それだけでは駄目だ。その後に自身が代わりの世界の管理者となり、世界の舵取りとなる必要がある」

「舵取り、か」

「ふふ。そう、舵取りだ。つまり、貴様が『管理者』になって、永劫を『神の樹』と接続された存在として生きなければならない。その意味が分かるか?」

「要するに、俺は人として、その創造した世界に居れなくなるんだろう?」

「その通り。貴様は、自身が創造した世界を堪能出来ず、ひたすらに世界を管理し続ける。所詮、世界を創造した所で貴様は人に戻る事は出来ない。残念だったな」

 ケルビエムの言葉に、京馬は沈黙する。

 それは、感情を表に出さない京馬の、無言の感情の表れだった。

(ごめんなさい。私はその事実を知っていた。でも結局は、君はどの道『それ』を選ぶと確信したからよ)

「見せかけの選択肢だらけだな。全く、あんたも、桐人さんも」

 そう告げ、京馬は目を閉じる。

 悪魔の宿らない美樹との甘く、幸せな生活。

 心の安らぐような、『負』の無い世界。

 そんなもの自身が堪能出来たら、どんなに素晴らしいだろう。

 だが、それは自身が『管理者』となる為、不可能だと告げられた。

 しかし、戸惑いの後、その答えに迷いは無かった。

 幼少の記憶、弱い者の前に立ち、笑みの絶えない世界を望んでいた。

 年を重ね、『この世界』が明瞭になり、その望みも消え失せた。

 だが、『本質』は変わらない。

 『お人好し』、『偽善』、そう蔑まされても、奥底の『想い』は変わっていなかった。

 この意地悪な天使は、その自身の燻る『想い』を解き放った。

 分かっている。『俺』は──

「だが、世界を、人を、より良き方向にする事が出来る」

「その為に、自身が犠牲になると?」

「美樹を、人を真の意味で救う事が出来るのならば」

 告げ、京馬は地を蹴り、更に羽の揚力で一気にケルビエムへと距離を縮める。

「『壊れた世界の反逆者(ブロークワールド・リベリオンズ)』」

 そして、京馬は『想い』の奔流である自身の固有武器を発現させる。

「では、私も敬意を払い、我が愛剣の名を告げよう! 『懲罰の炎雷剣(パニッシュメント・ブリリアント)』!」

 満足気な笑みを浮かべ、ケルビエムは炎と雷を帯びた細剣を発現させる。

 両者の剣の切っ先が交わる。

「流石だ。今の私とも拮抗しあう程とは……『一翼』を宿った者同士、一筋縄ではいかないという事か」

 更に強烈な剣撃を互いが撃ち合う。

 幾つもの轟音が世界に響き、両者を支える大剣が震える様に振動する。

「『決意』」

 だが、京馬が『感情』を告げると共に、急激にその力が増幅する。

「ぐっ……!」

 京馬の増幅された力により放たれた剣撃をケルビエムは剣で受ける。

 が、その体は仰け反り、一瞬の隙が生まれる。

「『怒り』」

 更に、京馬はもう一つの『感情』を力に変え、隙が生じたケルビエムに一太刀を浴びせようと剣を振るう。

「『堕ちろ』っ!」

「ぐ、あっ……!?」

 しかし、ケルビエムの告げた言葉により、京馬の内から、力の急激な衰えが生じる。

 途端に剣速が鈍くなった京馬の剣をケルビエムは再び受け、更にそこでがら空きとなった胴体へ突きを繰り出そうと右腕を引き、手を剣に捻じ込ませる。

「『希望』……!」

 瞬速で放たれたケルビエムの突きは、しかし、京馬の胴体を貫く事は無かった。

 京馬の発現させた『希望』の感情による固有能力の無効化で、ケルビエムが放った『堕天』を打ち消し、京馬は元に戻った力で、その細剣の突きを剣で受ける。

「ミカエル様の『堕天』でさえも、貴様の『想い』は無力化出来るのか……!」

 その現象を察知し、ケルビエムは地を蹴って後方へと後ずさる。

「では、これではどうか?」

 ケルビエムが告げるが否や、大爆発と雷光が京馬を包む。

「『希望』」

 京馬は自身を取り囲む炎雷を再度『希望』の感情で無力化しようと試みる。

「う、ぐあっ!」

 だが、幾つかの炎雷は無力化出来ず、京馬を仰け反らせる。

 即座に、ケルビエムの神速の連続突きが京馬を襲う。

「ふは、ふははっ! どうやら、能力の無効化も、一定以上では上手く機能しないようだな! 『堕天』と『炎雷』! そして私のこの剣! どう対処する?」

 ケルビエムの突きを受けながら、更に『決意』の能力を維持しつつ、京馬は次の一手を思慮する。

(この天使達と融合したケルビエムの強烈な精神力による『堕天』、『炎雷』そして剣の突き……残念だが、ガブリエルと融合した俺の精神力でも御しきれない。どうする?)

 様々な角度から、変則自在に繰り出すケルビエムの突きは、京馬の防御の間を縫い、その体の節々に裂傷を与える。

「ふはは! 我々、アビスの住民の力によって強化されたその肉体であっても一撃掠るだけでこの様だ! まともに喰らえば、貴様の愚かな悪魔の子の脆弱な体では一溜まりも無いであろうなぁっ!」

「『もどかしさ』」

 喜々として、突きを放つケルビエムの表情が硬直する。

 ケルビエムの放つ突きの連打を避け、京馬が放った斬撃は、至極単純な右肩から左脚までの袈裟切り。

 だが、その軌道は違う。

「ぐ、はっ……?」

 京馬の『もどかしさ』によって変形した剣は、受けに入るケルビエムの細剣を掻い潜り、一気に振り下ろされる。

「やってくれる!」

 腹部に突き刺された剣は、ケルビエムの腹を割く様に振り下ろされる筈であった。

 しかし、瞬時に京馬の剣の変化を察知したケルビエムは、後退し、その軌道から逃れる。

 結果、京馬の斬撃はケルビエムに浅い刺し傷だけを残すのみとなる。

「『想い』を力に変える……! 成程、ウリエル同様、流石『四大天使』の一角と言うべきかっ!」

 更に後方へと跳躍し、ケルビエムは多量の自身の概念で構築された無象の炎雷の大連撃を京馬の周囲に発生させる。

「ふふ、どうだ! これ程までの力の拡散っ! 貴様の『希望』ではこの多量の力の発生源を無力化は出来ないであろうっ!」

「『悲しみ』」

 だが、京馬は『希望』による力の無効化をせず、ケルビエムへと駆ける。

 絶えず発生する炎雷の攻撃は、確かに京馬へとダメージを与えていた。

「俺の『悲しみ』は『衰退』を周囲に与える事が出来る」

 しかし、そのダメージは、京馬の『悲しみ』の感情による『衰退』により、極限まで抑えられる。

「まだ、そんな手があったか……!」

 炎と雷に包まれながら突き進む京馬へと、戦慄の表情と共に、ケルビエムは笑みを浮かべる。

「ふふ、ふは、はははははっ! あの哀れで無知であった小僧が、この私にここまでの戦慄を覚えさせるようになろうとは!」

 間合いを詰め、一気に振り上げた京馬の斬撃を、ケルビエムはあえて受けに入る。

「貴様の人へと、最愛なる者へと、捧ぐ『想い』! しかと伝わった! 面白い、我が使命への『意志』とどちらが勝るか、真剣勝負といこうかっ!」

 告げ、ケルビエムは周囲に巨大なプリズムの魔法陣を発現させる。

「『過負荷駆動(オーヴァー・ドライヴ)』、『絶対不可避の審判(インエヴィテーブル・ジャッジメント)』っ!」

 その魔法陣を介して放つのは、ケルビエムのミカエルから吸収した『堕天』。

 ケルビエムの放った『堕天』の氣は、轟音と共に強烈な重圧を京馬に与える。


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