第1章 6 異世界編
第1章 6 異世界編
俺は髪や体を拭きながら、シロンに先ほどのアンナの話について聞いた。
『なあ、シロン、さっきの話に出てきた白龍と白い女神様って・・・』
『・・・・我と我が主だ。我も、まさかあの時の赤子だとは気づかなかった。なにせ、16年も昔の事だ。あの赤子も店主も変わったようだ』
シロンは話を聞いていてやっと気づいたと言った。
俺は、シルティの体に憑依しているからアンナが俺を女神様だと言ったことはあながち間違ってないなと気づいて
『16年前にシルティがアンナを助けて、今日、俺がアンナを助けるとは・・・・・』
『我も、偶然とはいえこんなに驚いたのは久しぶりだ』
俺は、話に出てきた黒石の指輪について聞いた。
『さっきの話に出てきた赤ん坊のアンナを助けた指輪は何なんだ?』
『あれは、・・・・・詳しいことは話さないが回復魔法リカバリーが付加された指輪だ』
『その指輪って魔法がこめられていたのか?』
『そうだ、だからあのような奇跡が起きたのだ』
貴重な魔法の込められた指輪を見ず知らずの人に使うとは、だが・・・
『その指輪はもうないのか?』
『ない、あれは我が主が作ったものではないのでな』
『もしかして、灰の魔法使いか?』
『・・・それ以上は、もう少しエンドウ殿が信用できる人間だと判断したときに話そう』
今日、出会ったばかりの俺にはシルティの過去を知る権利はないとシロンは言っているようだ。
『気が向いたらでいいよ』
と俺はそれを知る必要があるときに知っていればいいと思った。
ただでさえ、この世界になれてない俺が知識を入れたところで所詮付け焼刃だ。
俺はさっきの話で疑問に思ったことを口にした。
『そういえば、シルティって幾つなんだ?』
『我が聞いたときは永遠の18歳と答えておったぞ。我が主は、我が知る限りずっとその姿だ』
とシロンが言った。
実は、シルティはものすごい年上なんじゃないか・・・
俺は、ある問題に直面していた。
『シロン、シルティはどうしてたんだ?』
『我が主は魔法使いだぞ、当然魔法でなんとかした』
確かに、世界に7人しかいない魔法使いの一人であるシルティならそれぐらい何とかなるだろう。
だが、俺はシルティの体に憑依しているだけの異世界人。
当然魔法は使えない。
『下着なんてどうすればいいんだ・・・・』
着替えようと、ふと見ると先ほど持っていってしまった衣服の中に下着も含まれていることに気づいた時には遅かった。
俺は、さすがに今回は流れに身を任すわけにもいかず悩んでいた。
アンナの宿屋の娘としての気遣いは、すばらしいが、さすがにこの事態は予測していなかったようだ。
アンナはどちらかと言うと細身で、シルティのメリハリのある体とサイズ的にちがいがある。
服の方はだぼだぼだったので何とか着ることはできたが・・・
シルティの着ていた下着は俺たちの世界にあるような形状のものであった。
ブラは、白い布を後ろで結んで覆ったもので、ショーツは白い布を鎖骨あたりを結んだものだった。
さすがにアンナに下着を貸してくれと言うのは男の俺には無理だ。
今更何をいうか、とシロンが言うが、男としてこれ以上は勘弁してほしい。
シロンにシルティは着替えをどうしていたかと聞くと、なんでも、時間制御の魔法で水浴びした後に、服を新しい状態に戻していたらしい。
俺は魔法の無駄遣いじゃないかとシロンに質問したところ、
『我が主の魔力は異常に多く、それぐらいの魔法なら問題ない』
と言った。さらに時間制御の魔法は無機物に使うのは、それほど魔力は使わないらしい。
だが、一般人の俺はそんなものはできない。
とりあえず服は着たが、どうも下着がないとスースーして気持ち悪く、落ち着かない。
どうにかしたいと思い、俺は、今日の出来事で何か役に立つことはないかと考えた。
ふと、そういえばと俺は酒場に向かった。
酒場に置いておいた黒のローブをあさっていると
『エンドウ殿は何をしているのだ?』
『あの3バカのマッチョが投げた袋を、確か、入れておいたんだが・・・・お、あった』
俺は黒のローブからマッチョからの戦利品である袋を取り出した。
机の上に袋の中身を出すと中には、金貨2枚に銀貨13枚、銅貨が27枚あった。
俺はシロンにこれだけあれば下着を買うのは十分かと聞いた。
『十分だぞ』
俺はその言葉に意を決して下着を買いにいくことにした。
幸い、アンナの服はだぼだぼでロングスカートといかにも町娘っぽい格好だ。
少しだけなら問題もないだろう。
俺はどこにいるかわからないアンナに
「ちょっと買い物にいってくる」
と言った。これで聞こえるかなと思っていると
「エンドウさん、私が案内しなくて大丈夫ですか?」
とアンナの返事が聞こえた。さすが、キャットピープル、あの猫耳は飾りじゃないようだ。
「大丈夫、もし分からなかったら戻ってくるから」
「では、気をつけて行ってください」
俺は、一人暮らしだから最近言ってない言葉を思い出した。
「いってきます」
俺はあかねこ亭のある通りでとりあえず買い物を済ますことにした。俺はシロンに
『シロン、下着のありそうな店を知らないか?』
聞いてみた。するとシロンは
『我が主は雑貨屋でいつも買っておったぞ』
と言った。さすがにこの世界には下着専門の店というものはないらしく、そういう細かいものは服屋か雑貨屋に売っているらしい。
俺は、とりあえずこの通りで雑貨屋または服屋はないかと歩いていると、なにやら視線を感じる。
道行く人が俺の事を見ている気がする。
俺はシロンに
『なんか見られてる気がするが、俺の気のせいか?』
と聞いた。するとシロンはあきれた声で
『この街に入ってからエンドウ殿はずっと目立っているぞ』
我が主の体だから当たり前であろうと言った。
確かに、シルティは美少女だったが町娘の格好をすれば問題ないと思った俺の考えは甘かったようだ。
どうしようと思ったとき、恰幅のいいおばさんがやっている雑貨屋を見かけた。
俺は、さっさと店で目的の品物を買おうとおばさんに声をかけようとした。
だが、男の俺が女物の下着を買うのはためらいがある。
ちょっと躊躇しかけたところでおばさんのほうから声を掛けてくれた。
「おう、めんこい嬢ちゃん、いらっしゃい、何か買っていっておくれよ」
俺は背に腹はかえられないと
「し、下着はあ、ありますか?」
よっしゃ、言い切ったぞ俺は、だが何か大切なものを失った気がする。
おばさんは
「嬢ちゃんに合うのは・・・・」
とおばさんが長年の経験からか、俺の体を見て商品の中から一組の下着を取り出した。
俺は、おばさんを信用して
「そ、それください」
と言った後、おばさんに事情を説明して店の奥で着替えさせて貰った。
着替えてから俺は、落ち着かなかった状態が解消されたこともあって雑貨屋のほかの品物も見て回った。
雑貨屋には、アクセサリーなどの小物、薬草らしき草や包帯などの衣料品、インクの入った瓶やペンなどの文房具、先ほど買った下着や肌着などの衣類・・・・いろんな物が売っていた。
売り物を見ていて、俺の世界とはいろいろちがうなと思っていると、ふと、戦闘のときに胸が邪魔になったことを思い出した。
「おばちゃん、帯状で長い木綿の布ってないかな?」
と聞いた、するとおばちゃんは
「あるよ、これなんかどうだい?」
といって、白い木綿の帯を巻いたものを取り出した。俺はそれも買いますと言うとおばさんは先ほどの下着の代金も合わせて銀貨14枚のところを13枚におまけしてもらった。
財布の中に余裕があるので俺は、武器屋も見てみることにした。
ゲームにおいて俺は、武器と防具だったら武器を優先して買うことにしている。その方が経験値の効率もいいからだ。
だが、ゲームと違いこの世界ではリセットのきかない現実だ。
普通は、生存率を上げる防具を買うところだろう。
しかし、下手に防具を買って身につけても、動きが遅くなってしまい、いざというときに逃げられなくなってしまう。
それに、女のシルティの体は俺の体と違い、筋力が少ないのでなおさらだ。
こういうファンタジーの世界ならいろいろなものがあるだろうと俺は大通りに面した武器屋ではなく、あかねこ亭のある通りの武器屋を見ることにした。
大通りに面した方よりもこういうちょっと外れたところにある店の方が長年営んでいたりして掘り出し物があるものだ。
俺は店に入ると中では頑固そうな顔した無愛想な店主がいた。
「いらっしゃい」
俺は金貨2枚で買える武器はないかと聞くと、店主は
「そこの樽ん中に刺さっている奴ならどれでも金貨二枚で剣帯も付けてやるよ」
と言った。俺は無愛想に見えてちゃんと答えてくれる店主が本当は親切な人なんだろうなと思った。
俺は樽の中で女の体でも使えるものを探したが、樽に刺さっている剣はどれも重くて女のシルティの体では使えない。
そもそもマッチョが使っていたような剣は両手持ちで、相手を切るというよりも、剣の重さによって鎧ごと叩き切るに特化したものだ。
どうやらこの世界ではそういう西洋の剣が主流らしい。
どうしたもんかなと考えていると、ふと隣の樽の中に西洋では見られない形状のものがあった。
こ、これは・・・
俺は隣の樽に刺さった剣はいくらか聞いた。
「そこの樽の奴なら金貨二枚で剣帯と投げナイフ一本サービスしてやるよ」
と言った。さきほどよりもおまけが増えた理由を聞いてみると、この樽の中の剣はどれも物好きな先代の店主が仕入れたものらしく、珍しいものも多いが一般受けがよくなく売れ残ってしまったものらしい。
店主はその樽の剣はお勧めしないといったが、俺は迷わず
「この剣、買った!」
と言い、樽の中の剣を一振り手に取った。
店主は、親切にもその剣は切れ味はいいが折れやすくて、普通の剣と打ち合いをするとすぐ折れてしまうと教えてくれた。
だが、俺はこれならシルティの体でも使えると思ったからこの剣を選んだ。
俺は、さらに店主に投げナイフの変わりに3バカのチビからの戦利品であるナイフを入れる皮製の鞘に変えてもらえないか交渉したところ、
「ああ、いいぞ」
と店主は答えた。
俺は金貨二枚を払うと、さすがにこの服装に剣帯は似合わないし何より目立つので、店主に買った物を布に包んでもらった。
[アンナ side]
私は洗濯をし終えて、洗濯物を室内に干してた。
いつもは宿泊客から頼まれた洗濯物を朝干しするのだが、今は恩人であるエンドウさんの洗濯物を干している。
エンドウさんの着ていた白のワンピースは肌触りがよく、とても良い物の様だ。
室内干しだと乾くのが遅いが、このワンピースは乾きやすそうなので夜には乾くだろう。
洗濯物を干し終えたところで、酒場の方からエンドウさんの声が聞こえてきた。
どうやら買い物に出かけるらしい。
「エンドウさん、私が案内しなくて大丈夫ですか?」
エンドウさんは大丈夫と答えたのが聞こえた。
「では、気をつけて行ってください」
と言うと、いってきますと返事が聞こえた。
エンドウさんが買い物に出掛けてからしばらくしてお父さんが帰ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま・・・」
とお父さんは少し不安げな声で答えた。
「なにかあったの?」
と聞くと、お父さんは事情を説明してくれた。
なんでも、最近、商人の馬車が盗賊に襲われたそうであの男たちはその時の一味じゃないかという事らしい。
さらに、その盗賊の中には魔術師がいるらしく、至急、領主様に知らせたが、援軍が来るのには早くても明日の朝頃になってしまう。
その間は不必要な混乱をさけるためにこのことは他言無用との事だそうだ。
私も、この事を聞いて不安になってしまった。
魔術師がいるということは、こちらにも魔術師がいない限り一方的にやられてしまう。
魔術師に対抗できるのは同じ魔術師のみという言葉があるくらいこれは世の中の常識である。
遠距離から攻撃できる魔術師は、魔術の使えない一般人100人に勝てると言われているくらいだ。
物語の中には、剣で悪い魔術師を倒す勇者というものもあるがそれは夢物語であって現実ではまずありえない。
私が不安になっていると
「明日の朝まで持ちこたえればいいのだから大丈夫だ。それに町の自警団も警戒してくれているから何の問題もないよ」
とお父さんは不安に思う必要はないと笑いかけてくれた。
お父さんの笑顔を見て私は、そうねと答えた。
「さ〜て、そろそろ店の準備をしよう」
とお父さんは料理の下ごしらえをするために店の奥に行った。
私も、酒場の準備をするために店の前を掃除することにした。
店の前を掃除し終え、店の中でテーブルを拭いているとエンドウさんが帰ってきた。
エンドウさんはなにやらいろいろ買ってきたらしく、布に包まれた1m程の棒状のものと袋を抱えている。
「ただいま〜♪」
エンドウさんはいいものを見つけたらしく上機嫌だ。
「お帰りなさい、エンドウさん。何か良い物があったのですか?」
「うん、ちょっと武器屋で掘り出し物があったんだ」
なるほど、エンドウさんが抱えているものはどうやら剣らしい。
エンドウさんは魔術師じゃなくて剣士なのかもしれないと思っていると
「それに、さっき預けたナイフも抜き身のままじゃ危ないから鞘を買ってきたんだ」
エンドウさんは袋の中から皮製の鞘を取り出し私に見せてくれた。私は
「では、さっきのナイフを持ってきますね」
と言い、預かっていたナイフを取りに行った。
エンドウさんは持ってきたナイフを渡すと皮製の鞘に収まるか試した。
どうやらピッタリらしい、エンドウさんはナイフを袋の中にしまうと
「何か手伝うことはないか?」
と聞いてきた。恩人であるエンドウさんに手伝って貰うなんて・・・と思っていると、
「服のお礼だから遠慮しないで」
とこちらが遠慮していることに気づいたらしい。
どうしようかと悩んでいると店の奥からお父さんが顔を出してきた。
どうやら話を聞いていたらしい。
「話は聞かせてもらいましたエンドウさん、それではアンナの手伝いをお願いしてもいいですか?」
「わかりました」
お父さんはどうやらエンドウさんに手伝ってもらうことに賛成らしい。
恩人であるエンドウさんに手伝って貰うなんて何考えてるのとお父さんの方を向くとウインクをして店の奥に下がっていった。
今回の話は前回のつづきです。
終わりの部分は半端になってしまいましたが、ここで円堂の視点に変わり区切りがよくなるのでこのような形にしました。
買い物の話
ここで円堂はある程度装備をそろえることにしました。
多分読んでる人たちは円堂が何を買ったか予想できるでしょう。
まぁ、異世界編も結構書いていていろいろネタが思いつくので楽しいですが、魔術学園ファンタジーって言ってるくらいだからアカデミー編の方が主体なのであと第1章は3つくらいで終わりにしようと思います。
そろそろ作者の夏休みが終わってしまうので次回はなるべく早くあげようと思います。
作者のつぶやき
恐怖の成績表が・・・・来た(吐血)