Scene33 坂口京馬の選択
予告無しに一週遅れてすいません!
何時もこの小説を見て下さっている読者様、毎度感謝しています。
お待たせしました、更新です。
最近、休出、夜勤もする事になり、中々に小説を書く時間が減っております……
もしかしたら、今後、更新頻度も減ってしまうかも知れません。
その時はご容赦下さい。
ではでは、続きをどうぞ……
「まだ……終わっていないのか!?」
平穏を象徴するかのような朝日が立ち昇る。
だが、一同は戦慄により、その平穏を噛み締める事が出来なかった。
「『神の蔦』……! やっぱり、諦めない様ね……!」
「ミカエルのアストラルは『死』と同時に『接続』も絶ち切った! 今すぐにどうこう出来る筈が無いはずよ?」
「分からない。だけど、『何か』ある」
静子の言葉に頷き、ガブリエルは思慮する。
静子によって、『接続』を絶ち切られたミカエルは、長い『眠り』につくだろう。
それは、正に『死』と同様の長い、長い時間。
天使という天使を全て『融合』させ、そして『死』んだミカエル、基、天使達はもう何もする事が不可能の筈である。
だが、ガブリエルの脳裏には『何か』、引っ掛かっていた。
「──そうか! あの子なら、やりかねない!」
はっと閃き、そしてガブリエルが京馬と静子に告げようとした時であった。
「もう遅い。私は、ミカエル様を『身籠り』、そして新たな管理者となる」
朝日輝く晴天の青空。
それは、一瞬の内に赤黒い炎獄の景色へと変わる。
「ケルビエム! やはり、あなたへとミカエルは『一翼』を植え付けていたのね!?」
「御名答。ミカエル様の意志を受け継いだ私は、貴様らを灰燼と化し、新たなミカエル様が私の中に芽吹くのを刻々と待つ。そして、新たな世界を築く!」
炎舞の空からその空を覆うような大魔神が地にその様相を覗かせる。
多頭の光り輝く光球の頭。燃え盛る多量の翼。そして同様に燃え盛る胴体から生える炎の『尾』は、世界を覆い尽くさんとする様に伸びる。
「さあ、ガブリエルよ! まずは、『異端』である貴様を消滅させてやろうっ!」
地響きを起すかの如く唸るような声が世界に響く。
威圧する様な、重苦しい炎が包む大空。
その空から覗かせるように、光球の『顔』が世界を覗く。
「京ちゃんっ!」
「京馬君!」
空を覆うケルビエムを睨みつけ、対峙する京馬の背後、声が響く。
「美樹、咲月っ! それにフランツさんに、剛毅さん!」
京馬が声に振り向き、そして叫ぶ。
そこにいたのは駆ける京馬の仲間達と、そして京馬の最愛の人だった。
「これは……!?」
その一団の後続、ミシュリーヌは空を見上げ、戦慄する。
「あのケルビエムがミカエルのアストラルを一部吸収し、そして力を得たのよ! この精神力、ミカエルの吸収した天使共の精神力をも引き継いだと見るべきね」
そのミシュリーヌへ、美樹は説明する。
「京馬君」
「何だ、ガブリエル」
身構える京馬へ、ガブリエルは言う。
「あのケルビエムは、この面子では勝てない。だけど、それを『統合』した想いならば、もしかしたら──」
言いかけた直後、上空から炎を纏った極光の一撃が空から射出される。
「くっ!?」
それを一同はかわそうと試みる。
だが、その一撃は、超高速で的確に各々へと襲いかかる。
「させないっ! 『死になさい』っ!」
しかし、その極光は寸でで跡形も無く消滅する。
「さあ、天の声さん! 何かは分からないけど、その子と一緒にこいつを倒す算段があるんでしょうっ!? 足止めは任せてっ!」
否、それは静子の『死』によって極光という概念が『死』した為、起きた現象であった。
「ありがとう、静子」
会釈するガブリエル。
「やれやれ、私はあまりこういう防衛戦は向かないのだがねぇ」
その後続、黄金を身に纏った怪物の大群が押し寄せる。
それらは、地から飛び出た黄金の触手に乗り、そして空へと駆け出してゆく。
「アルバートさん!?」
「はっはっは! 間に合って良かったねえ。微力ながら、私も協力するよ」
驚愕する京馬に、豪快に笑いながらアルバートは告げる。
更に、それを合図とする様に、戦いで生き残ったアダム、そしてアウトサイダーの戦士達が京馬達の場所へと集い、そして空へと一斉に多種多様な攻撃を繰り出す。
「みんな……!」
多くの自身の仲間、そして敵であった者が世界を破滅しようとする空へと果敢に牙を向ける。
「エレンが、振り絞った精神力で造った電磁の音声でみんなを呼んだんだ」
その京馬の肩を息を荒げた聞き慣れた声の主が叩く。
「桐人さん……!?」
「ああ、サイモンさんのおかげで、俺はミカエルの『融合』から逃れられた。しかし、すっぱり『ルシファー』にはなれなくなったけどね」
桐人は、にっこりと笑み、京馬に告げる。
「京馬君。以前に俺が言った事を覚えているかい?」
そして、桐人は眉をきつく締め、険の表情で京馬に言う。
「俺は期待していたんだ。君が、いつか俺達の組織、いや世界を導いてくれる存在となるとなる事を……それが、今だ。君は、決断しなくてはいけない。このガブリエルと共に、全てを捨て、人の道を記し、そして示すか。今ここで、『人』として終えるのか」
「人の道を記し、示す……」
「そう。だがその決断は、『宿命』でも『運命』でもない。何て言ったって、君は『普通』の高校生なんだから」
ふっと笑い、桐人は続ける。
「尤も、この現状じゃあ君は無理矢理にでも選ばざる得ないだろうね。済まない。野暮な事を聞いた」
最後の言葉を残し、そして桐人の体は崩れ落ちる。
「しっかりなさいよ。ったく、私の方が何倍も働いたってのに」
だが、それは瞬時に電磁音と共に姿を現したエレンによって抱きかかえられる。
「エレンさん!」
「私からは言う事は無いわ。とにかく、ガブリエル! あんたの事はケツアクゥアトルからしっかりと聞いたわ! しっかりと京馬君を支えなさいよ!」
視線を京馬からガブリエルへと移動させ、エレンは言う。
「分かってる。ありがとう。エレン」
ガブリエルは、首を下に振り、そして京馬へと目を向ける。
「さあ、京馬君。あの子を倒す為に、君は決断しなければいけない。私を完全に受け入れ、そして『人』と無くなるのか。それとも、今の切り離された状態の、『人』として生きて行くのか」
「……お前を俺が受け入れれば、あの化け物を倒せるのか?」
「ええ。だけど、君は代わりにあの美樹ちゃんの様な『混在覚醒状態』となり、更に──これが一番重要よ。よく聞いて」
何時もの余裕のある表情を崩し、険の表情で見つめるガブリエル。
京馬は、喉元を鳴らし、その続くであろう言葉に息を呑む。
「君は、一切の感情を切り捨てる事になる。それは、今の美樹ちゃんを愛する気持ち、仲間を想い遣る気持ち……全ての感情が『表』に引き出せなくなる」
「感情が無くなる?」
突如、ガブリエルから告げられた言葉に、京馬は首を傾げる。
「いえ、厳密にはその感情はある。だけど、それは決して表情や声で表せなくなる。私と完全な融合をする事で、君の全ての『想い』は『力』へと還元され、『伝える』という意義を失ってしまうの」
「俺の、全ての『想い』が力に?」
「そう。『一翼』であるが故の弊害。さあ、決めて。京馬君。私を受け入れるか、それとも拒否をして普通の人として生涯を閉じるか」
「決めるも何も、そうしなければ、世界は滅ぶんだろう?」
「私の保護が適用出来る『一翼』の君なら、他の似た『枝』の世界に連れていける。君は、『人として』生きる事も出来る」
「だけど……ここにいる皆のアストラルは消滅しちゃうんだろ?」
「そうね。だけど、似たような人は他の『枝』にもいるわ」
「似たようなじゃ、意味がない。俺は、皆のアストラル……心が好きなんだ。だから──」
京馬は、ガブリエルの手を取り、そして握り締める。
そして、声高に叫ぶ。
「俺は、お前を受け入れるっ!」
「そう。ふふ、ありがとう。京馬君」
満足そうな笑みでガブリエルは微笑み、そしてその体は霧散して京馬の内に吸い込まれる。
青く輝く閃光が、京馬を包む。
白の導衣、純白の羽々、蒼い瞳。
京馬の様相が青白い粒子の凝縮した箇所から次々に変化してゆく。
「これは……?」
(私が完全に融合した証よ! さあ、ケルビエムの『中心』はあの『尾』の分かれている部分よ!)
「ああ、分かった」
京馬は、心の奥底から響くガブリエルの声に頷く。
「京馬君! 待ってくれ、これを」
翼をはためかせ、飛翔しようとする京馬にフランツが声を掛ける。
振り向いた京馬へと、銀色の円筒状の金属を投げる。
「……これは?」
それを京馬は右手で受け取り、フランツへ問う。
「それは、サイモンさんから頂いた精神力供給剤だ! もしもの時に使ってくれ!」
「ありがとう、フランツさん」
「……君に、人類を託す」
無表情で感謝する京馬に、フランツは敬礼をする。
そのフランツへ振り返る事無く、京馬はケルビエムの下へと飛び立っていった