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何を隠してるかなぁ

今年は私にとって忘れられない年になった、それは石垣島に来て島でパパと出会った事。

色々とあったけれど。

コンクリートジャングルで色を失いかけていたのに日本の南西の端っこの島に来て。

島の花や海に空、そして南国特有の木々の緑や燦々と降り注ぐ陽の光りの様に極彩色豊かなんだって思えるようになった。

そんな一年が終わろうしている。

それなのに私の周りはざわついていた。


事の始まりはクリスマス後だった。

冬休みに入った途端に泉美やなっちゃんに朋ちゃんから立て続けに電話が来てそれは三者三様の言い方だけど内容は同じ物だった。

「美緒! て、テレビでルイさんが大変だよ」

「美緒、る、ルイさんが……」

「美緒。あれは本当なの? ルイさんってパパラブじゃなかったの?」

今、テレビをつけてワイドショーを見れば柴崎ルイの事で一色だった。

『ルイ熱愛発覚! 新人男優の葛城光一とお忍びデート!!』

『柴崎ルイ お相手は映画で共演の新人・葛城光一!!』

なんでもツーショットの写真を撮られて週刊誌からワイドショーからまでこの話題で持ちきりになっているって泉美が教えてくれたの。

ネットでもこの情報は直ぐに流れてパパは知っているはずなのに何も言わないの。

ルイさんの事をなんとも思ってないのかな、それはそれでなんだか微妙な気持ちなんだけどさ。

乙女心は複雑怪奇なものなのだ。

「ばーか、単純明快だ」

「うっ、パパが馬鹿って言った。美緒のこと馬鹿って言った!」

私がルイさんの事を聞いた瞬間に返って来た言葉がこれだった、酷くない『ばーか』だよ。

絶対に漢字じゃなくて平仮名の『ばか』だよ。

「あのな、このツーショット写真を見て変だと思わないか?」

「えっ? 何が変なのさ」

「これは何処からか出てきた瞬間にフラッシュを浴びせられて撮られた写真だぞ。その証拠にルイは眩しそうにしているのに隣の男はそうじゃない。それに映画の公開前って言うのが胡散臭い」

「そう言われてみればそうかもしれないけど。ルイさんに連絡してみようかな」

「止めとくんだな、今はそれどころじゃないだろ」

そうパパに言われてパソコンを覗くと『柴崎ルイ、雲隠れ? 海外脱出か?』の文字が見える、なんだパパも気になるんじゃん。

「ちょっと出掛けてくる」

「ええ、何処に行くの? 美緒も行く」


パパの後を追いかけて車に飛び乗ってついて行くと、パパが向った先は市内の電気屋さんだった。

電気屋さんで何を買うんだろうと思ったらテレビ売り場でテレビを見ているの。

お家のテレビを修理すれば良いじゃん、それともアナログ放送が終わるから新しいテレビでも買うのかな?

どうせ見ないくせに、美緒だって今更テレビが見たいなんて思わないもん。

パパは店員さんと何かを話しながらリモコンでチャンネルを変えている。

するとルイさんが映ったの、それも成田空港ってテロップに書いてある。

動く歩道を足早に搭乗ゲートに向うルイさんにマイクとカメラが向けられてるけど、ルイさんは帽子を深く被って俯きながら無言で搭乗ゲートに行ってしまった。

「ノーコメント……」

とかなんとかリポーターが言ってたけど。

それを見たパパは「少し考えます」って店員さんに言うと店から出ちゃったの、まさかだよね。

「パパ、もしかしてあれだけを見に来たの?」

「面白い物を久しぶりに見せてもらったよ」

「面白いものなんて、酷いよ! ルイさんはママの友達で私にとっても大切な人なのに」

「そんな美緒にも判らないのか? 流石だな」

本当にムカついた。

久しぶりにマジでぶっ飛ばしてやろうかって思ったけど、パパの言葉がどこかに引っかかってパパを睨み付けるだけに留まらせた。

そんな事があって私はちょっとパパに腹を立てたまま今に至ってるの。


今って言うのは大晦日なんだけど『ニライ・カナイ』でカウントダウンのイベントがあるからって、私も招待されてディナータイムが終わってからイベントの準備を少しだけお手伝いをしてたの。

「美緒ちゃん、テレビ見た? ルイさん大変な事になってるね」

「うち、テレビ無いし」

「うわぁ、ゴメン。って、ご機嫌斜めだねチーフと喧嘩でもしたの?」

「あのね、ユーカさん聞いてよ。パパって酷いんだよ」

先日あった事を話すとユーカさんは驚いてたけどミポさんはニヤリと不敵な微笑をしてたの。

「あのね、ミポ。あんたのその笑いは怖い! 前から言おうと思ってけど今年最後だから言わせてもらうよ」

「チーフは何も判らずにそんな事言う人じゃない。きっと何か確信があるからそんな事を言うんだよ、美緒ちゃんはチーフの事を信じられないのかなぁ」

「そうじゃないけど、それなら教えてくれても良いじゃん」

「確信はあるけど確認したわけじゃないからじゃないのかな」

どう言う意味なんだろう確信はあるのに確認していないからって……

そっか多分ルイさんとは今は連絡が取りたくっても取れないかもしれないんだ。

でも、気になるな。ルイさんは今頃どこの国に居るんだろう、成田に居たって事はやっぱりハワイなのかな? 

ハワイは安直過ぎるかなリポーターがいっぱい居そうだもんね。

『ニライ・カナイ』のイベントはお客さんと一緒にカウントダウンして年越しそばを食べる、こんな言い方はいけないと思うけど何処にでもあるイベントだった。

毎年の恒例行事で毎年訪れる常連さんも居るんだって、パパはいつも通りなんら変わりなく笑顔で仕事をしてたの。


元旦はゆっくりとしようって言っていたのに……

パパの携帯が鳴ってパパの声が部屋まで聞こえてきたの。

「はぁ? 何処だって? 判ったからそこを動くな。良いか絶対に動くなよ」

「もう! 今何時なの?」

枕元に置いてある携帯を手に取るとそこが限界だったみたい、だって元旦の朝8時過ぎなんだよ。

年末から溜め込んでいたパパへの怒りが爆発寸前だった。

ぶっ飛ばすにしてもとりあえず着替えだよね。

女の子は何をするにしても身だしなみだからね。

501にパーカーを着て部屋を飛び出すとパパの部屋から何かをぶつけるような大きな音がしたの。

「元旦早々、うる……パパ、どうしたの?」

「っう! 出てくる。直ぐに戻るから」

パパが501を穿いてシャツを羽織ったままボタンも閉めずに足先を押えているの。

でね、顔を歪めたまま慌てて出て行こうとするの。

私の爆発寸前の怒りなんて吹き飛んじゃった。

だって足先をどこかにぶつける程に慌ててるパパなんて一度も見たことが無いんだもん。

「だ、大丈夫なの?」

「なんでもない」

「私も行く」

パパの車に乗り込んだ瞬間にまるで私が隣に乗っていないかのように、パパが車をもの凄い勢いでバックさせてタイヤを鳴らしながら急発進したの。

いつも私が隣に乗っている時はこんなに荒い運転はしないはずなのに今日は違うの。

一時停止もそこそこに4号線を突っ切って産業道路に向って、今度は車を街の東に向けてもの凄い勢いで走らせてるの。

お正月の早朝で車が殆ど走ってないのを良い事に、法定速度なんて完全に無視して八重山警察署の目の前を走り抜けるんだよ。

「パパ、捕まっちゃうよ」

「心配ない、初詣の警備で忙しいからな」

「そう言う問題じゃないでしょ」

「掴まってろよ、飛ばすぞ」

飛ばすって……

私が助手席のドアにしがみ付くとパパが更にアクセルを踏み込んだ。


「気分が悪い」

「それじゃ、お前は車に居ろ」

「行くもん!」

着いた所は石垣島空港の駐車場だったの。

パパが急いで車から降りると大股でそれも凄い速さで歩き始めたの、私なんか走って着いていくので精一杯なくらいなんだから。

多分、私が『待ってよ』って言っても『車に居ろ』って言われるか一瞥されるだけだと思う。

それにそんな事を言える雰囲気じゃないって言えば良いのかな、パパの顔は真剣そのもので歩きながら何かを探しているの。

こんなパパの顔を見るのは初めてでちょっと怖かった。

だってそれはまるで狩人か漁師が獲物を狙う視線と同じだったの。

ANKの出発ターミナルに入るなりパパは辺りを見渡して直ぐに隣の到着ロビーに向ったの。

元旦のそれも朝一便の時間だからそれほど人は居なかったけどそれでも少ない方じゃなかった。

すると、突然パパが名前を叫んだんだよ。

「凛子!」

到着ロビーにパパの声が響き渡りロビーに居た人達の視線がいっぺんにパパと私に集中したの。

それを見たパパは到着ロビーを駆け出すように突っ切ってJTAの出発ターミナルに向ったの。

JTAの出発ターミナルにはお土産屋さんが結構あってや軽食を食べられる所なんかがあるからANKより人がたくさん居るんだけどパパはそんな事にお構いなく名前を叫んだの。

「凛子! 何処に居る!」

「凛子!」

次の瞬間、私は自分の目を疑ったの。

突然、猫耳ニット帽を目深に被って緩々のカーキ色のAラインのワンピーにレギンスで薄茶のフリンジのモカシンショートブーツ姿で黒いストールを肩に巻いた女の人が……

パパの首に抱き付いて。

き、キスをしてるんだよ。

それもチュッなんて軽いもんじゃなくって……

な、何が起きてるの? 

突然の事に周りがざわつき始めるけど直ぐに静かになった。

静かになったんじゃなくて私の周りからの雑音が一切消えたんだって気づいた。

不思議な事に少し離れていているから普段なら聞こえるはずの無いパパとその女の人の会話しか聞こえてこない。

「ご、ゴメンなさい」

「謝るくらいならするな」

女の人が我に返りパパから離れようとするとパパから女の人にキスをしたの。

すると女の人の体が震え出してパパにしがみ付いて涙が零れ落ちたの。

「今は泣くな。良いね」

「うん」

「話は後だ。ここは人目につきすぎる」

「うん」

「行こう」

「荷物が……」

パパと女の人の視線が搭乗口の前にあるベンチに置いてある荷物に向いたの、そこで私は彼女が誰か気付いたの。

周りの騒然とした音が一気に溢れ出す。

指笛を鳴らす人、驚きの声を上げる人達。

当然だよね空港で男と女が突然抱き合ってキスをしたんだもん。

映画やドラマじゃあるまいし有り得ないもんね。

すると、本当に一瞬なんだけどパパの空気が変ったの、なんて言えば良いんだろう一言で表すならそれは殺気だった。

それもハンパ無いくらいの。

周りを一瞥した瞬間に パパ達を見ていた人が気まずそうに何事も無かったかの様に振舞っている。

私も女の人の名前を言いそうになったのにパパに切り捨てられてしまったの。

それは本当に瞬く間だったけど、パパの本当を少しだけ垣間見た気がしたの。

そして西表島でのミポさんの言葉が頭を過ぎった『一番怒らせてはいけない人』パパの未だ知らない闇の部分なのかもしれないと思ったんだ。

でも、直ぐにパパはいつものパパに戻って私を見て荷物を持ってくれって目で合図したんだよ。

車に乗っても彼女は始終俯いたままだった。

「何を隠してるのかな? パパは」

「何が言いたいんだ? 美緒は?」

「パパは底が知れないって事。いつもはだらしないくせに時々ビシって決めてさ」

「誰にでもONとOFFはあるだろう。美緒にだって誰にでも裏表があるように」

そう言われて私は正直ドキッとした。

パパはまるで何かを知っているかの様に鋭い事を言う事がある。

多分それはパパの直感がそうさせるんじゃないかと思う『見てないようでちゃんと見ててくれる』そんなミポさんの言葉が蘇ってきた。


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