24話 DNA検査
フィクションです。
短いです。
キツネと言われ続けていた上皇妃、イタチと呼ばれていた皇弟妃。
二人がこの世から消え、ようやく残党は大人しくなった。
それでも何を勘違いしたのか主張すればいいと思っている輩がいる。
この一年余りで、皇族の数が一気に減った。
皇族の存続を危ぶまれる声も一部からあがっていた。
そんな中、離脱した皇族の子孫、男子を皇族が養子にすればいいと言い出すものが現れた。
それは、皇族の血を引いていると家系図を示し、タレント活動していた男だった。
ツクヨミの一族は、そのニュースをダイニングキッチンで見ていた。
ツクヨミが現れ、長老だった喜朗が座っていた席に、普通に座る。
驚くことなく、直子はお茶をいれ、ツクヨミに出していた。
その横に茶菓子も添える。
相変わらず、その男は主張している。
それを見ていたツクヨミは首を傾げた。
「ツクヨミ様?」
「こやつは、皇族の血をひいてはおらぬぞ?」
「ではこの家系図は?」
「ここまではあっている」
そう言ったのは、皇孫までだった。
「コヤツは、なんだ? こういう病気」
ツクヨミは両手を頬に当てる。
「もしかして、おたふく風邪ですか?」
「そういう名前の病であった。元服できる年齢の頃にそれにかかって種を失っておるぞ?」
ツクヨミの一族の長老、脩平だけが、なるほどと頷いていた。
「父から聞いていたが……。その当時、おたふく風邪にかかった皇孫がいたと言うが……この方だったとは……」
ツクヨミはうなずく。
「他にも、いたがな。皇籍から抜けて、かけごとや酒でどんどん自滅していって、まともなものはこの男を含めて残っておらぬぞ?」
「そういえば、呪いがかかっていたという噂があったように思うのですが……」
そう言ったのは、直子だった。
「男が生まれにくい呪といえば、わかるか?」
「その呪は……心当たりがありすぎるのですが?」
「最後に、自分の命をかけて、呪っておったから、それ以降は男子が生まれておらぬ」
「もしかして、今のすめらぎが、ぎりぎり?」
ツクヨミは首を傾げ、何か考えているようだった。
「かもしれぬ。昭和は英断したな」
「複雑ですが……」
脩平は唸る。
「赤子である甥を次男とし、その後、どうなったのかその男は忘れているのでしょうね」
直子は呟く。
「そう言えば、この男の人が、次男は皇妃の実の甥で、すめらぎの血は入っていないと暴露したよね?」
望が思い出したように、言った。
「どこにでも、そういう輩はいるのだな」
ツクヨミが呟く。
「あの娘らに出した印を出しておこう。ついでに、その子孫にも。妻にも出しておくべきだな。思慮深いのなら、自然と消えるはずだ。あぁ、今出すと面白くないな」
自分の言葉に納得し、ツクヨミはうなずく。
ツクヨミの一族がそれ以上なにも言わなくても、神々は判断を下した。
不穏分子には躊躇うことなく、印を出す。
特に、皇族の血を穢そうとするものには容赦なかった。
ただ、その印が出たモノだけしかお互いに確認できないというのが、ある意味救いなのか。
その夜、ある家から雄叫びが上がる。
あまりの騒々しさに、110番通報された。
その様子がテレビで放送された。
「あ……」
その映像を見て、声を上げたのは朋美だった。
「この人、よかった。生きてた!」
立ち上がり、テレビの画面をじっと見る。
「この人? 誰?」
「姉ちゃん、どの人のことを言ってるの?」
朋美は、自分のこの感情を理解してもらえないもどかしさを感じる。
「この人よ!」
「だから、だからどの人?」
脩平はじっとテレビを見ている。
記憶にある人といえば……。
「もしかして、このガタイの良い警官か?」
「そう! よかった……」
朋美は泣いていた。
「あの時、あの影武者の近くにいて、スサノヲ様のいかずちの巻き添えを食った……SPか?」
朋美は何度もうなずく。
「そういえば、あの時は、影武者が『意識不明の重体』で、一緒に運ばれたはずのSPの報道はなかったね」
「そうなの。で、それからはそれどころじゃなくなってて……」
「忘れてたのね」
冷静に直子は言った。
「まぁ、そうなんだけど……」
「巫女の一族が、保護したのかもしれん」
なるほどと、望はうなずく。
「で、今、普通の警官?」
望がじっと見る。
「真剣に、仕事をしているよ。今は、一般人をこれ以上近づけないようにしないと……って、仕事だよね」
「うん」
朋美はじっと見た。
「あの時よりも、すごく、気持ちに余裕が出てきてる」
直子はちらっと画面を見、うなずく。
「家族を人質に取られてたんじゃない? 巫女の一族が確実に関わってるわよ。家族は助けだされたんでしょうね」
「でも、警察官なんだね?」
「あの後、ぐちゃぐちゃになったからね。一番、働いてたのは、交番勤務の警察官よ?」
「あ~そうだった」
もう完全に記憶の奥に押し込んでいた。
上皇が連れて行った人たちのことを。
その後で起こった大混乱を。
「資質的には警官向きよ」
直子は朋美を見た。
「よかったわね。無事で。今の今まで忘れていたようだけど?」
直子はそう言って、笑った。
「でも、大声で叫んだって……」
望が首を傾げる。
「そりゃ、お印が出ちゃったんだろう。一般人が皇室に入り込もう、いや、元あった栄光を取り戻そうなどと考えていたらな。当然、お印がでる」
朋美は顔を顰めた。
「まだ、そんな事を考えていたなんて。勘違いも甚だしいわね」
「それこそ、DNA検査で証明してからするべきだよね?」
望が呟く。
「それ、思いっきりブーメランになってるわね」
直子が週刊誌の記事を出してきた。
「ここね。ちゃんと見て」
「あら、ほんと」
朋美は驚いている。
望はため息を吐いた。
「最初、この人の事わりと好きだったんだけどね。なんか、途中から嫌になっちゃって……」
直子はじっとテレビに映った男を見る。
「あら、黒いもやもや」
朋美が顔をあげ、確認する。
「うん、黒いもやもや……。え?」
望もテレビを見たまま、固まっていた。
「黒いもやもや……。はっきり見えるよ」
望は、元日に急遽神戸に行き祖父母に会った。
そして、別のところに連れて行かれ、何歳?と思ったお婆さんに、「歯を食いしばれ」と言われた直後、げんこつを食らったのだった。
痛さで涙が出る。
その後は、祖父母の家でゆっくりと過ごす。
意味がわからないまま、3日後に帰宅させられたのだった。
ただ、それから見え方が変わった。
第六がはっきりと見えるようになったのだった。
「それは、あの第六のカケラと同じか?」
「うん、同じ。あの鳥の中に入っていたのと同じ」
脩平は目を閉じる。
「そうか……」
「お父さん?」
直子がじっと脩平を見る。
「まだまだ、終わっておらぬ」
それを聞いて、朋美はうなずく。
「うん、まだカケラは……残ってるしね。あの半分のカケラも……まだ動いていないし」
直子がうなずく。
「第六にしたら、珍しく慎重だね」
望が呟いた。
「そうだね」
直子は左目を手で抑えた。
朋美も左目を手で隠した。
二人が見ているのは、さっきテレビに映った男だった。
虫を思った人のところへ虫を飛ばせるようになっていた。
二人は別々の角度で、その男をじっと見る。
スサノヲとツクヨミの印が額に1つずつ並んでいる。
そして、黒いもやもやは頭ではなく胸にあった。
額に現れた印を避けているようにも見える。
家の中に入り、家族を見る。
妻の額にも出ている。
妻は鏡をみて、印を確認し、泣いていた。
その横に、泣き叫んでいる子ども達。
歩けるかどうかぐらいの赤ちゃんにも印が出ていた。
残念ながら、アマテラスの印はない。
二人は、手を目からはずし、同時にため息を吐く。
「こういう人って、もっと静かに暮らしているかと思ったんだけど……」
朋美の言葉に、直子が首を横に振る。
「子種がないってわかっていたのに子どもを生んだ祖母さんがいるのよ? その祖母さんが言い続けてたんじゃない? 本来なら、ここにいる身分じゃないとか……」
「そもそも、誰の子を生んだの?」
「そうよね。考えにくいけど、最悪そのお祖父さんの男兄弟?」
「それ、もう、俺、拒絶するからね。気持ち悪いんだよ。そういうの」
神戸に行ってからどう見え方が変わったのかわからないが、血筋に関して過敏に反応するようになった。
「あんたにはどう見えてるの?」
直子がズバッと切り込む。
そして、奥の部屋から喜朗がためていた資料を持ってきた。
「ここに過去の皇族の写真がちゃんとあるの。見なさい」
嫌がった望だったが、直子には勝てない。
「ここに、その父親はいる?」
チラッチラと、写真を見る。
そして、ややしてから、じっくりと写真を見ていく。
「ここには同じ光の人、いない」
「光で見えるんだ……」
朋美はそう言いながら、写真を見る。
「……うん、この中にはいないね」
「じゃあ、旦那がどういう人かわかる?」
二人で、その写真をじっと見る。
「……浮気相手?」
望が遠慮がちに言ったのに対して、朋美はズバズバと言ってしまう。
「このお祖母さん、ものすごくえげつないわよ。血液型までちゃんと旦那と合わせているんだもん」
望が顔を顰めた。
「まぁ、この祖父さんの血を引いている子どもたちはいないってことで、まちがいないね?」
「お、おいおい」
脩平が割り込んだ。
「DNA検査するってさ。それも3つの機関で」
朋美達はテレビを見る。
「そうよね。自分が言ったんだから……わ……ぁ……」
研究員らしき人がニトリル手袋をし、口の中に綿棒の太いのを入れて、DNAを採取している。それを密閉容器に入れる。
それを3回。
別々の検査員が受け取る。
それぞれにカメラが入ってDNA鑑定するようだった。
「容赦ないね」
「火葬をした二人がいるからね」
「そういえば、どのDNAと比べるの?」
「それは巫女の一族が提出するようだ」
「どういうこと?」
「もともと祖父という人は、皇族に復帰は考えておらなかったらしい。だが、身に覚えのない子どもを妻が連れて来る。恐怖でしかなかったそうだ。それで、たまたま接触した巫女の一族が、DNAとなるものを預かっていた」
「それって……何? よく言われるのが、歯だったりするんだけど?」
朋美は脩平を見る。
「正解だな。もちろん、血液付き」
「爪とかじゃ厳しいんだよね?」
「あ、さっきの綿棒というのもあったらしい。とにかく、しっかりと念入りに採取したらしい」
「さすが予知の巫女の一族ね」
感心したように、直子が言う。
「結果が楽しみね」
朋美はうんざりして、直子を見た。
「いや、本人が違うって言ってるんだったら、孫じゃないじゃない」
「だけど、父親がわかっていないんだよ」
「そうだね。このお祖母さんって、もう亡くなってるしね」
「ついでにその人とのDNAと検査もできればよかったのにね?」
直子は言った。
「母親がその人でない可能性も……あるのよ?」
脩平はそれを聞き、何かを思い出しかけた。
「まぁ、結果が楽しみね?」
直子はふふっと笑うのだった。
後日、巫女の一族より、祖母のDNAが提出される。
そして、鑑定結果、直接の祖母でないことがわかる。
もちろん、父系鑑定では、血縁関係なしとでた。
ワイドショーではその事実が淡々と告げられた。
そして、その時に一人が発言した。
「そもそも、あの方は皇統のオーラを持っていません。それだけで、皇族とは言い難いですね」
いつもその男と真正面からぶつかっている作家だった。
「オーラが見えるんですか?」
「いいえ。私は見えませんが、そういうモノがくっきりはっきり見える人を知ってるんです。その人に見てもらいました。『皇族?』と首を傾げてましたよ」
そう言って、作家は笑った。
「誠実に、生きないといけませんね」
◇◆◇◆◇
男は、その事実を受け入れることができない。
妻は離婚届と子ども二人を置いて、家を出ていった。
元妻の額から、ツクヨミとスサノヲの印が生涯消えることはなかった。
幼い子ども達は、見かねた妻の両親が引き取ったが、近所の好奇の目にさらされた。
そして、やむを得ず、都心から離れて住んでいる知人夫婦に預けた。子どもを望んでいたが、結婚したのが遅かったために、年齢ゆえ子どもは無理と諦めていたのだった。
しばらくは両親を恋しがって泣いていたが、子どもたちの額にアマテラスの印が現れた頃、子どもたちは、新しい環境を受け入れ始めた。
正式な手続きを終えた頃、その夫婦にアマテラスが話しかけた。
「少しだけ、応援するぞ」
どういうことだろうと夫婦は顔を見合わせ、驚く。
額にアマテラスの印が出ていた。
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