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くるくると変わる

恐る恐る美緒が海に入ろうとしているが、途中で躊躇い気味に動きを止めた。

「怖くないって言ったのは嘘か?」

「嘘じゃないもん!」

美緒が目を瞑って海に飛び込み、慌てて俺に抱きついてきた。

「慌てるな、慌てる事が海じゃ一番危険なんだ」

「仕方が無いじゃん。初めてなんだから」

「判ったから落ち着いてくれ」

「う、うん」

美緒が俺の首に回している腕に力が入る。

安心するように腰に手を回して体を安定させてやると美緒の腕から力が抜けた。

「それじゃ、手を繋いでやるからゆっくり体を離すんだ」

「うん」

美緒が少しずつ体を離して俺の手を握り締めた。

「顔をつけて海の中を見てご覧」

そっと美緒が海の中を覗き込むように顔をつけた。

「…………」

「美緒?」

「…………」

「どうした?」

美緒が目をまん丸にしてパクパクと口を開いたり閉じたりしている。

驚きのあまり声も出せないようだった。

「少し、泳ぐぞ」

美緒は何も言わずに思いっきり頷いた。


手を繋いだままリーフがドロップオフしている珊瑚の崖を右手に見ながらフィンをゆっくり漕ぎ泳ぎ出した。

カラフルなベラやチョウチョウウオ、それにイラブチャーの群れ。

コガネシマアジだろうか黄と黒の縞模様の魚の群れが目の前を泳いでいく。

美緒に集中しながら進んでいくと少し淵のようになった底が見えない深い場所に出る、すると美緒が掴んでいる手に力が入った。

手でOKサインを出して意思を確認すると恐々と手で同じ様にOKサインをだした。

それを見て泳ぎ始めると太陽が雲の間から顔を出したのだろう、どこまで青い世界に真上から無数の光りのシャワーが射した。

美緒が繋いでいる手を引っ張り光りのシャワーを指差している。

美緒に伝わるように大きく頷くとクルクルと変る美緒の嬉しそうな顔がマスク越しからでも良く判った。

しばらく泳いでビーチに戻ってきても美緒の興奮は覚めやらずだった。

「凄い綺麗だね! あんなに綺麗だ何て思わなかったよ!」

「そうか、良かったな」

「ねぇ、パパはどこの海が一番好き? 石崎?」

「そうだな、のんびりするなら石崎かな。離島の海や石垣では御神崎の海も人が入ってないから綺麗だぞ」

「それじゃ、全部! 全部見たい!」

「ん? 少しずつな」

「本当? 約束だよ」

「ああ、時間が許す限り連れて行ってやるよ」

「パパ、泳いだらお腹が空いてきた」

「それじゃ、パンでも買いに行くか?」

「パン? 賛成! パン大好き!」


パラソルを畳んで敷物を石で飛ばないようにしてから車で近くのパン屋に向った。

米原から川平方面に向けてしばらく走ると、道路脇に見落としてしまいそうな小さな木の看板が見えてくる。

「トミーのパンやさん?」

道路脇の未舗装の少し急な下り坂を降りると青い海をバックにした白い小さな可愛い建物が見えてくきた。

店の近くまで来るとパンの焼ける香ばしい匂いがしてくる。

「ここはフランスパン生地のパンが美味いんだ」

「早く行こう!」

店に入るなり美緒は興味津々の輝く瞳でパンを物色していく。

「うわ、どれも美味しそう。チーズに玉子にツナ、それにこのベーコンエピも気になるなぁ」

「食べられるだけにしろよ」

目移りしている美緒を制しながら俺は店のおばさんに声を掛けた。

「カレーパンはこれからですか?」

「う~ん、もう直ぐ焼き上がるよ」

おばさんの声に美緒が鋭く反応した。

「もう少し待ってからにする」

しばらくすると香ばしい匂いと共に熱々のパンが焼きあがってきた。

「これがカレーパンでこっちが紅芋のアンパンね」

「うわぁ、美味しそう!」

「食べてみたいのを買って良いぞ」

「本当に?」

美緒がパンを選んでいく。

「カレーと紅芋とチーズにエピにタマゴ!」

「それじゃこれで」

会計をするためにキャメル色の皮のベルトポーチから財布を取りだすと美緒が覗き込むようにポーチを見ていた。



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