30話 転生者
フィクションです。
ちょっと短いです。
鈴木直子、旧姓伊月直子。
前世と呼ばれる記憶を二つ持っていた。
最初の前世では、巫女の一族だった。
すめらぎに儀式を行い、本来の力をださせる秘術をずっと守ってきた一族である。
そして、時にはすめらぎのために裏で動くということをしている一族だった。
表向きの職業は神職である。
神社に参拝客に混じり、一族の者が情報を持って来るのだった。
昭和が呪術に倒れ、その息子はもはや操り人形。
皇統のオーラすら残っていない。
魂はどこにいったやら。
ただ、昭和の孫はしっかりと皇統のオーラを引き継いでいた。
譲位が行われ、妨害が入るなか、必死で儀式を行った。
だが、すめらぎ一人ではもうどうにもならないところまで、追い詰められていたのだった。
それは、今も変わらない。
今は、前世の時よりも何故か技術が発達してしまっている。
「三度目だから、仕方ないのかな……」
二度目の前世はツクヨミの一族だった。
鈴木直子は、今、三度目の命を生きていた。
ただ、過去二回と違うところは、中高時代にとんでもない人物が存在していたということだろうか。
その人物のせいとまではいわないが、歴史は徐々に変わっていく。
過去二回の人生で存在しない存在が二人生まれた。
どうやら、その一人が第七の末姫という存在らしい。
中高時代のとんでもない人物がその末姫の母親だ。
しかし、交通事故で命を失ってしまっている。
そして、あともう一人。
今のすめらぎが皇太子時代に選んだ女性。
その人が、今までと違っていたのだった。
そしてその女性から生まれた皇女。
とんでもない力を持って生まれて来ていた。
その力の中に、懐かしさを覚えてしまうぐらい。
『護り』をもたされているとツクヨミから聞いた時、それは、二度目のアマテラスの命ではないのかと思った。
昭和時代に皇太子が結婚した女はキツネ。
その女が連れてきた次男が選んだ女はイタチ。
基本的にその印象はかわらない。
「魂は潰されても、また生まれる?」
直子は不思議に思っていた。
昭和の魂も一回目と二回目でも違う。
三回目の今世と一致している魂は一回目と二回目のどちらでもなかった。
神々がいうところの、第一の大姫の世界以外から来ているのかもしれない。
歴史をどこからやり直したのかわからないが、大きな爆弾が二回落とされ、敗戦国となるところまでの流れはほぼ同じだ。
ということは、この世界は、その流れをずっと繰り返していることになる。
ただ、今回違うのは、第七の末姫が存在しているということで、神々はそう簡単にこの星を潰すことが出来ないのだった。
少なくとも、末姫の寿命と、今、皇太子になった皇女の寿命までは持たせないといけない。
最初に災いを持たらしたキツネも消された。
その夫は、罪を犯したにもかかわらず、反省もしていない、むしろ反発していた魂を、ごっそりと道連れにして逝去した。
偽物の皇族一家、次男一家は最終的に全員、言い方を変えれば自滅させられた。
今回、アマテラスよりも、ツクヨミとスサノヲの怒りがかなり強い。
過去二回のアマテラスの選択を考えると、そうなってしまうのかもしれない。
それに、今回は、第六の大姫という存在まで関与してきている。
その黒いもやもやを見れる者は、共通して関西にある神社の血筋だった。
直子の子ども二人は、その血を間違いなく引いている。
第六を見分けられる目。
それが今後どうなるのか、かつての巫女の一族の予知能力を使っても、見えなかった。
『目』を使って、藤尾礼を監視し続けているが、完全に持久戦になっている。
第六のカケラの動きは慎重だ。
一瞬、違う光景が見えた。
それは、目が見えないはずの藤尾礼の目が見えている光景。
白い杖も持たず、普通に、街を歩いている。
じっくりと見ると、目に黒いカケラが宿っていた。
そして、藤尾礼は街角で、テーブルと椅子を出し、占いの看板を出した。
「え?」
見えた藤尾礼の黒いもやもやは、完全に同化していた。
視力と引き換えに、何かを取引したのだろうか?
オーラは占い師が持つ独特の色に変わっている。
「どういう……こと?」
「目的は……何?」
直子は、見えた光景を思い出す。
「いつの……こと?」
「日付は?」
独り言が増える。
ビデオ再生のように、右下にタイムスタンプは表示されていない。
ただ、見覚えのないビルが建っていた。
「確か、あの場所は、今、建設中……? 完成するのは……」
記憶をたどるのをやめ、スマホで検索する。
2年後だった。
『2年後、藤尾礼は、視力を得て、街角で占いを行っている』
直子は迷ったが、それを連絡用のチャットに書いた。
既読は付くが、誰からも返信がない。
ただ、見えた景色と、藤尾礼が住んでいるところはかなり離れている。
直子は、『目』を使い、今の藤尾礼の様子を確認する。
まだ目は見えていない。
日課になっている散歩の途中だった。
「そっか、不動産収入があったのよね」
藤尾礼はベンチに腰掛け、ぼんやりと前を見ている。
その近くにカケラを持った鳥がいるが、周りを警戒しているような素振りはない。
「なぜ、占い師なのかしら?」
直子は予定を確認し、家族に連絡した。
『でかけます。晩御飯は各自でよろしくね』
少なくとも2年後、藤尾礼が占い師をしているであろう場所に向かった。
藤尾礼は車の免許を持っていない。
直子は電車やバスで移動する。
見えた建物は、まだ建設中だった。
基礎工事を終え、鉄骨を組み立てているところだった。
ただ、建設予定を確認すると、あと2年はかかるようだった。
30階建てのタワーマンション。
下の数階は商業施設だという。
そのビルから一歩も外に出ないで生活できてしまうのではないか?と思ってしまえるぐらい。
周りを見ると、学校がビルの上層階にあった。屋上がフェンスで囲われ運動場となっているのだろうか。
少し歩いていると、鳥居を見つけた。
しかし、社はない。
上を見ると、5階建てのビルの屋上に鳥居らしきものが見えた。
「なんか、怪しげね……」
上の社からはアマテラスもツクヨミもスサノヲのどの力も感じない。
むしろ、動物霊のような気がした。
「稲荷神社でも、こんなのじゃないわよ……」
直子は頭に手をやり、気を落ち着けた。
そして、藤尾礼が占いをしていた場所に立つ。
「え?」
直子は思わず周りを見渡した。
「なに、ここ……」
どうやら微妙に地場が違うようだった。
ずっと立っていると、見えなくていいものまで見えてきそうだった。
「何かを……探している?」
地場の力を借りてまで探さないといけないもの。
それがまだ何なのか、はっきりわかっていない。
ただ、候補はある。
第六の半身のばらばらに散らばっているもやもや
藤尾礼のそばにいる第六のカケラ自身の半神
今後関わってくるであろう人物
半分のカケラの状態では不安定だろう。
半神にあったもう半分のカケラを探すというほうが、自然ではないだろうか。
ここでどれだけの事が探れるのか。
直子は、今いる地点をGPSで巫女の一族とツクヨミの一族に知らせた。
ただ、嫌な予感とかはない。
いい予感もない。
胸騒ぎもしていなかった。
直子は周りを見て、その場所が見下ろせるカフェに入った。
窓際を陣取り、その周りを観察する。
「失礼」
直子は小さくため息を吐いた。
「もう少し……美貌を落とさないと、ダメよ。目立ちすぎてるわよ」
窓際のカウンター席の横に座ったのは、女性の姿をしたツクヨミだった。
真っ直ぐな長い黒髪だけでも目立つのに、色白で、目は切れ長、整った鼻筋に少し薄めの唇。
チラチラと男性の視線を感じていた。
「認識障害をかけるのを忘れていた」
「今すぐかけて」
直子は小さくため息を吐いた。
「ふむ」
次の瞬間、空気が分厚くなるような感じがした。
こっちを見ていた男どもは、首を傾げていた。
「あの場所か」
ツクヨミは直子が知らせた場所をじっと見ていた。
「そう」
「あ、防音もかける。周りを気にしなくてもよいぞ」
「ありがとうございます。2年後、あの場所に占い師としているのです」
「あの場所は、三つの力の流れがある。その作用かもしれぬな。遠くのことまで感じられるようだ」
「何かを探るため……ですね」
「そのようだ。その先は見えなかったのか?」
「残念ながら、見えたのは数秒だけです。目は見えてましたし、その目にカケラが入り込んでました」
ツクヨミは指先を擦ると、何かを飛ばす。
そして、直子の額を人差し指で軽く叩いた。
「両目を閉じて、さっきの場所のことを思い浮かべてみよ」
直子は言われる通りにする。
「え? なんか、見えます」
思わず目を開ける。
景色は消える。
「考えた時だけ、見えるようにした」
「ありがとうございます」
試しに両目を閉じてみる。
何も見えなかった。
そして、あの場所のことを考えると、見える。
人が歩いていた。
だが、立ち止まったとしても、何も感じていないようだった。
「不思議ですね。あの地点に何があるのでしょう?」
「三本の線が点ではなく、小さな三角形を作っているところだ。三本の線が交わっていたら、もっと違う見え方をしたであろう」
なるほどと、直子は納得した。
「線が見えているのですか?」
「光の道とは違うが、そういう力の流れが見えるな」
直子はレイラインの一部か、それに近いものなのかと考える。
「もしかしたら、第六にだけ感じれるものがあるのかもしれないですね」
ツクヨミはうなずく。
「ところで、神々も前世の記憶を持っているのですか?」
ツクヨミは少し考える。
「魂はそれぞれに違う。だが、記憶を引き継ぐことはある」
「そうなのですね」
「一度目のアマテラスは『絶望して破壊』した。二度目のアマテラスは『破壊後、世界を閉じてもらった』」
「二度あることは三度ある。にならなくてよかったです」
「三度目の正直……というものか?」
「そうですね。でも、まだまだキツネとイタチを引き継ごうとするものが現れるかもしれません」
「厄介極まりないな」
心の底から嫌そうにいうツクヨミに、直子は思わず笑いそうになる。
「あの大陸を粉々にできればよかったのだが」
「こちらも被害が甚大になりますよ」
「こっそり……」
「ダメですよ。皇女殿下の目は誤魔化せませんよ」
「ふむ」
「こんなところにいた」
二人の会話に割り込んできたのは、望だった。
「ちょうど近くにいたからさ」
そう言って、ツクヨミの姿を見て、ぎょっとする。
「ツクヨミ様の術って、ツクヨミの一族にはあまり効かないのね」
直子が感心したように、言った。
「なるほどな。そなたは連れ合いであったな」
ツクヨミは直子をじっと見る。
「なるほどな。巫女の一族、ツクヨミの一族の女性が強いのは、そういうことか」
くっくっくと笑い、ツクヨミは席を立ち、望に譲った。
「かつての私が輪廻に乗せた魂だったな」
望は首を傾げる。
「そなたはまず、体を鍛えるところから、始めよ。力と体があっておらぬぞ」
そう言うと、ツクヨミは姿を消した。
認識障害をかけていたお陰で、人が一人消えても、誰も気づかない。
「さっきの、体を鍛えるっていうの、神戸のばあちゃんにも言われたよ……」
そう言いながら、ツクヨミが座っていた席に座る。
手には、アイスコーヒーを持っていた。
「そうね。あなたの力を封印したのは、私が知ってる人。今はもう、この世にいないけど……」
「え?」
ストローを咥えたまま、望は首を傾げた。
「持ってる力が強すぎたのよ。だから、体がそれに負けかけた。あんた覚えてないかもしれないけど、小さい時、よく入院していたのよ」
「そうだったんだ?」
直子はうなずく。
「で、母ちゃんの知ってる人が、封印?した」
「そう。その時に……多分だけど、赤ちゃん、抱っこしてない?」
「赤ちゃん?」
望はさらに首を傾げた。
「きれいな人、覚えてない?」
「きれいな人?」
望は記憶をたどるが、きれいな人がわからない。
「そうね……神社の境内……何歳ぐらいだったかしら。小学校にははいってかしらね?」
そのヒントで、ようやく思い出したようだった。
「もしかして、髪が長くて、とってもきれいな人」
「そう」
「赤ちゃん……? もしかして、黒髪がくりっくりの?」
「そう」
「目、きれいな青だった?」
直子は頷いた。
「その子が末姫よ」
大声を出しそうになり、思わず自分の口を両手で覆う。
「そっか。やっぱりそうか……。あんた、いずれ、神戸に行くことになるわね」
「姉ちゃんは?」
「その時、朋美はいなかったし、朋美は会ってないわね」
「そっか」
「朋美、何か言ってたの?」
「大学、医学部にするって言ってた」
「あら、そう」
「どこのか、聞かないの?」
「神戸なんでしょ?」
「わかってたんだ」
「なんとなくね」
直子はすっかり冷めてしまったコーヒーを飲んだ。
「ただね、私学なんだって、行きたいところが」
ふふふと直子は笑う
「まぁ、二人であっちに行ってらっしゃい」
妙に理解がいい母親を見て、望は少し首を傾げる。
「編入試験はなんとかなると思うわ」
直子はそう言って、冷めたコーヒーを一気に飲んだ。
「さ、晩御飯食べに行きましょ」
「え?」
慌てて望はアイスコーヒーを飲み干す。
ツクヨミによって、魂を輪廻の流れに乗せられる直前の魂たちは、日本が天変地異により、世界地図から消えてしまうところを見ていたのだった。
日本が壊滅的に滅ぶ様子を、直子は二回見たのだった。
「今回はまだ生きているんだもの。できることはしないとね」




