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26話 記憶 ~前編~

フィクションです。

長いので、分けました。

 アマテラスは、水晶を抱きかかえ、目を閉じる。

 まだまだ、祈りの力が足りない。

 第七の末姫の歌声を聞いてから、少し心がざわついていた。

 それを鎮めるために、また、末姫の歌声を聴く。

 何度かそれを繰り返していると、アマテラスは首を傾げた。


「これは、もしかしたら……魂の記憶か?」


 第七の末姫を水晶に映し出した。

 今、スサノヲがアマテラスの領域から出ている。

 何かがあったわけではない。

 ただ、第七の末姫が乗った飛行機が無事到着できるように、付き添っているという、変な過保護ぶりを発揮しているだけだった。

 その場所は、あの長女が住んでいた国だった。

 だが、東側ではなく、西側。

 飛行機は太平洋側に向かっていたのだった。

 アマテラスは、その飛行機が問題なく到着できるのを知っていたが、万が一があると言ったのがスサノヲだった。


「ただ単に、近くにいたいだけであろう……」


 アマテラスは呆れ、呟く。

 基本的に高次元の清らかな魂というのは、神々が惹きつけられてしまうのだ。

 それこそ無条件で手助けをしてしまうぐらいに。

 今のこの世では、皇太子、そして、尊敬の意も自然と生まれてしまう末姫。

 この二人の魂は、別格だったのだ。

 故に、護らねばと三貴神は思ってしまうのだった。


 まだ末姫は9歳。

 数万年は生き続けているアマテラスにとっては、10年というのは、ちょっとうたた寝していました……という、感じなのだ。


「そうか、記憶か……」


 それは、この世界に生まれて、今まで……というわけではない。

 この世界に生まれる前の記憶なのだ。

 そして、この姫は、ここの世界に来る前に、二つの世界を生きていた。

 しかし、その記憶ではない。


「この記憶は、アマテラスの記憶か……」


 アマテラスは顔を上げ、水晶にもう一人を映し出す。

 それは、皇太子になった、第一の大姫から預かった姫だった。

 その姫が持っている先代の第一の大姫から渡されている『お護り』。

 それは、先代の第一の大姫の世界での、アマテラスが持っていたはずのものだった。

 アマテラスがそれを数字を冠した大姫に返す時は、一つしかない。


『この世界を、閉じてください』


 それを願ったということになる。

 姫にその記憶は影響していないようだが、第七の末姫の歌声を聞いて、アマテラスの魂の奥底に眠るものが揺さぶられた。


「巫女姫様、火事です。火を消してください!」


 従者が叫んだ。


「何じゃ? 火事?」


「末姫さまのお部屋が燃えております!」


「は?」


 慌てて水晶を見ると、不思議な燃え方をしていた。


「この火事は、わらわの雨で消せるのか?」


 アマテラスは水晶を覗きながら左手をあげた。


 水晶の中では、ポツ、ポツ、ポツと、雨粒が落ちてくる様子が見える。

 消防車も来たようだが、雨のほうが早かった。

 消防車からの消火活動と、局地的な大雨。

 消火はわりとすぐに出来たようだった。


 アマテラスはすぐに雨雲を取り去る。


 そして、じっと水晶を覗き込んだ。


「おさまりました……」


 従者が安心したように、言った。


「あまり、雨は役に立たなかったようじゃな……」


「いいえ、水龍の威力で部屋の中の火を消し、穢を取り去ったのです」


「そうか……」


『穢』


 末姫には、無関係のように思える。

 しかし、これからこの穢と無関係ではないような気がしていた。

 かなり古くからの因縁。


 それに、先代のアマテラスがどう関係しているのか……。


 第七が最初に降りた地は、第二の大姫の地だったという。

 当然、アマテラスのような神はいる。

 ただ、名前が違っている場合があるから、すぐに同じものと気づくことは少ない。

 その例がツクヨミだ。

 ツクヨミが間違って、神と崇められた時があったということだ。

 ツクヨミの機嫌が悪くなるから、そのことに触れないでいたが、カトリックで言うところの神は、ツクヨミのことだった。

 だから、アマテラスからすれば、カトリックであれば、問題なかったのである。

 祈りの言葉は違うが、アマテラスからすれば本質は同じである。


「あの戦争で、壊された」


 ツクヨミが称えられている場所が潰された。

 祈りの力が途絶えた。

 しかし、民は祈り続けた。


「前のアマテラス……の嘆きと悲しみが……伝わってくる……」


 従者は首を傾げ、末姫の歌声を聞いているアマテラスを見ていた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 途中まで、歩んだ歴史は、同じ。

 とんでもない爆弾が2回落とされ、戦争が終わった。

 日本は、敗戦国と言われているらしい。


 すめらぎは国民の象徴となった。

 それでも、祈りは変わらない。

 すめらぎは、世界あちこちへ行き、祈りの場を確認していった。

 アマテラスは戦争には力を貸さなかったが、復興にはすめらぎの祈りに力を乗せた。

 そして、国内を整えていった。

 その結果、高度成長と呼ばれる時代になった。


 しかし、皇太子が、とんでもない女を妻にした。


 そこから、日本は、崩壊への一歩を踏み出してしまったのだった。


 すめらぎは自分の務めを果たしていたが、その横で、同じ言葉を唱えても、力を発揮しない皇太子。

 それでも、皇太子に子ができるのを待った。

 そして、その子の、皇子の未来を昭和はしっかりと、見た。

 皇子は、皇太子妃が生んだ子ではない。

 皇太子に別の女を充てがって生ませた子だった。

 その女の血を一滴も入れるわけには行かなかったのだ。

 すめらぎは、政治に口出しできないことを、もどかしく思っていた。

 少なくとも、皇太子の皇子は皇太子となるであろう。

 そう安心していたら、全く違うところから男子の赤子を連れてきた。

 そして、第二子誕生と大きく新聞やテレビを賑わした。


 皇太子妃が妊娠していないのに、第二子とは?


 すめらぎは首を傾げるしかなかった。

 皇妃に至っては、突然生まれてびっくりしたということを近くの女官に言っていた。


 すめらぎは、このままではならぬと思い、皇太子と皇太子妃を呼びつけた。

 しっかりとその二人を見ると、もう、絶望しかなかった。

 その皇太子妃は、皇太子が出会い、恋をした女ではなかった。

 誰だ?と問い詰めたい思いを、抑え込む。

 そして、何を信じているのかと、尋ねた。

 皇太子は一言、『神を』とだけ答えた。

 それは、皇太子としての答えでは、あり得ない答えだった。

 皇族が持つ、白いオーラは、消えている。

 完全に、邪神に心を委ねてしまっている。

 そう、皇太子と皇太子妃が信仰しているのは、すめらぎからすると邪神でしかなかった。

 すめらぎは怒りを抑えられなかった。


 すめらぎは、あえて皇太子に女を近づけた。

 目的は、子を設けるためである。


 側室を持つことを許されなくなったすめらぎは、血筋を残していくということを考えなくてはならなくなった。

 家柄も大事だが、人柄を優先した。

 真面目で思慮深い者。

 皇太子妃と真逆になる女を探し、女官にし、それを皇太子に近づけたのだった。


 少しでも、皇子の味方をつくるためだった。

 未来のためだった。


 アマテラスとも相談した。

 しかし、子に関しては、運任せだと言われた。

 だが授かったとわかった時は、無事に産まれるという加護をつけてもらった。


 皇子に関しては、信頼できる男を教育係につけた。

 これに関しては、反対意見や苦情など、すべて無視した。

 少し、厳しすぎたかもしれない、そう思っていたが、皇妃は慈しみを持って、孫たちに接していた。


「次男は厳しく育てよ」


 そう告げたが、告げたということだけが残り、次男はかわらず甘やかされたままだった。


「子どもに罪はありません」


 皇妃はそう言い、次男、全くの他人を、可愛がった。

 長女にはもっと手をかけてあげたいと思っていたようだったが、皇太子妃に邪魔をされた。


 皇子が留学で日本を離れた。

 スサノヲやアマテラスの護りをその皇子は持っている。

 その留学期間、皇太子の家庭はとんでもないことになっていった。


 誰も皇太子妃を止めない。


 いくら皇太子に苦言を呈しても、右から左に器用に流している。

 情けない、の一言だった。


 皇太子妃の内なる顔は、一部の王族には見抜かれていた。

 ただ、本人はそれに気づいていない。

 ここに、皇太子妃という道化(ピエロ)が誕生した。


「日本は恥をかきつづけるのですね……」


 ぽつりと、皇妃が呟く。

 すめらぎは自分の罪だと、思った。


 皇太子はようやく授かった男子だったのだ。

 もう少し、厳しく育てれば良かった。

 帝王学とは、なんなのか。

 皇太子は、何を学んだのか。

 長男を皇太子と決めた時、周りから反発があった。

 次男のほうが皇太子に相応しいという声が強かった。

 しかし、すめらぎは、未来を見ていた。

 このとんでもない長男からしか、次のすめらぎは生まれない。

 そう、この長男からしか生まれないのだ。

 生まれれば、自分が必ず育てよう。

 その事を黙ったままで、長男を皇太子と決め、他の意見は一切無視した。

 全ては日本のためだった。



 皇太子妃が、やらかしていた。



 この国に、よりによって、あの半島の宗教を持ち込むことを許していた。

 それは、キリスト教ではない。

 皇太子も完全に染められていた。

 皇子が日本を離れている間に、徐々にアマテラスの声が聞こえなくなっていた。

 もしかしたら、居眠りをしているのではないか?

 そう感じることが多くなった。


 アマテラスに祈りが届かない。


 それでも、すめらぎは祈り続けた。


 次男の方が、皇子よりも先に妃となる女性と出会ったという。

 皇太子と皇太子妃はすでに娘扱いしている。


 すめらぎからすると、最悪な女としか思えない。


 最悪な女が最悪な女を呼び寄せる。


 皇太子妃よりもひどいと思ったのは、凶星を持っていたからである。

 それも、関わるものすべてを廃れさせてゆくという凶星だった。

 その横に立っていて、次男は何も気づいていない。


 すめらぎは絶望した。


 落胆したのがきっかけになったのか、病になってしまった。

 そして、その原因は、次男が連れてきた女性の父親にあった。

 あんなどす黒い塊を、昭和は久しぶりに見たのだった。

 戦争中でもそんな黒い塊は見たことがなかった。

 戦後、海外に言った時も、命が危険にさらされた時も、相手はそこまで黒くなかった。

 次男は、自分を律するとか、制するということが全くできなかったらしい。

 その結果をホルマリンに浸けて面会を求めてきた。

 吐き気がした。

 こんな男と、縁を結んでは、破滅しかない。

 皇太子には言ったが、これもまた右から左へ流された。


 皇太子よ。

 皇太子妃の言いなりになっているということに、気づいているのか?


 体が思うように動かなくなってきた。

 いよいよ、祈りを皇太子に引き継ぐ時が来た。

 一応、作法や祝詞は覚えていたようだが、やはり、違う。

 アマテラスを怒らすのではないか。


 そう思っていた。


 そして、すめらぎは倒れた。

 意識はもうない。

 肉体から魂は離れた。

 しかし、簡易的であっても儀式は受けていた。

 肉体はぎりぎり保っていた。

 しかし、妙な念が飛んでくる。

 徐々に体が黒いもやに包まれていくのがわかった。

 皇太子が来ても、そのもやもやは見えないようだった。

 皇太子妃が来た時、口角が上に上がる。

 ハンカチで口元を隠していたが、口元は笑っていた。


 ああ、これが呪か。


 医療技術のおかげで、心臓はまだ止まっていない。


 アマテラスに声をかけ続けるが、アマテラスからは何も帰ってこない。


 皇子に会いに行く。

 なにやら気配は感じているようだが、戸惑っているだけ。

 それでも、長男には、しっかりと皇統のオーラが存在した。

 皇妃にも会いに言ったが、ずっと祈っているだけで、顔を上げてようとしない。

 皇女には残念ながら、皇統のオーラはない。

 それでも、何か、感じてくれたようだった。

 皇妃に付き添ってくれている。


 皇太子は、全くわからないようだった。


 これが、次の時代のすめらぎになるのか?


 すめらぎは絶望に押しつぶされそうになったが、一筋の光は残っていた。

 それは、皇子の存在だった。


 次の、次の時代を頼む。


 そう願っていると、騒ぎ声が聞こえてきた。

 それまではずっと静かだった。

『自粛』という言葉が広がっているのを感じていた。

 そこまで我慢しなくてもよいと言いたかったが、誰もその言葉を受け取ってはくれない。

 年末だから忘年会が開かれているのかと、思っていたら、騒いでいるのは、皇太子妃だった。

 その横に次男の妃になると意気込んでいる女がいる。


『私が死ぬのを喜んでいる……』


 どうやらいつ生命維持装置を外そうかと言っているようだった。

 年明けということもあり、問題のない日で、最短はいつかという相談もしている。


『ああ、私の死は、もう決められているのだな』


 すめらぎは皇子のところに行った。

 真剣に、祈ってくれている。

 私の姿は見えるだろうか?


 ふと、なにかに気づき、顔をあげる。

 久しぶりに人と目があった気がした。

 唇が『おじいさま』と動く。


 昭和は、自分の思いを伝えていく。


「お前の子が次のすめらぎになるように遺言を残した。護れ。そうでないと、この国が滅びる」


 その言葉で皇子は目を見開いた。


「私は結婚する相手がまだ決まっておりません」


『この人だと思った人を、選べばよい』


 返事がない。


『間違いなく、この人だとわかる。私の言葉を信じよ』


 じっと孫を見る。

 まだ20代前半だ。

 社会経験も少ない。

 でも、頑張ってもらわねば、ならぬ。


 すめらぎは強い気持ちで、皇子に伝えた。


『いつでも呼び出せる。その声に応えよう』


 会話はそれが最後だった。


 三が日が過ぎ、仕事始めも過ぎた土曜日、すめらぎ崩御と新聞の見出しにデカデカと書かれた。

 死亡時間もモーニングショーに間に合うように計算されたらしい。

 何かあったとしても、翌日は日曜日で何も進まない。

 皇太子妃が自分達の都合のいいように物事を進めていくには、最適の曜日と時間だった。


 皇太子がすめらぎになる。

 その日のうちに、剣璽等承継の儀が行われた。

 翌日、『昭和』から『平成』と改元された。

 ここに、日本史上最悪の皇妃が誕生した。


 昭和となったすめらぎの魂は、その場にとどまっていた。


 翌月に、『大喪の礼』が執り行われた。

 亡骸は墓地に土葬される。


 儀式ですめらぎにが祝詞を唱えるが、昭和には全然響かない。

 祝詞が言霊になっていないのであった。

 それに気づかず、すめらぎは儀式を行う


 昭和は自由になった魂で、全国を回った。


 皇太子が結婚したときと比べ、土地のもつ力は半分ぐらいになっている。

 地震が起こりそうな兆しがあったとしても、祝詞が間に合わない。


 昭和は自分の息子の愚かさに、後悔しかなかった。


 そういう中、次男が婚約を発表した。

 皇妃になったあの女はいつの間にか、また別人になっていた。


 一体皇妃は何人いたのか。


 ただ一つ言えるのは、それだけ妃が変わっているのに気づいていない愚かな夫がいるということだろう。

 それが、すめらぎというのだから、もう、この先あるのは、滅びしかない。


 未来を託したはず皇子がいる。

 それだけが一縷の望みとなった。


 次男が結婚する。

 ちやほやされ、勘違いした女は、次男の横で勝ち誇った顔で写真に収まっていた。


『私はお前を認めぬ』


 口にしたところで、誰にも聞こえない。

 見えぬ目を持つことは、ある意味幸せなことなのか?


 時々、皇子がぎょっとして次男の嫁を見ている。


 同じものが見えているのだろうか?

 昭和はそう思いながら、皇子の近くにいた。


 皇子は、違和感をずっと感じているようだ。


『その違和感が大事だ』


 昭和は呟く。

 祈りを忘れたこの地を、神は見捨てたのだろうか。


 ようやく皇子が立太子し、皇太子となった。

 昭和は安堵した。これで、次に繋ぐことができる。


 同じ年、次男が父親になった。

 皇妃がものすごく喜んでいる。


 なぜ、勝ち誇った顔をしているのだろうか。


 このまま皇子が結婚をしないと、皇位継承権は、この次男に移ってしまうかもしれない。

 それだけは防がないといけない。

 焦っていたが、さすが、皇子と褒めたくなる。

 水面下で、妃になる女性を決めていた。

 昭和は生きていたらすぐに、今すぐ結婚せよと言ったであろう。

 ただ、なかなか首を縦に振ってもらえないらしい。

 それだけ、慎重であるということ。

 皇子は粘る。

 それだけ皇子の気持ちがかわらないということ。


「僕が全力でお守りします」


 それを全力で実行せよ!

 昭和は叫んでいた。


 ようやくいい返事がもらえたようだ。

 皇子が喜んでいるのがよく分かる。

 これで一安心だと、思ったのも束の間だった。

 昭和は大事な事を忘れていたのだった。


 皇居に住む悪魔がいたということを。


 マスコミやテレビ、週刊誌は、婚約者をべた褒めする。

 恐ろしいことに、プライバシーというのは守られているのか?と思えるぐらいの報道だった。

 そして、その中には悪意もかなり潜んでいた。

 その悪意を潜ませたのは、皇妃と、皇太子弟妃だった。

 その二人は、長男の嫁、そして、兄嫁に嫉妬したのだった。

 そして、それを隠そうともしなかった。


 皇太子の結婚は国民から祝福された。


 皇太子妃は皇太子弟妃よりも女性の心を惹きつけた。


 それがますます、皇太子弟妃を追い詰めていく。

 さらに、皇妃も焦っていった。

 女性の応援があまりにも大きかったからだ。


 皇太子妃が外交で海外に出かけ、称賛されると、皇妃は跡継ぎを優先するようにと、公務から完全に外した。


 体調不良のときは、マスコミに大きく書かせた。

 その裏で、皇太子弟妃は二人目を出産していた。

 しかし、期待していた男の子ではなかった。

 それでも、皇太子弟妃は、私のほうがすごいと思っていたのだった。


 皇妃は皇太子妃に「子も産めぬ嫁」と言い、皇太子弟妃を可愛がる。


 懐妊の兆しがあった時、皇妃と皇太子弟妃は少し焦った。

 そこで相談したのは、自分達の宗教である教団だった。

 二人が信仰している宗教は、別の国ではカルト教と認定されている。

 それは、呪術を行うということが、公然の秘密となっているということだった。

 教団は呪術者を二人に送ってきた。

 その呪術者は呪を掛けることができるという。

 そして、二人は、お腹の子を殺めるようにと、願った。

 その前に、『ご懐妊か?』とあえてマスコミに極秘情報をリークする。

 マスコミやテレビ、週刊誌はこぞってこの話題を取り上げる。

 そして、期待が高まったところで、呪術をかけてもらった。

 失意のどん底に皇太子夫妻が落ちるのをみて、笑っている皇妃と皇太子弟妃。

 こっそりどころか、堂々と祝杯を上げていた。

 さらに、皇妃は皇太子妃を追い詰める。


「次は、ちゃんと、生んでね?」


 その横で、皇太子弟妃が笑顔で微笑む。


 この状態が続き、それでも、皇太子妃は懐妊した。

 今度は皇太子も必死で皇太子妃を守った。

 無事、赤ちゃんが生まれた。

 二人からすると、性別はどちらでも良かった。

 無事に生まれてくれれば、それでよかったのだった。

 しかし、国民は男子を期待していた。


「次は、男の子ね」


 皇妃が思ってもいないことを口にする。

 その横で、二人をすでに出産している皇太子弟妃は、得意げな顔を皇太子妃に向けた。


「そんなに……難しい……ことですか? 私は、今、あの子達に妹や弟をと願っているのです。でも、あなたが男の子を生んでいないから……子どもを作らないようにと、皇妃陛下から言われてしまいましたの」


 と、皇太子弟妃の恨み言。


 皇太子妃は、我が子を抱きしめ、必死で耐えた。


 皇太子妃へのバッシングはさらに続く。


「どうしてこんなことが?」


 一部の人しか知らないことが、明らかにされてゆく。

 皇太子妃の家族のことも、面白おかしく書かれる。

 そして、父や母の実家のことまで書かれた。

 それに反発し、皇妃の隠された事実を誰かが公表したら、すぐにその記事は潰された。

 その記事の内容は、興味を持って読んだ記憶にだけ残った。

 皇太子弟妃のことも書かれたが、同じように潰された。


 皇太子は徐々に肩身が狭くなってゆく。

 それでも、妻と娘を必死で守った。


 娘は学校でいじめられているらしい。

 学校に話を聞いてみたが、そんな事実はないと一言。

 母親が同伴で通学すると、過保護すぎるとバッシングされた。

 それでも、皇太子妃は必死で娘を守る。


 皇太子妃の評判は地に落ちていた。

 仕事もしていない。

 子育てもうまくできていない。

 仕事になると、体調が悪くなる。

 なぜそんな女が皇太子妃なのだ?

 あのキャリアは偽物か?

 役立たずの皇太子妃。


 その記事の横には、皇太子弟妃の活躍の記事が。

 すめらぎと皇妃の外交ぶりが写真付きで乗っていた。

 そして、かわいい孫の姉妹の紹介も忘れない。


 皇太子の娘は完全に無視されていた。


 昭和の声は、皇太子に届かない。


 そこで、昭和は、巫女の一族を探した。

 巫女の一族はすぐに見つかった。

 そして、昭和の姿を見ると、涙した。


 昭和は誰にも気づかれないように、儀式を皇太子にできるかと尋ねた。

 しかし、巫女の一族は首を横に降る。


「すめらぎでないと、半分の力しか出ません」


 それでも良いからと、強く願う。


「それではすめらぎになったときに……正式な儀式ができなくなります」


 昭和は落胆した。


「ですが、簡易版……昭和様が受けられたものでしたら、すめらぎとなられてから正式な儀式を受けれます」


 昭和は頭を下げた。


「よろしく頼む」


 巫女の一族は、こっそりと動く。

 過去の伝をたどり、皇太子の予定を把握した。

 そして、暦、方角を考え、日程を決める。

 それらはすべて、秘密裏に行われた。

 公務で宿泊しているホテルに、あらかじめ従業員として入り込む。

 そして、昭和の伝言メモを皇太子に渡したのだった。

 指定した時間、皇太子は禊をし、身支度も整えて、待っていた。

 巫女の一族が部屋に入ると、静かに頭を下げた。

 巫女の一族は簡単に儀式の説明をする。

 そして、儀式後、皇太子の纏う空気が変わった。

 昭和がすめらぎだった頃に近い。

 巫女の一族は、すめらぎになった日にもう一度来ると言い、姿を消した。

 部屋で一人、正座して、目を閉じる。


『ようやく、話ができるか……』


 はっとして、皇太子は振り返り、そこに祖父である昭和の姿を見た。


「お祖父様……」

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