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15話 魂のパズル

フィクションです。

ちょっと短いです。

「姉ちゃん、やっとできたよ」


 そう言って望は、それぞれ色の違うなにかの塊のようなパーツが入ったトレイを朋美に見せた。


「ありがと~。よく計算できたね」


「何度もやり直して、言われる通りにしたつもりだけど……。確認してくれる?」


「うん」


 朋美は早速、塊を手にとってじっと見る。


「作ってみて、どう思った? ボールみたいな玉にはどうやっても足りないでしょう?」


「うん、うまくパーツができたところで、たぶん、半球だね」


「やっぱりそうよね」


 朋美はそう言うと、パーツを手に取り、立体パズルに挑戦する。


「この小さく空いてる穴は、カケラなのかな」


 朋美の手元をのぞき込みながら、望は言った。


「うん、たぶんそうだと思う」


「あの影武者のカケラは?」


「ちゃんと、描いたわよ」


 朋美は大きなパーツをくっつけていき、半球に近いカタチを作っていく。


「ここって、真っ平らなんだよね?」


「そうなの。スパッと切ったみたいに、半分……よね?」


「うん。もしかして、第六って、この残りの半球?を探してるんじゃない?」


「私もそう思った」


「それって、どこに散らばっちゃったんだろうね?」


「わからないわ。ただ……」


「ただ?」


「その理由をアマテラス様はご存知かもしれない……とは、思った」


「どういうこと?」


「ツクヨミ様が、言われてたじゃない。『すでに消滅した世界は存在する』って」


「言われてたね」


「それに、数字を冠した女神様たちのことにも、詳しかった」


「……そうだったね」


「もしかしたら、今のこの第六の魂のカタチを本当は説明できるのかもしれない……」


 望は眼の前の半球を見る。

 カケラの色を変えたので、ところどころ、半球の球面の色が変わっている。

 色の変わっている部分は、ちょうど六角形。

 サッカーボールの六角形と五角形の大きさよりもかなり小さいけれど、そういう形でないと魂を分離できないのかもしれない。

 第六の六とそれは関係あるのかどうかも、まだ推測のままだ。


「女神様の修行って、何なんだろうね?」


 望はふと、それを口にした。


「産まれるところを間違えたって、どういう事なんだろうね?」


 朋美はカケラを見ながら、考える。


「ね、ついでに……これの完全な半球っていうのも、作ってくれない?」


 望はなるほどというふうにうなずいた。


「すぐに出してくるよ。ちょっと待ってて」


 そう言うと、望は部屋を出ていき、自分の部屋に戻る。


「魂の形が半分。普通に考えたら、もう一つが合わさって一つになる……。まさか、ここで魂の半分探しが課題なんて、いわないわよね?」


「ふむ。それに気づいてしまったか」


 いきなりツクヨミの声がし、朋美は飛び上がって、驚いた。


「ツクヨミ様?」


 どうやら人の姿に変わったらしく、眼の前の椅子を引いて、座った。

 そして、第六の魂の半球をばらばらにし、もう一度組み立てる。


「ほぼ…集まっていたということなのか……」


「そう、みたいですけど、カケラとしては、ほぼ同じ大きさだということがわかったので……」


 朋美がそう言うと、ツクヨミは六角形のパーツを器用に引っこ抜いていく。


「足りないカケラは、あと……3つぐらいか?」


「そうですね。神宮参拝の時のいなずまで……確実に一つは失ってます」


「ふむ。ゴミ箱に入っただけだから、回収しようと思えばできるかもしれぬが、それができるのは……第一の大姫のみ」


「第一の大姫がこっちに戻してくるってことは……?」


「それはありえぬ」


「断言できるんですか?」


「断言できる。そもそも第一の大姫は第六に対して、かなり怒っておる」


「怒ってる……」


「厳密に言えば、第二の大姫も、第三の大姫も、第四の大姫も、第五の大姫もだ」


「えっと、第六以外の大姫様は、第七の末妹姫様の味方?」


 ツクヨミはうなずく。


「普通では考えられぬぐらいの悪事を第七の末姫に働いたらしい」


「それに最初に気づいたのは、第三の大姫。すぐに対処したが……すでに狂わされた後だった」


「それでどうなったんですか?」


「その世界での禁忌を犯すことになり、修行どころではなくなった」


「え……」


「そして、修行を完了できぬまま、その生涯を終えてしまった」


「それって……」


 ツクヨミはフフッと笑う。


「人には理解できない世界であろうな。怒り狂ったのは、第七の末姫を受け入れていた第二の大姫だった」


「まさか、すでに消滅した世界って……」


「そうだ。少なくともその時に一つの世界は消滅した」


 朋美は言葉が出なかった。


「そこに住んでた人は……?」


「必要な魂だけ救い出した後、この前、この世界から消滅させた武器と同じような物を星にぶち込んだ」


「ぶち込んだって……」


「それで、その世界にいた第六はどこかの世界に飛ばされた……それが、ここだったようだが」


 そういうと、ツクヨミは小さく息を吐いた。


「このアマテラスの領域からかなり離れたところに飛ばされてきたんだろうな」


「それで、第六の魂は分裂したまま東を目指した」


 ツクヨミはうなずく。


「その形跡をたどる予定はないが、もしかしたら……姫は浄化の意味でその地を訪れることになるかもしれぬ」


「なるほど」


 ドアがガチャッと開けられ、望が残りの半球を持って、現れた。


「あれ? ツクヨミ様……」


 朋美は望から残り半分を受け取り、組み合わせた半球にそれを重ねた。


「ほんとだ、ちょうど半分……」


 ツクヨミは納得したようにうなずいた。


「私が知ってる女神の修行は、魂の半分を見つけ、それで愛を育むこと……なんだが……」


 じっと半球を見て、肩を落とした。


「まさかとは思ったが……本当だったか……」


「何がですか?」


「第六が第七を妬み、その魂の半分を自分の魂の半分と取り替えたというのだ」


「は?」


 朋美と望は重ねられた半球を見る。

 そして、朋美は、完全な半球を外した。


「これを第七の末姫様に……」


「だが、それに気づいた第三の大姫が、すぐに元に戻したらしい」


「じゃあ、こういうことよね」


 そういって、外した半球をまた重ねた。


「それを第六は……第七の半神だと思い、完全に破壊した」


「え?」


 朋美と望は顔を見合わせた。


「元に戻された半神って……自分の……?」


 朋美は信じられないというふうにツクヨミを見た。


「いや、そういうことらしい。だから、第六は半神がない」


「それって……大姫の資格はあるんですか?」


 望が聞いた。


「本来なら、ない。だが……もう半神を取り込めば……」


「だから、第七の末姫様が狙われたんだね。その半神目当てで」


「そうだ」


「それって、私達に話してよかったんですか?」


「まぁ、元長老には話したし、巫女の一族の元長も知っている」


「一つ、確認していいですか?」


「なんだ?」


「今、その末姫様の半神の方は……」


「ああ、ちゃんといるぞ。詳しい事情は話せぬが、二人を見てる限り、問題は感じぬ」


「問題って……年齢じゃない?」


 望がポツリと呟いた。


「相手の年齢は何歳なんですか?」


「四学年上……だったか?」


「中学生と小学生の恋愛ですか……」


 朋美はめまいを感じた。


「近々婚約するって言っていたから、問題ないであろう?」


 首を傾げるツクヨミに、朋美は肩を落とした。


「いえ、神の理と、人の理の違いを感じていただけです」


「ふむ」


「でも、これ、第七の半神で、第六は完全になれるの?」


「なれぬ」


「即答だね」


「でも、それを聞いて安心したわ」


 朋美は少しホッとする。


「いや、姉ちゃん。安心するのは早いよ」


「どうして?」


「できないのなら、第七の末姫の半神を潰しちゃうか、第七の末姫本人を……」


 朋美はツクヨミを見た。


「もしかして、それ込みの課題?」


「かもしれぬ。第六の大部分をこのアマテラスの領域から取り除いたとはいえ……」


「カケラは残ってる」


「そうだ。その欠片が第七の末姫に入ったら……」


 ややしてからツクヨミは首を横にふる。


「それは、天地がひっくり返ってもありえないことらしい」


「……これ以上、尋ねるのが怖くなるわね」


「ただ、第六の影響が出てることは間違いない」


 朋美は首を傾げた。


「もしかして、足りないカケラで?」


「恐らく……としか言えぬ」


「目は足りてる?」


 ツクヨミは少し考える。


「あの地では、巫女の一族とツクヨミの一族が交わっておるからな……」


「交わる……」


「え、子ども?」


「恐らくだが、それぞれが一族とわかっておらぬ」


「え?」


 朋美と望は顔を見合わせた。


 そして、お互いの魂を見る。


「魂が見れなくなってたということ?」


「そういうことのようだな」


 ツクヨミはうなずく。


「それに、あの地は……個性が強いからな……」


 朋美と望は眼の前の神を見る。


「アマテラス様やツクヨミ様、スサノヲ様とその土地は相性が悪いのですか?」


 ツクヨミは考え込む。


「そういうわけではないのだが、もともとあの土地の成り立ちを考えれば、いろいろと影響してしまうのか……」


 ツクヨミは独り言を呟く。

 その様子を見ている限り、妙な危機感はない。


「ただ、あの土地では第六の気配は消えるようだ」


「それじゃ、末姫様は……」


「今のところ直接どうこうというのはないが……」


「それ、言い換えれば間接的にはあったってことでしょ……」


 朋美が冷静に言う。


「あった。ただ、狙いがわからぬ」


「狙い……」


「末姫とわからず、襲ったようだ」


「それ……って……?」


「だから、わからぬのだ。アマテラスはとりあえず、末姫が少しでも喜んでくれるよう天気を操作しているようだが……」


「それって、運動会は晴れるっていう?」


「そうだ」


「完全な晴れ女なのね」


 ツクヨミは少し首を傾げる。


「まぁ、生活に問題ない程度には天気を変えているようだな」


 朋美は手元の魂の欠片を見る。


「ここ、ちょうど、何かのパーツが離れたようになってるわよね」


 そういって指さしたのは、半球の切断面で微妙に欠けているところだった。


「これ、他のパーツは収まるの?」


 朋美は首を横に振る。


「どのパーツも合わなかった」


「だよね。あ、さっきついでに、ここに合うパーツも出来てたんだ」


「お、すごい」


「欠けてるところを埋めるだけだから、問題なかったよ」


 望はそういうと小さなパーツをテーブルの上に置く。

 朋美はそれを切断面にはめてみた。


「はまった」


「うん」


 ツクヨミはじっとそのカタチを見る。


「なんか、これ、見たことあるようなカタチなんだけど……」


 朋美はカケラを外し、角度を変えて見てみる。


「影武者を始末したモノの中に入っていたカケラだ」


 朋美はある角度になったカケラをじっと見る。


「私に見えたのは、この角度だわ」


 望が朋美の後ろに周り、見てみる。


「六角形の半分……」


「そう」


「じゃ、この半分は自分が潰した半神に入ってたんだね」


「そういうことになるわね」


「他のカケラの半分の大きさ……」


「本来の大きさのカケラはあと二つ」


「それが分裂するってことはあるのですか?」


 朋美は小さいカケラとその半分の大きさのカケラをツクヨミに見せる。


「ないだろう。恐らく、それが最小だろう」


「これさ、このパーツが合計何個できるかなんて、わかる?」


「すくなくとも百八はできるよ」


「煩悩の数?」


「そうだね」


 ツクヨミは小さいカケラをつまんだ。


「楔のようだな」


 望はうなずく。


「もしかしたら、本体の塊をバラバラにできたのかも?」


「じゃあ、このカケラは本体の残りのカケラを目指す?」


 ツクヨミは黙り込む。


「ツクヨミ様、もしかして、見えてるんじゃ?」


 ツクヨミは無表情のままだ。


「末姫次第なのかもしれぬ」


 ツクヨミはそう言うと、姿を消した。


「なんだろう、このモヤモヤ」


「消化不良だよね」


 二人はじっとその二つのカケラをじっと見る。


「ね、姉ちゃん」


「何?」


「すっごくさ、非、現実的なことを言ってもいい?」


 朋美は首を傾げ、弟に言い返す。


「もう、非現実が現実なのよ」


「そうだよね。これさ、あの話に似てない?」


「あの話?」


「蓋を開けるなというのに開けちゃって……最後に『希望』が残ったっていう」


「パンドラの箱?」


「そう」


「じゃあ、コレが希望だとでも?」


 望は首を傾げる。


「でもさ、これ、この半神に残り半分あったんじゃない?」


 朋美はじっと望を見た。


「わかった。このカケラがちゃんとハマる半分を作ってくるよ」


「うん」


 望は部屋を出ていった。


「希望……。あら、月が入ってる……」


 朋美はスマホを取り出し、煩悩を調べる。


「細かく分類されてるのね……」


 次にパンドラの箱の中身を調べる。


「こっちはめちゃくちゃ簡単ね。『悲しみ、裏切り、不安、恨み、争い、嫉妬、後悔、病、死、貧困……それはネガティブな気持ちや想いの種、災厄』。これって、煩悩を系統別に分けたということかしら? これは、希望なの?」


 朋美はカケラの半分の大きさのカケラを指でつまみ、じっと見た。


「希望……エルピスだったら、災の兆候よ?」

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