16.5話 隠されていた印 ~前編~
フィクションです。
長くなりそうなので、分割しました。
少し時は遡ります。
16話と17話の間ぐらいの話です。
物理現象、全く無視しています。
ここは、ファンタジーの世界です。
作者は妄想中です。
「あ~やっと、自由だわ」
皇室から離脱した姉妹は大きく伸びをした。
上皇妃と裏で繋がっていた姉妹は、まだ皇族であったうちに、住むところを確保していた。
「で、どうするの?」
「ん~。招待されているから、あっちに行こうかな?」
「そうなのね。お姉さま……もう、お姉でいい?」
「急に柄が悪くなったわね」
「もともと悪いんだけどね」
そういながら、妹は顔を歪める。
「そういえば、何か書かれてたわよね」
「性格の悪さが顔に出ててるって?」
「大きなお世話よね?」
二人共顎と下唇を突き出しながら、文句を言い続ける。
「でも、あのお母さま……ばばあの顔、スッキリしたわ」
「ほんと。そう。自分が正しいと言い張ってるなんて、信じられない」
「お父さまを一人にしたのは、あの女……」
「もう、あの女でいいわよ」
「そうね」
長女は高いお酒の封を切る。
「乾杯しましょ。わたしたちの自由に」
「乾杯」
二人はグラスをカチリと合わせた。
高層マンションのやや上の方。
最上階にしなかったのは、予算の都合ではなく、目立たぬようにしたからだった。
長女は家を出ることができて、精々していた。
「それにしても、このドレス、売れるかしら?」
「どうかな。着物はいいものなんだけどね。あちらの人はこういうの着ないし」
「うん。ドレスもどこかで売っちゃう?」
「あ~でも、税金で作られたやつだから、あまり目に付いちゃうと、余計な人達が周りをうろちょろし始めるわよ」
「そっか。で、どうする? あの方の計画が全部潰されたわけだけど……」
「私達が引き継ぐっていう話だったけど、まだ連絡がないのよね?」
「それよりさ、公務の引き継ぎ、妹に渡してよかったの?」
「すめらぎのチェックが入るでしょうね。あの仕事は切り捨てないと、自分達の首を締めることになるわ」
「そうよね」
グラスが空になり、お互いにお酒を注ぎあう。
「そういえば、あの二人、印がでてないわね」
「普通なら、印が出て上皇といっしょにあの世だったんじゃない?」
「皇族だからでなかったのかしら?」
「印は私達にも出てないけどね?」
「そうなのよ」
二人は顔を合わせ、小声で呟く。
「バカなのかしらね」
「きっとバカなのよ」
大笑いしながら、お酒を次々とあけてゆく。
そして、そのままだらしない格好で、眠りこけてしまうのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その頃、その姉妹の母親は、自室に一人でいた。
手元にはアルバムがある。
それも、結婚してからのアルバムだった。
真意はなかなか娘たちには伝わらない。
むしろ、反発しかない。
疲れかけていたところに現れた希望の光。
そちらを大事にすれば、さらに反発された。
もともと自由人であった夫だった。
しかし、皇室の闇の部分に気づいてしまった。
色々と板挟みになり、アルコールの量が増え、更に手がつけられなくなってしまった。
どうすればよかったのだろうか。
キツネやイタチが入り込んできてから、すべてが狂ってゆく。
疲れた。
手を伸ばし、写真立てを手に取る。
そこに写っていたのは、皇太子になった皇女の姿だった。
儀式を終え、外に出たところで、空に手を伸ばした。
その時、虹がずっと消えずに残っていたことに、誰が気づいただろうか。
そして、何か大事そうに抱え込んだ。
それは、翡翠の勾玉。
その瞬間をおさめた一枚だった。
三種の神器がの一つが現れるという、信じられない奇跡。
それを目撃したのは、周りにいた人はもちろん、テレビ中継され、そのシーンが何度もテレビで放送されたので、知らない人はもういないだろう。
あの上皇が会見で言っていた。
『アマテラスに愛されし娘』と。
そこだけは同意できるところだった。
それ以外に関しては、何を今更……だった。
それを思い出し、ふふっと笑う。
「アマテラス様だけではなく、私も愛しているのですよ。皇太子殿下」
皇籍離脱した娘達は、もう、娘ではない。
少しでも皇妃陛下のお力になれたなら。
少しでも皇太子殿下のお力になれるのなら。
私は、私の務めを果たそう。
私の命の許す限り。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「パスポートかぁ……」
一般人になると、いろいろと不都合が出てくる。
今までみたいに、「チケットお願い~」はできない。
自分で全部しないといけないのだった。
ただ、身の回りのことをしてもらうために、付き人を二人ずつ残した。
そのお給料も私が払わないといけないらしい。
お金がいくらあっても足りない。
へそくりをしておいて、よかった。
あの方からもお金はもらっていた。
普通に暮らすのであれば、問題なく一生過ごせるだろう。
「この集まりに、参加する?」
姉が資料を見せてきた。
「へぇ~。アメリカで……あの国と……あの国も?」
姉は得意げにうなずく。
「顔つなぎしておいて、損はないでしょ? まだまだ計画は終わっていないんだから」
「そうね。で、どの便でいくの?」
「ちょうど、あの団体が借り切った飛行機があるの。それで行こうと思うの」
「いい席?」
「もちろんよ」
ふふふと、どちらからともなく笑う。
「じゃあ、旅行の用意しないとね」
それから二日後、二人は空港へ向かう。
チェックインも問題なく、出迎えてきた人とも合流し、快適な空の旅を待つだけになっていた。
その中で、すめらぎのかつての弟の投資話が出てきた。
それらはすべて、姉妹が引き継いでいる。
大金が動く話だ。
それも利益がいっぱいという、笑いが止まらなくなる話。
まだその投資話はすめらぎは気づいていない。
時間が来て、飛行機に乗り込む。
その飛行機にファーストクラスはなかったが、全席ビジネスクラスだった。
それもファーストクラスに近い。
快適な空の旅は約束されたようなものだった。
機内アナウンスがあり、シートベルト着用サインが出る。
離陸もスムーズ。飛行機が高度をあげてゆく。
地上が見える。
「見納めかしら?」
「そうかも?」
姉妹は見慣れた景色をじっと見ていた。
不思議と寂しさは感じない。
郷愁もなかった。
母とはすでに決別済みである。
「もう少し、財産、増やせたんじゃない?」
妹の言葉に姉は頷いた。
「でも、あれ以上すると、叩かれそうだったし……」
「マスコミね……。忖度する相手間違えてると思うわ」
上顎と下唇を突き出し、妹はぼやく。
「まあ、後悔させてあげればいいのよ」
シートベルトの着用サインが消えた。
水平飛行に入ったらしい。
しかし、次の瞬間、ガクンとなった。
ややしてから機内アナウンス。
「この飛行機は我々の支配下にある。行先を変更する」
「は?」
姉妹は顔を見合わせた。
向かう先はアメリカだったはず。
どこに向かうというのだ?
「ちょっと、富士山が見えてるわよ?」
確かに見覚えのある、山頂が雲の上に出ている。
機内は騒然としているが、誰一人、席を立っていない。
CAが機内アナウンスを始めた。
「只今、状況を確認しております。もう少しお待ち下さい」
ここで慌てては元皇族の名が廃る。
二人は一度顔を見合わせると、手を握り合って、不安をごまかす。
空の旅、それだけ見れば、問題なく快適だ。
ただ、ハイジャックというサスペンス要因がなければ……。
もしかして、スリラー?
妹は、外を見るだけだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ハイジャック、ですか?」
すめらぎは何度か瞬きをする。
「どういうことでしょう? 犯人は何か、要求してきているのですか?」
「いえ、ハイジャックした……というだけで、何も要求していません」
「どこに向かっているのですか?」
「アメリカ……フロリダだったのですが、どうも……今、朝鮮半島を目指しているようです」
すめらぎは少し考えた。
「その連絡が私に来たということは、搭乗者に……」
「あの、皇籍離脱した姉妹、二人が乗っています」
すめらぎは思わず目を閉じ、大きく息を吐く。
「他の搭乗者に不審な点は?」
報告をしてきた職員は隣の人物を見る。
「職務上、身分を明かすことが出来ません」
「いいですよ」
「北の工作員らしき人達です」
ピクリとすめらぎの頬が動く。
そして、肩の力を抜き、首を横に振った。
「ハイジャック犯は、どういう人なのでしょう?」
「搭乗者というより、あの国の航空会社からの……乗組員です」
「敵対する人達だったのですか?」
「そのようです。どちらかといえば、脱北者といえば……わかりやすいでしょうか?」
「その方たちは自分の国に戻りたいと思っているのですか? それは考えにくいのですが……」
その質問には口元を引き締めている。
「あの、テロが再現されるかもしれません」
すめらぎは目を見開いた。
「あの印が出たものが飛行機の搭乗者にいますか? それを至急調べられますか?」
させてはいけない……そうすめらぎは強く思う。
ノックもそこそこに、皇太子が部屋の中に入ってくる。
「お話中すみません。急ぐのです」
すめらぎはちらっと皇太子を見た。
「飛行機の件ですか? あの二人が乗っているようです。何かわかりましたか?」
「印が、出ています」
すめらぎの問いに皇太子が答え、その場にいた全員がギョッとする。
「ちょっとまってください。関係ない人も乗っているんじゃないですか?」
「違うのです。運んでいるのです!」
慌てて、一人がすめらぎに一言断り、電話を入れる。
「至急、アメリカ行のああ、そうだ、その飛行機がどこにむかっているか、こっちに回してくれ」
頬と肩でスマホをはさみ、バッグからタブレットを取り出して、地図を出す。
ややすると、その飛行機の飛行経路が出てきた。
「どちらかと言えば、北に向かってます」
「その場所で爆発したら、とんでもないことになります」
皇太子が慌てる。
すめらぎは皇太子の手を取ると、執務室の奥の部屋に連れて行く。
そこは、臨時で祈りを捧げる場所だった。
いつもの場所よりも少しだけ、狭い。
「ここで、視てください」
皇太子はその場に座り、目を閉じる。
そして、手を伸ばし、何かを探る。
「飛行機に、飛行機に印が、ツクヨミ様とスサノヲ様の印で覆われてます」
それを聞き、すめらぎは目を閉じる。
「中にいる人は……」
「パイロットは縛られて後ろに転がされてます。
操縦桿を握っているのは、ハチマキをしているのでわかりにくいですけど、でも、ツクヨミ様とスサノヲ様のお印を感じます」
「副操縦士は?」
「副操縦士が仲間のようです。額に、お印が二つ並んでます」
すめらぎは、深呼吸する。
「乗員、乗客は……」
「操縦室のドアの前に立っているのは、二人。お印が二つずつならんでます。
制服を着ているので乗務員のようです」
さらに中を進んでゆく。
「ああ、お姉様方がお二人、いらっしゃいます」
皇太子の言葉が続かない。
「お印があったのですね」
コクンとうなずく皇太子。
「他は? お印のない人はいませんか?」
皇太子は席についている人、CAなど確認していく。
「お印がない人が、いません」
ハッとして、また飛行機の操縦室に戻る。
後ろに転がされていた機長は……。
皇太子は首を横に振った。
「機長にも、お印があります」
「全員ですか?」
「はい」
「飛行機も……なんですよね?」
「はい。問題なのは積荷です」
「あの二人と話ができるでしょうか?」
皇太子の背筋が伸びた。
「やってみます」
目をぎゅっと閉じて、二人は手を握り合っている。
『聞こえますか?』
もう一度声をかけてみる。
『聞こえますか?』
何の反応もない。
オーラを見るが、皇統のオーラは持っていなかった。
儀式を受けていないと、オーラは弱まってくるのだろうか?
それとも、他の宗教の神を崇めてしまったからだろうか。
『聞こえますか?』
何度も諦めずに声をかけてみる。
ようやく、姉のほうが、首をかしげ始めた。
そして、妹の手を叩く。
『聞こえますか?』
二人は思わず顔を見合わせた。
『聞こえます』
『聞こえます。助けてください』
『まだ、状況がわからないのです。ただ……』
皇太子は迷った。
『飛行機の乗組員、乗客、すべてに、ツクヨミ様とスサノヲ様のお印が現れています』
『え?』
姉妹はお互いの顔をじっと見る。
印を確認することが出来た。
『どうして?』
『恐らくですが、アマテラスの領域を出たからだと思います。それまではすめらぎの願いで、出さないようにお願いしていたのです。皇族でしたので……』
『皇籍離脱しなければ、出なかった?』
姉が聞いてきた。
『いえ、何か、行動を起こしませんでしたか? その時点で、皇族であっても、アマテラスの領域外にでると……ツクヨミ様とスサノヲ様のお印は出てしまいます。アマテラス様のお印がない限り望みはもうありません』
『なんで? どうして? 私達はアメリカに行きたかっただけよ?』
『乗った飛行機が悪かったです。核弾頭を……積んでいます』
「なんですって?」
思わず、妹が立ち上がりかけたが、シートベルトでそれはできない。
CAに何事かと睨まれた。
『乗組員は、ハイジャック犯の仲間です。気をつけてください』
妹は、謝り、姿勢を正す。
『これって、今、どこに向かってるの?』
『北の国……ですね』
絶望が二人から伝わってきた。
『何か、残す言葉はありますか?』
『ないわ』
『私もない』
『そうですか』
二人は意地になった。
母親だった人に、残す言葉はない。
『何か、横を飛んでるわ?』
皇太子は飛行機の周りに意識を広げた。
『航空自衛隊ですね。飛行機を確認していると思います。ただ、あぁ……ツクヨミ様とスサノヲ様のお印が光り始めましたので……離れると思います』
皇太子の言葉が終わらない内に、航空自衛隊の戦闘機は飛行機から離れ、一定の距離を保つ。
妹は、窓から下を覗いてみた。
ちょうど、翼が見える。
二種類の印で埋め尽くされていた。
それもそれぞれの印が交互に光っている。
戦闘機が更に離れる。
『日本の領域、海域から出ました』
姉妹には絶望しかなかった。
ピコンと、音がなり、掲示板に文字が出てきた。
目的地まで、あと二〇分。
皇太子の声は聞こえなくなっていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうでしたか」
すめらぎに首を振る、皇太子。
すめらぎはため息を吐く。
皇太子は立ち上がり、部屋を出ていこうとする。
「ここにいては何も出来ません」
すめらぎは皇太子に続いて部屋を出た。
執務室に戻ると、二人の姉妹の母親が来ていた。
「おばさま……」
「お二人のお心を乱すようなマネを、かつての娘たちがしてしまい、申し訳ありません」
そう言って、頭を下げる。
皇太子は思わず駆け寄り、肩に手を置いた。
「まさか、あそこまで愚かだったとは、思いませんでした」
すめらぎは、黙ったまま、夫人を見た。
「私の手でどうこうできる範囲を超えました。もう、神の領域です」
皇太子も頷いている。
「先ほど、残す言葉はあるかと、尋ねたのですが……」
「なかったのですね」
力なくうなずく皇太子。
「遅かれ早かれ、こういう結果なったのだと思います。神の手に委ねます」
そう言って、頭を下げる。
すめらぎは掛ける言葉もなかった。
『ふむ』
ツクヨミが姿を現した。
「ツクヨミ様……」
皇太子が驚いて、宙を見る。
夫人が顔を上げると、一人の男性が宙に浮いていた。
「スサノヲが臨戦態勢に入った」
ツクヨミは部屋にいる人に姿を見せ、声を聞かせた。
「いつでも飛行機は握りつぶせる」
「握りつぶした場合、積んでいる荷物はどうなりますか?」
「それの確認をしに来た」
すめらぎはじっとツクヨミを見る。
「こちらの空港に安全に着陸させるということは出来ますか?」
「目的は?」
「罪を明らかにします」
ツクヨミはしばらく考える。
「アマテラスが言っていた。あの飛行機に、『わらわの民はおらぬ』と」
皇太子は目を閉じる。
カトリックであれば、まだ問題はなかったのだ。
姉妹が傾倒したのは、キツネやイタチと同じ宗教だった。
その宗教の信者は、アマテラスには民として認識できないのだった。
「もう、目的地まで数分です」
皇太子が言った。
「あの飛行機が目指しているのは、最高指導者がいる場所だ」
すめらぎがツクヨミの言葉に目を見開いた。
周りにいる人全員を巻き込むことになる。
いや、それ以上に甚大な被害が出る。
汚染された空気は偏西風により、日本に来るかもしれない。
広島や長崎の比ではなくなるのではないか……。
ツクヨミが首を傾げた。
「ああ、飛行機が急降下しておる。あれでは意識を保つのが難しいかもしれぬ」
そう言いながら、ツクヨミは目を閉じる。
「目的地にまっすぐ突っ込む気だ」




