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no rain... no rainbow...   作者: 仲村 歩
After Story・生
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双子の姉妹が誕生した日は家族の誕生日になった


「隆君、そろそろ起きて」

「美緒、隆君を起こしてくれる?」

「うん。パパ、ママが起きてって」

「ん? あっ~悪い、つい寝てしまった。あ……今、何時だ」

「もう、お昼だよ」

伸びをして目を開けると真帆と美緒が俺の顔をみて微笑んでいた。

回転数が上がらない頭を何とか動かし続け、立ち上がると真帆の横で美波と美颯が気持ち良さそうに眠っていた。

皆の顔をみてホッとひと息をつく。

「まだ、寝ぼけているの?」

「起きているよ」

「全然、起きているって顔じゃない」

「真帆、食事は?」

「もう食べ終わったよ」

「それじゃ、下でコーヒーでも飲んでくるよ」

「もう、ちゃんと食べなきゃ駄目だよ! 美緒、お願いだから隆君に何か食べさせてきて」

「本当にパパは世話が焼けるんだから」

「美緒には言われたくないな」


ツンと澄ました顔の美緒に連れられて入院棟の1階にあるレストランで食事をする事になった。

「何を食べるかな」

「美緒が選んであげる。本当にパパは自分1人だけの食事には無頓着なんだから」

「面倒なんだよ。独りだったら簡単な物が楽だろ」

「もう、これからは独りじゃないんだからちゃんと食べてね」

「はいはい、これじゃどっちが親か判らないな」


食事を済ませて真帆の部屋に戻ると看護師さんが来ていた。

「もしかして、あの岡谷さん?」

「あっ、その節は……」

俺が自主退院した時の見覚えのある看護師さんだった。

「小会議室で先生がお待ちですよ、岡谷さん」

「すいませんでした。直ぐに伺います。お手数をお掛けしました」

今出来る精一杯の気持ちを込めて頭を下げる。

「美緒、約束だ。行こうか」

「えっ、う、うん」


入院棟のエレベーターに乗り15階の小会議室に向う。

後ろを歩いてくる美緒のピンと張り詰めた緊張感が伝わってきた。

ノックをしてドアを開けると窓の外を眺めている俺と同い年くらいの白衣姿の先生がいた。

「失礼します。岡谷です」

「さぁ、そこに座って」

椅子に腰掛けると美緒が横に座るのを確認して、美緒を見ると握り拳を膝の上に置き俯いたままだった。

「あなたが美緒さんだね」

「は、はい」

「これからあなたの一生に係わる話をする事になります。あなたの意思を確認したいのですが話を聞きますか?」

「……話って、パパと血の繋がりがあるかって事でしょ」

「そうですね、依頼を受けてDNA鑑定をしました。その結果になります」

「もし私が聞きたくないと言ったら?」

「それは美緒さんの自由ですよ」

「パパ?」

美緒が強張った顔を上げて俺の顔を見た。

「パパは結果を知っているの?」

「知っているよ」

「何でパパの口から教えてくれないの?」

「真帆の頼みなんだ」

「ママの頼み?」

「こんな形になって美緒には申し訳ないと思っている。それでも真帆の気持ちを尊重したいんだよ。けじめとしてね」

「パパの気持ちは?」

「何も変らない、今までと同じだよ。美緒は美緒だ、血の繋がりなんて関係ないと思っているよ」

美緒が俯いて唇を噛み締めてから、どこまでも澄んだ瞳を真っ直ぐに先生に向ける。

「聞きます。聞いても美緒の気持ちも変らないから」

美緒の返答を確認してから先生がゆっくりと丁寧に話し始め、美緒は微動だにせずに集中して先生の話に耳を傾けている。

「DNA鑑定は肯定なら99.9%以上、否定なら100%の結果がでます。それでは良いですか?」

美緒の体が硬直して震えていた。

「岡谷隆史さんが大羽美緒さんの父親である確立は…………」


体から力が抜けて椅子に全身を預けるように放心状態のまま座っている美緒に声を掛けた。

「美緒、真帆の所に戻ろうか」

「…………」

美緒は何も言わずにゆっくりと立ち上がり歩き出して会議室のドアに向い。

先生に深く頭を下げて美緒の後を追いかける。

真帆の部屋に戻ると真帆がベッドの上で起き上がり笑顔で出迎えた。

「美緒、どうしたの? 聞いてきたんでしょ」

「うん」

美緒が力なく頷いた。

「美緒、そんな顔をしないの。今までどおり何も変らないのよ」

「変った事もあるだろ」

「変った事?」

「同居人の子から妻の子、そして長女になっただろ」

「パパ……やっぱり美緒のパパはパパだけ、美緒は何も間違ってなかった」

優しく美緒に微笑みかけると澄んだ瞳から大粒の涙が零れ落ち、そして笑い出した。

「何がそんなに可笑しいんだ?」

「うふふ、だってパパのお嫁さんになれなくなっちゃったんだもん」

「み、美緒。あなたまさか……」

真帆が美緒の言葉に驚いて声を上げた。

「だって、ミオミオにしてやんよって思っていたのに。マホマホにされちゃてるんだもん」

「あのな、美緒は美緒だ。最初からマホマホだったんだよ、俺は」

「うわぁ、ママ。聞いた聞いた? 最初からマホマホだって、ママが羨ましいな」

真帆は2人の会話に全く付いていけずに?マークを量産して頬を膨らませた。

「もう! 2人だけでずるい!」

「「しぃーー」」

声のトーンが上がった真帆に2人が口に指を当てて真帆を制すると慌てて口に手を当てた。

双子の姉妹はベッドでスヤスヤと何事も無かったようにぐっすりと眠っていた。

双子の姉妹が誕生した日は家族の誕生日になった。

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