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31話 皇太子、すめらぎになる

フィクションです。


一気に駆け抜けます。

 すめらぎから儀式や祈りをすべて任されるようになったのは、皇太子になって三年経ってからだった。


『女性は穢があるから、儀式に向かない』


 そういう声が一部で上がった。


「いつの時代の話をしておるのじゃ?」


 アマテラスがその話を聞いて、首を傾げた。


「今の時代であれば、問題なかろう?」


 アマテラスはじっと皇太子を見る。


「そう言い張るやつを連れてこい。説教してやろうぞ」


 最近、何に影響されたのか、アマテラスはよく『説教』という言葉を使うようになった。


 皇太子は苦笑する。


 女官の明音がテレビのスイッチを入れた。

 ちょうど、仮の宿の占い師が出ている番組が映し出された。




『法律が改正されたのに、何がダメなんですか?』


『女性には、月のモノがあるではないですか、それは穢にはならないのですか?』


 仮の宿の占い師はゆっくりと首を傾げる。


『私はあなたが女性に見えるのですが……』


『女性です』


 顔を真っ赤にしながら、その女性議員は、言った。


『穢、ですか?』


『そうじゃないですか! 神聖な儀式を、穢で、穢で……』


 感情的になっているのか、次の言葉が出てこない。


『穢を神々が忌み嫌うからですか?』


『そうです!』


 なるほどと、あえてゆっくりと仮の宿の占い師はうなずく。


『穢……えっと……』


 仮の宿の占い師はゆっくりと周りを見渡し、スケッチブックを持っているカメラマンの足元にいるADを見た。


『その、スケッチブック、貸していただけますか?』


 ADの青年は姿勢を低くして、そっとスケッチブックとペンを司会者に渡した。

 司会者からスケッチブックとペンを受け取った仮の宿の占い師は、スケッチブックに書いた。


『穢 = 気枯(けが)れ』


『こういうことですね。ツクヨミ様を通して、アマテラス様に確認してもらったところ』


『男神に女性のそういうデリケートなところを尋ねたのですか? なんて破廉恥な』


『は?』


 仮の宿の占い師である直子は、何度も何度も瞬きをした。


『何か、勘違いなさっているようですが』


『まぁ、ツクヨミ神は女性だと?』


(なんなんだろう? この、無駄な時間は……)


 直子は、気持ちを落ち着け、その女性議員を見た。


『ツクヨミ様は、月を支配されておられる神です。月が女性の体にどう影響を与えるかなんてご存知ないはずがないじゃないですか。ツクヨミ様は、一応、男神で『男性』になりますが、そのあたりのことは、気にされていませんよ?』


『どういう認識なのでしょうか?』


 司会者が割り込んだ。

 女性議員は明らかに感情的になりすぎていた。


(あ~そう言えば、この人、男系男子主義の人が夫だったわ)


『男が子供を産めるか?と、おっしゃってました』


 一瞬、司会者の頭の上に大きな?が浮かぶ。


『どちらかといえば、女性神の領域になりますが、アマテラス様の加護がありますので、体調が悪くなることはないでしょう。他の人よりもいろいろと楽になっていると思います』


『そんなの、贔屓じゃないですか!』


『そうですよ。前にも申し上げましたが……』


 そこまで言って、直子ははたと考えた。


『これは、神の言葉を書いてもらったのでしたね』


 そう言って、ADにニッコリ笑う。

 ADはややしてから大きく頷く。


『神は贔屓をするものです』


 直子ははっきりと、言った。


『あなたがすめらぎと同じように、早朝、寒くても水で禊をすませ、祈りを少なくとも1時間、代わりにするというのでれば、アマテラス様から加護がもらえるんじゃないですか?』


『はぁ?』


『まぁ、あなたと、皇太子殿下を比べるなんてそんなことできませんけど、そもそも、比較対象にもなりませんけどね。

 アマテラス様は心の広い方なのですよ? 女性が命を育むということをわかってらっしゃいます。今でこそ、出産で命を落とすということは少なくなりましたが、昔は命がけでしたよね? その時代のことを引きずっていて、どうするのです? そもそも、アマテラス様は皇太子殿下を贔屓しておられます。月のモノに関しても、ご存知です。今のところ、アマテラス様から、ツクヨミ様から、皇太子殿下に穢があると言われたことは一度もありません』


『そうですよね。穢があるとすれば、あなたじゃないですか?』


 そう言ったのは、舌っ足らずのアイドルだった。


『私がこういう言い方をするのも変ですけど、頑張ってる人は応援したくなるじゃないですか? 自分達のために祈りを捧げてくれている皇太子殿下の体調が悪くならないようにするぐらい、私が神なら、やります』


 直子は頷く。


『そのとおりなんですよ。もし、出産直後であれば、まず、体を休ませることを優先させるでしょう。その間に祈りが必要であれば、アマテラス様から何かあるはずです。その時は、今のすめらぎが、頑張ればいいことです』


 直子はこともなげに言った。


『それに、アマテラス様は小さなお子様が大好きなんですよ。その子がいるだけで、いろいろな神の恵みは……あるかもしれませんね』


『それは、今後、皇太子殿下がご結婚され……ご懐妊……出産……となっても、何の問題もない……ということですね?』


『はい。むしろ、子供はいっぱい産めとおっしゃるかもしれませんね』


 ふふふと、直子は笑った。


『いつかの緊急日食で、いろんな神々が目を覚まされたと聞いております。その中に産神(うぶがみ)とされる木花之佐久夜毘売(このはなさくやひめ)豊玉毘売(とよたまびめ)が目を覚まされたそうです。その神々も皇太子殿下とご対面されたということのようです。間違いなくその神々からもご加護を授かっていると思います。そもそもアマテラス様が贔屓されている時点で、神々に困ることは何もないのですよ』


『納得いきません』


『では、数年後、それが証明されると思います。皇太子殿下がすめらぎになった時、ご懐妊・ご出産があったからといって、神々がお祭り騒ぎをする可能性はありますが、忌み嫌うということはないでしょうね』


 直子はそう言い、女性議員を見た。


(うわ、本当に、ハンカチをくわえてキ~~~~ッてなってる……。大丈夫なのかしら、この人……)


『でも、その前に、ご婚約発表ですね。楽しみですね』


 直子はカメラ目線ではっきりと言った。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「さすが、ツクヨミの一族の長の妻……ですね」


 明音は淡々と言う。


「皇太子殿下、心は決まりましたか?」


 皇太子はうなずく。


「おばさま方にも、抱っこしていただきたいですもの」


 明音は頷く。


「では、すめらぎのところへ」


 縁談は慎重に進められていた。

 当然、『お相手』となる方は、すめらぎ、皇妃、そして三貴神が認めた者という……とんでもないお墨付きだった。

 巫女の一族やツクヨミの一族の協力も得て、グループで行動する中に、そのお相手はいた。

 カムフラージュとして、時々望と朋美もそのグループに入っていた。



 執務室に入り、人払いをしてもらう。

 その様子で、皇太子の心がきまったことにすめらぎと皇妃は気付いた。


「話を進めてください」


「わかりました」


 すめらぎが頷き、内線で侍従に言った。


「婚約の話、進めてください」


『はい……』


『はい』は聞き取れたが、それより後は、歓声で聞き取れない。


『万事つつがなきよう、心を込めて尽くしてまいりましょう』


「よろしく頼みますね」


 皇妃が皇太子を抱きしめた。


「アマテラス様からご加護をいただいてます。もしかしたら、すぐに……授かることになるかもしれません」


「まぁ、どうしましょう。なんて呼んでもらおうかしら。『ばあば』もいいし……」


 皇太子は喜んでいる皇妃を見て、自分も嬉しくなってくる。


「そうですね。誰が言おうと、『パパ』と『ママ』でいいと思います」


 すめらぎが言った。

 皇妃は少し首を傾げ、ややしてから苦笑する。


「お父さまやお母さまは、人前だけで。家の中では、パパとママのほうが……私もいいと思うわ」


 皇太子は幼い時の事を少し思い出す。

 その頃はまだ皇太子と皇太子妃だった。

『パパ』と『ママ』から『お父さま』『お母さま』と呼び方を変えた時、二人共、少し寂しそうな目をしていた。


 皇太子は明音を見た。

 その意味が明音にはわかり、三人に一礼すると、退室した。


「ここは執務室で、家ではないのですけれど……。パパ、ママ。ありがとう」


 皇妃が皇太子を思い切り抱きしめた。


「もう一度呼ばれるなんて……」


 その後は言葉になっていなかった。

 すめらぎは娘を抱きしめたいが、どうしようかと少し迷っていた。


「さっさと、抱きしめんか。そなたの娘であろう?」


 アマテラスがまた逆さまで現れる。


「パパったら……」


 皇妃が少し場所を譲る。


「うんうん、パパ、いいですね。これは、すめらぎ一家だけの秘密にしましょう」


 そう言いながら、すめらぎは娘である皇太子を抱きしめた。


「侍従たちが張り切ってしまいましたから、こちらの予定は完全に無視されますよ」


 横で皇妃が笑っている。


「嫁に出すわけではないからな。いつでも会えるというのは良いな」


 アマテラスは皇妃に言った。

 うなずいた拍子に皇妃の目から涙が落ちた。


「毎回言っておるが、天気は任せよ」


 アマテラスは笑顔で言った。

 そして、侍従たちがいるところにあえて姿を見せた。

 固まる侍従たちに、アマテラスは言った。


「桜吹雪をしたい。その季節に結婚?とやらか? ぱれえどか? できるように計画せよ」


 それだけ言うと、アマテラスは姿を消した。


 固まっている侍従たちの中で唯一、アマテラスに頭を下げていたのは明音だった。


「かしこまりました」


 その返事は聞こえているであろうと思いながら、明音は言った。


「では、逆算して、計画しなくてはなりませんね? 今、10月ですよ? どうされます?」


 明音は侍従たちを見渡した。


「大丈夫です。いつでも大丈夫なように、こっそりと裏で動いておりました」


 そう自信を持っていったのは、これまた意外な侍従長だった。


「マスコミにも言わねばいけませんね」


「あと、佳き日を選ばなくてもいけませんね」


「仮住まいはどこにいたしましょう?」


 慌ただしく、しかし、楽しげに仕事をしている侍従たち、それに巻き込まれている職員たちだった。


 翌日、皇太子殿下の『ご婚約決定』と報道された。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ご婚約決定という報道があってから、国民は慶事に沸き立った。

 その中には、アマテラスの奇跡をまた見てみたいという願いもある。

 相手の詮索や、過激な報道をするマスコミ関係者や報道関係者には、ツクヨミの印が現れるというハプニングがあったが、自粛するとその印は消えていった。

 それ以降、マスコミやテレビの報道は、穏やかなものになった。

 抜け駆けしようなどと考えようものなら、ツクヨミとスサノヲの印が出てくるようにもなった。反省するとその印は消えるのだが、一度印が出たことが他の人に知られてしまうと、皇太子殿下のご成婚関係からは干されるということになった。


『皆様、ご理解いただき、ありがとうございます』


 仮の宿の占い師が、テレビに引っ張りだこになっていた。

 彼女の穏やかな話し方、時にはトゲを含んだ言い方が人気になっていたのだった。

 それに、神々の意思にそっての発言なので、ツクヨミやスサノヲの印が出ることもない。

 生出演しかしないということで、出る時間帯は決まっているようだったが、それでも彼女が出演しているワイドショーは視聴率が上がっていた。


『もしかして、神々から、桜吹雪のお祝いがあるのでしょうか?』


『どうでしょうか。でも、それがあれば、きれいでしょうね』


 直子は、内心、『バラすんじゃねぇ!』と怒っていたが、それが表情や口調に現れることはなかった。


『もしかしたら、サプライズというのを考えてらっしゃるかもしれませんから、あまり予想をして、それを口に出すのは……どうかと思いますよ?』


 ふふっと直子は笑ったが、その発言をした人を見た目は、笑っていなかった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 お妃教育というものがあったが、皇太子の配偶者に対する教育を何と言えばいいのかという議論があった。

 皇配教育という言葉が出てきたが、まだすめらぎにはなっていないので、皇配ではないのではないか? しかし、未来の皇配になるのだから皇配でいいのではないか?

 今現在なら、皇太子配教育でいいのではないか、という意見もあった。

 そもそも、広辞苑にも載っていない言葉だった。

 女性すめらぎがあったころ、そもそも、『お妃教育』というもの自体が存在していないのであった。せいぜい『花嫁修業』に近いものだった。そもそも貴族の娘しか妃にはなれなかったし、平民が選ばれることはなかった。

 教育の内容は、お妃教育の男性版になるのだろうか。

 内容は、皇族の配偶者として求められる知識や心構え、儀式作法など基本的なことをはじめ、それらを身につけるための皇室の歴史や伝統、そして公務に関する知識、作法・祭祀。最後に、いちばん大切な国民に寄り添い支えるための心構え。

 それを決められた日数で学ぶことになる。

 皇太子の婚約者となった青年は、淡々とこなしていった。

 そして、その所作はどんどん洗練されていった。

 いや、もともとの所作に問題は特になかったのだが、所作のお手本が『すめらぎ』だったため、ハードルが高くなっていたのだった。

 しかし、その青年は努力を続けた。それは、皇太子に恥をかかせないためだった。

 留学経験もあり、英語は問題なかったが、他の言語となると、日常会話は問題なくても、皇族としてとなると、まだまだ足りていない。

 結婚相手として選ばれてからは、皇太子が学んでいない言語を中心に学び始めたのだった。足りないところを補うことができれば……と考えたからだった。

 しかし、皇太子の語学力は母親の皇妃ゆずりで、語学の習得が早い。それに発音もネイティブに近い。

 普通なら、プライドをへし折られてしまうところだが、その青年はそうは思わなかった。努力を続けることを苦になっていないのだった。

 青年の専門分野は、皇族の中では少し異質だったかもしれない。

 宇宙物理学だった。

 しかし、その専門分野の話を、皇太子は興味深く、聞いてくれていたのだった。

 次に会う時には、素朴な疑問と称して、質問を受けることもあった。

 目の付け所が違うと思いながら、青年は質問に丁寧に応えていった。

 二人の交流に愛情はどこ?と周りは思うところがあったが、二人を包む空気はとても穏やかだった。



『お互いを尊重できる相手』


 かつて皇太子が理想の結婚相手はどういう人かと聞かれた時の答えである。



 皇太子の配偶者としての教育は滞り無く終了した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 過去の記録を遡っての儀式の準備となった。

 皇太子のみが身につけられる色で平安装束の正装が誂えられた。

 大垂髪は皇太子が伸ばし続けていた髪で結われた。

 まだ皇太子になる前、アマテラスの姿を見て、憧れたというのは、誰にも話していない。

 夫となる青年も正装に着替える。

 髪型は特に決められていなかったが、すめらぎの髪型を少しまねした。

 多少、くせ毛だったのだが、冠を被るのに問題はなかったようだった。

 緊張した面持ちで、二人が回廊を進む。

 報道は決められたところで、カメラをかまえているだけ。

 一言も声を出すことは許されていなかった。


 結婚の儀は、とどこおりなく終わった。

 その場に、アマテラス、ツクヨミ、スサノヲもいたのだが、見える人は限られている。

 すめらぎは三貴神が何かしでかさないかと、ひやひやしながら、皇太子たちを見守っていた。



 次は洋装に着替える。

 皇太子はローブデコルテにティアラ、その配偶者の青年は、ホワイトタイで燕尾服だった。

 皇太子のローブデコルテもティアラも新調されていた。

 それは、すめらぎと皇妃からではなく、皇妃と皇太子をいつも温かく見守っていた『おばさま』と呼ばれている夫人達と、すめらぎの義理の叔母にあたる夫人からだった。

 すめらぎと皇妃は最初その提案を断ったのだが、『私達の命のある内に……』といわれると、二人は渋々頷き、三人の希望を受け入れたのだった。

 三人は、知らない。

 アマテラスが病気を癒す神に、それぞれが持つ小さな病の種をすべて摘み取るようにと願ったことを。


「ほんとうはすめらぎになる時に送りたかったんだけどね……」


 生前譲位するであることはわかっているが、それが何年先になるかは誰にもわからない。

 その言葉をアマテラスはうんうんと頷きながら横で聞いていた。



 儀式の後の記念撮影した写真は、すぐにマスコミに公開された。

 少し緊張した面持ちの青年。その横には、やわらかな笑顔の皇太子。

 少し前で二人の両サイドで椅子に座っているのは、すめらぎと皇妃。二人共、喜びの笑顔だった。





「そろそろ、わらわの出番か?」


 アマテラスは、オープンカーに乗り込む二人の姿を見ていた。

 季節は三月末。

 しかし、桜の花は咲いていなかった。

 寒かったというわけではない。

 ただ、蕾のまま、その花びらを開かせるのをずっと待っているようだった。

 少し肌寒いと思われていたので、ジャケットを用意されていたが、皇太子は首を横に振った。


「このままで、大丈夫です」


 女官は皇太子の横で頷く。


「アマテラス様が、皇太子殿下に寒い思いをさせるなど、考えられません」


 確かにと周りは納得する。


 一見肌寒そうに見える姿で、皇太子と青年はオープンカーで、笑顔を見せる。

 宮中楽部が演奏する曲に送られ、出発した。

 その音楽に合わせて、沿道の桜の花びらが膨らんでゆく。

 そして、皇太子夫妻が乗るオープンカーが横を通る前に満開になっていく。

 唯一、ドローン撮影を許されたのは、ツクヨミの一族が紛れ込んでいるテレビ局だった。

 当然操縦するのは、ツクヨミの一族。

 ドローンには当然のようにツクヨミの護りがあった。


 オープンカーの動きに合わせて、桜の花が開いて行く様子は、幻想的だった。

 沿道に集まった人々は、小旗を振りながら、目は桜に、オープンカーにと忙しい。

 警備に当たっている警察官も目がキョロキョロとしていた。

 アマテラスからの祝福だと思っていても、信じられない光景だったからだ。


 パレードは、約30分。


 満開になった桜は散ってゆくが、それが風に運ばれてゆく。

 不思議なことに花びらが道に落ちないのだった。

 パレードも終盤になった、皇太子は後ろを振り返り、微笑んだ。

 本当に桜が満開になっていたのだった。

 花びらがオープンカーの中にも入ってくる。

 ますます、沿道の歓声も大きくなってゆく。

 恐らく、今のすめらぎの成婚時のパレードを上回っているだろう。


「しあげじゃ」


 楽しげなアマテラスの声。


 風が吹いた。

 それも、下から上に。

 桜の花びらが一気に上にあがった。

 そこからは風の動きに合わせて、花びらがはらはらと舞い落ちてくる。


「桜吹雪だ~」


 小学生達が沿道に並んでいた。

 パレードよりも花びらに両手を伸ばしている。

 皇太子はその光景を見て、手を振りながら、微笑んだ。


 パレードが終わり、門の外ではまだ興奮が冷めやらぬ状態になっている。

 出迎えで立っていたのは、三夫人だった。


「おめでとう」


「ありがとうございます」


 皇太子は笑顔で応える。

 その横に立つ夫となった青年は、あらかじめハンカチを皇妃から渡されていた。

 自分用ではなく、皇太子用である。


 今の今までは使う場面はなかったが、三夫人を眼の前にすると、やっぱりダメなようだった。


「おばさま……」


 夫である青年がハンカチを使うよりも先に、三夫人がそれぞれに用意したハンカチで皇太子の涙を拭う。


「ティアラとローブデコルテ、ありがとうございました」


 三夫人は、目に涙をためながら、頷く。


「どれだけこの日が待ち遠しかったか」


 一人の夫人は、夫の写真を胸に抱きかかえていた。


「おじさま、私はこの人と結婚しました」


 青年が慌てて、皇太子の少し後ろに立つ。

 そして、写真に向かって、しっかりと礼をした。


「まだ儀式が残ってるわね」


 そう言うと、一人の夫人が、声を掛けるタイミングを窺っていた職員をちらっと見た。


「いってらっしゃい」


 笑顔で頷く皇太子の一歩後ろで、青年がしっかりと頭を下げていた。


「皇太子殿下、こちらへ」


 職員は次の儀式の案内をする。


 皇太子とその夫の後姿を見ながら、三夫人は呟いた。


「『おばあちゃま』がいいかしら?」


「『ばあば』は皇妃がそう呼んでほしそうだし……」


「ここはやっぱり『おばあちゃま』ね」


「それなら私は『大おばあちゃま』かしらね」


 そう遠くない未来の相談をしていた。

 アマテラスはそれを聞き、何やらうなずいていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



『皇太子殿下 ご出産』


『内親王ご誕生』



 皇太子が成婚して1年後、そのニュースが新聞やテレビ、ネットに流れた。

 皇室典範の改正により、その内親王が未来の皇太子に、そしてすめらぎになることが確定された。

 男女が変わっての最初の儀式は一部職員達の中で、混乱を招いたが、「これからはどちらにも対応出来ないとダメよ!」と言い切る職員のお陰でなんとかなっていった。

 その一人の職員の名言は、『これからは、儀式もハイブリッド!』

 明音はそれはどうなんだろうと思ったことは、黙っていた。




 皇太子夫妻は、さらに二人の内親王、一人の親王に恵まれた。

 皇太子の考えで、帝王学はすべての子供達に学ばせることにした。

 教育の大切さを身を以て知っていたからだった。

 皇太子にティアラを送った三夫人はまだまだご健在。

 事あるごとに、顔を出し、『おばあちゃま』と呼ばれるのを楽しみにしていた。

 皇妃が孫たちの相手をしている姿を見て、すめらぎの妹である聖子は、かつての祖母を思い出す。

 見えないけれど、そばにいてくれるような気がしていた。



 それから十三年。

 すめらぎが皇太子に生前譲位をした。

 子育ても一段落しただろうというのが、一番の理由だった。

 そして、第一子の長女が皇太子となる。

 すめらぎは上皇となり、皇妃は上皇妃となった。

 前の時代を思い出す嫌な響きだったが、仕方がない。

 すめらぎと一歩後ろにいる皇配。

 

 元号が変わった。


 次女である皇女が、上皇の妹聖子の養女となった。

 理由は、祭祀を手伝うため、だった。

 アマテラスがそれを良しとしたため、すめらぎはそれを許した。

 一人、家から離れていったが、聖子が住んでいるのは、すぐ近くだった。

 渡り廊下があり、雨が降っていても傘をささずに家を行き来できる。

 上皇夫妻の住んでいる場所も、同じく、渡り廊下で繋がっていた。


 上から見ると、それぞれの住居で三角形を描いているようだった。


 すめらぎは、ひいお祖父さまにあたる昭和天皇の残した言葉、『継承は直系の長子に』という意味がわかったような気がした。

 子供は4人授かったが、一番最初に生まれた長女が一番皇統のオーラが強かった。

 次女や三女、そして長男にも皇統のオーラはあるが、やはり力は少し落ちるのだった。

 そして授かった不思議な力も、長女が一番強かった。

 人のオーラが見え、嘘と悪意を見抜いてしまう。

 そしてたまに、お墓に入っていないといけないはずの人達の姿を身近なところで見かけてしまうのだった。

 その時は、同じものが見えているすめらぎがきちんと説明をしていく。

 そして、自分の護り方も。

 皇統のオーラの強さは隔世遺伝だと言われていたが、時々番狂わせは起こるらしい。

 長子は生まれた時、すでにすめらぎの皇太子時代と同じぐらいだった。


「そりゃ、直系長子が続けばそうなる」


 アマテラスがあっさりと答えをすめらぎに言う。


「ただ、時々、肉体が魂に負けてしまう時があるんじゃ。その時は次に生まれた子になるがな」


 なるほどと、すめらぎは頷いた。


 アマテラスは、皇族にかけられた呪のことは言わないでいた。

 すめらぎが長男を産んでいるということで、呪はすでに解けているのだった。

 皇女が皇太子になった日、アマテラスが渡したお護りの勾玉が呪を解いていた。


 『継承に男も女もない世界』


 新年、皇族には恒例の行事がある。

 新年祝賀の儀だ。

 すめらぎは白のローブデコルテにすめらぎとして初めてのティアラを着用した。

 そのティアラは、上皇と上皇妃の私費で作られたものだった。

 皇妃よりも豪華で華やかなティアラだった。

 ネックレスとイヤリングも贈る予定にしていたが、三夫人が首を横に振ったのだった。


「女性すめらぎは、私達の願いでもあったの。お祝いの気持ちをカタチにしたいわ」


 そう年長の夫人に言われ、上皇妃は折れたのだった。


「これであちらに行った時の土産話が増えたわね」


 三夫人の一人が言うが、横でアマテラスが首を傾げているのが、上皇とすめらぎ、そして皇太子には見えていた。


「もしかして、少し寿命が伸びていません?」


 すめらぎはこっそりアマテラスに確認する。


「そうじゃな。あの二人は夫の護りもあるし、こちらの夫人は……昭和の奥方の護りが強い」


 すめらぎは頷く。

 前上皇の弟は皇族の寿命を更新しつつある。

 以前、皇太子だった父が言っていた。

 あの方は私のもう一人のお父さまなんだよ、と。

 夫人はもう一人のお母さまと。


 そして、上皇となった今、実の父親に出来なかった親孝行というものを、叔父夫婦にしているのだった。

 当然横には上皇妃もいる。

 すめらぎは、完全なプライベートで両親が叔父夫婦のことを「お父さま」「お母さま」と呼んでいることを知った。

 叔父夫婦はそう呼ばれていることに最初は照れていたが、今はすっかり受け入れている。


「大家族じゃのぅ」


 アマテラスが現れ、嬉しそうに、言う。


「はい。夢のようです」


「夢か……」


 アマテラスはすめらぎが幼かった頃を思い出した。


 アマテラス自身、眠ってしまっていたため、その頃の様子は水晶で見ただけだった。

 そしてそれを従者に話して聞かせた。

 自分が泣かないために、従者を大泣きさせた。


「それでは夢はかなったということになるな?」


「かもしれません」


「では、次の夢はなんじゃ?」


「次の……夢……。世界中から争いが……戦争がなくなることです」


 アマテラスはそれを聞き、頷いた。

 まだ、紛争中のところがあるのだ。

 それは片方が収まったと思えば、違うところで衝突が始まり……を繰り返していた。


「簡単に言ってしまえば、『世界平和』じゃな?」


「はい」


 アマテラスはすめらぎの笑顔を見て、何度も頷いた。

読んでいただきありがとうございました。

この話は一応これで最後になります。

閑話で裏話を書くかもしれません。



実は、皇女、のちのすめらぎの名前は決めていません。

父すめらぎの名前も、実は未定のままです。

キツネは最後までキツネでしたね。

イタチは名前が出てきましたが・・・。

その名前があったから、皇妃の名前も決まったようなものです。

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