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夢じゃ

寝起きで回転数が上がらない頭で思考を繰り返す。

繰り返しはするが理解の範疇をとうに超えていた。

仕方なくベッドの横に投げ捨ててあったリーバイスの501を穿いて、溜息交じりの一息をついてドアを開けると彼女は微動だにせずに立っていた。

『夢じゃないみたいだな……』

寝起きの鈍っている壊れかけの脳みそでも、目の前にいるのがあの彼女であるはずが無い事は理解できた。

「俺に何の用だ?」

「…………」

俺の顔を睨みつけた少女は無言のままに何かを俺の目の前に突き出した。

突き出されたものを受け取るとそれは数枚の写真だった。

「…………」

今度は俺が無言になる番だった。

抜けるような青い空には真っ白な雲が浮かび湖面の様に静かな珊瑚礁の海をバックにして、大き目の白いタンクトップに Gパンのショートパンツを穿いて小麦色に日焼けした満面の笑顔の彼女の写真だった。

岡谷隆史おかやたかふみさんですよね」

「そうだが、何の用だ?」

「私は大羽美緒おおばみおです。大羽……」

真帆まほの娘さんなのかな?」

少女は硬い表情のまま何も言わずにただ頷いた。

「やっぱり、ママを知っているんですね」

「知らないと言えば、自分に嘘を付いていることになるが」

大羽真帆は15年前に別れた彼女の名前だった。

「真帆の娘が俺に何の用なんだ?」

「自分の父親を探しているんです」

「父親を探している? 母親に直接聞けば良いだろう」

「教えてくれなかった。それに今はママが何処にいるのか判らない」


ボーとした感覚が消えて、一気に頭の回転数が上がり完全に覚醒する。

色々な事が頭の中を駆け巡り今の状況を把握していく。

真帆は未婚のままでこの少女を産んで育ててきたと言う事なのか?

今は何処にいるのか判らないと言うのは、また海外の島にでもいるのだろうか?

そんな事を壊れかけのパソコン並みの頭で考えていると『クチュん』と可愛らしいくしゃみの音が聞こえ、少女を見ると僅かに体を震わせていた。

こんな最果ての島まで来たのに無下に追い返すわけにも行かず、とりあえず話だけでもと思った。

「それじゃ、どこか他で少し話をしよう」

俺の提案に少女もとい大羽美緒は首を大きく横に振った。

「嫌だと言われてもな」

振り返り部屋の中を見渡すと、そこにはお世辞にも綺麗だとは言いがたい男の独り暮らしの部屋があった。

「仕方が無い、部屋を片付けるからしばらく玄関で待っててくれ」

美緒の持っているバッグを受け取り玄関に置きドアを閉めて待たせる事にする。

内地程ではないにしろ寒空の外で待たせるより幾分ましだろう、直ぐに部屋の片づけを始める。

どう見ても中学生か高校生にしか見えない少女を男の独り暮らしの部屋にと思われるかもしれないが、俺にはそんな趣味はない。

ましてや美帆の写真を見せられ、それ以上に彼女と良く似た顔つきの少女の言葉に嘘が無い事がはっきりと感じられた。



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