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忘却(ぼうきゃく)の記憶

「お母さん、この写真のおじさん誰ぇ?」

「おじさんじゃなくて、貴方のお父さん」

「このおじさんが?」

「うん、私と結婚した人」

「どうして私にはお父さんいないの皆にはいるのに」

「大智はね...お父さんはね...」

「お父さんがどうしたの?」

「......」

 下手に「お仕事で今遠いところに居る」何て答えたら。いつか帰ってくるという事になるし。嘘は良くないと亜理紗に言ってるのにそれは駄目だ。残酷なようだけどこの際正直に話そう。

「亜理紗、よく聞いて。貴方のお父さんはねもうこの世界に居ないの...」

「じゃあ、帰ってこないの?」

「うん」

「......」

「ごめんね、泣かないでお母さんがそばにいるからね」

「お父さんに会いたい!」

 案の定亜理紗は泣き出してしまった。あまりに残酷な現実を押し付けてしまった。私は抱き締めることしか出来なかった。宅間大智たくまだいちはもうこの世界に居ない。そう思うと自然と自分も涙があふれてきた。その時玄関のインターホンがピンポンと鳴った。ドアを開けてみると紫色のロングヘアの異世界の魔法使いの女、エヴリン・スカーレット”Evelyn Scarlett”。

「茜大丈夫?目頭赤くなってるよ...」

「ごめんね、みっともない姿見せちゃって。今日だっけ?魔術の稽古するの」

「あれは元々私が勝手に始めたものだし中止よ」

「え?やんないの?」

「辛い思いをしてる状態で修行何て出来るわけないでしょ、ただ心を落ち着かせる施術ならできるわ」

「本当に?料金は?」

「いりません。業務時間じゃないから。まず二人とも椅子に座ってくれる?」

エヴリンに言われるがままに椅子に座った。最初の数分間は今の自分の気持ちを聞いてもらった。次にベッドに寝

るように促された(うながされた)。久しぶりだけど何か白い雲の上を飛んでるかのような安らげる声だった。時間の感覚も消えてしまった。

「どう、気分良くなった?」

「何かすっきりした」

「そう、それは良かったわ。じゃ帰るね」

「ありがとう」

「辛い時があったら私を呼んで」

「うん」

「じゃあね」

 宅間大智たくまだいち。どんな声で話していたのか、数百年の内忘れてしまっている。今残っている彼の記憶は写真と色褪せた軍服だけだった。














 

 








 

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