本当は私はおまけ
翌朝、優しい匂いに包まれながら目を覚ます。
枕元においてある携帯を見ると真帆が準備をしないといけない時間になっていた。
「真帆、そろそろ支度をしないと」
「隆君、今日は?」
「オーナー命令で、家族サービスをしろと日曜日は特別休暇らしい」
「ずるい」
真帆の店はオープンしたばかりなので休日無しでお店を毎日開けていた。
「仕方が無いか、起きて……あれ? 無理、立てない。隆君の馬鹿!」
「俺だけの責任なのか?」
起き上がろうとする真帆は腰砕けになって起き上がれなかった。
「うう、だって。しょうがないじゃん!」
「今日は仕事をサボって2人でゆっくりしようか?」
「えっ? 隆君。今なんて言ったの?」
真帆が違う誰かを見るような目で俺の事を見ていた。
「今日は休んでゆっくりしようって言ったんだよ。体が本調子じゃないのにそれじゃ無理だろ」
「嘘? 隆君がそんな事を言うなんて信じられない」
「俺はどんな人間なんだよ、鬼か何かに見える? それとも聖人君子にでも見える? ただの甲斐性なしだよ。俺は」
「だって、あんなに真面目でサボりとかズルって嫌いなんじゃ」
「真面目な奴が少しだけサボっただけで凄く悪く言われるのって不公平だろ? 俺はズルもするしサボったりもする。少し要領が良いだけ」
「うわぁ、なんか黒い」
「黒いか。真帆は嫌い?」
「うう、ずるい。目の前に大好きな隆君とのんびりをぶら下げてそんな事を言うんだ」
「それじゃ、支度をして」
「休む! 隆君とゆっくりしたい」
そんな事をしていると私の携帯が着信のメロディーの『蛍』が流れたの。
「おはよー、ママ」
「おはよう、美緒」
「側にパパが居るんでしょ、良いなラブラブで」
「そ、そんなんじゃないよ」
「それじゃ、何も無かったんだ。そんな訳ないよね、今日はお仕事どうするの?」
「隆君が今日は休んでいいって」
「ほ、ほう。隆君になったんだ、パパ」
「あ、あう、あのね」
「まぁ、良いか。収まる所に納まったんでしょ?」
「う、うん。いつまでも隆君と美緒と一緒だよ」
「本当は私はおまけみたいな物だからね」
「違うよ、美緒は私の大切な娘でその娘のお陰でこうして……と居られるんだから」
「ママ、良く聞こえない」
「大好きな隆君と一緒に居られるんだから。あ~ん」
「ば、バカップル!」
不意に隆君に後ろから抱きつかれて変な声を出しちゃったら美緒が携帯を切っちゃった。
のんびりとゴロゴロして、午後からは真帆と2人で出掛けた。
南西の端の石垣島で出掛ける所なんて限られているのだが2人で街中をブラブラするのは初めてだった。
気恥ずかしいような感じがしたが、それよりもなにより真帆と一緒に居られるだけで幸せだった。
後日、心配をかけた事について美緒に懇々とお説教を喰らったのは言うまでも無い。
あの日、頭を冷やす為に石垣島の最北端の平久保崎の灯台まで行き。
車の中に携帯を放置していたので電話に出られなかった事を言うと鬼の如く形相になり激昂された。
美緒にどれだけ怒られようが『ありがとう』と感謝して、すべて受け止めようと思う。
美緒が居なければ真帆との今は有り得ないのだから。