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後宮下女の生存理学 〜呪いも病も、そんなの全部ただの現象です〜  作者: 和三盆


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第16話 血液型判定と禁断の適合者

 西離宮から持ち帰ったツールボックスの底に、その小瓶は隠されていた。


 青いラベルの《A》。

 黄色いラベルの《B》。

 そして、《Rh》と記された赤い小瓶。


 ――血液凝固判定用試薬。


 密封状態は完璧で、液体の粘度も変わっていない。

 この世界では再現不可能な精度だ。


 師匠とは別の「先駆者」。

 彼(あるいは彼女)が残した、最強の生存装置。


「……何をそんなに真剣に見ている」


 ガクが執務机越しに覗き込んだ。

 彼の部屋は、いつの間にか完全な「作戦本部」になっている。


「血の地図を描くためのインクです」


 私は短く答え、ガラス板を取り出した。


 王の血。

 そして比較用に、ガクの血。


「この国では、血縁なら血を分け与えられると信じられていますね」


「ああ。親子兄弟なら問題ない、と」


「それが最大の誤解です」


 私は青い試薬を、王の血に落とした。


 ――瞬間。


 血液が、砂を固めたように凝集した。


 次に、同じ試薬をガクの血へ。


 こちらは、何の変化もない。


「……なんだ、今のは」


「拒絶反応です」


 私は淡々と告げる。


「陛下の血は《A型》。

 ガク様の血は、それとは混ざると殺し合う血です」


 ガクの顔色が変わった。


「もし、忠誠心からあなたの血を直接注げば――」


 私はガラス板を彼の目の前に突き出す。


「陛下は即死します。

 血管の中で血が固まり、詰まるからです」


 この世界では、忠臣が血を捧げることは美徳だ。

 だがそれは、運任せの自殺行為に過ぎない。


「……俺の血が、劣っているからか?」


「違います。形が違うだけです」


 丸い穴に、四角い杭は入らない。

 貴賎も、上下もない。

 あるのは、化学構造の差だけ。


 私はタブレットを起動し、王家の家系図を展開した。


 血友病という「止まらない爆弾」。

 近親で固められた血統。

 そして、異様なまでの生存率。


「陛下が今まで生き延びてきたのは、奇跡ではありません」


 私は画面をなぞる。


「適合する血を持つ人間が、偶然そばにいたか。

 あるいは――」


 言葉を切る。


「不適合な血を持つ者が、意図的に排除されてきたか、です」


 ガクの拳が、机を軋ませた。


「……それで。お前は何をする気だ」


「血の銀行を作ります」


 私は即答した。


「輸血可能な血を持つ人間を事前に選別し、確保する。

 陛下のためだけではありません」


 視線を上げる。


「紫雲様の出産のためです」


 出産は、最大の出血イベント。

 ここで血が足りなければ、母子ともに終わる。


 ガクは黙って腕まくりをした。


「調べろ。俺の血を」


 迷いはない。


「紫雲の役に立つなら、いくらでも抜け」


 私は針を取り、指先を刺した。


 数秒後。


 ――反応なし。反応なし。


「O型です」


 私は静かに告げる。


「誰にでも使える血。

 最も“価値が高い”血です」


 ガクは乾いた笑いを漏らした。


「殺し屋が、救済の血か」


 皮肉だが、事実だ。


「これで戦えます」


 私は次のプランを提示する。


「後宮全体を検査します。

 名目は『占い』。実態は健康診断です」


 相性占いと言えば、女官は指を差し出す。

 非科学を盾に、最先端の医療データを集める。


「毒には毒、か」


 ガクが笑った、その瞬間。


 扉が乱暴に開いた。


「ガク様! 紫雲宮から!」


 女官は息を切らし、叫ぶ。


「妹君が到着された直後、喀血して倒れられました!

 呪いだと……!」


 血縁者。

 急病。

 発症の連鎖。


 偶然ではない。


「行きます」


 私は試薬瓶を懐に収めた。


 これは治療ではない。

 一族の設計図を暴く解剖だ。


「ソラ、俺の後ろにいろ」


 ガクが剣を佩く。


「血なまぐさい話になる」


 血液型判定、ドナー確保。

 準備は終わった。


 私たちは、新たな「血の戦場」へ踏み込むのだった。

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