28話 黒いもやもや
フィクションです。
かなり短いです。
「ツクヨミ! どこじゃ? スサノヲ! どこじゃ?」
アマテラスが珍しく怒鳴っていた。
「何だ?」
「姉者?」
「これはなんじゃ?」
アマテラスは水晶に、ある島を映した。
「ずっと黒くもやもやとしているではないか!」
「あぁ……」
ツクヨミが頷き、スサノヲを見た。
「魚は?」
「届けておる。一応、全部食べてるみたいだ」
ツクヨミは怒っているアマテラスを見た。
「あ~。現代版島流しというのを、やった」
「あ゛?」
「久しぶりの島流しだ。逃げられず、他の船を近づけておらんぞ?」
アマテラスはじっとツクヨミを見る。
「気持ち悪いのじゃ! ここが!」
つくよみは、ふむ、と頷いた。
「雨を降らしても、洗い流せぬ」
「そうであろうな」
「水晶で確かめるのも穢らわしい。ここに何を置いた?」
スサノヲはツクヨミを見る。
「イタチの長女の元夫と、その母親」
「はあ?」
アマテラスは少し考えた。
「はて……」
眉間に人差し指を当て、記憶を辿ろうとするが、あまりにも穢らわしかったため、記憶から完全に削除してしまっていたようだった。
「あっちの大陸に住んでいた夫婦の、夫だ」
ツクヨミはその大陸の方向を人差し指で指さす。
「大陸から抜け出そうとしたから、姫と相談した」
スサノヲが答えた。
「それで、姫はなんと?」
「それが、すっかりその男の存在を忘れていたようだ」
アマテラスはそれを聞き、何度か瞬きをした。
「それで?」
「やはり、命を簡単に奪ってしまうのでは、自分の犯した罪の重さにも気づかないままになる」
「で?」
「『反省するようにできないか?』と言われた。だが、他の人に迷惑をかけることなくとも言われたから、その母親と一緒に島流しにした」
アマテラスは納得し、うなずく。
「で、その結果が、これか?」
水晶には、海の上に黒いもやが浮かんでいる。
「島を包んでしまうぐらいの穢か……」
ツクヨミはそれを見て、小さく呟いた。
「このままにしておけば、周りの穢を集めるな?」
「そうじゃ」
「スサノヲ、島を変更しよう」
「どこに?」
「わらわの領域外にせよ」
それを聞き、ツクヨミはクビを傾げた。
「どこの領域までなら許される?」
スサノヲは思いついたように言った。
「月はどうだ?」
「私がいやだ」
アマテラスがそれを聞き、眉根を寄せた。
「とにかく、少なくとも、この国からは追い出せ」
ツクヨミは小さくため息を吐き、水晶を見た。
「スサノヲ、一応、人が住める島はどこにある?」
「このあたりなら、影響は少ないか?」
アマテラスの顔をちらっと見ながら、太平洋のど真ん中の島を指さした。
「ふむ。ここなら確か人は住んではおらぬが、ずっと夏が続くようなものだ」
「飲水があれば、生きていけるであろう。そこに飛ばせ」
ツクヨミが頷いた。
「スサノヲ、井戸だけ掘ってやれ」
「しかたない……」
そう呟くと、スサノヲは姿を消した。
「お?」
穢本体の存在がなくなったからか、アマテラスは水晶をじっと見る。
そして、清めの雨を降らした。
しかし、なかなか簡単に穢がとれない。
アマテラスが鈴を鳴らしていかずち、扇で風を起こしても、簡単には黒いもやは晴れない。
「アレの中に第六がいないのが、不思議だ」
アマテラスは首を傾げたまま、ツクヨミを見る。
「第六ではないのではないか?」
アマテラスはなかなか穢がとれない島を見る。
「もし、第六が第六とわからないままカケラになっていたら、どうなる?」
アマテラスに言われ、ツクヨミは考えた。
「そもそも、自分で自分の半神を壊したのだろう?」
「そうきいてるが……」
「第六じゃ。ひっくり返っておらぬか?」
ツクヨミは目を見開いた。
「まさか?」
アマテラスの返事はため息だった。
「あ、やってしもうた……」
仕方なく、新たに作ってしまった大風を島の上に持ってくる。
スサノヲが戻ってきた。
「ご苦労じゃったな」
スサノヲが頷く。
「煩いぞ? あそこで正解かもしれん」
「魚は届けるのか?」
「頑張れば捕れそうだったから、覚えていたら様子を見ることにする」
「それでよかろう。もう、十分じゃ」
アマテラスは水晶に視線を戻す。
「姉上、第九のことは、何か知っているのか?」
「わからぬ。数字を冠した大姫からは何も聞いておらぬ」
「もしかして、まだ知られていないとか?」
ツクヨミがアマテラスの顔を覗き込む。
「今、このわらわの領域に、第一、第四、第三の残滓……でないな、残り香的なものか。あとは、第五。第二……。揃っておるな」
アマテラスは驚きながら、ツクヨミを見た。
「それぞれの使いが末姫のそばにおるのじゃ」
スサノヲはじっと水晶を覗き込む。
「何か、見えるか? あの島の穢、どう見えておる?」
アマテラスはスサノヲに尋ねた。
「黒いもやもやとしか、わからぬ。あれは……あの男とその母親についていたぞ?」
「存在するだけで、周りに穢を撒き散らしておるんじゃ。ある意味、すごい親子だのぅ……。姫は見ておるのか?」
「見る必要はないと言っておいたが……」
ツクヨミはそういいながら、こめかみに人差し指を当てる。
「確認しておったら、あの穢に気づかぬはずがない」
「そうか」
少しホッとしたようにツクヨミは言う。
「姉者、言い忘れていたが、あの島は嵐が多い。勝手に雷も落ちる。これはどうすればいい?」
アマテラスはしばらく考えていたが、ややしてから首を横に振る。
「それも宿命。運が良ければ生き延びるであろう。一応、他の船が近づかぬよう、島から出ぬようにだけしておけばよい」
アマテラスはそう言い切った。
「そうしておいた」
スサノヲは少し得意げに言う。
「ツクヨミ、この島を浄化せよ」
アマテラスはじっと島を見たまま、言った。
「あい、わかった」
ツクヨミはじっと島を見る。
そして、その根源を探すが、見つからない。
仕方なく、黒いもやを集める。
集めようとして、ハッと気付いた。
「スサノヲ、雷を落とせ!」
じっと島を見ていたスサノヲは右手を上げる。
そして、掌を広げ、何かを握りしめてから、力強く振り下ろした。
水晶の中で真っ白な稲光が島を貫く。
「うむ」
アマテラスが、ふぅと小さく息を吐いた。
そして右手をあげ、左右に振る。
大風が真っ二つに割れ、す~っと消えていった。
「ツクヨミ、何かわかったか?」
「わかった。あれは、あれが、第九……」
ツクヨミは自分の掌をじっと見る。
「塊にはならぬ。あれはあのカタチが、第九だ」
アマテラスは目を見開き、言葉を失う。
「浄化は……」
ツクヨミは目を閉じ眉根を寄せた。
「スサノヲのいかずちが有効だ。だが……」
ツクヨミは、黒いもやもやが消えた島を見る。
「どこに飛ばした?」
「第四の大神の方向へ」
アマテラスはじっと水晶を見たまま、考える。
「第六と混ぜてはならぬのか?」
スサノヲの問いに、ツクヨミは頷いた。
「あれは完全に意思を持っていた」
「恨みか?」
「そうだ。半神を分けられ、戻され、本来の半神に潰されたのだぞ?」
「恨みも深かろう……」
アマテラスのつぶやきに、ツクヨミはうなずく。
「その恨みが誰に向かっているのかが、問題じゃ。末姫か。第六か。それとも……」
「明確な相手はまだわからぬ。だから、第四に飛ばした」
「兄者、なぜ第四なんだ?」
「いろいろな世界を作っておるらしいからな。その一つに集めればなんとかなるのではないかと……」
「第四の大姫任せにしたということか……」
「そうともいうが……」
「一応、一族に知らせておいたほうがよいのぅ」
アマテラスはそう言い、ツクヨミとスサノヲを見た。
「末姫に近づけないようにせよ。見つけ次第、二人で、第四の大姫のところへ飛ばせ」
「あい、わかった」
ツクヨミとスサノヲはアマテラスにしっかりと頷いた。
「姫に気づかれたと思うか?」
「……誤魔化せぬ」
「そうじゃな。折を見て、話すしかないか……」
ツクヨミが頷き、言った。
「私の一族に話をしておいてもらおう。それに、姫にはどうみえているのか知っておきたい」
「頼んだぞ」
ツクヨミは頷いた。
ツクヨミとスサノヲは島流しすることができて、喜んでいます。




