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第1章 5 異世界編

教習所が忙しくてさすがに次の日は無理でした。


第1章 5 異世界編




数分ほど歩いたところで木製の門が見えてきた。

どうやら宿場町に着いたらしい。


俺は先ほどの会話から魔術師の格好は目立ってしまうことが分かった。

なので、町に入る前に、黒のローブを脱ぐことにした。


ローブを脱いで白のワンピースの姿になると、


「この姿なら目立たないかな?」


とアンナに聞いてみた。アンナは、少しだけ顔を赤くして


「その姿でも十分目立ちますよ、私の服でよかったら貸しますから家まで来てください」


俺はお言葉に甘えてアンナについて行った。






町の中は、人で賑わっていた。

町の大通りには街道沿いの宿場町ということもあり旅人や商人達の馬車が行き交い、時折お互いに退けという罵声が聞こえてくる。

だが、その罵声も大通りで客の呼び込みをしている店員や露天商の陽気な声によってかき消されて目立つこともなく町の空気に溶け込んでいる。

俺はこの世界に来てからこれほどの人を見たのは初めてで驚いた。

人の多さでも驚いたのだが、なによりファンタジーのゲームでしか見たこともないような亜人が少ないが時折見かけられる。

頭の上から犬耳や猫耳を生やした獣人、子供のように見えて大人な耳のとがっているホビット、体の表面を硬いうろこで覆われているリザードマン・・・

俺は、本当にここは異世界だなとあらためて実感した瞬間だった。


『エンドウ殿、置いていかれるぞ』


俺は、シロンの声に町の中を見回すのは後だと思った。

アンナは大通りのわきの小道に入るところで


「エンドウさん、こっちです」


と手を振って俺を呼んだ。


「ごめん」


と俺は誤りながら人ごみをかきわけていった。






小道を少し歩いた所で先ほどの大通りよりも小さい道に出た。

そこには先ほどの大通りに面している店とは違うようだ。

交通量の多い大通りは、どうやら旅人や商人が興味を持つような土産物や特産物、旅に必要な食料や水、自衛のための武器や防具などを売る店が集中しており、少し外れたここのような道には、交通量の多い大通りに適さない宿屋や酒場、ここに住んでる人が行くような雑貨屋や八百屋、肉屋などの食材を売る店、ちょっと怪しげな雰囲気を放つ店などが集中してるようだ。

俺はアンナに連れられて一軒の小さな宿屋の前に着いた。

アンナはどうやら宿屋の娘らしい。


「ここが私の家、宿屋あかねこ亭です。どうぞ中に入ってください」


俺は、アンナに連れられるままにあかねこ亭に入った。

あかねこ亭は一階が酒場になっていたがまだ開いてないからだろう、客の姿が見られない。


「ただいま、お父さん」


とアンナが言うと奥から、気の良さそうな禿頭の店主が現れた。


「お帰りなさい、アンナ、今日は遅かったから何かあったのかと心配したよ」


店主は、娘が無事に帰ってきた安堵からか、穏やかな声で言った。

するとアンナは、店主の姿が見えると勢い良く抱きついた。

店主は、アンナが抱きついてきたので何かあったと気づき、何かあったのかい、落ち着いてと娘に優しく語りかけた。


『あんな事があったのだろう、無理もない』


とシロンが穏やかな声で言った。俺も無理ないよなと同感した。






アンナが店主に事情を説明してるようだ。

時折、店主の顔色が蒼白になったり、安堵したりしている。

店主は事情を聞き終えたのだろう、こちらを向くと


「エンドウさん、アンナを助けていただいてありがとうございました。私はこの店の店主のジャンです」


と頭を下げてきた。俺は年上の人にお礼を言われるのが慣れていないので


「いえいえ、当然の事をしただけです」


と当たり障りのない言葉で返した。

店主は、お礼を言い終えると


「会ってすぐで悪いのですが、私は町の自警団にこの事を連絡してきます。エンドウさんはよかったらゆっくりしていって下さい」


「では、お言葉に甘えて」


そう答えると、店主は自警団に連絡をしに出て行った。

俺は、なれないことはするもんじゃないなと思いつつ近くのいすに腰掛け、手に持った黒いローブを置いた。






しばらく店の中で休んでいると、店の奥からアンナの声が聞こえてきた。


「エンドウさん、こっちに来てください」


俺は声を頼りに、店の奥に入っていった。

店の奥はいくつかの部屋があり、アンナの声が聞こえたのは一番奥の部屋だった。

部屋の中に入るとそこは、服と手ぬぐいの入ったかごを持ったアンナとうっすらと湯気が立ち上っている湯水の入った直径1.5m程のタライがあった。


「エンドウさん、旅で疲れているでしょう、よかったら着替えるついでに体を洗ってはどうですか?」


!?

か、体を洗うだと!

た、確かに3バカとの戦闘に加えて、森を歩いて来たので体中が汗まみれで気持ち悪い。

だがしかし、今朝でさえ着替えであんなに苦労したのに、体を洗うというのは今の俺にとってはハードルが高すぎる。

体を洗うということはさすがに目をつぶってできるものではなく、さらに、男の俺が女であるシルティの体を触る必要が出てくる。

それはまずい。


だが、アンナから見ると俺は女なんだ。

普通の女なら、ここでお言葉に甘えるものだろう。

ここでアンナの、この気遣いはさすが宿屋の娘と言うところか。

だが、今はこの気遣いが困る。


どうしたもんかと悩んでいるとシロンが


『ここは役得だと思って覚悟を決めるべきであろう、エンドウ殿。それにこれくらいの事態は我が主も予想はしているだろう』


とからかう口調で言ってきた。

確かに、シルティは俺が男であると知って自分の体を貸しているのだ。

シロンの言い分は正しいだろう。

それにアンナのこの気遣いを断るのは状況的に無理だ。


俺は覚悟を決めると


「あ、ありがとう。では、お言葉に甘えて・・・」


と言って、シロンの髪留めをはずし、白のワンピースと下着を脱いだ。






この世界では、蛇口をひねれば水が出てくる水道もないし、スイッチ一つでお湯が沸く給湯器というものがない。

水を汲むにも、家の近くの井戸から水を汲んで運ぶ必要がある。

お湯を沸かすにも、かまどに火を付けポッドでお湯を沸かす必要がある。

なので、大量のお湯の張っているお風呂や大浴場は貴族や金持ちの商人など一部の特権階級のみの贅沢品である。

では、他の一般階級の人は、どのようにして体を清潔に保つか?

男性の場合は、一日や二日風呂に入らなくても気にはしないだろう。

それでも、客商売である店の場合は清潔に気にして濡れタオルで体を拭くなどして清潔を保つ人もいる。

女性の場合は、香水をつけて誤魔化すという手もあるが、香水は高級品であるので手を出す人はあまりいない。

多くの女性は、多少手間がかかっても美容を保つためにもこうして大きなタライに水を入れポッド沸かしたお湯を足していくことによって温度調節をし、そこに下半身を浸かり、手桶で肩から水を流したり、タライの水に浸した手拭を絞り体を拭ったりする。

いわゆる、行水という一つの入浴法だ。






俺は、服を脱いだ後、なるべく体を見ないようにお湯に浸かった。

羞恥心とお湯の暖かさからか顔が熱いが、さすがに、汗まみれだったと言うこともあり気持ちいい。


「気持ちいい〜〜」


と声に出たほどだ。


「湯加減どうですか?」


とアンナが後ろから聞いてきた。なにやら布がすれる音が聞こえる。


「丁度いいよ〜」


と言い、俺が振り返るとそこには服を脱ぎかけのアンナがいた。


!?


俺は即座に目線を逸らした。

な、な、なんでアンナさんも脱いでいらっしゃるのですか?

と心の中で敬語になるほど動揺した。

後ろから、アンナが


「お背中、お流ししますね!」


と衝撃の一言を放った。



女性がみだりに異性に肌を見せてはいけないだろう。

だが、俺は今シルティの体に入っているから女だ。

しかもアンナとはそれほど年も変わらないから、これは普通か?

だが、先ほどよりも状況が厳しくなった。

ど、どうしよう・・・・

こういうときに何かアドバイスがほしいところだ。

だが、シロンはかごの中で髪留め状態。

身に着けてないと話せないのだからしょうがない。

俺は、手に髪留めを巻いておけばと後悔をした。






俺は、解決策が思いつかないので、もう流れに身を任せることにした。

アンナは、俺の手の届かない背中を流した後


「すみませんが、私もお願いしていいですか」


と聞いてきた。

俺は、もうどうにでもなれと思いながら


「いいよ」


と振り返ると本日何回目か分からない衝撃を受けた。




「みみみみみみみみみみみみみ、耳」




そこには、頭から猫耳を生やしたアンナがいた。


「耳?、あ〜そういえば言ってませんでしたね」


とアンナが俺の動揺に納得している。

俺は、確かにアンナのバンダナの中を見ていなかったから分からなかった。

だが、店主のジャンには頭に耳どころか髪の毛も生えていなかったぞ。


「私、キャットピープルと人間のハーフなんです」






俺は、気持ちを落ち着かせた。

落ち着いてみると先ほどの衝撃のおかげか、羞恥心はほとんどなくなった。

俺はアンナの身の上話に耳を傾けながらアンナの背中を流した。




「私の母は旅人だったのですが、ある日、ついに旅の費用が底をつきこの町で行き倒れたところをお父さんに助けられたと聞きました」


アンナの母は、最初は助けてくれたジャンの事を警戒していた。

昔は、種族間の差別が厳しかったらしく、アンナの母もキャットピープルである自分を助けてくれる人間なんているはずがないと思っていたからだ。

だが、ジャンはアンナの母を差別しなかったそうだ。

ジャンは、普通の人とは違う価値観の持ち主だったらしく純粋な善意から助けたのだった。

そのことに気づいたアンナの母は、ジャンの純粋な善意に対してお礼とばかりにキャットピープルであることを隠してジャンの宿屋の手伝いをしたそうだ。


そして、そんな日々が続く中、アンナの母とジャンはいつからか恋に落ちたそうだ。


だが当時、差別の激しかった時代に他種族との結婚は迫害の対象となる。

ジャンはそのことは気にしていなかったが、アンナの母は気にしてなかなか結婚しなかったそうだが、ジャンの強引な告白にアンナの母が折れた。

こうして、アンナの母は、自分がキャットピープルであること町の人から隠しつづける事を条件にジャンと結婚。

しあわせな結婚生活だったそうで、子供が生まれるのも時間の問題だった。


だが、他種族同士による出産にはリスクがあるらしい。

出産が成功する可能性は50%、母子ともに無事な可能性はさらに低い。

だが、ジャンとアンナの母は自分たちの愛の結晶である子供を死なせたくなく出産を決意。

ジャンの知り合いの医者は反対だったが、二人の熱意に負けたそうだ。




運命の出産当日。

アンナの母は、ジャンに


「あなたと生活した日々は、私の人生の中でも最も輝いていたかけがえのない思い出。

もし、私が死んでも私たちの子供を、アンナを私よりももっと幸せに育ててあげて。

私を助けてくれたあなたならきっとできるから・・・」


「私もおまえと過ごした日々はかけがえのないものだ。

私は、おまえと共にアンナを幸せにしたい。

だからそんな不吉なこと言うな、きっと幸せな生活が待ってるから。」


とジャンはアンナの母の手を握って励ました。

アンナの母は、その言葉にやさしくほほえんで握り返したそうだ。




だが、出産は失敗。

アンナの母は死に、アンナもとても危険な状態だったそうだ。




ジャンは大通りに向かって走った。

大通りなら人が多く、旅人の中には貴重な魔法の秘薬を持っている人がいるかもしれないからだ。


「助けてください!、誰か、娘を助けてください!」


ジャンは必死に叫ぶも誰も見ず知らずの人を助けるほどお人よしはいない。

だが、ジャンはあきらめずに叫んだそうだ。

なかには、どうしたとジャンに声をかけるものもいたが秘薬を持っている人はいるはずがない。

それでもジャンはあきらめずに叫んだ。






「そ、それでどうなったんだ?」


俺は、アンナの話に聞き入っていた。

アンナがここにいるって事は、誰かが助けたはずだ。

その危険な状態のアンナを助けられるほどの秘薬に俺は興味を抱いた。




「その時、天からとても神々しい白龍が現れたそうです」




俺は思わず、シロンのいるかごの方を向いた。


ギクッ!

かごの方からシルティの時と同じ、マンガみたいな音が聞こえた気がした。


「どうしたのですか、エンドウさん?」


「いや、なんでもない」


俺は話のつづきをと言った。


「では、話のつづきを・・・」




ジャンは天から現れた白龍に驚いた。

町中で、まさか物語のなかでしか聞かない白龍に会えるとは誰も想像がつくはずもない。

大通りを通行していた商人や旅人、客の呼び込みをしていた町の人々、すべてが驚いた。

すると白龍の背中から、とても美しい白い女神様が現れたそうです。

女神様は白龍をペンダントに変えると


「どうしたの?」


とジャンに問う。

ジャンは一瞬、自分に話しかけられたとは思わなかった。

だが、すぐに自分に話しかけている事に気づくと


「む、娘が、生まれたばかりの娘が」


と緊張からか、ろれつが回らなかった。

だが、女神様は緊急事態だと気づき


「案内して、早く!」


と案内を求めた。

ジャンはすぐに女神様をアンナのところに案内した。




女神様は、アンナの状態を見ると深刻な顔になった。


「む、娘は、アンナは助かりますか」


とジャンの懇願する声で尋ねると


「必ず、助けて見せるわ」


と女神様が言うと指に唯一はめている黒い石が特徴の指輪を指から抜いた。

女神様は、一度じっくり、指輪を見ると指輪をアンナの小さな指にはめて


「リカバリー」


と唱えた。


すると、アンナの元気な泣き声が部屋に響いた。


ジャンと医者は、驚いた。

この女神様は、世の中に出まわってる魔法の秘薬を使わずに自分のはめていた指輪をアンナにはめて、一言呪文を唱えただけで助けたからだ。

ジャンは女神様に泣きながらお礼を言った。


「ありがとうございます。本当にありがとうございます」


女神様は喜ぶのは早いと、


「今はこの指輪のおかげで助かっているけど、体調が安定するまでにこの指輪をはずしたら死ぬわよ」


その一言に、ジャンは気を引き締めた。


「この指輪の黒い石がなくなるまでだから・・・三日ぐらいかな?」


「三日ですか」


ジャンは、一生と言われなかったことに安堵した。


「わかりました。私の命に代えても絶対にはずさせません。」


女神様はがんばってねと明るい声で答えたそうです。


「それにしても私の娘のために貴重なものを使っていただき、何の御礼をしたら・・・」


「お礼はいらないわ、あの指輪は私のけじめだから」


そういうと女神様は白龍に乗って天へと去っていったそうです。

それからしばらくして私の体調が安定をして、あの指輪は消えてしまったそうです。


この出来事でアンナの母はキャットピープルであるとばれてしまったのですが、町のみんなは今回の出来事の概要を聞くと他種族に対する差別をしなくなりました。




「こうして、この出来事はこの町では知らない人はいないと言ってもいいくらいの伝説になりました」


アンナはそれでおしまいですと立ち上がり、着替えを始めた。

アンナは着替え終わると、


「私はこの女神様に会ったことは覚えてないですけど、エンドウさんが助けてくれたとき女神様が助けに来てくれたと思いましたよ」


そういうと服は洗っておきますねと言って部屋から出て行った。






いや~、書いているといろんなところでこだわりが出てきます。

今回の入浴の所は、最初は普通に風呂にしようかなと思いましたが、よく考えてみるとここは魔術ファンタジーの世界、前回ぐらいで貴族などの階級をあらわしたように、一般階級の場合、水道がないのにそれは難しい。

なので行水と言う形にしました。

(なにより、行水の方がなんかエロい気がしました)

これが、結構悩んでwikiで調べたりしてたいへんでした。

あと少しエロい気がしたのでR15タグを入れました。


もう一つのシルティの父親ジャンの話。

ジャンとアンナの母親の話は書いていてこういう話ならどうだろうと試行錯誤してみました。


あとがきネタの話

 前々回のサザ〇さんの定番ネタを出しましたがネタを考えるのは疲れたので思いついたときに書くことにしました。


作者のつぶやき

 このあいだ、見たレッドシアターのザブングルのネタが最高に面白かった。


最後に駄文ながらも読んでくださった皆様に最大の感謝を!


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