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10話 魂は分裂する ~前編~

フィクションです。

もう一度いいます。

フィクションです。

作者は妄想してます。


なぜかとんでもなく文字数が増えてしまったので前後編にしました。

「ふむ。言いたいことは理解した」


 そう言うと、ツクヨミは右手の掌を上にし、左手を重ねた。


「キツネの中にいた魂は『てにすこぉとのこい』と言われた相手で間違いない。そもそも、成り代わっていたキツネは、その女に自分が成功しているところを見せたかったのだからな」


 それを聞いて、一族はホッとする。


「イタチの魂は途中から怪しいが……」


「そうなのですね?」


「写真、あるか? イタチの一族、ついでにすめらぎの一族も」


「あ、あります」


 望は後ろの書棚から数冊のスクラップブックやアルバムを抜き出し、テーブルの上にドンッと置いた。


「年代順なら、このあたりです」


 少し古いアルバムを望はツクヨミに渡す。


「明治がおるではないか」


「かなり古くないか? そのあたりからか?」


 一族の長老である鈴木喜朗は息子である脩平を見た。


「巫女の一族から、()()()()連絡は入ってきてません」


 そうかとうなずき、喜朗はツクヨミを見た。


 黙ってアルバムのページを捲り、数枚の写真を剥がしてテーブルの上に置いていく。


「あ、この方は……」


 脩平が写真の1枚を見る。


「あぁ……死相が出ておるな」


「この方はお亡くなりになりました」


 そう言って脩平はにこやかな笑顔で家族を見ている男性を指さした。


「そうか。残念だな。この魂は、今のすめらぎと一緒に力を合わせることができたはず」


 小さく息を吐くツクヨミだったが、フッと口元に笑みを浮かべた。


「だが、奥方は強いぞ。この魂の輝きは呪いを相手に跳ね返す。この光が姫を包んでおった」


「皇女殿下を?」


「他にも守ろうとする光は多かった。姫は思っていたより愛されていたのだな」


「思っていたよりではなく、愛されているのです」


 そう力説したのは、望だった。

 その肩を脩平が押さえる。


「落ち着け」


「やはり、問題はこれ、だな」


 そう言ってツクヨミが指し示したのは、すめらぎの弟夫妻だった。


「このイタチの家族写真はあるか?」


「あります、これです」


 そう言って望はスクラップブックを取り出した。


「ああ、やはりな」


「やはり?」


「ここに第六が写っておる」


「え?」


 その時、部屋のドアが開けられ、脩平の娘の朋美が入ってきた。


「あれ? ツクヨミ様」


 脩平は黙ったまま写真を朋美の前に突き出した。


「お前には何が見える?」


 荷物を椅子に置き、手をハンカチで拭いてから写真を受け取る。


「え、これ、イタチの家族じゃん。父親、若いねぇ~」


「お前、ツクヨミ様の前だぞ、もう少し言葉遣いを考えろ」


 脩平が低い声で言うが、朋美は首を横に振る。


「私はこの高さ声で話していると、よく見えるのよ!」


 ツクヨミは黙って朋美を見ていた。


「で、この父親の横にいるのが父親の母親、つまり、イタチのおばあちゃん~~~~ん? え?」


 朋美は写真を見るのをやめて、何度か瞬きをした。


「ちょっと気を取りなおし~~~て~~~~。これが~弟で~~~、これが~~イタチ。で~~~~これが~~~~~~? がぁ?」


「が?」


 望が朋美の顔を覗き込む。


「何これ」


 朋美の声は本来の声より低かった。


「わかったか?」


「はい。この二人、ここの世界の人なんですか?」


 望が写真を覗き込む。


「どこがどう違うの?」


「この父親の母親、お婆ちゃんよね。魂が欠けてる……違うわね。本来の半分? あぁ半分でもないわ。もっと……削られた? とにかく、魂がいびつというか、足りないの。こんな形、見たことないわ。もしかしたら……このアマテラスの地では生まれるはずがない魂じゃないかしら。いろんな色を見てきたけど、こんな魂は初めてだわ。それに……この色、濁った黒……微妙に色が薄くなっているところがあるけど、基本的にどす黒いわ。深部は暗い黒……。もう、黒としか言いようがないんだけど、でも何かちょっと微妙に違うというか……」


 そこまで一気に言って、小さく息を吐き、呼吸を整えた。


「で、イタチの母親。この魂も変なのよ。いびつというか……カケラと言ったほうがいいかもしれない。でね、この色がまた、このお婆ちゃんの魂の色と同じなのよ」


 ふぅと息を吐いた朋美にツクヨミが頷く。


「その色、覚えておいてくれないか? もしかしたら、他にも同じ色の魂を持つモノがいるかもしれない」


「わかりました」


「ツクヨミ様。その、第六というのは何なんでしょう」


 喜朗がツクヨミを見た。


「話したことは……なかったな。第六に関しては、スサノヲも知っている」


「スサノヲ様も……」


 脩平が呟く。


「第一の大神というのは、知ってるな?」


 喜朗と脩平、望と朋美も大きくうなずく。


「この世界の成り立ちを説明するが……」


「はい」


「我々がいる今のこの世界は、第一の大姫の管理下にある」


「はい」


 喜朗がうなずく。


「はじめに(れい)の姫が存在した」


「数字でいうと、(ゼロ)ですか?」


「そうなるな。零の姫が七人の女神を作った。それぞれに、第一の女神、第二の女神と、第七の女神までいる。ただ、ここでは、第一の大姫、第二の大姫……というふうに呼んでいる。」


 望はそれをメモする。


(れい)の姫が最初に一つの世界を作った。簡単に言えば、太陽系のようなものだ」


 喜朗が頷く。


「零の姫は、好奇心が旺盛だった。それで、少しずつ変えたのを五つ作った」


 望はメモをしながら首を傾げる。


「一つ足りないと思ったのであろう?」


「はい」


「七つを輪に並べると均衡がうまくとれない。そこで、一つを下においたのだ。もちろん中心には零の姫がいる。それで、中心の零の姫も位置をずらして均衡がとれるようにした」


「六角形の中心、その下……」


 喜朗と脩平はようやく気づいたようだった。


「下に置かれたのが……第六の大姫ですか?」


「ああ。あらびあ数字というのがこの世界にもあるが、それでいうと『6』をひっくり返すと別の意味になるであろう?」


「あ、9だ」


 ツクヨミは頷く。


「意味は変わってくる」


「あぁ……。たしかに、1はひっくり返っても1。0も……。あ、8は?」


「望、それはもう存在してるでしょ?」


「え? 第七の大姫まで……、あ、零の姫……、合計8?」


「そういうこと」


「厳密に言うと、第七の大姫の世界は確立されていない。場所が確保されただけだ」


「ということは、こういう感じですか?」


 望がメモ用紙に、正六角形を書き、その下に点を付け加え、更に線で結んでいく。正六角錐を逆さにした形だ。そして、バランスが取れるように上にもう一つ点を書き、更に線で結んだ。ちょうど正六角錐を上下に重ねたような形だ。


「そうだ」


「下から恨みが上がってきそうですけど?」


 朋美が言う。


「そなたらが言う通り、実際にそうなった。そこで零の姫はもう一層分の世界を作った」


「もう一つ……?」


「そう。わかりやすく言うと、『こぴぃあんどぺえすと』というものか?」


「コピーアンドペースト……」


「まさか?」


「そのまさかだ。そっくりそのままの世界を上に積み重ねた。ああ、物質的には重なっておらぬぞ? 人では計り知れない距離があいておるし、人は行き来できぬ。自由に移動できるのは女神ぐらいだろう」


「まさか、そういう世界がいくつかあるのですか?」


「そなたらの魂はそういう世界から来ておるではないか。ちゃんと女神が導いておるぞ?」


 一族は顔を見合わせた。


次元(せかい)によっては星の名前が違う。星が指し示す方向も違ってくるだろう」


 ツクヨミは一族を見渡した。


「銀河? 宇宙? まぁ、全体を把握できるのは、零の姫のみ。数字を冠した七人の女神は自分の世界やお互いの世界を行ったり来たりして、魂を磨き上げる。そうすると、自分が管理している星全体の段階というか、次元が上がる」


「なるほど、では、今、こちらに来られている末姫様は?」


「これから魂の修行にでようとしていたところを第六に狙われた。生まれる場所を間違えてしまい、修行にはならなかった。それを第四の女神が作った世界で、魂に課題を出した。それは無事完了した」


「そうなのですね」


「だがまだ女神としては完全とは言えぬ」


「だから、修行中なのですね」


「そういうことだ。ここなら安全と思って第一の大姫は末姫を連れてきたが……すでに第六に汚染されていたとは……」


「もしかして、初代第一の大姫、二代目第一の大姫、三代目第一の大姫……という感じになるのでしょうか?」


 ツクヨミは少し考え、首を横に振る。


「大姫は増えぬ。増えるのは世界のみ。呼び名としては、先代、先々代となる」


「ではこの世界のアマテラス様は何代目になるのでしょう?」


「さぁ、私がわかる範囲では、少なくとも今のアマテラスは2代目。もしくは3代目ぐらいであろう」


 ツクヨミは望を見た。


「なんとなくでもいいが、理解したか?」


「はい、わかりました。アマテラス様がいらっしゃるここと同じような星が、太陽系のような星が、宇宙の中にあるということなんですね?」


「そうだ。まぁ、地球の七不思議と言われているのは、すべて説明できるのだが、謎にしておいたほうがいいから言わずにおく」


「そうですね、まず、この件が落ち着いてから、ゆっくりとお話していただくことにいたしましょう」


 喜朗は老婆が写っている写真をじっと見る。


「この第六の魂は完全体になって、第七の末姫と成り代わることを狙っているのかもしれませんね」


「皇女殿下ではないのですね」


 少しホッとした望が言う。


「考えが浅すぎるぞ、バカ息子」


「え?」


「第七の末姫に何かがあったとしたら、アマテラス様は恐らく……」


「あ……」


「それに皇女殿下の目的は、この地を救うというのではない」


「そうでしたね」


「願いを叶えつつあるとはいえ、姫はこの第六とは無関係だ。いや、無関係にせねばならぬ……」


 珍しくツクヨミが、言い切る。


「我々で抑え込めるのでしょうか?」


「わからぬ、というのが正直なところだ」


「そうか、たとえ、この地が大丈夫でも、その第七の末姫様に何かあれば、皇女殿下ごとひっくり返ってしまうということですね……」


 そういって、望がちゃぶ台をひっくり返すような手の動きをする。


「そういうことだ。皇室の乗っ取りでいがみ合っている場合ではなくなるぞ」


「消滅ですか?」


「どうだろうな。完全な消滅か、魂が選別されるか、それはわからぬ。だが、そのようなことになってはならぬ」


「そうですね」


 一族の長、喜朗は覚悟を決める。


「元凶を、なんとかしましょう」


「そうだな」


「それにしても、この人、何歳なの?」


 ずっとイタチの家族写真を見ていた朋美が眉根を寄せている。


「魂の年齢か? それとも肉体の年齢のことを言っておるのか?」


「肉体の年齢も……だけど……これ……」


 一族の中で一番詳細なオーラの判別ができる朋美が理解できないというふうに、頭を抱える。


「複数の人を取り込んでいない???」


「なるほど」


 ツクヨミはじっと写真を見る。


「実物を見ればもっとはっきりとわかるんだが……」


「普通に考えると、もう生きていないですよね」


 ツクヨミは、イタチの家族が写っている写真を見ていく。


「厄介だな。肉体に執着していない分、簡単に人の体を操る」


「え?」


「そして、操った肉体が命を失おうと、その寸前に離れるから、本人は死ぬことがない」


 全員が言葉を失う。


「そうか、人ではなかったのですね」


「言い換えれば、神にもなれなかったモノだ」


 ツクヨミには珍しく、苛立っている。


「だから、末姫なのか。末姫でないと対処できないのか」


「ちょっ、ちょっと待ってください。その末姫様って、今、何歳なんですか?」


 望が尋ねた。


「何歳? ああ、今、九歳か? 十歳になったか?」


「小学四年生ぐらい……」


「愛いぞ?」


「……そりゃ可愛いでしょうよ」


 望がため息を着く。


「ここのアマテラス様のお力は届くのでしょうか?」


 喜朗は一縷の望みを願い、尋ねた。


「届かぬ。というか、何も効かぬ。三貴神と呼ばれている我々だが、数字を冠した姫に力は及ばない」


「ということは、少なくとも、『凍結』という形にもちこめれば……ということになりますね?」


「凍結か……どこまでできるかわからぬが……」


「祈りの力でなんとかなるのでしょうか?」


 朋美は尋ねた。


「周波数が違うのだ。人の口ではその音は出せぬ」


「では、機械では?」


 そう言って望はパソコンを指さした。


「この機械を通すと、人の声は人の声では無くなります。ただの音です。周波数もスピードも変えられます。色というか、音色も変えられます」


「その『音』のイメージに近いものはありますか?」


「あるにはあるが、そなたらに聞こえておるのか?」


 喜朗と脩平は顔を見合わせる。


「わかりやすい言い方をすれば、犬笛だな」


「我々には聞こえません。というより、聞き取れません」


「聞き取れる特殊な耳の持ち主を探すしかないのか?」


 喜朗が唸り始める。


「あぁ、第七の末姫には聞こえておるからな」


「女神ですものね」


「厳密に言えば、まだ女神にはなれてはいないのだがな。ただ、無闇矢鱈にそれをすると、末姫を怯えさせることになるぞ」


「まだ幼い末姫様を怯えさせるとは、本意ではありません」


「わかっておる」


 ツクヨミはすでに怯えさせてしまっていたことは黙っていた。

 清めで落としたいかずちの音にまだ赤子であった姫は大泣きしたのだった。それ以来、すっかり稲光の大きな音に怯えるようになった。


「話がそれたな」


 ツクヨミはそう言いながら、ため息を吐く。


「体に乗り移りながら、その魂を少し削り取っておるのか」


「それで魂の完全体を目指そうと?」


「恐らくだが、ちぎれた残りの魂は、まだどこかの次元(せかい)に、あるいはアマテラスの領域にまだ存在しているのかもしれぬ」


「ちょっと待ってください。今、とんでもないことに気づきました」


「言ってみよ」


「魂の残りを探すために、ここから飛び出すのに必要なエネルギーを得るために、この地球(せかい)を破壊して、そのエネルギーで別の次元に行こうとするとか?」


「……可能だな」


「ツクヨミ様……」


「そうでないと、星を破壊しかねない武器を作ろうとはさせぬであろう」


「一つ、確認したいのですが……」


 喜朗は、ツクヨミを見た。


「申せ」


「人が住めぬぐらい汚染された星で、第六の魂は生きていけるのでしょうか?」


「魂だけなら、生きていけるであろう。もしかしたら、肉体から離れた魂を喰らい尽くしていくかもしれぬ。それで力をつけるという方法もあるのかもしれぬな。その時我々は眠りについているであろうから何もできぬ」


「眠り……」


「守る民がいないとなると、アマテラスは絶望するであろう。大雨を降らしたところで、浄化はできぬ。スサノヲの力でも無理だ。民がどうなろうとかまわないのであれば、天変地異を起こせばなんとかなるかもしれぬ。だが、アマテラスはそれをしないだろう。私は魂を導くことはできるが、いかんせん、数が多すぎる。選別などしている時間はない。そうなると、この世界の大姫はこの星をつぶしてしまうであろう。もしかしたら、世界を閉ざしてしまうかもしれぬ。すでに消滅した世界は存在する」


「もしかしてその時のエネルギーも狙って?」


「どちらにしても、第六はここから出られるかもしれぬ」


「それ、すめらぎは知っているの?」


「その話をしたことはないが、数字を冠した大姫がいることは、知っているはず。姫は……恐らく大姫たちの事情は知らぬ」


「そういうことなのね。この人にツクヨミ様やスサノヲ様の印が現れることはないということね」


「乗り移った人間から魂が出れば、そこに出るのはアマテラスの印かもしれぬ」


「被害者……。確かに、被害者だけど……納得できないな」


 ツクヨミは悔しそうに呟く望を見た。


「その被害者の魂を見ることはできないかしら?」


「ふむ。アマテラスの印があるのなら、集められるかもしれぬ」


「どうやって?」


 望は首を傾げた。


「印を通して呼びかけるだけだ。何箇所かに集めれば、判別しやすかろう」


「なるほど」


「もう少し早く気付けばよかったか……」


 そう呟き、ツクヨミは肩を落とした。


「祖母の中にいた第六は、息子を使って、孫娘、イタチを皇室と縁付かせる。

そのためには手段を選ばぬ。

母親に入っている第六は、一部を母親の中に残して、祖母の方に吸収されたのであろう」


 その当時の写真を朋美は見て、頷く。


「そこで、魂は結合? 合体? 融合? したのね? その後、父親の中に入った。色が微妙に違ってるわ。相変わらず暗く黒いんだけど、黒さのむら?がちょっと別々だった時と違う」


「それにしてもさ、母親と同じ名前、読み方が違うと言っても同じ漢字を娘の名前に使うなんて、これ、父親は何を考えてるの? 維持の維、子どもの子と書いて、『しげこ』と『ゆいこ』だよ?」


 望は首を傾げっぱなしだった。


「それ、糸へんが入ってるから、つながる、つなげるっていう意味があるわよね。この祖母がいずれ、いや、確実に孫娘に入り込むっていう……ことじゃないの?」


 ツクヨミは、望が書いた漢字をじっと見る。


「こうやってみると、まだイタチのほうがマシって思えるって、私おかしいわよね」


「イタチ側からしたら、皇室の乗っ取りというより、そういう考えをもって入り込んでいた一族の企みに乗っかった……ということですね」


 ツクヨミは喜朗に頷く。


「第六はそう考えたであろうな。一番操りやすいのは、このイタチだ。分不相応の夢を見させ、虚栄心を煽ればいい」


 ツクヨミはそういうと、イタチが妃教育を受けている写真をちらっと見る。

 そして、まだ昭和天皇が生きていたころの家族写真を手にした。


「イタチが結婚する前後のすめらぎ一家の写真はこれだ」


 ツクヨミが差し出した写真を朋美は奪うようにして、じっと見る。


「これ、魂が引き合ったの?」


 そう言って朋美が指さしたのは、キツネだった。


「それに、これ、次男の中にも……入り込んでない?」


 ツクヨミは頷く。


「欠けた魂同士、引き合うのね?」


「そういうことらしい」


 朋美は視線を写真から逸らさず、弟の望に指示を出す。


「ね、キツネの実家の写真、それ関連の写真、お願いできる?」


 動いたのは、弟ではなく長老である祖父が書棚に向かう。


「これだな」


 そう言って、写真をテーブルに並べていく。

 それをツクヨミも見る。


「なるほど……」


 望は写真とツクヨミと姉の顔を見比べる。

 相変わらずツクヨミの瞳には青い炎。


「これ、平成の頃ってあるよね?」


 喜朗が黙って、別のファイルから写真を取り出し、並べた。


「これ、すめらぎは、知ってるんだよね?」


 朋美はじっとツクヨミを見た。


「恐らく、としか言えんが、コレを見抜けぬようであれば、すめらぎの資格はない」


「今、昭和様はどこにいるの?」


「すめらぎのそば……か、聖子か、姫か……。昭和の奥方も一緒にいる」


「昭和様もご存知なのよね?」


「病に倒れ……は正確ではないが、知っておったから遺言をしたのであろう」


 朋美は、ポケットからハンカチを取り出すと、目元に当てた。


「お祖父ちゃんもお父さんも、これ、知ってたの?」


 ややしてから祖父の喜朗はうなずく。


「噂だけはあったからな。恐らくだが、巫女の一族は、この頃は近づいておらん」


「どうして?」


「神事をすることのほうが危険と感じたからだ」


 ツクヨミはうなずく。


「この時点で、アマテラスから顔を背けておる」


 そう言って指さしたのは、剣璽等承継の儀の写真だった。


「そうね。皇統のオーラが……もうない」


 望は目を見開き、写真を凝視する。

 脩平はやはりそうかと、納得するように目を閉じた。


「いつ、なくした?」


 そう言ったのは喜朗だった。

 喜朗は、写真を並べていく。

 望はタブレットで調べていた。


「じいちゃん、多分、コレだよ」


 そう言ってタブレットを部屋のモニターに繋いだ。


「ここ、『キリスト教に傾倒していることに昭和天皇が激怒し、皇太子妃が絨毯の上に土下座して謝ったが、天皇のお怒りは静まらなかった、と週刊誌が報じた』。これでしょ?」


「それ、証拠あるの? バックナンバーなんて、存在してるの?」


 冷静にモニターを見ながら、言う。


「本を調べるのなら、国会図書館にならあるかもしれん」


 喜朗がそう言うと、望は更に検索するが、該当する号は、欠号していた。


「調べようがないじゃん。というか、確認されるとマズイ記事があったから、手を回して証拠隠滅したってとこかしらね。で、逆に昭和天皇にそのことは載ってるの?」


 望は昭和天皇で調べてみるが、出てくるのは違う事件のことばかり。


「どういうこと?」


「簡単じゃないの。情報操作でしょうよ。こっちのほうが正解だと思うわよ」


 そう言って朋美は、違う記事を出した。


「当時は天皇がキリスト教に改宗するといううわさが広まるほどだったが、外国人記者の、キリスト教に帰依するかという質問に対して、『外来宗教については敬意を払っているが、自分は自分自身の宗教を体していった方が良いと思う』と答え、うわさを打ち消した」


 望はツクヨミの様子を窺った。


「なるほど。昭和は真摯に祈っておった。昭和の終わりごろは……」


 ツクヨミは信じられないぐらい大きなため息を吐く。


「体調を崩して、十分な祈りができてなかったか。それで代わりに祈ったのが、アレだったか……」


 ツクヨミは宙を力なく見つめる。


「それにさ、昭和天皇って、皇太子時代にローマ法王を訪問してるのよ?」


 望は首を傾げる。


「だから、キツネに都合のいいように情報操作されてるって言ってんのよ」


「アマテラスが言うには、『洗礼』とやらを受けてしまっていたらしいぞ」


「ばっかじゃないの?」


「バカはお前だ。もう少し取り繕え!」


 喜朗は朋美の頭を押さえつけようとする。


「いや、良い。この生きの良さ。私は気に入っている。そちから言われるのは、不快にはならぬ」


 ほぼ無表情でそれを言われ、朋美はじっとツクヨミを見た。


「続けよ」


「う、うん。ちょっと調子が狂っちゃったけど……。でもね、この時の皇太子の頭……」


 朋美は写真を1枚取り出して、指さした。


「第六の魂のカケラ、ほんとに小さいんだけど、それが入っちゃってるのよ」


 喜朗と脩平が顔を見合わせた。


「だから、正常な判断なんて、できない。惚れた弱みで完全に掌で転がされてるわよ」


 望は脱力して、姉を見る。


「それにね、ここにはキリスト教って書いてあるでしょ?」


「うん」


「ローマ法王って?」


「え? キリスト教でしょ?」


「バカはここにもいたのね」


 朋美は冷ややかな目で弟を見る。


「あ、カトリックの総本山」


「違い、わかるわよね?」


「もしかして、キリスト教と書かないといけないぐらい……やばいもの?」


 喜朗と脩平はハッとする。


「例のアレか」


「それは、西の大陸から来たものか?」


「そうですね」


 望は、喜朗の代わりに、調べてモニターに映し出した。


「これだな」


 ツクヨミは腕組みをして、じっとモニターを見る。


「アマテラスは『かとりっく』というものを知っている」


「そうなのですか?」


「ああ、それを宣教しにこの国に来た男達がいただろう」


「会ったのですか?」


「薩摩に来たな。スサノヲと一緒に船を確認した。スサノヲはいつでも船を沈める気でいたようだったがな。ふらんしすこというような名だったか、そやつの目の前に立ったが、我々は見えないようだった。アマテラスが目の前で思いっきり手を振っていたのだがな」


 望は思わず年号を確認する。

 1549年、天文18年だった。


「もしかして、アマテラス様やスサノヲ様、ツクヨミ様は、なんとも思ってない?」


「思うも何も、この国には仏教もあるではないか」


 望は口を開けたまま、ツクヨミを見る。


「この国の民は、産まれてから1ヶ月ほどで神社に挨拶にくるであろう?」


「ああ、お宮参り」


 朋美はうなずく。


「子どもがまだ幼いときには、千歳飴を配っているではないか」


「七五三ですね」


「あと、結婚するときは、神前もあるが、教会や仏前というのもあるだろう?」


「確かに」


「毎年初詣で神社はごったがえす。それに安産祈願や、合格祈願。何か願うことがあれば神社に来て祈っているではないか。そう言えば、車のお祓いというのもあったな。それに、いつの間にかお百度石というのまで置かれていたぞ?」


 望はなるほど、頷く。


「で、死んだらお葬式は、ほぼ仏式」


「そうだ」


 ツクヨミは何のこともないというふうに言う。


「この国の民は、ほぼそういうものだと、アマテラスを含め我々は認識している」


「懐が深いね」


 朋美は感心したように、言った。


「風呂敷宗教だよね」


 望は言う。


「だいぶん話がそれてるな。要するに、平成天皇が皇太子であった頃に、カトリック以外の洗礼を受けたということですな?」


「昭和の周りにも、くりすちゃんとやらか? わりといたぞ」


「そうでしたね。ところで、その、カトリックで言われているところの、神はご存知なのですか?」


 脩平が好奇心で尋ねた。


「あぁ。一応言っておく。この世界の成り立ちによる弊害だ。それ以上は、言えぬ」


 そう言うとツクヨミは目を閉じて眉間にシワを寄せた。


「神が弊害って……。まぁ、いいわ。要するに、大事なのは、皇太子に洗礼を受けさせたっていうことよね」


「それも新興宗教」


 忌々しげに喜朗が呟いた。


「実家がカトリックっていうのは、あんまり関係なかったんだね?」


「カトリックって書いてある場合は大丈夫だと思うわ。キリスト教で一括りしてあるほうが、今の場合はとっても怪しいってことよ」


「なるほど」


 鼻息荒く言う朋美に、望は内心ため息を吐いた。


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