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16.5話 隠されていた印 ~後編~

フィクションです。

物理現象をまたもや無視しております。

ファンタジーの世界のお話です。

 飛行機の急降下により、意識を失いそうになる。

 しかし、お互いの手をしっかりと握り合い、姉妹は耐えた。


 陸地が見えてくる。

 飛行機が下降しながら、急旋回している。

 シートベルト着用サインが出ていたが、する余裕などどこにあるのだろう?

 幸い姉妹は、シートベルトを外していなかった。

 急下降中、天井に叩きつけられたCAも乗客もいる

 そしてそのまま、天井に張り付けられていた。



 ふと、二人は、皇太子の気配を感じた。

 あの清廉な雰囲気。


「護られてる?」


 二十歳そこそこの娘に、その倍は生きたであろう姉妹は護られていた。

 急降下の重力を周りほど感じていない。

 気づくと左側に海が広がっていた。


「どういうこと?」


「もしかしたら、今、ロシアの上空かもしれない」


 姉妹はそれがどういうことなのか、わかった。


「南下して目指すってこと?」


 急に重力を感じなくなり、機体は水平飛行になった。

 天井に張り付いていた乗客やCAが席や乗客の上に落ちた。

 あちこちでうめき声がしている。


 次は、エンジンが掛かっているのに、前に進まなくなった。

 目を凝らして下を見ると、北の国の国旗らしき色合いが見える。


 周りには戦闘機が飛んでいた。

 北の国の戦闘機である。

 飛行機の周りをぐるぐるとまわっている。

 その様子がハエのように見える。


 戦闘機が少し離れたかと思うと、ミサイルを発射してきた。

 それに気づいた乗客はパニックを起こす。

 持っているパスポートは日本国と書いてあったのを見ていたが、話している言葉は日本語ではなかった。

 北の訛がある言葉だった。

 とっさのときには母国語がでるらしい。


「ああ、終わった」


 しかし、そのミサイルは飛行機にあたることなくUターンしていく。

 そして発射した戦闘機を目指していく。


「追尾式だったのかしら?」


「助かった?」


「わからないわ。だって、まだお印は出てるもの」


 そう言って妹は翼を見た。

 ピカピカとツクヨミとスサノヲの印が交互に光っていた。


 どれぐらい、その状態を保っていただろうか。


「ミサイルが来た!」


 後方から右側の窓の外を見ていた人が叫ぶ。


「戦闘機じゃなくて、地上から狙ってきたのね。座標がわかっていれば狙えるか……」


 姉が呟く。


「どうなるの?」


「恐らくだけど、印が光っている間は……大丈夫じゃないかしら?」


「この飛行機の燃料、足りる?」


「足りると思いたいけど、燃料切れになったら……確実に落ちるわね」


 姉はため息を吐き、妹を見た。


「こういう状態になるってことは、私達は間違えたということになるわね」


「どこも間違えてないと思うわ」


 妹は理解できていないのか?


「私は……キツネと呼ばれていたあの方と手を組んだことが間違いの始まりだと思う」


「でも、あれは、お父さまの病気を治してくださるからと……」


 姉は首を横に振った。


「あの時、その言葉を信じてはダメだという侍従を叱り飛ばしたわよね」


「ええ」


「彼の額には現れたのはアマテラスの印だった」


「彼は間違ったことを言っていなかったと?」


「そう考えるのが自然ね」


「じゃあ、あの病は?」


「あのタイミングで治療を少し変えていたことをさっき思い出したの」


「え?」


「それも、お母さまの指示でね」


「ということは?」


「自分で考えなさい」


 妹はしばらく考える。


「私達が接触していたのは隣の大国よ? なのに、どうして北の国なの?」


 姉は呟いた。


「私達も騙されていたのかもしれないわね」


「え? どういうこと?」


 姉は唇を噛む。


「あの方は大国に、イタチは北の国に、宗教が同じだったから、途中で……バックが入れ替わっていることに気づかなかったということよ」


 妹は考えを巡らす。


「もしかしたら、お父さまのご病気の原因は、あの方が仕掛けた呪詛にあるのかもしれない」


 姉は言った。


「え?」


「それと……」


 姉は何度も前髪をかきあげる。


「いろいろとあるでしょ? 私達もそれを見てきたじゃない」


「病気になる呪詛?」


「そう、ガンが一番、やりやすいみたい」


「それって……」


「その頃に心臓病で亡くなった叔父さま、いらしたでしょ?」


 妹はうなずく。


「犯人があの方とイタチだったのよ?」


「宮廷費の流用というか、お金の流れよね。あの方からもらったお小遣いって……」


 黙り込む妹。


「時期を考えて、ドンピシャだと思うわ」


「もしかして……お父さまはその事を知った?」


「匂わせられたのかもね。お前の娘たちは金を受け取った……」


「え?」


「更に、病気にもなり、もしかしたら薬も入っていたかもしれないけど、暴力をお母さまだけに振るった」


「私達には?」


「常に看護師がいたでしょ? 調整されていたのかも」


「そうか、会えない時があったというのは……」


「まだ病状的に暴力的になっていて、合わせられない状態だったのかもしれないわ」


 妹はため息を吐く。


「それに、あの時の恋愛の相手……」


「裏でマフィアに繋がっていたって、教えてくれた人がいたの」


「お姉さま?」


 小さくため息を吐く姉。


「要するに、騙されていたのよ。わたしたちは、あの方……もう、キツネでいいわね。キツネとイタチに!」


 姉は、いろいろと繋がっていくことに気づいた。


「お母さまはどうやって生活していると思う?」


「私達が生活費を渡していなかったでしょ?」


「ええ。実家のあの伯父さまが援助していたみたい」


「え、それって……」


 姉は何度もため息を吐く。


「それに、お父さまのお酒代はどこからでてたの?」


「どういうこと?」


「私が経理をチェックした時、そういう項目の支出がなかった」


「だから、どういうこと?」


「誰かお酒代を出していたの?」


「誰?」


「考えられるのは、お母さまの実家よ」


 妹は黙り込む。


「伯父さまだと思って油断しすぎてたかも」


「だから、どういうこと?」


「伯父さま、自分の信念を通すなら、他の人を簡単に欺く……って、誰に聞いたんだっけ?」


 姉は考える。


「要するに、伯父さまは、お母さまと仲がいい」


「ええ、そうよ」


「考えが同じだと思ってもいいかもしれない」


「だから?」


「キツネにとって、私達って、どういう存在だったと思う?」


「え? ん~。同じ皇族? 直接の血の繋がりはないけれど……」


「そういう事を言ってるんじゃないわ。いつでも切り捨てられる存在だということよ」


「え?」


 姉は背もたれに、もたれかかる。


「いつでも切り捨てられる。下手すれば、全責任を負わされる」


「でも、もう、亡くなっているじゃない」


「ええ、次はイタチが力を持つかと思ったけど、違うじゃない」


「……そうね」


 妹は少し考え、首を傾げた。

 姉はため息を吐いた。


「お姉さま?」


「私達が欲しかったのは……お金よね」


「ええ」


「それだけ?」


「お金は欲しいけど、お父さまのことを考えると……」


「皇族でなくなったら、『元女王』よ? 誰が相手してくれる」


「え??」


 姉はキッと妹を睨みつける。


「もう少し、自分で考えたらどうなの?」


 唇を尖らせる妹を見て、姉は何度目かのため息を吐く。


「なんか、あの姉妹がああなった理由が、わかった気がするわ……」


「あの家?」


「違うわ。イタチの家よ」


 妹は黙った。


「殺し合い?」


「違うわよ。あれは、イタチが呪術を使って、皇女を狙ったのを姉が皇女を守っただけじゃない」


「命をかけて?」


「そうね。私達のこと、ああやって守ってくれる人いる?」


 妹はようやく真面目な顔つきになる。


「もう、守ってくれる身分もないのよ。だから、警備もつかない」


 姉はゆっくりと機内を見る。


「今のこの状態で、私達を気にかけている人、いる?」


 姉は目を閉じた。

 気にかけてくれたのは、あのキツネとイタチが目の敵にしていた皇女だけかもしれない。


「燃料がなくなって墜落か、それともミサイルで爆破されるか」


 姉はフライト情報を見る。

今、高度は300フィート。


「どっちにしても、残された時間はあまりないわね」


 姉はそう言うと、妹を見た。


「私達がどこで間違えたのか、じっくり、考えてみて」


 姉は目を閉じる。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「私は嫌です」


 皇太子がいつになく強い口調でツクヨミに訴える。


「私は、嫌です。もう一度、あの方々に、チャンスをお願いします」


 皇太子はそう言って、ツクヨミに頭を下げる。

 その様子に、すめらぎは戸惑った。

 ここまで、皇太子という立場にある娘が、感情をむき出しにするとは思わなかったのだ。

 すめらぎは黙ったまま、ツクヨミの顔を見る。

 ほぼ無表情のツクヨミだけに、感情を読み取るのはなかなか難しい。


「お願いいたします」


 ツクヨミは小さく息を吐いた。


「理由を述べよ。あの娘らを助けるに値する理由なのか、それ次第だ」


 すめらぎは驚いた。

 すめらぎ自身、今、あの姉妹が乗った飛行機がどういう状態なのかは、理解している。

 あれは、スサノヲがやっているのだ。

 発射されたミサイルを戦闘機に戻し、地上でエンジンが回っているにも関わらず1mmも動かず、落ちることもない。

 周りに威嚇する意味で、ツクヨミとスサノヲの印が交互に光っているのだ。

 それも、二つの印は、飛行機全体に散らばっているという。


 すめらぎは、執務室を見渡す。

 夫人は少し青ざめていた。

 すめらぎは、夫人を手近な椅子を持ってきて、有無を言わせず座らせる。

 皇太子はその様子をちらっと見て、少し安堵した。


「母のためです」


 ピクリとツクヨミの頬が動いた。


「母があの方々にひどい目に合わされている時に、心を寄せ、温かい言葉と共に寄り添ってくださった恩人でもある方の、お嬢様なのです。その方がお嬢様を失い悲しみに沈む姿を、母は我がことのように悲しむと思います。私は、母が、母が嘆き悲しみ苦しむ姿を見たくないのです」


 皇太子は一気に言った。

 夫人は驚いて、顔を上げて皇太子の後ろ姿を見る。

 守ろうと思っていたあの小さな女の子に、今、守られているのだった。


「もう、よい。ツクヨミ。姫の願いを叶えよ」


 アマテラスが現れた。

 それも、ツクヨミとは天と地が逆になったかのように、逆立ちしている。

 逆立ちしているが、長い黒髪が下になっているわけではない。

 重力がそこだけ違うかのようだった。


「合格なのであろう?」


 ツクヨミは、観念したように、うなずいた。


『スサノヲ、現状維持のまま待機』


『あい、わかった』


『兄者、ところで、大きいミサイルが飛んできた場合、戻してよいか?』


『関係のない方向に向かわせよ』


『わかった』


 この会話はすめらぎも、皇太子にも聞こえていた。


「試すようなことをして、悪かったな。これは、課せられた試練の一つじゃ」


 アマテラスは周りを見て、ようやく自分が逆さまだということに気づき、ひょいと、前に飛び出し、床に足をつける。

 といっても、床から30センチは浮いていたのだが。


「では?」


「飛行機に積まれているのはこの国にあってはならぬもの。それはスサノヲが処分する」


「どちらに?」


 すめらぎが尋ねた。


「スサノヲの領域で、誰も手が出せぬところじゃ」


 ツクヨミはうなずく。


「では、あの方々は……」


 アマテラスはツクヨミを一瞥すると、皇太子を優しい眼差しで見た。


「長い夢を見ていたということに、しよう」


 皇太子の顔が徐々に笑顔になっていく。


「ありがとうございます」


 何度も頭を下げる。


「もう、よいぞ?」


「あの飛行機に乗っているのは……」


「消しても問題ない……」


 アマテラスは首を傾げ、言葉を続ける


「わらわの民ではないしな」


「消すか?」


 アマテラスとツクヨミの会話にすめらぎが割り込んだ。


「国際問題になります。せめて、無事に空港に戻してください」


「そうか。人の世の理とは、面倒じゃのぅ……」


『いたしかたない。スサノヲ、その飛行機を無事にさっきの空港まで届けよ。中の人は意識を失わせておけ』


『そういう細かいことはできぬ。軽めのいかずちでよいか?』


『ああ、その前に、二人だけこちらに戻す』


「え?」


 皇太子は驚く。


 ツクヨミが何かを受け取る。

 右手に姉、左手に妹を荷物を持つように抱えていた。


「え……と?」


 皇太子は首を傾げた。


「当分、意識は戻らぬ」


 そう言うと、ツクヨミはそっと床に二人を置いた。


「ふむ。どうせなら、この印、自分にだけ見えるようにすればよいのではないか? 反省すると思うぞ」


「なるほど、いい案だ」


『スサノヲ、印を自分にだけ見えるように変更だ』


『あい、わかった』


『ところで、荷物もこちらに送ってくれ』


『荷物……荷物……これとこれと、これとこれか。そっちに送るぞ』


 ドサドサドサドサと、いきなりスーツケース2つと機内に持ち込んだであろうハンドバッグが宙から落ちてくる。

 そのハンドバッグからはパスポートが見える。


「乗っていた証拠も消すか」


 ツクヨミの目が緑色に光る。


 そして、向きを変える。

 右手を何やら動かし、一つうなずく。


「記録を一切消した」


「ありがとうございます」


 皇太子はアマテラスとツクヨミに頭を下げた。


『スサノヲ様、ありがとうございます』


『また、魚を届けてやる』


『ありがとうございます。楽しみにしていますね』


『おう!』


 その会話を聞いていた、アマテラスはため息を吐きそうになり、息を止めた。


「あのキツネに抱き込まれておったようじゃが? これからどうするのじゃ?」


 アマテラスはすめらぎに尋ねていた。


「今回の件で、自分達がどのような事をしていたのか、わかった……はずです。今後の二人を見守りたいと思います。次はありません」


 その横で皇太子はアマテラスに頭を下げていた。

 そして、顔を上げると、ツクヨミに向き直る。


「先程は感情を乱し、言葉を発してしまいました。お許しください」


「許す」


 ツクヨミは即答した。

 その横でアマテラスは笑っている。


「そちのその光、優しくあの母親を包んでおった。姫もな。わらわはそなたに感謝しておる」


 アマテラスは夫人に向かってそう言うと、にこりと笑い、姿を消した。


「では、すめらぎ、後は任せた」


 そう言うとツクヨミも消える。


 皇太子は父であるすめらぎを見る。


「何か、お手伝い……できますか?」


 すめらぎはフッと笑い、首を横に振る。


「一応、これはどこに連絡すればいいのでしょうかね? 防衛省でしょうか?」


「そうですね。あと警視庁ですね?」


 職員が色めき立つ。

 すめらぎは、ゆっくり職員たちを見渡した。


「然るべく、関係各方面に連絡をよろしくお願いいたします」


「はい」


 職員たちは返事をし、次々と執務室から出ていく。


 夫人はゆっくり椅子から立ち上がり、床に転がされている娘を見る。


「本当に、お印が出ているのかしら?」


 皇太子が覗き込む。


「はい、しっかりと出ています。ツクヨミ様のお印と、スサノヲ様のお印が並んでいます」


 夫人は小さく息を吐いた。


「心を入れ替えてくれるといいんですけど……」


「大丈夫だと……思います」


 夫人はうなずく。


「まさか、キツネの手先に成り下がっていたなんて。いえ、違うわね。手先ではないわ。きっと捨て駒ね」


 自嘲気味に笑う夫人だったが、自分のお付きの女官を見る。


「この子達を……そうね。私のところに」


 女官は一礼すると、執務室から出てゆく。


「寛大な処分をありがとうございます」


 夫人は皇太子とすめらぎを見る。


 皇太子は首を横に振る。


「まだ、私が受けた恩を返せていません」


「いいのよ。あなたが素敵な女性に育ってくれていることが、私は嬉しいの。それに、私の望みを叶えてくれた」


「望み……ですか?」


「皇位継承に男も女も関係ない……。今、あなたは皇太子。いずれすめらぎよ。それはまだまだ先だけど。この人はなかなかしぶとそうだから、譲位が妥当ね」


 ふふふと夫人は笑う。

 すめらぎも笑っていた。


「まだまだ、譲れる状態になっていませんし、恐らくですけど、私は長生きすると思います。譲位するとしても、祖父の年齢を超えると思います」


「最高年齢の記録更新し続けるわけですね。それも、楽しみね」


 ちらっと、床に転がされている娘達を見る。

 その時、娘達が皇族としての務めを果たしてくれることを夫人は祈った。

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