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4話 何故か懐かしい君の声

マコの卒業ライブから数日後。

 僕は中学の卒業式を終え、今日から高校生になった。


 入学式が終わり、指定されたクラスに向かう。

 胸にあるのは期待より、不安の方が大きかった。


 中学の数少ない友達は、みんな別の高校に進んだ。

 この教室に、知っている顔は一つもない。


 教室の中は、新しい制服を着た生徒たちのざわめきであふれていた。

 誰もが誰かと話して笑って、もうグループができ始めている。


(うわ、もう輪できてる……)


 そんな中に一人で立っていると、自分が異物に思えてくる。


「はぁ……嫌だな……」


 僕は思わずため息をついた。

 話しかける勇気もないし、そもそも人との距離感がうまく掴めない。

 このまま何もしなければ、三年間ずっと“ぼっち生活”かもしれない。


(……それだけは絶対避けたい)


 立ち尽くしていたら変なやつ扱いされそうだと思い、慌てて自分の席を探す。


(おっ、いちばん後ろだ)


 幸運にも後ろの席で、ちょっとだけ気が楽になった。


 座った瞬間、隣の席からペンがコトンと落ちた。


 僕はそれを拾い、そっと差し出す。


「落ちましたよ」


「あっ、あ、ありがとうございます……」


 返ってきたのは、少し小さな、でも可愛らしい声だった。


 うつむいていたせいで顔は見えなかったけど、どこかで聞いたことがある気がした。

 懐かしい、でも思い出せない——そんな不思議な感覚。


 記憶をたぐろうとする僕の思考を、ドアの開く音が遮った。


「席についてー。これから自己紹介してもらうよー」


 教室に入ってきたのは、すらっとした体型の女性だった。


「一年三組担任の綾瀬遥香です。一年間よろしくね!」


 先生がにこっと笑うと、教室内がざわついた。


「めっちゃ美人じゃん」「ラッキーすぎる」


 主に男子のテンションが爆上がりしていた。


 先生の紹介が終わると、教室の右端から自己紹介が始まった。


 いよいよ僕の番。


「加川拓人です。よろしくお願いします……」


 何か印象に残ることを言おうと思ってたのに、緊張で全部吹き飛んだ。

 椅子に座ると同時に後悔が押し寄せる。


 次は、ペンを拾ったあの子の番だった。


「東山眞美子です。よ、よ、よろし……っ!」


 舌を噛んだのか、途中で言葉が止まった。


(……あれ?)


 やっぱり、どこかで聞いた声だ。

 でも思い出せない。

 なぜか無意識のうちに、僕は彼女をじっと見ていた。


 眞美子さんは自己紹介を終えると、僕の視線に気づいたのか目が合った。


 その瞬間——胸がドクンと跳ねた。


(……えっ、可愛い……)


 長い髪に隠れて見えなかった顔は、整っていて、どこか儚げな印象だった。

 思わず目をそらす。


(やば、ジロジロ見てた……気持ち悪がられたかも)


 不安が胸をチクチクと刺す。

 あれだけ見つめてしまったら、印象最悪だったかもしれない。


(……謝っといた方がいいかな)


 そう思って、帰りの準備をしているタイミングを見計らい、意を決して話しかける。


「あの、東山さん……」


「!?」


 僕の声に、彼女は驚いたように振り向いた。

 それだけでまた胸がドキッとする。

 間近で見てもやっぱり可愛い。髪で顔を隠しているのがもったいないくらいだった。


「あの、さっき……ずっと見ててごめん。無意識だったんだけど……気持ち悪かったよね」


 できるだけ誠実に伝えたつもりだった。

 けれど——


 彼女は何も言わず、そのまま早足で教室を出て行ってしまった。


(……やっちゃった)


 胸が締めつけられる。

 思ってた以上に、彼女は嫌だったのかもしれない。


「……どうしよう」


 初日から、完全にやらかした。

 

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